「襲来」(3)

真弘先輩や拓磨を襲った敵を探す。
簡単に言ってはみたけれど、特にアテがある訳ではなかった。
闇雲に歩いても見付かるとは到底思えなかったが、他に方法なんて浮かばない。
とりあえず、森の中を歩くことにする。
真弘先輩たちを襲ったのは人間ではない、と言った祐一先輩の言葉を思い出していた。
それなら、人目の少ない森の中の方が、見つけられそうだ。
鬼斬丸の影響は薄れてきたとは言え、日没間際の森は、けして気分の良いものではなかった。
いつ溺神や祟神と遭遇してもおかしくない雰囲気。
 「そのときには頼むからね、おーちゃん」
影の中に身を潜めている大事な相棒に、そっと声を掛ける。
うん。おーちゃんが居てくれるだけで、本当に心強いよ。
 「やっと見つけたぞ。玉依姫」
唐突に、それは現れた。
アテもなく彷徨っていた森の中で、目の前に現れたそれは、まるで顔のオバケだった。
達磨のような大きな顔に、触手のように靡く幾本もの髪の束を纏っている。
身体があるようには見えなかったが、猛スピードで空中を移動していた。
 「あなた・・・いったい、誰?」
 「我か?我は、妖の頂点に君臨する者。お前の骸を喰らい、玉依の力を手中に収めてな」
顔の妖はそう言うと、ニヤリと嗤った。
 「ね・・・狙いは私・・・ってこと? だったら何故、真弘先輩たちを襲ったりしたの!!」
 「マヒロ?・・・あぁ、何かと思えば、昨晩の小童共か。
 ジャレついて来たので、叩き落したまでのこと。虫けらごとき、我の知ったことではない」
足が震えている。気を抜けば、その場に座り込んでしまいそうなくらいに・・・。
でも、それよりも、心の中が怒りで熱く燃えている。
こんな奴に、真弘先輩や拓磨のこと、悪くなんて言わせない。
 「黙れ!!それ以上言ったら、私が許さない!!」
 「我に向かって許さないとは、随分と生意気な口を利く。生り立ての玉依の分際で。
 大人しく、我に喰われてしまうが良い!!」
怒号のように響く声を発し、触手のような髪を、まるで鞭のように撓らせながら、
私目掛けて振り下ろす。それを、一瞬手前で弾き返した。
私だって、玉依姫を襲名してから、ちゃんと修行をしているんだからね。
卓さんにも、術の使い方を教わっているし・・・。
さすがに、卓さんのように周囲全体に結界を張ることはまだ無理だけれど、
目の前に障壁を作るくらいなら、何とかマスターしていた。
 「ほぉ、やるではないか。だが、そんな薄い壁だけで、我に勝った気でいる訳ではあるまい。
 果たして、何処まで持つことやらな」
再びニヤリと嗤うと、立て続けに触手を放ってくる。
私は辛うじて、それらすべてを障壁で防ぐことができた。
触手の攻撃を防ぎながら、おーちゃんに力を注ぐ。私の力だけで、この妖を倒せるとは思っていない。
けれど、私にだってできることがある。それは、妖の足止め。
もうすぐ、卓さんがきてくれる。祐一先輩や慎司くんだって・・・。
それまでの間、こいつをここに留まらせておくこと。それがきっと、私の役目。
震える足に力を入れると、逃げ出しそうになる気持ちを抑えて、何とかその場に踏み留まる。
昨日戦って倒れてしまった真弘先輩も、拓磨も、もっと怖い思いをしただろう。
それもこれも、すべて私を護るため。こいつの狙いは、初めから私なのだから・・・。
それなのに、私がここで逃げるわけにはいかない。
私は顔を上げると、真正面から顔の妖を睨みつける。
 「私の最大の武器は、諦めないこと。あなたになんて、絶対にやられたりしない!!」
 「そんな御託など不要!!さっさと我の前に、その骸を差し出せ!!」
触手で攻撃を掛けながら、どんどん近付いてくる。私はタイミングを見計らうと、力いっぱい声を上げる。
 「おーちゃん!!」
私の声に反応して、おーちゃんが顔の妖目掛けて飛び出した。
 
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