スパイラル-I'm not in love.- カット : しちみ唐子/小説
: 乙姫静香
Scene 5-2
会社に入ってからも、全く変化のない人生だった。
熱の無い人間関係。しかも、どこから仕入れた情報なのか、貴明が社長の息子であることが分かると、わずかにあった熱も益々引いていった。影では、貴明のことを親の七光りのなんのと言うものもいたが、貴明の充分な働きっぷりに、自ずとその口を閉ざしていった。
当然、社長夫人の座を狙おうと考える女性社員もいなかったわけではない。しかし、ノリや酔狂で近づくには、貴明はあまりにも・・・クール過ぎた。
恋人がいなかったわけではない。ちなみに、最初の相手は中学のときの家庭教師で、しかも男だった。愛とか恋とか、そういう心が動くよりも先に、年齢相応の興味で入り込んだ世界。よっぽど酷い人間でなければ、相手は誰でも良かった。
高校に上がって寮に入ってからも、イロイロ相手はいたものの、貴明にとっては「恋愛」というよりも、「攻略」に近かった。相手の喜ぶ言葉や動作を考えて、実践しては納得した。相手が貴明にのめり込めば込むほど、「なるほど」と納得したが、反比例するように、胸のどこかは冷めていった。
だから、会社に入ってしばらくしてからのある日、昼休みの電話で「もう、会えない」と当時の恋人に電話で言われた時も、「わかった」の一言で電話を切ったし、なんの未練も感じなかった。
付き合ってくれと言い出したのは、向こうの方だった。別に断る理由も無いので、付き合った。しかし、一度として貴明は、相手を自分のマンションに入れなかった。それは過去の交際の中で、一度の例外も無い。ただ、なんとなく気が向かなかったのだ。
携帯電話を切った後、貴明は会社の前のベンチに座り、携帯に入ってる相手の電話番号をさっさと消去する。無駄なものは、すぐに片付けるのが癖だった。そう、それは忘れもしない6月のこと。
「っくしょん!」
携帯をいじる貴明の耳に届く、小さなくしゃみ。と同時に、弟から届くメール。顔をあげかけた貴明は、そのままメールの返信を打ち出す。するとその時、スーツ姿の貴明にとっても少し肌寒い風が吹いた。
「っくしょんっ!」
さっきより、幾分大きめのくしゃみ。メールを打つ手を止めて顔を上げると、そこには新しく建ったばかりのビルの壁の前に、ペンキの缶を運んでいる男の姿があった。
壁の前には、すでに足場が組まれている。目を疑うが、タタミ何畳分かもわからないこの広いスペースに、一人で絵を描こうというのだろうか?貴明は思わずポカンと、一生懸命ペンキを運ぶ彼の姿を眺めていた。
まだ肌寒い季節だというのにTシャツ姿。ちょっと長めの髪にタオルを巻いている。意志の強そうなハッキリとした顔に、何を食べてそうなったのか、肉体労働者とは思えない細い身体。そして、やはり寒いのだろう。時折、身体を温めるためにか、飛んだり跳ねたりしている。よく見ると、Tシャツと穿いているパンツには、穴が開いていた。
どうしてだか、目が離せない。
貴明はそうやって、昼休み中、少し離れた所から、彼のことを見続けていた。
Spiral - I'm not in love. -
亨もまた、交際のきっかけは相手からの告白だった。
最初の彼女は中学の時だったろうか。笑顔の可愛い、おとなしい女の子だった。
高校で付き合った子もおとなしめの子で、だから余計に亨は無口になった。どちらかというと、女の子は苦手で、妹以外を相手にすると、何を話していいのか分からなくなる。
「お兄ちゃんはカッコイイんだから、もうちょっとモテる努力をすればいいのに」
と、未だに妹には言われる。しかし、好きになる子も居なかったし、女には金がかかるとも思っていた。
そんな亨が男との経験を持ったのは専門学校時代。酒で酔った勢いもあったが、亨のことをずっと好きだった友達に、一度でいいからと迫られたのもある。あまりの真剣さに、拒めなくなったのだ。
景気付けにバンバン飲んで、なにがどうしたのかも、よく覚えていない。朝になって、部屋の中に残された痕跡から、自分が相手を抱いたのだろうということは、思い出せたが・・・。
