バインディングを考える

 ハードブーツ用のバインディングも最近はいろんなタイプがありますね。オーソドックスなトゥクリップタイプからブーツの底をがっちりおさえるBURTONのフィジクスまで。私は3年ほど前からINTECシステム(ステップイン)を愛用しています。故障もないし気に入って使っています。昔に比べると各社とも信頼性が向上しているようですが、誤解放があったり、破損したりっていうのを聞いたことがあります。そこで技術屋の目から見たバインディングに関する注目点などを書こうと思います。

5年ほど前,私の仲間が滑走中突然転倒し滑落しました。怪我はありませんでした。起きあがってリスタートしようとしたところ、後ろ足のバインディングのかかと側半分が欠損しているじゃぁありませんか!!斜面を見上げると、ベースプレート半分とヒールピースが転がっていました。彼のその日の滑りはThe ENDになってしまいました。山を下りて地元のボードショップへ駆け込んでベースプレートを見せるととんでもない答えが返ってきました。”あぁ、これね。良くあるらしくて、対策品があるよ”と言ってベースプレートを2枚!!もタダでくれました。このSHOPの対応はとても良くしてくれて助かりましたが、メーカーはとんでもないね。USER登録してるんだから壊れる可能性があるんだったら送ってよこせっていうの!!!怪我がなかったからいいものの怪我してたらPL法で訴えるぞ!この後数年このメーカー(名前は出しませんが)のモノは購入しませんでした。

上記の例ではベースプレートが突然割れてしまったのですが、私らの目で見ると割れたところはまさに一番力が掛かるであろう部分でした。軽量化の為の肉抜き部分が割れたのですが、対策品はその部位に肉が張ってありました。その次の年のモデルからはそのメーカーのが割れたという話は聞いたことがないので対策は間違っていなかったのでしょう。

ベースプレートに関していえば、各社各様の材質、設計になっています。ジュラルミンのベースプレートに樹脂を成形してコンポジットしているもの、樹脂のみ、チタンプレート、はたまたカーボンファイバーによるものもあります。で最近のプレートはしなやかさを重点に作りこんでいるようでかなり変形するようです。プレート自身の信頼性という目でみるとかなり厳しい使用環境にあるといえるでしょう。ベースプレート割れた事件以来、樹脂のベースプレートは穴が開くほど観察してから購入するようにしています。

ベースプレートに関してはこんな話もあります。これも仲間の話ですが、某社のジュラルミンベースなんですが、滑っていて”どうも前足に外カントが入っている気がする”といって外してみたところ、何故か前足側だけかかと内側が持ち上がって変形したままになるという不具合がありました。当初、無茶して転倒した衝撃で曲がったのかと思いましたが、同じベースプレートの新品を持ってきても同じ症状がでてしまいました。(私が同じバインディングを持ってて未使用だったから)結局彼はチタンのベースプレートのモノを購入しました。1,2年使って、何となくねじれているなというなら納得が行きますが(実際そうなりますしね)たかが数回使っただけでこれではどんな強度保証をしたのか疑問になります。

バインディングで壊れやすいところといえば、ブーツを固定するクリップ部分のワイヤーですね。ステンレスがほとんどなんですけど、結構折れたという話を良く聞きます。ガタのないように結構締めて使うのでブーツを装着した時点でかなりの引っ張り応力が発生しています。その状態で滑るわけですからさらに大きな応力が発生する。滑れば雪面からの振動による荷重、乗っている本人の荷重でかなりの繰り返し荷重がかかります。この荷重下で金属の疲労限応力(*1)を超える応力が発生しているとすれば遅かれ早かれワイヤーは切れることになります。ちょっと乱暴な例えですが、針金を何回も曲げると切れちゃうでしょ?それと同じことが長い時間をかけて起こっているのです。バインディングのワイヤーはある程度使ったら交換したほうがイイでしょう。
*1:疲労限応力
金属が金属疲労という現象を起こさない応力の大きさ。これを超えない状態で使用すると無限寿命になります。

