「見つめる先に・・・」(3)

真弘先輩が屋根の上に登らなくなった本当の理由。
ようやく語ったその一言に、私はショックを受けていた。
 「見えない、って・・・」
お昼休みに、真弘先輩が屋上から見ていたもの。それは確か・・・。
 「違う!!」
 「私、まだ何も言ってません!!」
 「言わなくても判る。お前、絶対、勘違いしてっぞ」
 「してないです!!だって、真弘先輩が、お昼休みに見てたのって・・・」
美人と巨乳が大好きだって公言していた真弘先輩。
その先輩がいつも屋上から見ていたのは・・・。
 「校庭の木の下でお弁当を食べてたフィオナ先生と、可愛い女生徒達」
涙声で答える私に、真弘先輩は無造作にガシガシと頭を掻くと、肩を竦めて溜め息を吐く。
 「やっぱ、誤解してんじゃねーか」
 「何処がですか?」
 「校庭が見たいんだったら、ここでもあそこでも、大差ねーだろうがよ」
 「より近くで見たい、とかじゃないんですか?」
 「ちげーよ、っとに、ホント、鈍いなお前」
涙が止まらなくなって俯いている私の頭を、真弘先輩は慰めるように軽くなでる。
 「お前さ、いつも、何処に座ってた?」
最初、何を聞かれてるのか判らなかった。急に話が飛んだように気がして・・・。
不思議そうに顔を上げると、大人びた顔で微笑む真弘先輩と目が合った。
 「昼休み、お前、いつも何処にいた?」
お昼休み。一緒にお弁当を食べるって言っても、みんなそれぞれ好きな場所にいる。
屋上の出入り口傍、右側にあるテーブル席。出入り口を背にした左側がいつも私が座る場所。
私の右隣に座っているのが拓磨。
食後のデザートだって言いながら、たい焼きを片手に、いつもクロスワードパズルを解いている。
拓磨の前の席には、手作りのおにぎりを頬張りながら、私とのおしゃべりに付き合ってくれる慎司くん。
その斜め後ろ、フェンスに寄りかかりながら、午後のお昼寝を楽しんでいるのが祐一先輩。
私からは、慎司くんを挟んだ向こう側になる。
慎司くんの隣の席が空いているのに、その後ろにあるフェンスに寄りかかっているのが真弘先輩。
いつもそこで、やきそばパンを齧りながら、バイク雑誌を読んでいる。
私は、お昼休みの風景を思い出しながら、いつも座っている席まで歩いていった。
私が席に座るのを待ってから、真弘先輩が口を開く。
 「あそこからだとな。・・・後姿しか、見えねーんだよ」
いつもの席に座った私は、真弘先輩の言葉に合せて振り返る。
私の後ろには、屋上への出入り口があった。その屋根の上から見える後姿って・・・。
 「お前さ、自分で気がついてるか知らねーけど。結構、顔に出るだろ。
 機嫌いーときは、ニコニコ笑ってるしよ。怒ったり、不機嫌なときは、焼いた餅みたいに
 頬を膨らませてるか、眉間に皺寄せてるかだし。悩んでたり、落ち込んでたりするときは、
 ・・・泣きそうな顔してる。だから、顔が見えないと、不安になるし、落ち着かねーんだよ」
私がいるときだけ、下に降りていた理由。それは、私が笑っているかどうかを、確認するため?
あの戦いの中、真弘先輩はずっと、私を気にしててくれたんだ。
 「納得してくれたか?」
 「はい、ごめんなさい」
勝手に誤解して、一人で騒いで・・・。
フィオナ先生や女生徒達に嫉妬していた自分が、ちょっと恥ずかしい。
なので、私は素直に謝った。ごめんなさい、真弘先輩。
 「あぁー、まぁな。フィオナ先生のことは、その、趣味みたいなもんだからよ。そっちは気にすんな」
見てたことは否定しないんですね、先輩。まぁ、みんな知ってますけど。
でも、私、信じてますよ。これからもずっと、私のこと、見ていてくれるって・・・。
 
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