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GunParade March(PS) 二次創作

   それもまたひとつのヒーロー

 ----あいつ、バカか?
 わずかな瀬戸口の呟きに、はあ、と溜め息をついた善行が眼鏡を押し上げる。
「二番機、ちょっと無謀過ぎるとは思いませんか」
「おりゃーぁっ!!」
 聞く耳持たず。
 軽装甲の士魂号がビルの上で少しだけ足をずらして銃口を上げた----と言うより、スキュラに、押し当てた。
 ぱたんぱたんと優雅に揺れていたスキュラの尻尾がくたんと垂れて、それから、腹にあるのは何だろうと言いたげに(ののみ談)、ゆうるりと方向を変える。
「これでぇ最後ぉぉぉ!!」
「叫ばんでいい…耳が痛い」
 ライフルの銃弾が空中要塞を突き抜けて2発。千切れて降りかかる間から飛び出した滝川機が信号機をクッションにして地面に着地。足元に空になった砲弾倉が転がって、----自分でそれに足を取られてコケそうになっている。
 ----幻獣の攻撃ならまだしも。
「すっ転んで士魂号壊さないでよ。そんなの情けなさ過ぎて直す気にもならないわ」
 原の声。
 ライフルを放り出して電柱に捕まり、かなり情けない格好で事無きを得た二番機から、「ふぇーい」とこれまた情けないパイロットの声がする。
「…やれやれ」
 指揮車の中で何度目かの溜め息をついたのは善行司令。
 瀬戸口はとても楽しそうに苦笑していた。
「被害なしで大勝ですし、まあ良しとしましょうよ、司令」
「別に悪くはないんですがね…」
「よーちゃん、たくさん、やっつけたの。いちばんなのよ!」
「92mmライフルで12体もひとりで落とすかね、普通…。しかし速水、どうしたんだ? 背中の荷物は今日も持ち帰り?」
「こういう地形だと、どうも動きづらくて。それにまあ…『もうすぐ』でしたから。」
 通信機の向こうの速水も何だか嬉しそうだった。
 みんなが嬉しそうだ。
 てくてく歩いて撤退ラインに戻って来た滝川機も。
「せんぱぁ〜い!!」
 小さな歩兵にぶんぶん手を振る士魂号。人型戦車の威厳が台無しである。
 来須は可憐の中でほんの少しだけ唇を動かした。
「俺、やっちゃったっす!! ヒィィロォォに、なっちゃったっすよー!!」

 空っぽの砲弾倉にコケそうになるパイロット。顔中傷だらけで、ゴーグルつけて自転車通学する声のでかい少年。
 そんな少年が慣れない真面目顔で手にした称号は『絢爛舞踏』。
 学校に戻って来ても純粋にひとりではしゃいでいるその姿に、クラスメイトは誰もがただ苦笑するしかなかった。
 息をするように敵を狩る----その形容から、常に羨望と共に恐怖で迎えられたはずの絢爛舞踏は、5人目のそれだけは例外だった。周りを見てないのか変なところにぶつかったりつまずいたりしながら駆け回る犬のごとく。このところそのスピードは新井木といい勝負だ。
 授業中は退屈そうにあくびをしては本田のマシンガンでどやされる。ハンガーでは仕事している背中からどつく茜とあっと言う間にプロレスごっこを始めてしまって壬生屋に怒鳴られる。『先輩』と呼んで慕う来須と一緒にサンドバッグを殴りながら、それでも間延びした声で「訓練しないで強くなる方法、ないっすかねぇ…」などと言い出すのはいつもと同じ。
 まるでいつもと変わらない。
 ただの滝川陽平でしかない。
 誰もが、当然のように持っていたはずの絢爛舞踏への畏怖をあっさりすっ飛ばしてしまっていた。というか、どうやったって畏れる対象になんぞなりゃしないのは一目瞭然だった。

