「ねがいごと」(3)

 「みんな、揃っているのね」
新しい年の訪れと共に、静かに障子が開くと、お祖母ちゃんが居間へ入ってきた。
 「こうして、全員揃って、新しい年を迎えられること。大変嬉しく思いますよ」
お祖母ちゃんは、みんなの顔を見回すと、嬉しそうに微笑んだ。
鬼斬丸が破壊されてから、お祖母ちゃんは、こんな優しい顔をすることが多くなっていた。
お祖母ちゃんにとっても、あの戦いは、一つの区切りだったのかもしれない。
 「鬼斬丸のことも、それに纏わるすべての不幸も、忘れろと言っても無理なこと。
 でもね、それらすべてを抱えて生きるのは、私の役目。
 貴方達は、それらのことをすべて乗り越えて、新しい道を歩んでいかなくてはなりません。
 これからの人生を、自らの力で切り開いていくこと。それが、貴方達の役目」
そして、もう一度みんなの顔を見回すと、にっこりと微笑んだ。
 「幸せにおなりなさい」
そう言葉を残して、来た時と同じように、お祖母ちゃんは静かに居間を後にする。
さっきまでの気まずい雰囲気はなくなったけれど、それぞれに思うことがあるらしく、
全員が無言のまま、その場に留まっていた。
 「さて、そろそろ持ち場に戻らないと、いけない時間ですね」
それから暫くして、最初に口を開いたのは卓さんだった。
いけない!!売り子の仕事、放り出してきちゃったんだっけ。
慌てて立ち上がった私を見て、拓磨が声を掛ける。
 「珠紀は、もう休んでろよ。んな顔の巫女なんて、ちょっと怖いだろ」
 「えー!!こんなの、全然平気だよ。少し腫れが残ってるけど、
 美鶴ちゃんの手当てのお陰で、もう痛みだってないし・・・」
もしかして、拓磨も責任、感じちゃってるのかな?呼びに来たの、拓磨だもんね。
 「そーだな。珠紀、お前はもう、外へ出ない方が良い」
 「真弘先輩まで・・・。もー、大丈夫ですってば!!」
みんなが寒い外で頑張ってるのに、私だけ何もしないなんて、絶対に嫌だ。
 「じゃあ、こうしたらどうだ。珠紀がやっていた破魔矢の売り子は、俺がやろう。
 その代わり、珠紀は真弘の見張りをする。また、何処かで暴れたりしないようにな」
私たちのやり取りを見かねた祐一先輩が、そう提案する。
 「んなこと、もうしねーよ」
 「お前のことだから、それは判らないな。珠紀、後は頼んだぞ」
 「あっ、はい!!」
私の返事を確認すると、みんなそれぞれの持ち場へと戻っていった。
 「あーあ。ったくよー。俺が護るって約束したのに、自分で怪我させてちゃ、意味ねーよな」
真弘先輩と一緒に神社まで戻ってくると、突然真弘先輩が大声を上げる。
 「そんなの、気にしないでくださいよ。怪我って言っても、たいしたことないんだし」
 「そうは言ってもなー。顔に傷でも残ったら、どうするつもりだよ」
 「そのときは、真弘先輩に責任とって、もらってもらいますから。何の問題もありません」
 「バッ・・・バカか、お前!! んなこと・・・、関係なく、もらってやるから・・・、安心してろ」
私の言葉に、真弘先輩は顔を真っ赤にして言い返す。最後の方は、完全に小声になっていた。
良かった。いつもの真弘先輩だ。落ち込んで、元気のない真弘先輩なんて、らしくないもん。
 
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