「肝試し」(3)

 「あぁ〜、ビックリした」
委員長から、まさか告白されるなんて思わなかった。今もまだ、心臓がドキドキしてる。
真弘先輩が言っていた「拓磨を盾にするのも、アテにならくなった」って、
もしかして、このことなのかな。
未だに誤解してる人がいたなんて、それこそビックリ、だけど。
考えを巡らせながら教室を回ると、ようやくゴール地点の音楽室に辿り着いた。
重い防音扉を開ける。
ここだけ唯一電気が点けられていたせいで、目がなかなか慣れなかった。
 「おっせーぞ」
 「その声、真弘先輩?」
ようやく慣れてきた目で声のした方を見ると、ピアノの上に真弘先輩が座っていた。
その下には、倒れている男子生徒が二人。
 「嫌だ、真弘先輩。何やったの?」
 「何にもしてねーよ。
 こいつらが、お前に悪戯するって言うから、ちょっと懲らしめてやっただけだ」
 「何もしてなくないよ、それ。懲らしめたって、殴ったりしたの?」
真弘先輩が相手じゃ、誰も叶わないよ。だって、あのツヴァイと戦った人なんだから。
 「だから、俺じゃねーって。祐一の幻覚で、ちょっと脅かしてやったら、
 勝手に伸びちまったんだよ」
 「祐一先輩もいるの?」
予想外の人の名前を聞いて、私はその人物を探す。
 「もう、いねーよ。あいつは、先に宇賀谷家へ戻った。
 拓磨も慎司も、今ごろ悲惨な目にあってるだろうから、ってさ」
さすがに、そんなことにはなってない、と思うんだけど・・・。
 「祐一先輩まで、何で?」
 「俺だけじゃ、校舎の中には入れないからな。
 ちょっとあいつの力、借りたかったんだよ」
祐一先輩の幻覚なら、姿を消すことだってできるんだ。
その状態なら、昇降口の前にいたみんなに気付かれずに、堂々と校舎の中に入れる。
 「何で、そんなにまでして?」
 「お前さ。さっきの奴に、告白されただろ?」
 「聞いてたの?」
 「違う。みんな、知ってんだよ。紅陵学院の肝試しっていや、告白大会のイベントだからな。
 毎年恒例の行事、ってやつだ。知らなかったのは、お前くらいなもんだな」
し、知らなかった。そう言えば、女の子の方も、何となくソワソワしていたっけ。
あれは、怖いからとかじゃ、なかったんだ。
もしかして、拓磨が早々に不参加を表明したとき、私の参加を渋っていたのは、そういうこと?
委員長が告白するの、知ってたとか?そして、真弘先輩も・・・。
 「知ってたんですね、先輩も。だから、私のこと、信じるって・・・」
 「まぁなー。こんなくだらない行事でも、お前が楽しいってんなら、仕方ねーだろ。
 お前の場合、純粋に肝試しを楽しんでるみたいだったしな」
そんな行事だって知ってたら、参加なんてしなかったよ。真弘先輩がいないなら、意味ないもん。
 「俺様は寛大だからよ。これくらい、全然、許してやる。なんたって、俺様は器のでかい・・・」
 「やっぱり、聞いてたんじゃない!!」
委員長の告白の答え。真弘先輩は、私にとって、すごい大きな存在なんだって台詞。
言った言葉に嘘はないけど、でも、まさか本人に聞かれていたなんて、恥ずかしいよ。
 「あっはは。滅多に聞けないお前の本音だからな。これが聞かずにいられるか、って。
 でも、サンキューな。すげー嬉しかった」
 「本当のことを・・・言っただけです」
 「そっか。・・・あー、あのな。俺も、お前のこと、大好きだぞ」
 「えっ?」
突然の告白に、私は驚いて真弘先輩を見る。
顔を赤くしてソッポを向いている真弘先輩は、すごく照れくさそうにしていた。
委員長の告白も、確かに嬉しかった。でも、何かが違うと思った。
その何かが、今、ようやく判った。心を満たす幸せな気分が、全然違う。
真弘先輩の告白は、私をこんなにも幸せにしてくれる。
大好きな人が、ちゃんと私を見ていてくれる。それだけで、こんなに幸せな気分になれるんだ。
 「ありがとうございます。すごく嬉しいです。私も、真弘先輩が、大好き」
さっき委員長に言ったときと同じ台詞。でも、混める想いが違う。
真弘先輩にも、私の幸せな気持ち、ちゃんと伝えたい。
 「あぁ、知ってる。お前が、俺以外の男を好きになんてならない、ってこともな。
 だから、この先もずっと、俺がお前を護ってやるよ。そう、約束してやる」
真顔でそう言った後、真弘先輩は無造作にガシガシと頭を掻いた。
 「あー、ったく。結局、イベントに乗せられて、告白大会になっちまったじゃねーか。
 もーいい。お前は、さっさと行って終らせてこい。ここがラストなんだろう?」
 「はい。じゃあ、すぐに終らせてきますね」
ピアノの上に置かれた箸立てから割り箸を一本抜くと、私は音楽室を出て行った。

完(2009.12.19)  
 
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