最近流行りのステップインシステムですが、便利なのはいいんですが、構造が少し複雑になり、部品点数が増えています。部品点数が増えるということは、壊れる可能性のある部品も増えるということで気をつけなければいけません。
私が使っているのはプロフレックスが考案したINTECシステムですが、気になる点がいくつかありますので紹介しましょう。


1.リリース用のワイヤー
バインディングを開放するのにワイヤーを引っ張ると、ブーツのヒールピースから突き出ているピンを引っ込めます。ワイヤーを引っ張る度に応力が発生し、繰り返しで疲労します。金属疲労を起こして切れるわけですね。ワイヤーの取り付け部に関して少し??が付く設計ではあるのですが...ここではややこしくなるので書きません。

2.ヒールピースから出ている固定用のピン
バインディングとブーツを固定するピンがあります。INTECの中では心臓部と言える部品です。これが滑走中に折れたりすると大変危険です。ピン自身の強度という面では全く問題ないと思います。心配なのはヒールピースとこのピンが固定ではなく、可動することです。ピンは鋼に焼き入れがしてあるので、大変硬く、摩耗しにくいのですが、ヒールピースのピン穴は樹脂であるため当然ピンよりも柔らかい。硬いモノと柔らかいものでケンカさせれば柔らかい方が、摩耗したりヘタッテしまったりするわけです。そうすると、穴とピンのガタが大きくなるわけです。一度ガタが大きくなるとその後の進行が速くなりガバガバ>ブーツのガタが増える>ガバガバ度が上がる>壊れるという悪循環にはまります。

3.ピンとバインディング側の穴
ピンでブーツ(というか滑走中の荷重)を支えるということは穴がなければ支えられませんね。バインディング側に設けられている穴がそれです。支え方としては電車の車輪とレールに置き換えるとわかりやすいでしょう。ピンが車輪、穴がレールとなります。円と線が接触して支えているので点で接触していることになりますね。(3次元的にみれば線ですが)設計屋の目で見ると結構厳しい条件ではないかと思われます。バックサイドでは体重と雪面からの抵抗を4点で支えているのですから。この場合、先程と同様ピンよりも柔らかいバインディング側の穴が摩耗してガタが増えていきます。ガタが増えると2番と同じように進行しやすくなります。

実際に私が2シーズン使ったINTECの穴はかなりヘタッテまして装着したときにガタを感じるほどになっています。

INTECはこのくらいかな?ただし、きちんとブーツサイズとバインディングの長さ調整をしたうえでというのが前提となっています。長さ調整がきちんとされていないとガタがある状態になりますので、自分で故障の原因を作っているようなものですから。 長さ調整に関していえば、INTECに限らず、ステップインは従来のクリップ式に比べてシビアなようです。ガタ勝手では誤解放や破損がおきやすく、ギチギチにしてしまうと入らない、開放出来ないなどの問題が出てきます。(クリップ式の場合はギチギチに設定してもクリップ、ワイヤーの変形で吸収しています)

長さ調整でかなりシビアなバインディングがあります。MPDのブーツ改造不要のステップインです(商品名は忘れましたが)構造としてはブーツのかかとで踏んづけると出っ張りが引っ込んで、ブーツの引っかかり部分が通り過ぎるとバネの力で出てきて固定するというもの。機構的にはスキーのバインディングに似ています。他のステップインにと比べると、ブーツの長さ調整のバラツキに対し、ステップインのしやすさ、誤解放の起こりにくさが敏感になっていると思います。
INTECと比べると(別にINTECの回し者ではないですよ)

INTEC
 長さ方向と固定する方向が全く違う...長さ調節が多少狂っても誤解放しにくい
 固定ピンは長さ調節方向(ブーツの前後方向)に対し、垂直ですね

MPD
 長さ調節方向と固定方向が一緒...ガタ勝手に調節すると誤解放しやすい
 調整をきちんとチェックしておかないとブーツの引っかかり代が少なくなります。
 おまけに荷重が掛かればバインディングは変形しますからその分も考慮に入ります

