「クリスマス」(2)
クリスマス会当日。
ギリギリ間に合った手作りの衣装を着て、美鶴ちゃんと二人で公民館に向かう。
「あの・・・、本当に似合ってるんでしょうか?」
お揃いで作ったサンタクロース姿の美鶴ちゃんが、不安そうな顔でそう言った。
「もー、バッチリだよ。すっごい、可愛いもん」
鏡に映った自分の姿を思い出し、完全に負けたことを再認識する。
「今年は随分と、可愛いサンタさんがいるんですね」
公民館の入り口で、入ることを渋っている美鶴ちゃんを宥めていると、後ろから声を掛けられた。
「卓さん!!」
珍しく洋装をした卓さんが、いつもの優しげな笑顔を浮かべて立っていた。
やっぱり、クリスマスに着物って、浮いちゃうのかな。
「言蔵さんのスカート姿、とても久し振りに見ますね。
宇賀谷家へ入る前までは、普通に着てらしたでしょう」
「そうなの?」
「こ、子供の頃のことですから・・・。大蛇さん、もう止めてください」
「おやおや、これは失礼しました。でも、とてもよくお似合いですよ」
真っ赤な顔で困っている美鶴ちゃんに、卓さんはあっさり引き下がった。
お祖母ちゃんの家に来る前の美鶴ちゃん。普通の女の子として、生活してたんだよね、きっと。
「みなさん、お待ちかねですよ。さぁ、行きましょう」
卓さんに促されて、ようやく美鶴ちゃんも公民館に入る勇気が出たらしい。
「おぉー、やっときたな。・・・って、うわっ!!どした、美鶴、その格好」
「美鶴にしては珍しいな。でも、とてもよく似合っているぞ」
「そーだな。可愛い・・んじゃないか」
「う、うん。僕も、そう思うよ」
最初に見つけた真弘先輩の声に驚いて、祐一先輩、拓磨、慎司くんが代わる代わるに声を掛ける。
全員、美鶴ちゃんに・・・。あのね。私も同じ格好してるんですけど。もっと、何か言う事ないんですか?
「何を不貞腐れているのですか?貴女のことは、一人が誉めてくれれば、それで良いのでしょう?」
「なら、卓さんは、私を誉めてくれるんですか?」
みんなが美鶴ちゃんを囲んで騒ぎ始めたので、私と卓さんだけが、何となく蚊帳の外になってしまった。
「もちろん。珠紀さんも、とても綺麗ですよ」
私なんかより何倍も綺麗な卓さんに見つめられて、何だかとっても恥ずかしい。
誉められ慣れてないせいか、照れくさくて顔が熱くなる。絶対、赤くなってるよね?
「珠紀!!ボケッとしてないで、こっち来て手伝え!!」
不機嫌そうな真弘先輩の怒鳴り声で、我に返る。
「あっ、ごめんなさい。卓さん、私、ちょっと行って来ます」
「ええ、どうぞ。本当に誉めてもらいたい人の言葉、ちゃんと聞いていらっしゃい」
先に行ってしまった真弘先輩を追い駆けて、私は走り出した。
「待ってくださいよ、真弘先輩。何、怒ってるんですか?」
「別に、怒ってねーよ。つーか、大蛇さんに誉められたくらいで、デレデレしてんじゃねー」
「し、してませんよ!!デレデレなんて・・・。そもそも、真弘先輩、誉めてくれないじゃないですか。
せっかく、徹夜して頑張ったのに」
「あ?徹夜って、何してたんだよ?」
「この衣装、手作りなんです。今回は二人分だったから、ちょっと時間掛かっちゃって・・・」
「美鶴の分か。ったく、まーた無理しやがって。風邪、ぶり返してもしんねーぞ」
この間、少し無理をした結果、風邪を引いて寝込んでしまったことがある。
そのときも、健康管理がなってない、って真弘先輩に散々怒られたのだ。
「もう大丈夫ですよ。それに、どーしても、クリスマス会に参加したかったんです」
「そーかよ。・・・まーなんだ。一応、言っておくとだな。・・・そーいう格好も、良ーんじゃねーの。
俺は、美鶴よりも似合ってると思う」
えっ?今のって、誉められたの?私、真弘先輩に、誉められたんだ。
「すごい、嬉しい」
多分、今度こそ本当に、デレデレした顔ってのを、してると思う。
だって、卓さんの言っていた『聞きたかった言葉』を、聞けたんだもん。
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