textnerd@works

  - 創作物置き場 -

RSS1.0


GunParade March(PS) 二次創作

   自由恋愛がんぱれーどまーち

その1

「姉さんには無理だね」
 整備の手を止めないまま、茜の冷たい声が一蹴する。
 ついさっき、屋上で速水に告白して振られたばかりの森は、ちょっと驚いてから、
「何、もう噂になってるんだ……」
 いつもの彼女らしからぬ弱々しい声でため息をついた。
「そりゃもう」
 失意状態の森によるどよんと沈んだ雰囲気を全く無視しててきぱき仕事をしている茜。
 それを見ていたヨーコが、ぽん、と森の肩を叩いてにっこりと笑う。
「仕事しないと、速水サン、危ないデス。森サン、出来ることするデス。それが愛デス」
 森の表情にうっすらと明るさが戻った。自分に出来ることをやらなきゃ、という決意で頷く。
「ありがと、ヨーコさん」
「はいデス」
 その場の空気が和らいだ。だが、全くその辺を意に介していない茜の一言で、また雰囲気が一変する。
「……速水の唇ってさ、サンドイッチの味するんだよね」

争奪戦

 校舎はずれ。茜と森という2人に物凄い形相で睨まれて、速水は何が起きているのか理解出来ずに、いつもにも増してぽややんとしていた。
「…どうしたの?」
「…速水くん、私を拒絶したのってそういうことだったんだ」
 頬を怒りでひくひくさせながら先陣を切ったのは森。
「そういうって、…何?」
「フン、たかがキスぐらいで」
「たかがキスって、あんたは外国産だからそうかも知れないけどっ、でもここは日本なのよッ」
「挨拶…だと思ってた?」
 わずかに脚を差し出しつつ流し目する茜。自分から迫ったことなどない茜の態度にビビる速水。明らかにツナギより半ズボンの方が勝ち目があると思っているのか。だがしかし。
「いや、僕は、そういうつもりでは…」
「じゃどういうつもりだよ」今度は茜の怒りにちょこっと発火したらしい。「速水だけは他のヤツと違うと思ってたのにっ、だから僕は……僕は!!」
 一瞬、呼吸さえも止めて沈黙した速水は、脱兎のごとく横跳び右、その場から全速力で走り出した。
「あっ、逃げたっ!」
「速水……! 裏切ったな、僕を裏切ったなーっ!!」
 追いかけられてもとりあえずは追いつけないであろうぐらいのスピード差はあった。日頃の訓練の賜物である。そんなことのために鍛えたつもりはなかったのだが。


その2

争奪戦

「…芝村さん」
「何だ」
 プレハブ校舎の廊下。目の前で、背中に怒りのオーラを背負っている芝村に、速水はおそるおそる話しかけた。
「…いくらなんでも」
「何がいくらなんでもなのだ」
 目の前で芝村相手にうなっているのは、ブータである。
「ブータも、さ、大人げないでしょ、そういうのは」
「にゃあ!!」
 聞く耳持たぬ! と聞こえたような気がした。
「芝村に負けはないのだ!!」
 出し抜けに、物凄い大声で芝村が叫んだ。
 驚きのあまり飛び上がったついでに、壁に頭をぶつけて既にへなへなになってしまった速水に向かって、さらにまくし立てる。
「相手が人や幻獣であれば芝村に負けなどないッ!!
 だか相手は猫なのだ! 速水!
 一緒に昼を食べたり猫カンあげたり喉をうりうりしたり腹をこちょこちょしたりしてもだな! それを私に非難出来るわけがなかろう!
 猫はかわい過ぎるのだ! ふわふわしておるのだ!
 …卑怯ではないか!! 私はどんなに努力しても一生、あんなにふわふわにはなれぬというのに!!
 私だって、私だってだな、一緒に昼を食べたりサンドイッチをプレゼントされたり胸を…いやそれは…」
 自分の想像に真っ赤になってから、一息ついて、
「とにかくだ! そなたが猫に構っているのを見てもだな! その相手が別の女であれば堂々と割り込むことも出来ようが、猫は……猫は……」
 わずかに目が潤み始める。
「ふわふわしておるのだッ! 尻尾を立ててにゃーとか歩くのを責めるわけにも行かぬのだ! 猫には勝てぬ!! だから……。
 だから猫なのだッ!! 他の女であれば私が負けるはずなどないではないかッ!! 他の女であれば、わざわざ芝村が声を荒げる必要などない! しかし猫は! 猫はだなッ!」
「わ、わわわ、判ったから、落ち着いて、芝村さん…」
「これが落ち着けるか、ばかものーっ!!」
 ぽかぽかと速水を殴り始めるその拳に迫力がないことと言ったら。
 殴られながらも、かわいいなぁ、とぽややんな思考回路で速水は考えていた。
 ブータは、その速水のぽややんを見ながら、仕方ないか、と頭を振った。
 (あとで猫カンだからな、運命の友よ。)
 そう伝えたつもりで、その場を去ってやることにした。
 猫もそれなりに気を遣うのである。


