「哀しい歌なんかでもうけるな」
哀しい歌をうたって人は泣いている
もちろんそれだけなら、それは美しいのだろう。
でもね、それでもって、それをつかってもうけるなら、それはひどすぎる。
そりゃ、誰だって、悲しい時はあるし、そういう思い出もあるよ。
それで、そんな歌が流行ると、
だれだって、同感だなんて、だまされちゃんだ。
でもね、もっと大きな悲しみてのは、あるんだよ。
みんなが、そんな歌で自己満足している間に、
もっと悪い奴がもっと大きな悲しみを作ろうとねらってるんだ。
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だから哀しい歌なんかでもうけるな
だから哀しい歌なんかでもうけるな
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「世の中主役ばかりじゃないさ」
おい、そこの若い人、聞いてくれよ
あんたは人生に満足してるかい。
うん、してないか、それでツッパリをやってるのかい。
でもな、あんたのは格好だけなんだよな。
それじゃサーカスのピエロよりひどいぜ。
自分の主張がとおらないからって、ひがむことはないじゃないか。
なぜって、世の中主役ばかりじゃないんだぜ。
主役ばかりがむらがって、ゴチャゴチャしてたら、
結局、それは脇役になっちまんだぞ。
あんたが、そうやって、ツッパれば、ツッパるだけ、
あんたは利用されて、どんどん、脇役になっていっちまうんだ。
矢沢栄吉のまねしたって、もう二番目なんだぜ。
それで、もうけてるのは誰なんだ。ニヤリだろう。
やっとあんたもわかったかい。今からでも間にあうぜ。 (1981.5.5)
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「夕ぐれどき」
夕ぐれどきの安らぎは、生きてるって実感だな。
窓の外には病院の白い建物が、いつものように浮かんでいる。
空は、どんよりして五月というのに、
晴れてはいないのが、それで、また安心してしまう。
わずらわしい事ばかり考えている人生なんてきゅうくつなんだね。
何も考えず何も思わず、ただ感じているんだ。
何かを浮かび上がらせるように。
この五体を、ふるわせるんだ。
音だろうか。光だろうか。
みているようで、きいているようで、それでいて、何もしていない。
そう。こんな一瞬に、すべてがあるようだし、
反対に、すべては一瞬にすぎないみたいだし。
そう、これからも、こうやって生きていけたら、人生最高なんだな。
平和てのは、何もない事なんだろうね。
何もない事というのは、とても幸せなんだね。
それなのに、なぜ、そこへ、色々のものを入れたがるんだろう。
空の雲のように流れていく。
はかない生命なのに、どうして、急いで生きていくんだろう。
私一人ぐらい、ゆっくり生きていっても世の中どうということもないよね。
(1981.5.6)
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「大切なもの」
君はぼくにとって大切な人だから
手をつけずに心の中にしまっておこう
君ののぞむことは何でもかなえてやりたい
ぼくのことなんかどうなってもかまやしない
君はぼくのいのちだから、大切に守っていよう
手をつけずに思い出の中にしまっておこう
君がぼくのことを早くわすれてしまえば
それだけ、ぼくは君をわすれないだろう
二人の思いは一つしかないから、ぼくはそれを一人じめしたいんだ。
君への思いが化石となって永遠に心の中にうずもれていくんだ。
ぼくの心を発掘して、その化石を見つけて君は何を思うだろうか。
ぼくが先に向こう岸へいってしまったら、
そしたら、この書き付けをさがして、そして、誰がぼくの気持をわかってくれるだろうか。
反対車線で見つけた君は一時のすれちがいで走り去っていったのか
ぼくには君をUターンさせる権利はないんだ。
ただ止まっているだけなんだ。 (1982.1.31)
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「祭り」
街は祭りばやしではしゃいでいる。
その横を、私はむりをして歩いていく。
ただ映画を見たいから、祭りの見物もせずに急いでみせる。
心の中では、祭りに参加したがっているはずだけど、しかし、それは出来ない。
今日も休みだというのに午前中から働いて、
そして、ただ映画を見たいから祭りの横をとおりすぎてゆく。 (1982.8.22)
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「昔ばなし」
今、思うとおもわず笑ってしまうような事でも、
昔は随分大切な事だと考えていたような気がする。
それだけ、人間が成長したんだろうか、
それとも、それだけ大人になったんだろうか、
少年の頃の純粋はどこへいってしまったんだろうか。
昔の女に対する気持ちは、今もかわっていないと云えるだろうか。
今は思い出の中にしか住めない女なんて、本当に愛していたんだろうか。
必死で、消そうとした面影が、今も、部屋の中のスケッチの中で悩んでいる。
それをすてないのは、思い出のため?