気持ち悪いとか、そういうことはなかった。逆に、受け入れてしまっている自分に驚いたくらいだ。だから、ウリをしようと思ったときも、簡単にできると思ってしまったのかもしれない。
そして、今では身をもって「簡単になんかできやしない」ことを知っている。
ただ、どうして貴明ならできるのか・・・については、まだ分かっていなかったが・・・。
あの日あの時、あんなにイヤで逃げ出した状況がまた巡ってきた時に、嫌悪感は感じなかったのだ。
Spiral - I'm not in love. -
「男とは・・・したことあるのか?」
貴明は、ベッドの頭を背にして座る亨を、静かに見下ろした。
二人とも色違いのバスローブ姿。亨の身体のあちこちには、怪我の治療の跡がある。口唇の端にも、絆創膏が貼られていた。
「そんなの・・・ある・・・に、決まってるだろ」
貴明を見ないままに、亨が呟く。吐き捨てるようなその言い方が、見くびるなと虚勢を張っているようにも見えた。
「本当に、いいんだな・・・?」
ベッドの上に伸びた亨の脚を割りながら、貴明が確認する。貴明の脚と自分の脚が触れ合った瞬間に、亨はビクリと腰を引いた。
「しつこいな。何度も言わせんなよ。いい・・・って言ってるだろ」
口ではいいと言いながらも、表情はまだまだ固い。貴明が亨の腿に手を置くと、亨がキュッと口唇を噛んだ。
「じゃあ・・・遠慮はしないよ」
手加減すると言えば、亨は反発するに違いないと、貴明は思う。だから敢えてそう言った。亨は、声は出さずに小さく肯く。それを合図のように、貴明が膝立ちになって亨の肩に手を置いた。
近づいてくる貴明の顔に、亨がきつく目を閉じる。思いのほか熱い口唇は、軽く触れた後でさらに強く押し付けられた。そして、口唇よりもさらに熱い舌が、顔の角度を変えた瞬間に入り込んでくる。
腰に響くくちづけ。貴明の舌は亨の口中を蠢き、亨が今までに感じたこともないような感覚を伝える。亨は始めて、口の中にも性感帯があることを、身をもって知った。
「・・・っ・・・ん・・・」
いつまでも離れない口唇。そして、キスしているだけなのに、ビクリと跳ねる身体。気がつくと、亨は貴明の背中に腕を回し、しがみつくように抱きついていた。
嫌悪感はないものの、今になって沸き起こる羞恥心。それは当然、男にキスされて感じている自分に対してのものだ。男に身体を売ることなんて、口唇を噛んでガマンしてれば勝手に通り過ぎることと思っていただけに、自分の想像を超えて自分を酔わせる快感が、信じられなかった。
貴明は、口唇を離さないまま、時折薄目を開けて亨の表情を見ている。初めは苦しげだった亨の顔にほのかに朱が走るのを見ると、貴明の手が、亨のバスローブの裾を割って中に忍び込んだ。
大きな手で、内股をゆっくりと撫で上げる。亨は驚いたように脚を震わせたが、抵抗する気配はない。キスの途中で音を上げると思っていただけに、その様は痛々しくもあった。
まだ我慢するつもりかな・・・と、貴明は思う。最初は、自分との経験を元に、ウリをする気なんか無くなってくれればいいと思った。そのために、ワザと強引なやり方をしようかとも。しかし、必死に耐えている亨の姿を見ているうちに、そんな気持ちは薄れていった。
ここまで耐えるということは、それだけの覚悟があるということ。自分が買わなければ、他の男を探すに違いない。それならいっそ・・・。
内股を撫でていた手を離して、擦り傷の残る胸に滑り込ませる。胸の敏感な場所に触れると、舌を絡め取られたままの亨の口唇の端から、唾液の筋が顎へと伝った。
「・・・っ・・・」
亨の右手は、関節が白くなるほどきつく、貴明のバスローブを掴んでいる。貴明はそこでようやく口唇を離すと、亨の流した唾液の筋を拭うように、顎から首筋へと舌を這わせていった。
その間にも貴明の手は亨の胸の突起をいじり続ける。指の間に挟んで擦ると、震えながら亨が顔を背けた。貴明の反対側の手が、ゆっくりと亨のバスローブの腰紐を緩めていく。
細身ながらも、しっかりとした筋肉に覆われた亨の身体。貴明は亨の身体を完全に自分の下に横たえると、亨の腰紐を解いてバスローブの前をはだけた。
