「襲来」(5)

妖の放った複数の触手が、真弘先輩を攻撃する。
交わし切れなかった触手が、真弘先輩の身体に振り下ろされた。
 「真弘先輩!!」
その時、真弘先輩を攻撃していた触手が、火に包まれる。
まるで髪の毛を燃やしたような嫌な臭いが鼻を突いた。
 「今後の対策を相談するからと、言っておいたはずなのだが。
 相変わらず、お前達は無茶ばかりするな」
祐一先輩が、ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。
 「二人とも、大丈夫ですか?よく、頑張りましたね」
その後ろを、いつもの優しい笑顔を浮かべた卓さんが続く。
 「あまり得意じゃなくて、申し訳ないんですけど。・・・”回復”」
慎司くんの言霊が、私を優しく包んでくれる。
 「悪い、遅くなった。後は、俺たちに任せろ」
そして、拓磨が力強く頷いてくた。
 「拓磨!!怪我は?動いて、大丈夫なの?」
 「ああ。俺は誰かさんと違って、家でずっと寝ていたからな。
 美鶴の世話にもなったし、もう平気だ」
私を安心させるように、拓磨がそう言ってくれた。
 「矮小な小童共が!!たとえ数を連ねても、我には勝てぬぞ!!」
祐一先輩に幾本かの触手を燃やされて、顔を赤くして怒りを表す妖は、
猛スピードで周囲を移動しながら、こちらを威嚇する。
 「あれが、鴉取くんや鬼崎くんを襲った妖ですか。これはまた、滑稽な・・・」
大きな顔をした妖を目の当たりにして、卓さんが苦笑交じりに言う。
 「油断しないでください。あんなんでも、結構強いんです」
 「判っていますよ。ただ、私たちは、貴女の守護者です。
 貴女が『勝て』と言うのならば、その命を全うしましょう」
卓さんは、先ほどまでの優しい笑顔ではなく、とても真剣な表情をしていた。
周囲を見回すと、真弘先輩も、祐一先輩も、拓磨も、慎司くんも、
同じように真剣な表情で頷いてくれた。
 『僕もいるよ』
私の中で、おーちゃんが言う。そうだね。みんな、私と一緒にいてくれる。
 「おーちゃん。もう一度、私に力を貸してくれる?」
 『もちろん』
その声と同時に光の粒子が私を包み込んむ。
光が消えたときには、白の千早と朱の袴姿になっていた。
 「また、私はみんなに、辛いことをさせてしまうんだね。
 それでも私は、あの妖をカミ様の頂点だと、認めることはできません。
 争いごととは無縁の世界で、幸せに暮らしているカミ様たちを護るのも、
 玉依姫としての私の勤めです。お願いします。私のために、戦ってください」
 「仰せのままに・・・」
 「期待にこたえよう」
 「任せておけ」
 「微力ながら、力になります」
私の願いを、卓さん、祐一先輩、拓磨、慎司くんが受け入れてくれる。
 「ったりめーだろ。お前は、後ろででんと構えて、俺たちを見ててくれりゃ
 それでいーんだよ」
そして最後に、真弘先輩が笑ってくれた。
それから、私はそっと目を閉じる。
身体の奥底に眠っている力を解放するために・・・。
この力は、私自身では揮えない。
これは、守護者を戦わせるための、残酷な力。
私がこの力を与えることで、彼らに戦いを強いてしまう。
なんて、残酷で醜い力。
それでも、私は彼らに『戦え』と命じなければいけない。
何かを護るためなら、私は迷うことなく、そうするだろう。
それが、私の役割なのだから。
それならば、どうかこの力が、彼らを護ってくれますように・・・。
私は、ゆっくりと目を開けた。そして、私の力は守護者五人に注ぎ込まれていく。
 「それが、本来の玉依の力なのか!! それを寄越せ!!
 我にその骸を差し出せ!! 我が頂点になるのだ。誰にも邪魔はさせん!!」
妖は吼えるようにそう言うと、猛スピードで迫ってくる。
 「んなこと、させっかよ!!」
私を庇うように、真弘先輩が私の前に立ち塞がった。
 
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