「ライバル宣言」(2)

祐一が帰った後、どうしようもなく怠い身体を持て余し、
俺はもう一度眠りに落ちることにした。
再び目を覚ますと、相変わらず、そこには珠紀の姿があった。
 「珠紀・・・いたのか」
 「真弘先輩、具合はどうですか?私に、何かできること、あります?」
心配そうに問う珠紀の言葉に、俺はもう一度、希望を考える。
さっきは祐一に邪魔されたけれど、今度こそ!!
そして、入念に周囲を見回し、誰もいないことを確認すると、望みを口にする。
 「添い寝」
 「真弘先輩!!また、熱のせいで、そんなこと・・・」
俺の言葉に、珠紀は、また顔を赤くすると、拗ねた口調で反論する。
そのとき、襖の向こうから、クスクスと笑う声が聞こえた。
スッと襖が開くと、そこには大蛇さんが立っている。
立ち聞きしてやがったのかよ!!
 「これは、失礼。鴉取くんのお母様から、着替えを頼まれましてね。
 渡そうと思って来たら、話し声が聞こえたものですから・・・」
俺の表情を読んだかのように、大蛇さんがそう言い訳する。
 「まぁ、熱を冷ますには、たくさん汗をかくことも必要ですが・・・。
 珠紀さんとの添い寝は、返って熱を上げる結果に、なると思いますよ」
 「卓さん!!」
大蛇さんの言葉に、珠紀が更に顔を赤くして怒鳴る。
 「およおや。これは、言葉が過ぎたようですね。申し訳ありません。
 それより、鴉取くん。どうです。着替えられそうですか?」
持っていた紙袋を持ち上げて、大蛇さんが俺に尋ねる。
確かに、服が汗を吸っていて、気持ち悪い。
さっきよりも身体の怠さは治まっているし、今なら起きられるかもしれないな。
 「大丈夫そうです、すみません。
 珠紀、悪いけど、起きるのに、手を貸してくれ」
 「あっ、うん」
さすがにそれぐらいは許されるだろう。
珠紀も、今度は素直に頷いてくれたしよ。
そう思って告げた希望も、あっけなく否定されてしまった。
 「あぁ、それには及びませんよ、珠紀さん。
 いくら小柄だとはいえ、鴉取くんを一人で支えるのは、
 女性の貴女では負担も大きいでしょうからね。
 今、打って付けの方がいらっしゃいましたから、彼にやってもらいましょう」
にっこりと微笑む大蛇さんは、廊下の向こうを歩く拓磨に声を掛ける。
 「鬼崎くん。申し訳ないですが、鴉取くんの着替えを、手伝っていただけませんか?」
 「真弘先輩、目、覚めたんすか?」
そう言って、襖の外から拓磨が顔を出す。
チェッ、余計なときに来やがって!!
 「あっ、着替えるなら、私、外に出てるね。
 ついでに、汗を拭くタオルかなんか、用意してくるから」
そう言うと、珠紀が慌てて立ち上がる。
 「それなら、私も一緒に行きましょう。
 用意したタオルを、珠紀さんが持ってくるわけにも、いかないですしね」
そう言って、大蛇さんは珠紀を連れ立って、部屋の外へと出て行った。
だからって、何でいちいち、珠紀の肩に手を置く必要があんだよ!!
 「真弘先輩、大丈夫っすか?何か、顔が赤いっすけど」
 「熱があんだから、仕方ねーだろ!!お前も、俺の邪魔すんのかよ、拓磨!!」
 「な・・・なんなんすか、いったい?」
許せ、拓磨。ただの八つ当たりだ。
 
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