「いい・・・眺めだな・・・」
意地悪のつもりはなかった。貴明は本当にそう思ったのだ。均整のとれた、どんな服でも着こなせそうな欠点の無い身体。しかし亨は、自分を組み敷いた者の余裕の言葉と取ったのか、顔を背けたまま頬をカッと赤くした。
貴明は、亨の身体を余すところなく眺めていく。鎖骨の浮かぶ肩のライン、腹筋の影が見える腰周り、細くしまった足首。そして、まだ一度も触れていないにもかかわらず、すでに勃ち上がりかけているそれを見ると、表情を変えぬままに、身体を屈めて亨の胸に舌を這わせた。
さっきは指で弄ばれた場所を、舌先でいじられる。痛いような痒いような甘い疼きに、亨の息が少し荒くなる。それを屈辱と思うのか、それとも知らない感覚にとまどっているのか、亨の目元にかすかに滲む涙。目をぎゅっと閉じることで零れないようにそれをやり過ごし、感覚に耐えようと、亨の手がベッドの端を掴んだ。
「痛いか・・・?」
舌先で執拗に赤い胸の突起を刺激しながら、貴明が呟く。亨は首を細かく横に振ると、再び口唇を噛んで顔を背けた。
「そんな・・・・ガキ・・・じゃあるまいし・・・っ・・・」
反応を見る限り、とても経験豊富とは思えない。しかし、そうは思われたくないようだ。貴明は触られ慣れていない亨の身体を撫でながら、今まで故意に触れなかった部分へと手を伸ばした。
貴明の手が亨の股間に触れて、亨がビクッと身体を震わせる。目を閉じたままの亨の眉が、切なく寄せられた。
貴明はそんな亨の表情を眺めながら、ゆっくりと手を上下に動かし始める。驚くほど素直に、亨のそれは反応を示した。
「・・・っ・・・・う・・・」
久しぶりなのか、それとも貴明の愛撫が的確なのか、すぐにも亨のそれは固さを増していく。思った通りの反応は、貴明の胸にひとつの疑惑の種を蒔いた。
今にも先走りを零しそうな亨のそれを、貴明の口唇がゆっくりと包み込んでいく。その瞬間、亨が驚いたように顔を上げた。
「な・・・なにしてっ・・・!?」
「なんだ?初めてじゃないんだろう?このくらい・・・当たり前じゃないか・・・」
貴明は上目遣いで亨を見、目を潤ませながら戸惑いの表情で自分を見下ろしてくる亨に見えるように、亨のそれに舌を絡ませる。亨は、自分のものを舐めあげていく貴明の舌の動きに視線を奪われながらも、下半身から駆け上ってくる快感と羞恥心に、思わず目をつぶった。
「あ・・・っ・・・」
腰を震わせる、甘い刺激。知らずに漏れた声は、自分の耳には、まるで別人のもののように届いた。
「・・・っ・・・は・・・」
「感じやすいんだな・・・」
貴明が舌を動かすたびに、ヒクヒクと反応する亨の身体。舌先でそれの先をなぶると同時に、指先で根元を刺激していく。亨は荒い息を繰り返しながら、どうにか顔を隠そうと、両腕を顔の上で交差させた。
貴明は、それを目の端で追いながら、執拗に亨のそれに舌を絡ませる。すっぽりと口に含んで根元から舐めあげると、亨の身体が切なく跳ねた。
「ん・・・っ・・・は・・・」
荒い息が、喉を震わせて、時折甘い喘ぎに変わる。目を潤ませながらも、声を殺そうとする亨の姿に、貴明は胸が締め付けられる想いがした。
「辛かったら、我慢しなくていいんだぞ・・・」
限界まで張り詰めた亨のそれを含みながら、貴明が低い声で呟く。亨は子どもの強がりのように首を横に振ると、腕に絡んでいたバスローブに顔を埋めた。
こんな風に男の口でイきそうになるなんて、思ってもみなかった。しかも、貴明の触り方は、さっきのオヤジと違って優しすぎる。さっさとやって、貴明だけが勝手にイってくれればいいのに、そういうわけにも行かない。
身体を売るのに、快楽を得るはずなんかないと思っていただけに、この意外な展開に亨はとまどいを隠せなかった。
「でも・・・このままじゃ・・・辛いだろ・・・?」
先走りを零しながら天を仰ぐ亨のものを、手で擦り上げながら貴明が呟く。亨はもう答えることも出来ずに、ただ漏れそうになる甘い声をこらえていた。
