「見つめる先に・・・」(2)

 「それにしてもお前、何であんなところに登ってたんだ?」
切り替えの早い真弘先輩は、出入り口の屋根を指差しながら、不思議そうな顔をする。
 「えっと、それはですね・・・」
真弘先輩の質問に、少しだけ言い淀む。そんなこと聞かれるとは思わなかった。
真弘先輩と同じ景色が見たかった・・・なんて、口に出して言うのは、やっぱりちょっと恥ずかしい。
 「まぁ、良いけどよ。とりあえず、だ。スカート云々は別にしても、落ちたら危ねぇーからな。
 もぉー、登んじゃねぇーぞ」
言葉を濁している私のことなど気にすることもなく、真弘先輩は念を押した。
 「はぁーい。じゃあ、あの風景は、真弘先輩の独り占めですね・・・って、あれ?」
さっきまで見ていた風景を思い出していると、フイにあることに気がついた。
最近、真弘先輩が屋根の上に登ってるところ、あんまり見ていないような気がする。
いつからだろう? 真弘先輩がみんなと一緒に下にいるようになったのって・・・。
私が学校に通うようになって、みんなとお昼を一緒に食べ始めた頃は、
真弘先輩はいつも屋根の端に腰掛けて、やきそばパンを食べながら、バイク雑誌を見てた。
その後はどうだったろう? 過去の記憶を辿りながら、順番に思い出してみる。
鬼斬丸を巡る戦いで、初めてロゴスに破れたとき。一線を引いて、私を遠ざけようとしたとき。
その頃はまだ、屋根の上に座っていた気がする。
それから、祐一先輩の策略(?)で、真弘先輩と拓磨が家に泊まりにきてたとき。
その頃にはもう、下にいたと思う。じゃあ、その前後に何かあった、ってこと?
屋根の上が嫌になったとか、そういうことではないと思う。
私がお昼に来るのが遅れたときには、屋根の上に座っていたりするから。
私が来たことに気が付くと、すぐに下に飛び降りてくる。それって、何か意味があるんだろうか?
 「何だよ、さっきから。百面相か?」
 「ち、違います!!」
また、意識を内側に沈めて考え込んでいた私は、真弘先輩の呆れ声に、慌てて反論する。
 「真弘先輩、最近、登らなくなりましたよね、あそこ。どうしてなんですか?」
 「べ、別に良いだろ、んなこと。俺の勝手だ」
私の質問に、今度は真弘先輩が言い淀む。
 「教えてくれたって良いじゃないですか。・・・ケチ」
 「ケチとは何だ、ケチとは!! お前、俺をバカにしてるのか?」
 「してませんよ、そんなこと。良いです、自分で考えますから」
ツンっとソッポを向いて反論する。
私だって上にいた理由を言っていないってことは、この際棚上げにさせてもらおう。
 「理由、理由。んー、あっ、何処か壊れて穴が開いてるとか?
 さっき、落ちると危ないって言ってましたもんね」
 「いや、それは、柵がないからで・・・って、おい、俺の話、聞いてるか?」
 「誰か落ちて怪我したら困るじゃないですか。そうだ、先生に報告して、直してもらわなくちゃ」
思い当たった自分の案に、さっそく行動を開始する。
校舎に向かって歩き出した私を、慌てて真弘先輩が止めに入る。
 「うわっ、バカ、やめろって。何処行くつもりだ、おい。
 だー、もぉ、判った、言う、言うから、ちったぁ、落ち着け、な?」
 「じゃあ、教えてください。真弘先輩が、屋根の上に登らなくなった、ホントの理由」
くそっ、何でこんなことになってるんだ。 真弘先輩はブツブツと文句を言いながら、
最後は観念したかのように、小さな声で呟いた。
 「・・・見えねぇーからだよ」
 
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