「----キッド」
 一応、挨拶はしてみたものの、それから数日滝川に会うこともないまま過ぎていたある日。『戦神』ブータは目を細めて、唯一通じる相手である『キッド』に声をかけてみる。
 紫の目が、笑ったままブータを振り返った。
「その名で呼ばれるのは久々だな」
「どうだろう、君の『後輩』は。あしきゆめを、終わらせる気があるだろうか」
「----ないかも知れないな。あいつは、世界を救うことなんぞに興味はなさそうだ」
「大した伝説だ。あれはあれで、なかなか見ていて好ましくはある」
「そうかい? ねこかみさまは、あしきゆめを終わらせることを望んでいたんじゃなかったのか?」
「…妙な話だが」
 にゅう、と体を伸ばしてブータは顔を洗った。
「ひょっとしたら、あれは、竜の存在に気づけないやも知れぬ」
「そりゃまた…難儀だな」
「いや」
 2本足で立ち上がる。ヒゲがゆらゆらと揺れる。
「いまの火の国には幻獣はおらぬ。まさに幻獣にとってのトゲのように、ここは人類最後の砦となるだろう」
「ああ」
「もしこの世界に幻獣がいなければ、人間達はあの争いを続けていただろう。第二次世界大戦とやらを」
「……そうかも知れん」
「人間にとって、どちらが良い。幻獣に殺されるのと、人間に殺されるのと」
「………」
「今あしきゆめが終われば、また人間同士が殺し合う世界に戻るだけのことかも知れぬ。いや、そうでないと言い切る方がワシには難しい」
「………」
「とすれば----」
 ブータはまた四つ足に戻り、目をくるりと動かして見せる。
「あれはあれで、救っておるのやも知れぬな。人間が人間を憎むような、そんな世界に戻らぬように」
 途端、人の気配を感じる。『キッド』がちらりと目を走らせた先をブータも見る。
 そしてブータは、「にゃあ」とだけ鳴いて、そこからふらふらと去った。
「俺に隠す必要はない」
「----帽子はどうしたんだ」
 『キッド』の問いに、現れた人影----来須は表情のない目で一瞥する。
「もう必要ない」
「そうか」
 また何処かへ行くのか。
 直感で思っただけで言葉には出さず、笑顔を崩さないまま『キッド』は歩き出す。
 その後ろから、歌が響いて来る。この世界のものではない音で。だからそれを歌と思えるのは特定の人間に限られるだろう。
 歌えないのではなく。
 歌と理解されない旋律。
 ----来須の気配が薄れて行く。緩やかに、緩やかに。

 ハンガーで、口にやきそばパンをくわえたまま、絢爛舞踏は呆けていた。
 収まりの悪い寝癖の上にふわんと乗せられた帽子。
 まさか、くれるなんて思っていなかった。
 もらった時、何故か思った。
 これは『別れ』なのではないかと。
「先輩!?」
 走り出す。探し回る。もう、何処にもいない。
「先輩!!」
 食べかけのやきそばパンを左手に。ふわふわした感触の帽子を右手に。
「なんで…」
 置いてくんっすか?
 言いかけた言葉はただ、夜空に吸い込まれる。
 のんびりとした足取りで歩いて来た瀬戸口に、思わずたずねてしまう。ふふ、と笑った後で瀬戸口は答える。
「旅人だからな、来須は。壬生屋のお嬢ちゃんから聞いたことないか?」
「…イタリヤから呼ばれた…末裔がどうのって…」
「そうだ。役割が終われば、帰るんだろう、イタリヤに」
「…そうか」
 納得しやがった。
 『キッド』は内心頭を抱えながら、ブータの言葉を反芻する。ホントに気づかないかも知れない、この少年は。
 気づかせるべきか、否か。
 ただ、----気づいたら自分と同じ轍を踏むような予感もした。猪突猛進、突っ込んで。何も考えずに----殺してしまいそうで。
 瀬戸口の手が、ぽむ、と絢爛舞踏の肩を叩く。
「俺の言ったこと、覚えてるか?」
「はい?」
「1度しか言わないと言ったが、仕方ないから大サービスだ」
「はぁ」
「愛は、許すことだ」
「----はぁ」
 笑う紫の瞳と、怪訝にまばたく紫の瞳。同じ色を----同じ棘を抱えている。だから。
「いつか、判る日が来るよ。その時が来たら、ちゃんと思い出すんだぞ?」
「……はぁ」
 俺にはなるなよ。
 そこまでは言えずに、----
 ただ『キッド』は、軽く手を振ってそこを離れた。

=== END === / 2001.03.07 / textnerd / Thanks for All Readers!

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