その3

 昼休み。
「あっちゃーん」
 ハンガーへ向かおうと裏庭に入った途端に、指揮車のそばにいたののみが楽しそうに駆けて来る。えへへ、と嬉しそうに笑っているその頭を速水はうりうり撫でてやる。
「これあげるのー」
 小さな手で差し出すかわいいおべんと。速水は、ちょっとかがんで視線を合わせると、
「ののちゃんのお昼はどうするの?」
「----えっとね、えっとね、あっぷるぱい、おいしいの」
「ちゃんと食べなきゃダメじゃないか。お昼、一緒に食べようか?」
 ののみは真っ赤な顔で目をうるうるさせていた。もちろん、思いっ切り頷くつもりで息を吸った途端に、
「よお、速水」
 瀬戸口が口より早く速水の肩に手を回して来た。
「ののみも一緒か。じゃみんなで昼でも食うか?」
 むぅ、とののみがわずかに膨れる。
 声をかけるとすれば普通、親友より彼女の方が先であると思うのはののみだけなのか。
「いいよ」
 ぽややんがにっこり笑う。ののみは仕方なくと言った風情で頷く。3人は食堂兼調理場へ向かった。

 ののみは毎朝、それなりに頑張ってはいるのである。踏み台を使って台所に立ち、子供用の少し刃渡りの短い包丁を駆使してする料理も少しはサマになったとは思う。
 しかし、しかしだ。
 その苦労の末に作ったおべんとなのに、彼氏のたかちゃんときたら、よりにもよってあっちゃんとおかず交換なんてするのである。
 (かのじょのめのまえなのにぃ!)
 あっちゃんも好きだ。だから余計にめーなのである。
 いっそのこと、とののみは思う。話しかけるたびに、ぢょしこうせいやひとづまや幼稚園児に呼ばれていなくなる恋人よりは、あっちゃんの方がよほどセイジツなのではないかと最近思えて来たのだ。
 でもその辺を見越したのかどうかはいざ知らず、声をかけても隅々まで冒険されるばかりで「別れてくれ」提案を絶対渡そうとしないのもまたこのたかちゃんなのである。
 (いぢわるぅ…。)
 恨めしそうに、仲の良いあっちゃん・たかちゃんコンビを眺めながら、ののみはかわいいおべんとをつついていた。
 つつきながら、密かに決意をしたのである。