そういえばSnowproのステップインも長さ調整がシビアみたいですね。これはギチギチにセッティングしてしまうと誤解放しやすいようです。誤解放なんて車に乗っていて突然タイヤが外れてしまうようなもんで非常に危険です。ステップインでもそうでなくても起こってはいけないものだと思います。メーカーさんには誤解放がおきないような構造を考案してもらうにしても我々ユーザー側も日頃のチェックを忘れないようにしましょう。

 いままではバインディングの信頼性について書きましたが、ここからはバインディングの剛性という面で見てみましょう。

最近のトレンドを見てみると、ここ数年、ハードブーツとバインディングは板の高剛性化、ハイスピード化に合わせて剛性が大きくなってます。おまけにステップインの登場でブーツとバインディングのガタもなくなりよりダイレクトな操作感になってきています。

私自身INTECシステムを初めて使ったとき、それまでのトゥクリップ式のモノに対してあまりにも違う感触に感動した記憶があります。なんと言ってもガタがないというのと、ブーツかかと部の横に板が立っているので横方向の剛性がメチャメチャ大きくなっています。身体の動きに対して敏感になったのを感じるとともに反応が速くてビックリしてしまいました。こんな下手くそな私がそう思ったのですから、レーサー達はもっと敏感に感じたことでしょう。

身体の動きに敏感ということは、思い通りに動けた場合は板がタイムラグなしに動いてくれるということなのですが、思い通りに動けなかった(ミスをした)場合、板がとんでもない動きをするということです。
それから、INTECやBURTONのフィジクスの場合、ブーツ横方向のガタがほとんどなくガチガチに堅いため、後ろ膝を絞り込むといった動きは出来ません。自分にあったカントリフト調整が必要になるでしょう。
ただ、カントリフトの調整にハマルとなかなか抜け出せないでセッティングが決まらないなんてこともありますが...(私もそうでしたから。)

私の経験上、ガチガチのステップインの場合、ルーズさが無くなるので、それまでよりもスタンスが広くなったのと同じ感覚になりますね。(といいつつ、私は今でも拡がっていますが)利点もないわけではなくて、特にバックサイドでは、後ろ脚を絞り込むイメージでブーツの横内側に荷重することで後半走らせられます。

もう少し、ルーズでもいいのではないか??という考えもありますね。少しルーズさがあった方がリカバリーはしやすくなります。(動ける幅が増えるのですから当然ですね)これだと、カントリフト量の調整も少しルーズ目でいいと思います。私自身について言えばINTECに慣れきっているため、普通のワイヤー式のバインディングではちょっとルーズ過ぎる気がしてしまいます。

そうそう、最近INTECのようなガチガチのバインディングの下にラバーを敷いて、少しルーズにしている人が結構いるようです。でも、なんかこれってバインディングの性能を殺している気がしないでもないですね。まぁ、これも個人の好みの問題ですが...

剛性バランスについては板、ブーツも含めて考えないといけないし、個人の体力等とのつりあいもあるのでバインディングで調節するしかないところではあるんですけど。 メーカーさんにはメチャメチャしなやかで綺麗に変形するバインディングを考えてもらわないといけませんね。(今は純正でラバーついてたり、材質変えたり...)

最後に私のバインディング選びの基準を書いておきます。
1.ベースプレートがしっかりしていること。(個人的には金属がいい)
2.構成部品が最小限であること(壊れる可能性が小さくなるから)
3.長さ調節は無段階で出来るのが良い
4.剛性は大きめのもの

この辺で今回は終わりです。バインディングに関してはぱっと見て頑丈そうだな?と思うのであればほぼ問題ないと思いますよ!

KEEP FUN RIDE!!

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