「襲来」(4)

影から出たおーちゃんは、自分自身をぶつけるように、真っ直ぐ妖へと向かって飛ぶ。
しかし、速いスピードで移動する妖は、おーちゃんを難なく交わすと、触手一本で叩き落とした。
 「おーちゃん!!」
地面に叩きつけられたおーちゃんは、その場にぐったりと横たわったまま、ピクリとも動かない。
慌てて駆け寄ると、そのままスッと影の中に消えた。
 「ごめんね、おーちゃん。いつも、助けてもらってばかりだね・・・私」
影の中に、おーちゃんの意識を感じることができる。だから、きっと大丈夫だよね。
再び顔を上げると、もう一度妖を睨みつける。私は絶対、負けたりしない。
 「これが、玉依の力?こんなものが!!たった一振りで消えてしまうような、そんな力だと言うのか。
 何と脆弱な!!こんなものを喰らうても、我は頂点には立てん!!」
私の戦い振りを見た妖は、そう言って嘆き始めた。
これで諦めて、去って行ってくれたら良いのに・・・。
頭の隅で、そんな期待もしてみたけれど、さすがにそこまでは甘くなかった。
 「つまらん。玉依の力だと言うから、どれだけ楽しませてくれるかと、期待していたのに・・・。
 まぁ、玉依の骸を喰らうたと言えば、それだけで箔が付く。早々に片付けて、自慢しに行くとするか」
興味が失せたとでも言いたい口振りでそう言うと、また触手を遣って攻撃を開始する。
先ほどのおーちゃんに託した力で、私の力は限界を迎えていた。
 「でも、負けない。負けない、負けない。私は、負けない!!」
妖の攻撃を障壁で防ぎながら、呪文のようにそう口にする。
そうして自分を奮い立たせていなければ、もう障壁を作る力すら出せずにいた。
 「どうした、玉依姫。諦めないのが、お前の武器ではなかったのか?
 壁が薄くなってきているぞ。さて、いつまで持ち堪えられるかな?」
まるで弄ぶかのように、撓る触手を打ち込んでくる。
私はそれをギリギリのところで防いだ。
 「黙れ!!私は、諦めてなんて・・・いない!!」
私の力。とっくに限界を超えている。でも、まだ一つだけ、残っていた。
あの、鬼斬丸を破壊したときに遣った力。
身体の奥底に眠っている力を開放すれば、こいつを封印することができるかも知れない。
でも、この力は私が揮える力じゃない。この力は・・・。
 「我は、もう飽きた。これで、仕舞いだ!!」
 「きゃあ!!」
力の解放に意識が向いていたせいで、障壁を作るまでの間に隙が生まれてしまった。
妖の攻撃を防ぎ切れなかった私は、そのまま触手に弾き飛ばされる。
視界の端に木の幹が映った。このまま飛ばされたら、確実に激突してしまう。
その時、一陣の風が通り過ぎていく。更に、私の周囲を風が渦を巻くように留まっていた。
その風が、私を弾き飛ばしていた力をも相殺し、ストン、っとその場に下ろしてくれる。
 「ったく、お前は一人にしておくと、ホントよく、トラブルに巻き込まれるんだな」
木の陰から現れたのは、呆れた顔をした真弘先輩。
 「真弘先輩?どうして、ここへ・・・。寝てなくちゃダメじゃないですか!!」
 「お前の行動なんて、バレバレだっつーの。
 だいたいお前、出かける前に、俺に力を分けてっただろ。お陰で俺は、全回復よ」
玉依の力は口移し。確か、真弘先輩が覚醒したときに、そのようなことを言っていたのを思い出した。
じゃあ、『真弘先輩を護って』と神に願ってした口付けが、ちゃんと真弘先輩の役に立てたんだ。
 「もう、平気なん・・・ですね。良かった」
 「ああ、だから、お前はそこで見てろ。復活した鴉取真弘先輩様の戦いっぷりをな!!」
そう言うと、真弘先輩は妖に向かって走り出す。左手に、不可視の風の剣を携えて・・・。
 「貴様は、昨日の小童か。まだ生きていたとは、随分しぶといではないか」
 「あんな攻撃、痛くも痒くもねー。お前こそ、日が昇ったくらいで、尻尾巻いて逃げ出したじゃんかよ。
 俺様はまだ、遊び足りねー、って言うのによ!!」
真弘先輩は、何度も剣で攻撃を掛ける。でも、妖は持ち前のスピードで、あっさりとそれを交わしていた。
そして、真弘先輩の攻撃の隙を突いて、触手で攻撃を仕掛ける。
真弘先輩も妖の攻撃を交わしてはいるけれど、相手の幾本もの触手を遣って攻撃するのに対し、
真弘先輩は風の剣一本。とても、すべてを防ぎ切るのには無理がある。
そしてまた、複数の触手が真弘先輩目掛けて放たれた。
 
BACK  ◆  NEXT