「肝試し」(2)

 「委員長かぁ、ビックリさせないでよぉ。次って、委員長の番だった?」
 「いや、僕は順番には含まれてないよ。途中で動けなくなった人の回収係だから」
クラス委員主催のイベントだもんね。
足が竦んで動けなくなっちゃった女の子の誘導。そんな仕事もあるんだ。
もしかして、私もそうだと思われちゃったのかな?
あんまり遅くて、心配で見に来てくれたとか・・・。
 「ごめん、私、回るの遅かった?」
 「うーん、女の子にしては、早い方だと思う。もしかして、誰かと一緒だった?
 さっき、声が聞こえたような気がしたけど」
やばっ!!真弘先輩が一緒だったの、バレちゃったかな。
せっかくみんなで楽しんでるクラスイベントなのに、私だけズルするなんて、
やっぱりダメだよね。
 「だ、誰もいないよ。ちょっと景気付けに、歌でも歌っちゃおうかなー、なんて」
苦しい言い訳を口にしながら、笑って誤魔化してみる。
 「あはは、そうなんだ。春日さんって、やっぱり面白い人だね。
 僕はてっきり、鬼崎と待ち合わせでもしてるのかと思った」
鬼崎って、拓磨?なんで、ここで拓磨の名前が出てくるの?
 「拓磨、元々不参加だよ」
 「うん、知ってる。でも、春日さんが参加するのに、彼が来ないって珍しいよね。
 だから、喧嘩でもしたのかな、って。仲直りの場所には、静かで良いでしょ、ここ。
 二人っきりにもなれるしさ」
拓磨との喧嘩なら、しょっちゅうしてるけど・・・。
夜中に待ち合わせしてまで、仲直りしないといけないような喧嘩、まだしたことないよ。
 「なんか、誤解してない?私と拓磨、そういう関係じゃ、ないよ」
二年の時に転校して来た当初から、私と拓磨が付き合ってるって誤解されることはあった。
お昼も守護者のみんなと食べてるし、おのずと拓磨と一緒に行動することは多い。
だけど、未だに誤解されたままなんて、ないと思ってたんだけどな。
 「あれ?違うの?僕はてっきり、春日さんと鬼崎って、付き合ってるんだと思ってた。
 そっかぁ〜、なんだ・・・、良かった」
良かった?私と拓磨が付き合ってないと、なんで良かったになるんだろう?
誰か、拓磨のこと、好きな子でもいるのかな。拓磨、ぶっきらぼうでとっつき難いけど、
本当はとっても優しい人だもんね。人気あるの、判る気がする。
 「あのさ、僕・・・。春日さんに話があったんだ」
 「判った、拓磨への仲介だよね。
 上手く伝えられないかも知れないけど、私からも拓磨にそれとなく言っておいてあげる。
 委員長優しいから、女の子に頼まれて、嫌って言えなかったんでしょ」
 「春日さん、それって、ボケてるの?それとも、話、はぐらかそうとしてるのかな。
 うーん、こう暗いと、ちょっと話し辛いよね。そっちへ行っても、良いかな?」
私は真弘先輩が消えた窓の傍に立ったままだし、
委員長はドアから入ってきた所で立ち止まっていたので、
お互いの距離は微妙に離れている。
自分達が持っている懐中電灯の小さな明かりだけを頼りに、会話を続けていた。
委員長は、私の返事を待たずに、こちらへ向かって歩き出す。
 「うわっ!!」
小さな悲鳴が聞こえ、足音が止んだ。
 「委員長、どうかした?」
暗くてよく判らなかったけど、何かあったらしい。
 「いや、判らない。今、突風みたいなのが、横を通り過ぎたような・・・」
窓際に立っていたはずの私には、何も感じなかったのに?
 「いや、気のせいだと思う。
 それよりさ・・・。僕、春日さんのこと、結構、気に入ってるんだよね」
委員長は、近付いてくることを諦めたように、その場で話しを始めた。
今、何て言ったの? 気に入ってるって・・・、私のこと?
 「えーっ、ちょっと待って!!だって、私・・・」
 「最初は、鬼崎と付き合ってるんなら、諦めるしかないかな、って思ってたんだ。
 でも、春日さん、違うって言うしさ。良かったら、僕とのこと、考えてくれないかな」
こ、これはもしかして、告白? 私、男の人に告白されたのって、初めてかも。
真弘先輩とは、もう、それどころじゃなかった、って感じだもんね。
何だかすごく照れくさい。顔が真っ赤になってるのが、自分でもよく判る。
でも、違う。告白されたことは、確かに嬉しい。けど、何かが違った。
 「ごめん、委員長。私、委員長の思いには、答えられない。
 だって、私には、真弘先輩がいるから・・・。先輩以外の人なんて、考えられないんだ。
 だから、ごめんなさい」
 「真弘・・・って、鴉取先輩?今年卒業した、あの小さい・・・」
 「そうそう、その小さい先輩。でも、小さいのは見た目だけなんだよ。
 態度なんて、もぉ、メチャメチャ大きいんだから」
いつもの俺様な態度を思い浮かべて、つい笑ってしまう。
 「でもね、そんなことは抜きにしても、私にとっては、すごい大きい人なんだよ。
 存在そのものがね。真弘先輩が傍にいてくれる、っていうだけで、私は安心するの」
 「鴉取先輩のこと、好きなんだ」
 「うん、大好き」
 「そっか。どうやら、つけ込む隙はなさそうだ。告白を断られただけじゃなく、
 彼氏のお惚気まで、聞かされたんだからね」
 「うっ!!ご・・・ごめんなさい」
 「あはは。良いよ、気にしないで。それより、もう行った方が良いね。
 戻りが遅いと、みんな心配すると思うし」
 「あっ、そうか。肝試しの最中だったんだ。じゃあ、私、続き、行ってくるね」
急いで黒板に名前を書くと、教室を後にする。
 「あっ、春日さ・・・。まぁ、いっか。あいつらも、僕が行かなきゃ、何もしないだろう」
委員長の独白は、私の耳には届かなかった。
 
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