「ねがいごと」(4)

昨日は、舞の稽古や新年の準備に大忙しで、真弘先輩とはゆっくり話しをすることもできなかった。
今回のことは、結果的に真弘先輩を落ち込ませてしまったけれど、
こうして二人で新年を一緒に過ごせることは、私にはとても幸せなことだったりする。
これも、祐一先輩の提案のお陰だよね。
 「なんだよ。怪我したってわりには、楽しそうじゃんか」
 「だって、新年なんですよ。暗い顔してる理由なんて、ないじゃないですか」
ゆっくりと、神社の庭を二人で歩いていく。こうしてると、何だかデートでもしている気分になる。
 「そうだ。どうせなら、お参りしていきませんか?どうせ、参道の方、見回りに行くんでしょ。
 参拝客の周りを歩くのも、列の中を歩くのも、あんまり変りませんし・・・」
 「バーカ。遊んでんじゃねーんだぞ。んなことしたら、代わってくれた祐一にも、悪いだろーが」
 「・・・そうでした。んーでも、じゃあ、終ってからでも良いです。一緒に、初詣、してください」
恋人同士っぽいこと。もっとたくさん、一緒にやりたい。そう思って、もう一度お願いしてみる。
 「何だよ。んなに、神頼みしたいこと、あんのか?」
私の気持ちなんて、少しも気付いてくれない真弘先輩は、ロマンチックとは程遠い答えを口にする。
 「そんなんじゃ・・・。じゃあ、真弘先輩はお願いごと、ないんですか?」
 「俺かー。俺の願いごとは、もう叶っちまってるからな。
 なんたって、この俺様の命を救ってくれたんだ。ここの神様は、優秀だぞ」
真弘先輩の願いごと。鬼斬丸の呪縛から逃れて、生き続けること。
明るく口にしているけれど、きっと心の中で、ずっと願い続けてきたに違いない。
 「それから、二つ目のも叶えられたな。俺様に合う、飛び切り美人の彼女が欲しい。
 こっちのは、一つ目のを叶えるんで力使い果たしちまったのか、若干、手、抜かれたけどな」
 「・・・真弘先輩。私とお揃いの青痣、顔に作ってあげましょうか?」
真弘先輩の目の前に、握り拳を作ってみせる。
 「冗談だって、冗談!!お前、ちょっと美鶴に似てきたぞ」
私、美鶴ちゃんに似てる? ツンっとソッポを向いて怒る美鶴ちゃんの姿を、思い出してしまった。
美鶴ちゃんの場合、怒っても可愛いけど・・・。
神様に手を抜かれた私って、真弘先輩にはどう映っているのだろう?
 「三つ目のは・・・。当分先になんねーと、叶えられそうにないしな」
 「そんなに、大変な願いごとなんですか?」
真弘先輩の三つ目の願いごと。いったいどんなこと、お願いしたいんだろう?
 「いつか・・・。お前を俺のものにしたい。俺がお前を、幸せにしてやる。
 世界で一番、幸せな女にしてやる。だから、俺の女になれ」
俺の女に・・・。まるでプロポーズの言葉みたいですよ、真弘先輩。
 「まぁ、もうちょっと先の話、だけどな」
 「・・・はい。信じてます」
そのいつかが、早く来ると良いな。それまで、信じて待っていますね。
 「ところでよ。お前の願いごとは、何なんだ?」
 「私の願いごと、ですか。うーん、内緒、です」
 「あ?俺にばっか言わせて、自分は言わねーって、そりゃズルイだろーが」
 「だって、私の願いごとは、神様じゃなくて、真弘先輩に叶えてもらいたいんです。
 だから、叶えてくれたら、教えてあげます」
 「んなの、言わなきゃ叶えらんねーだろ。言えよ、ちゃんと」
 「ダーメ。内緒です」
だって、真弘先輩といつまでも一緒にいたい。将来、真弘先輩の奥さんになりたい。
それが、私の願いごとなんですよ。先輩が叶えてくれなきゃ、意味がないんです。
 「んなこと言ってっと、襲うぞ、こら!!」
 「えっと・・・。良いですよ、別に」
 「お前、んなあっさり、オーケーとか言ってんじゃねーぞ」
冗談と勢いで言ったつもりの言葉に、私があっさり答えを返したので、真弘先輩の方が慌て出した。
 「だって、真弘先輩だもん。他の人だったら嫌ですけど、真弘先輩なら、全然良いです」
さすがに本気で迫られたら、ちょっと怖いけど・・・。
でも、真弘先輩となら、いつかそういうことだってあるかもしれない。そんな覚悟は、いつだってしてる。
 「ったく、先の話だ、って言ってんだろ。まぁ、今日のところは、これで勘弁しろ」
そう言うと、軽く唇を合わせる。今年最初のキス。
 「・・・血の味だ」
 「ご、ごめんなさい」
真弘先輩の呟きに、私は口を抑えて謝罪する。
もう血は止まってるはずなのに・・・。ちゃんと嗽、してくれば良かった。
 「バーカ。戒めには、調度良いんだよ。この先もずっと、俺がお前を護る。
 この誓いを、忘れないためにもな」
そう言って、もう一度顔を近付ける。二度目のキスは、一度目よりも更にながく。
どうか、このまま二人の仲が永遠に続きますように・・・。心の中で、そっと神様にお願いごとをする。

完(2010.01.01)  
 
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