「ライバル宣言」(3)
渇いた服に着替えて人心地付くと、俺はまたウトウトと微睡んでいた。
目が覚めると、枕もとに座る珠紀の姿を見つけ、そしてまた眠りに付く。
何だか、すごく幸せな気分だった。
「珠紀様、よろしいですか?」
廊下から聞こえた美鶴の声に、俺は再び目を覚ます。
「ん、大丈夫だよ。どうしたの、美鶴ちゃん」
俺がまだ眠っていると思ったのか、珠紀が小声で答えを返す。
スッと静かに襖が開くと、美鶴が部屋に入ってきた。
「慎司くんが、珠紀様に煮物の味を見て欲しい、と。
どうなされますか?」
「じゃあ、ちょっと行ってこようかな。
真弘先輩も、今は落ち着いて眠ってるし・・・。
ここ、お願いできる、美鶴ちゃん?」
止めろ、珠紀。俺を、美鶴と二人にするな!!
今度こそ、俺は美鶴に殺される!!
畏まりました、という美鶴の声を受けて、珠紀は安心したように、
部屋を出て行った。
「ご安心ください。私、鴉取さんを殺したりなんて、しませんから」
「起きてたの、知ってたのか」
美鶴に話し掛けられて、俺はゆっくりと目を開ける。
美鶴は、俺の枕もとに座って、静かにこちらを見下ろしていた。
「んだよ。殺さねーけど、一服盛るのはアリなのか?」
「申し訳ありません。珠紀様を泣かせる鴉取さんが、
どうしても許せなくて・・・。他に方法が思いつきませんでした」
「いつ、俺が泣かせたよ」
「何度もです!! 忘れたとは言わせませんよ」
鬼気迫る勢いで、そう返された。
確かに、泣かせてないってのは、嘘だよな。
でもよ。好きで、泣かせてるわけじゃないんだからな。
俺だって、珠紀には笑っていて欲しいって、思ってるんだからよ。
「悪かったって・・・。でも、美鶴も、随分変ったよなー。
来たばっかの頃は、あいつのこと、あんま快く思ってなかったってのによー」
「珠紀様は、私を闇の世界から、救い出してくださいました。
あの方がいなければ、私は今でも、この手を血で染めていることでしょう。
私がやってきたことは、決して許されることではありません。
でも、珠紀様は、こんな私でも、生きていて良いのだと、
幸せになっても良いのだと・・・そう、教えてくださいました」
頬を伝う涙を気にすることもなく、美鶴はそう淡々と語る。
それなら、俺だって一緒だ。
あいつがいなければ、俺だって、もうこの世にはいない。
「だからこそ、珠紀様には幸せになってもらいたいんです!!」
「仕方ねーだろ。あいつが、俺を選んだんだからよ」
「それこそ、信じられません。あり得ません、そんなこと。
よりにもよって、鴉取さんを選ぶだなんて・・・」
えらい言われようだな。俺とあいつじゃ、そんなに不釣合いなのかよ。
「それでも、現実を受け止めるしかないのも、判っています。
あー、この怒りを、何処へぶつけたら・・・」
「頼むから!!もう、こういうのは止めろ。
もし、あれを珠紀が食ってたら、どうするつもりだったんだ」
「あれには、多家良さんからいただいた秘薬を入れました。
万が一のために、解毒薬もいただいておりますから、ご安心ください」
「そういう問題じゃねー!!良いか、美鶴。これだけは言っておく。
たとえ、相手がお前でも、珠紀を傷付ける奴は、俺が絶対許さねーからな。
それだけは、覚えておけよ」
俺の気迫に押されたのか、美鶴は一瞬辛そうな顔をする。
「申し訳・・・ありません。確かに今回のことは、私がやり過ぎました。
これからは、きちんと鴉取さんだけを狙うように、配慮します」
やっぱり、判ってねーじゃんかよ。
結局、俺が狙われるのってのは、変らないのか?
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