未練のため?
そこまで大人にはなっていない、未熟のためだろう。
笑ってすませる事ばかりしか人生には起こらないんだろう。たぶん。
「生きる」
人はどうして生きているんだろうか
そんなことは、ひまじんの考えることかもしれないが、私はひまじんなんです。
考えるひまもなく生きている人はきっとおこりますよね。
私はひまだから考えているのではなく、考えているから、他の生活をしていないのです。
考えることが私の人生なんでしょう。
ただ、ものを食べて、ねて、子供をつくって、育てて老いて死んでいく。
それは動物、植物と大差ないんです。
人間なら違う人生があるはずです。
なぜ、人間に生まれて来たか、調べなければいけないんです。
うえて死んでも戦争で死んでも、それはそれでいいんです。
豚だって、人間に食われる為に死んでしまうんです。
米だって、野菜だって、なんだって、人間は、生き物を殺して生きているんです。
戦争を反対する人々は、うえて死ぬだけです。そういう人々はきまって嘘つきです。
なぜ、子孫をのこさなければいけないのでしょうか? わかりません。
なぜ、生きなければいけないのでしょうか? わかりません。
なぜ、存在しているのでしょうか? わかりません。
すべて、何もわからないのです。
世の中のすべての博士達は、何を研究しているのでしょうか?
今日も、反戦、平和を口にする人々が、
牛や豚や魚や米や小麦や野菜を殺して、平気で、デモ行進していきます。
なんとおぞましい事でしょう。 (1984.7.8)
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「風が吹いている」
風が吹いている
夏も終わり、風は涼しい
空に入道雲はもうない
あの熱い空気はどこへいったのだろうか
風が吹いている
カセットテープからは秋の歌が聞こえてくる
季節の変わり目に想うことはいつもきまっている
夏休みも取らず働きづめて、人生の大切なものを見失ってしまった自分がそこにある
都合の悪いことはみんな他人のせいにしている自分がそこにある
風が吹いている
愛することを忘れてからもうずいぶんとたつ
愛されていることにも気付かずにきたのかもしれない
臆病な自分がそこにある
たった一度の過ちに傷ついて自分に逃げ込んでしまった
風が吹いてる
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「仮の街」
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君の上を飛びさるのは、成田へ向かう便、それとも羽田行き。
市役所通りを港へ向かうバス、人影もまばらだね。
僕らは歩いて行こう。むこうにポートタワーが見えてきた。
石油タンクの群れのむこう、幕張のビル街が、かすんで見えるね。
メッセで何かやってるかな。
人口海浜にサァーフボード、色とりどりに散らばって。
曇っているので、横浜も東京も見えないね。
街へ戻るバスから何か見える?京成駅を過ぎたら、にぎやかだろう。
パルコの裏で降りようよ。
セントラルパークの噴水、今日は吹いてない。
映画でも見ようかなんて誘える気分じゃないね。
君は後悔していないかい。
僕が移り住んだところだから、こんな街でも、尋ねてくれたんだね。
何もないほうがいいときもあるんだ。
偽物の街、作り物の街、そう仮の街。
どこにもあるようで、どこにでもない街。
君は後悔しているかい。
僕が移りすんだところだから、こんな街でも、尋ねてくれたんだね。
すねてないで、僕のアパートへおいでよ。
途中のコンビニでコーラでも買って帰ろうよ。 (1990/09/03)
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