「見つめる先に・・・」(4)

それにしても、私って、そんなに顔に出てるんだろうか?それなら、今は、どんな顔してるのかな?
 「ねぇ、先輩。じゃあ、今はどうですか?私の顔、どんな風に映ってます?」
ちょっと心配になって、真弘先輩に聞いてみる。もちろん、飛び切りの笑顔を向けて・・・。
 「あ?んー、そうだな。・・・幸せそう、か?」
泣きはらした後だったから、ちゃんと伝わるか自信なかったけど・・・。
良かった。ちゃんと笑顔の意味は、判ってもらえたみたい。
 「ふふっ、半分だけ、正解です」
 「何だよ、半分って」
真弘先輩は、不服そうに言う。
だって、”そう”じゃなくて、幸せなんですよ、先輩。私、今、すごく幸せなんです。
 「まぁ、半分でも正解は正解だよな。じゃあ、賞品、よこせ」
 「えっ?賞品って、何を・・・」
聞き返そうとする私に、真弘先輩がそっと顔を近付ける。
賞品の意味を理解した私は、そのまま静かに目を閉じた。
 「珍しいな、真弘。昼休みが始まって、すぐにここにいるとはな」
 「何だ、珠紀、授業サボッてこんな所にいたのかよ」
 「うわっ、祐一先輩、拓磨先輩も。せっかく、ここまで待ったんですから、もうちょっとくらい待ちましょうよ」
いつの間にチャイムが鳴ったのか、すでにお昼休みが始まっていたらしい。
祐一先輩、拓磨、慎司くんの三人が、次々と屋上へやってきた。
 「たーくまぁー!!」
良いところを完全に邪魔された真弘先輩は、照れ隠しの混ざった怒りの鉄拳を、拓磨に向けた。
 「はい、珠紀先輩、お弁当です。拓磨先輩が、教室から一緒に持ってきてくれましたよ。
 あれ?どうかしたんですか?もしかして、邪魔したの、怒ってます?」
にこにこ笑っていた慎司くんが、お弁当の入った鞄を渡してくれる。
反応の鈍い私を、どうやら怒ってると勘違いしたらしい。
 「ううん、何でもないよ。ちょっと、ビックリしただけ。ありがと、慎司くん」
そう言いながら、慎司くんから鞄を受け取った私は、曖昧に微笑んでみせる。
本当にビックリした。まさか、みんなに見られていたなんて。それに・・・。
さっき、祐一先輩や拓磨の声に驚いて、一瞬身体が震えた。
そのとき、真弘先輩の唇に、ほんの一瞬だけ触れた気がする。あれは、とっても短いキス、だよね。
 「先輩、ちゃんと賞品、渡しましたからね」
 「えっ、何か言いました?珠紀先輩」
 「ううん、ホラホラ、お弁当食べよう。お昼休み、終っちゃうよ」
慎司くんから受け取った鞄の中から、お弁当の包みを取り出す。
 「ほら、ついでにやきそばパン、買ってきたぞ、真弘」
 「おっ、サンキュー。どうせついでなら、バイク雑誌も持ってきてくれたら、良かったのによぉー」
 「わがままな奴だな、お前は」
賑やかな会話を交わす中、それぞれいつもの場所に落ち着いていく。
私の座ってる場所からは、フェンスに寄りかかって、やきそばパンを食べている真弘先輩が見える。
いつもならバイク雑誌を読んでいるのに、今日はなんだか手持ち無沙汰みたい。
さっきから、祐一先輩にちょっかいを出しては、お昼寝の邪魔をしている。
そんなやり取りを、私は、楽しそうに見つめた。
そうだ、今度は私が見つめていよう。大好きな真弘先輩のことを・・・。

完(2009.10.03)   
 
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