争奪戦

「めーなの!!」
 速水が午後の授業を受けようと教室に入った途端、ののみが叫ぶ。と同時に、明らかに事情が判らず頭が真っ白になっている速水を引きずって瀬戸口の前に連れ出した。
「……何だい、ののみ」
「あまいこえしてもだめなの!! えらぶの!!」
「え、選ぶう!?」素っ頓狂な声を上げたのは速水である。「え、選ぶって、何と何を??」
 瀬戸口は、彼にしては珍しく口をぽかぁんと開けた相当間抜けな顔でののみと速水を見比べていたが、いつもの少し照れた笑顔で、
「……僕が『愛してる』って言うのは君だけだよ、ののみ」
「でもぼうけんしたりみみにいきふきかけたりしたでしょ!!」
 ののみの小さな指先でビシィと指差されたその前で、明らかに後ろめたそうに2人がギクッとする。
 無言で、不自然にお互い目をそらす男2人。
 だらだら流れ出す冷や汗。
 ----弁解の余地なし。
 ののみの恥ずかしさは、何処かへふっ飛んだ!!
「ゆ〜る〜さ〜な〜い〜の〜〜〜〜〜〜っ!!」
「ののみさんッ、わたくしも心情的には理解出来ます!」
 いつの間に現れたのか、壬生屋が隣で「迷刀鬼しばき」を手に仁王立ちしている。ののみが手を差し出すと、力強く頷いて鬼しばきを彼女に手渡した。
 全身で刀を振り回すののみ。手加減とかコントロールとかいうものとは全く無縁のその動きは、逆にかなり恐ろしかった。
 とりあえず自分は痴話喧嘩に巻き込まれただけだったらしい、と速水は思うことにして、ぶん回っている刀と、絶叫しながら涙目で逃げ回っている瀬戸口から匍匐前進で離れる。
 ののみの鬼しばきが暴れ回り、教室のガラスが割れ、ドアにヒビが入り、机に溝が掘られる。
「うわぁぁぁぁぁっ! ののみ、止せ、マジで死ぬって!」
「めぇぇぇぇぇぇぇぇなのォォォォォォォォ!!!」
「わかったってばーっ! でも他の女とは何も……」
「おとこでもねこでもめーなものはめーなのォ!! つかうのののみだけだって言ったでしょォ!!」
「うぎゃぁぁぁぁっ! そんなこと大声で言うなぁぁぁっ!!」
 ……一方、何とか難を逃れた速水は、床に這いつくばったまま、息も絶え絶えに善行司令の足首を掴んだ。
「何ですかいきなり」
「さ、作戦会議……」
「……校舎の修理ですか……」
 こくんと頷く速水。
「……確かに。たとえ全員反対しても私の権限で可決させます」
 薄いプレハブの床を突き抜ける鬼しばきを見ながら、善行はため息とともに眼鏡を押し上げた。


その4

争奪戦

「………………」
 何だか判らないが、来須は相当怒っていた。
 整備員詰め所で、速水は壁際に追い詰められて身動きが取れなかった。
「………………」
 その隣で、もうひとつ、こちらは悲しそうに速水を見上げる顔があった。石津である。
「………………」
「………………」
「……あの」
「………………」
「………………」
「……僕、何か…した??」
「………………」
「………………」
「……したんだ、よね、多分……」
「………………」
「………………」
「でも、その……」
「………………」
「………………」
「……何だろ、僕、そういうの、どうも鈍いみたいで……」
「………………」
「………………」
「……えーと……」
「………………」
「………………」
「……隣の家に囲いが出来たってねぇ……へぇ……」
「………………」
「………………」
「……じ、冗談だってば……は、はははは……」
 ぽややん、と笑っているその顔に遭っても、2人の表情は変わらない。
 しばらく同じように「………………」な会話を繰り返した挙げ句、ようやく2人は口を開いた。
「………………殺す」
「………………呪うわ」
「ごごごごごごめんなさいごめんなさい許してもう一生しませんからっ!!!!」
 速水は必死に土下座した。今までで何だか一番怖いと思った。


その5

 最近、田辺は変だ、と速水は思っていた。
 家に帰る間際に、ものすごくお腹のすいた顔で、紅茶を差し出しながら、恐る恐る言うのである。
「あの……く、靴下と交換して下さいませんか?」
 靴下。
 この小隊にソックスハンターが暗躍している噂は聞いたことがあるが、まさか田辺がその一員であったとは信じがたかった。その顔がとても辛そうで、好きでやっているわけではないのかも知れないと思えることもあって。
 最初に速水が応じなかった時は、そのまま空腹で目を回して倒れられてしまったので、もう後味が悪くて断りづらくなってしまった。1日の途中で奪われては困るだろうと、1日の終わり際まで粘ってわざわざ待っているらしいのである。
 特に珍しいわけではない白の靴下。しかも1日履いていたヤツを数日に1度は奪われるのである。
 速水としては、実に不気味な日々であった。
 だいたいにして靴下だって降って沸くわけではなし、そろそろ困っていたのだ。給料の全てを靴下に注ぐわけにも行かず、意を決して田辺に理由を尋ねようとしたその時に。

