「クリスマス」(3)

クリスマス会は、大盛況だった。
前半は、児童と一緒に歌を歌ったり、お遊戯をしたり、手作りのご馳走やケーキを食べたり・・・。
後半は、飽きてしまった児童達が、それぞれに分かれて遊び出した。
真弘先輩は拓磨を悪役に見立てて、男の子達を集めてヒーローごっこをしていたし、
悪役に徹した拓磨は、両手に児童をぶら下げて力自慢をしていた。
部屋の片側に集まっていた女の子達は、祐一先輩に童話を読み聞かせてもらっていたし、
泣き出してしまった児童には、慎司くんが優しく慰めていた。
お母様方はと言うと、卓さんの笑顔とトークに魅了されっぱなしだった。
もちろん私だって、色々頑張ったんだよ。
公民館にあった電子ピアノを使って、幼稚園で習うクリスマスソングを弾いたりしてね。
真弘先輩が歌い出して邪魔さえしなければ、私だって充分役に立っていたはず・・・。
 「あー、すっごい楽しかったぁ〜」
 「そりゃ、良かったな」
片付けを一通り終えてから、私たちは公民館を後にした。
今夜は、守護五家のみんなと一緒に、我が家でもう一度クリスマス会をすることになっている。
一足先に帰った美鶴ちゃんと慎司くん、それから荷物持ちとして借り出された拓磨が、
準備を進めてくれているはず。
一緒に片付け班で残っていた卓さんも祐一先輩も、前を歩いていたはずなのに、
いつの間にか見えなくなっていた。
 「そうだ。珠紀、ちょっと、手、出してみ」
参道に続く階段を上りきったところで、真弘先輩からそう声を掛けられた。
 「こう、ですか?」
言われるがままに、両手の平を上に向けるように広げてみせる。
真弘先輩は、今まで入れていたポケットから手を出すと、
ポン、っと小さな箱を、私の手の平に乗せた。
 「先輩、これ・・・」
緑地の包装紙に赤いリボン。クリスマスカラーに彩られた小箱。
 「あー、一応、クリスマスだからな。俺からのプレゼントだ」
クリスマスプレゼント?真弘先輩が、私に?
何となく、手の上の箱と真弘先輩の顔を交互に見比べてしまった。
そして、ハタっと気が付くと、慌てて謝罪の言葉を口にする。
 「ご、ごめんなさい。私、何も用意してなくて・・・」
サンタクロースの衣装を作るのに夢中になって、すっかり忘れていた。
今年は、真弘先輩と恋人同士になって、初めてのクリスマスだったのに・・・。
こんな彼女、最低だ。
 「ばーか。んなの、気にすんなって。それに、もう、貰ってんだろ。これとかよ」
そう言って、首に巻いているマフラーの端を振ってみせる。
真弘先輩がしているマフラーと、ニットの帽子。この間、私が編んで渡したものだ。
でも、それには特別な意味なんてなくて・・・。
 「だって、それは。ただ、真弘先輩にもらって欲しいなって、思っただけで・・・」
そんな思いが強すぎて、無理したつもりはないんだけど、毎日遅くまで編んでいたら、
出来上がった頃には風邪をこじらせていた。
 「んなの、俺も一緒だっつーの。何だよ、気に入んねーのか?」
 「そんなんことない!! すっごい、嬉しい!!」
思いっきり横に首を振って否定する。気に入らないわけ、ないじゃないですか。
 「開けてみても良い?」
 「あー、お前にやったもんだ。好きにしろ」
真弘先輩に断って、丁寧にラッピングを解く。包装紙の中から出てきたのはピンクの箱。
 「わぁ、可愛い」
開けてみると、翼の飾りのついた銀色のネックレスが入っていた。
 「ま、結構、楽しいもんだな。どんな顔すっかな、とか思いながら、プレゼント買うのもよ。
 んで、想像通りの顔して、もらってくれんの見ると、やっぱこっちも嬉しいしな」
ちょっと照れくさそうにソッポを向きながら、真弘先輩はそんな風に言う。
私のことを考えながら、選んでくれたんだ、プレゼント。すごい、すごい嬉しいです、先輩。
今日は、真弘先輩に、何度も”嬉しい”をもらった。どんどん、心が幸せで満たされていく。
私だって、真弘先輩に、そんな”嬉しい”をプレゼントしたいのに・・・。
何も持っていなくて・・・。何も・・・。
 「あの、真弘先輩。プレゼント、欲しくないですか?」
 「あ?プレゼントって、何の・・・?」
何もない私が、唯一あげられるもの。それは、私自身。ちゃんと、受け取ってくださいね。
私から真弘先輩へ、ちょっとだけ長い、キスのプレゼント。
 「メリークリスマス、です」
来年も、一緒にクリスマスが過ごせますように・・・。

完(2009.12.26)  
 
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