「ライバル宣言」(4)
「ここに、多家良さんからいただいた解毒薬があります。
お詫びの印に、差し上げますから・・・。これを飲めば、すぐに熱も下がりますよ」
そう言って、美鶴は帯の間から、小さな瓶を取り出す。
「それ・・・飲まなかったら、どうなる?ずっと、このまま高熱が続く、って訳じゃねーだろ」
さっき、珠紀が言っていた。昨日よりは下がってる、って。
なら、もう少し辛抱すれば、この熱からも解放されるかも知れない。
「ご安心ください。この薬は本物です。それに、私も酷いことをしたとは思っていますから、
この薬と引き換えに、何かを要求するつもりもありません」
「んなこと、思ってねーよ。で、俺はいつまで、このままなんだ?」
「秘薬の量は、さして入れておりませんから・・・。そうですね。
多分、明日の夜には、熱も下がると思います。それが、何か?」
さして入れてねーのに、三日も寝込むのかよ。
典薬寮が扱う代物ってのは、どんだけ怪しいんだ。
「じゃぁ、いらねー。後一日くらいなら、我慢できるしよ。
珠紀がずっと看病してくれる、ってのも、悪くねーからな」
「ひ、独り占めするつもりですか!!」
「いーじゃんかよ。罪滅ぼし、なんだろ」
まぁ、さっきから邪魔ばかり入って、独り占めなんて、できてねーけどな。
「まぁ、仕方ありませんね。今回は、私の責任ですし・・・。
でも、元気になられたら、覚悟していてくださいね。
珠紀様が暗い顔をされていたら、容赦なく、仕掛けさせていただきます」
「受けてたってやるよ。美鶴が俺様に勝てるもんならな。
ただし、食事に変なもんを混ぜるとか、そういうのは、もうナシにしてくれ。
俺は、美鶴の飯も、好きなんだからよ」
俺がそう言ったとき、襖がスッと開いて、珠紀がそこに立っている。
俺の声が聞こえたのか、悲しそうな顔を浮けべていた。
「いや、ちょっと待て!! 珠紀、今のは違う。変に誤解するな。
美鶴も、どうしてそういう目で俺を見る!! どう考えたって、俺のせいじゃねーだろーが」
「そうですね。今回のことは、不問にします」
そう言うと、冷ややかな顔のまま、美鶴は部屋を出て行ってしまった。
おい、少しはフォローくらいしてくれても良いだろう!!
「珠紀、ホントに違うんだ。今のはさ・・・」
「判ってます。美鶴ちゃんの作るご飯、美味しいですもんね。
でも、私だって・・・。真弘先輩に、何か美味しい物を、って思ってたのに・・・」
珠紀の声は、どんどん沈んでいく。俺が、珠紀を泣かせてるのか?
「だったら、何か作れ!!俺、昨日から何も食ってねーしよ。少し腹が減ってきた。
口移しも、添い寝も断られたんだ。それくらい、してくれても良いだろう。俺は病人なんだぞ」
俺が出した希望には、すべて邪魔が入ったんだ。せめて、これくらいはしてくれても・・・。
そう思って珠紀に願いを伝えていると、今度は勢い良く襖が開いた。
「真弘先輩!!お待たせしました。僕が作った特性のお粥ですよ。
これを食べれば、すぐにでも元気が出ますからね」
お盆を両手に抱えた慎司が、にこやかな笑顔と共に部屋に入ってきた。
お前ら、そんなにまでして、俺と珠紀の間を邪魔したいのかよ。
こんなことになるのなら、もう二度と、病気になんてなってたまるかー!!
その夜、俺の体温は、最高温度に達した。
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