争奪戦

「え、選んで下さいッ、遠坂さんッ!」
 校舎はずれで、珍しく怒った顔の田辺が、遠坂を引きずって速水の目前にやって来た。
「え、選ぶって、今度は、何と何を……」
 いい加減慣れて来た速水は少し冷静であった。
 遠坂は今にも倒れそうに絶望した顔で目を背けた。
 さらに畳み掛ける田辺。
「私と、速水さんの靴下と、どっちが大事なんです!?」
「----はあ!?」
 『慣れた』は撤回である。よりによって靴下だけ分離して巻き込まれた争奪戦なんて初めてであった。
 だがしかし。
「あなただったのですか、時々速水くんの靴下を私の机の中にこっそり入れていたのは!! 何故あなたがそんなことをしているのです! あなたには…あなたには関係のないことだ!」
 突然、背中に薔薇をしょってそうなロマンチックな声で遠坂が田辺の手を取った。
「でも、それは遠坂さんが望んでいることだと……イカスネクタイを買うお金のない私が、あなたの心を掴みたいならそうすれば確実だって……」
 目許を染めて俯く田辺。
「誰がそんなことを!」
「中村くんが……」
「やはり……!」
 さながら姫を守る騎士のごとくの凛々しいモード遠坂。
「ソックスバトラー……もう許さない、私は、私は真実の愛に生きるのだ!!」
 置いて行かれて弱っている速水の耳元で、カチッ、と小さな音がした。
 この音は。サブマシンガンの銃鉄。
「そういうことならソックスタイガー、あなたはこの場で捕まってもらうわよ」
 ずらりと並んだ尚敬高校の制服とサブマシンガン。速水は思わず声を上げる。
「し、親衛隊……!」
「そうよ私達速水親衛隊!」「そして風紀委員!」「さらにサブマシンガン部!」「厚志様の名のついたアイテムが!」「継続的に提供される間なら!」「何とか耐えて差し上げたけど!」「それを止めると言うのなら!」「もうあなたに用はない!」
 一斉に銃口が遠坂を向く。
「いや! やめて! 私がこれからも靴下を…、速水くんの靴下を差し上げ続ければいいのでしょう!」
 田辺が震えながら手を広げて、遠坂の前に立ちはだかった。
「ぼ、僕の意志は……」
 情けない声で呟いた速水の言うことなんて誰も聞いちゃいない。
「田辺さん、止めてくれ! あなたをもうこれ以上巻き込むわけには行かない!!」
 ひしっと後ろから田辺を抱きしめる遠坂。田辺は「あっ…」と小さく声を上げて、幸せそうに頬を赤くした。
 完全に薔薇背負ってる2人。
「……君たちが知りたいのは、Mr.Bの正体なんだろう、風紀委員」
 抱きしめたまま(実は田辺を盾にしてないか? と速水はちょっと思った)、サブマシンガン部風紀委員厚志様親衛隊に向かって、遠坂が言った。
「私はもうタイガーではない。……Mr.Bへの義理立てなど、もうしない!」
 遠坂が高らかに言った途端に、何処かでブラインドを閉じる音がした----ような気がした。
 いきなりウォードレス「武尊」をまとった人影が3ステップのロケットジャンプで突っ込んで来た。風紀委員の悲鳴が、バラ撒かれた手榴弾の音にかき消される。
「な、何でぇぇぇぇっ!!」
 速水の絶叫なんて誰も聞いちゃいない。
 慌てて全速力で離散する人々。立ちこめる硝煙の中、武尊の人影はうねうねと奇妙な動きで1人踊っていた。
「バット……」
 気絶した田辺を守るように抱えながら逃走し、咳き込みながらうめく遠坂。
「フフフ」
 またRJPで飛んで来た踊る武尊の人影が笑う。
「Mr.Bを裏切ったら、次は士翼号で踏み潰されます」
「………」
 やりかねないのである。
「あなたは速水くんの靴下でヤツらを抑えておけばいい…」
「し、しかし彼女を巻き込むのは止めろ」
 愛しそうに青の髪を撫でる遠坂。
「ではあなた自らやればいいだけのこと…」
 武尊の中の岩田は、含み笑いを続けながらそう言った。

 速水にとって、靴下を奪われる日々は終わらなかった。----もちろん、今度の奪い人は、ソックスタイガーこと遠坂。
 しばらく、また給料が靴下に消えてしまう日々が続いた。
 しかし、次にそれを断ったら士翼号で踏み潰されるという脅しが怖くて、もう速水は拒絶出来なくなっていた。
 ----そしてまた。

争奪戦

「私と、速水さんの靴下と、どっちが大事なんです!?」
 誤解だ田辺さん、といくら速水が泣きついても、田辺の怒りはなかなか収まらなかった----らしい。

=== END === / 2000.11.26 / textnerd / Thanks for All Readers!

textnerd@works内検索 by google

category list

other contents

contact textnerd