貴明は必死に堪えている亨を見て、胸が痛むと同時に、自分の中で眠っている抑えようもない気持ちにも気付く。しかし、あえてそれにフタをして、貴明は冷静を装う。キッチンから持ってきたオリーブオイルを取り出すと、手の平に伸ばしながら、亨が冷たく感じないように温めた。
「な・・・に?」
突然止まった愛撫に、亨がうっすらと目を開けて貴明を見る。貴明は手でオイルを揉みながら、相変わらずの冷静な表情で言った。
「本当に・・・先を続けていいのか?」
貴明の質問に、亨は紅潮した頬のまま、初めて少しとまどいの色を見せる。それでも眉を寄せ、最初のままの挑むような瞳を見せると、口唇を震わせながら力強く肯いた。
「さっさと・・・しろよ・・・・っ」
ここまで言われては、貴明も引いてはいられない。亨が声を殺せないほどに、イカせてみたいし鳴かせてもみたい・・・と思った。
「俺も・・・口でしてやろうか・・・?」
大きく息を吐きながら亨が貴明を見る。貴明は口端を上げて鼻で笑いながら、亨の強がりをすぐに見抜いた。
「無理はしなくていい。強引に、するつもりはないから」
そして、言うが早いか、人肌になったオイルにまみれた手で、立ち上がった亨のそれに再び触れる。すべりのよいヌルヌルとした感触に、亨が思わず背を反らした。
「んあっ・・・・・・っ・・・」
不意打ちとはいえ、今まで以上に濃厚な刺激に、堪えようも無く漏れる声。そのまま貴明が幾度も根元を擦ると、亨が息すら出来ずに喉を奮わせた。
貴明は足を突っ張って耐える亨を見ながら、擦り上げているものの先に舌を這わせる。もう完全に限界まで近づいた亨は、口を閉じることも叶わずに、短い呼吸を繰り返した。
「っ・・・あっ・・・・・・も・・・」
もうやめてくれと言いそうになり、亨の目に再び滲む涙。人前で、なんでこんな・・・と何度も思う。しかし、もうこれ以上の我慢は出来ないと悟った瞬間に、堪えていた涙の堰が切れた。
「あっ・・・ああっ・・・・っ・・・」
強くなる脈動に、貴明が亨のそれから口を離す。亨の放ったモノを手で受け止めながら、顔を隠し低い声で泣きはじめた亨を、貴明は視界の端で見ていた。瞬間、亨を抱きしめたい衝動に駆られる。けれど、その手が振り払われるであろうことは、容易に想像ができた。
だからあえて、声をかけることもしなかった。亨がそれを望んでないことはよく分かる。あくまでも亨は、自分のことを通りすがりの一人にしたい筈だ。誰でもよかっただろうし、心を通い合わせるために、自分で選んだ相手なんかではないと、思いたいのだ。なら、亨の望む自分でいてあげた方が亨は苦しまないのだろうと、貴明は思った。
貴明は激しく胸を上下させる亨の身体をうつぶせにすると、声を殺して泣く亨の膝を立たせる。亨は言わないが、きっと下になるのは初めてなのではないか?亨への気遣いが、自然と貴明を冷静にした。
オイルにまみれた手で、今度は後ろから亨のそれを握り締める。と同時に、もう一方の手で、亨の後ろの固く閉ざされた部分をそっと撫でた。
息を止めて、背を引きつらせる亨。貴明は乾いた口唇を赤い舌で湿らせると、亨の身体を上から眺めるように膝立ちになって亨の背後に回った。そのまま、指を一本、亨の中に忍び込ませていく。

「んっ・・・・・う・・・」
少し入った時点で、貴明の指をきつく締め付ける亨。すると貴明は、背中から亨を抱くように、耳元に口を寄せ、優しく囁いた。
「辛いか?」
それにも、亨は首をただ横に振る。辛くない筈なんかないのにと貴明は思いながら、それでも指をさらに奥深くへと進ませていった。
亨の背中に口付けながら、ゆっくりと指を動かす。まだまだきつく締め付ける亨に、貴明は力を抜かせようと、前のそれへも手を回した。
後ろへの刺激を、前への愛撫で緩和する。一度イったせいか、さっきまでの頑なさは少しなりを潜め、亨の息も徐々に甘く変わっていった。
「あっ・・・・ん・・・・・う・・・」
断続的に声をあげる亨。貴明はその横顔を眺めながら、なんとも不思議な感覚に陥る。これがあの、会社の前で看板を書いていた彼なのだ。あんな風に眺め続けた彼が、今自分の腕の中で切ない声をあげるなど、ありえないと思っていた。溶け始めた身体は、貴明の指を飲み込み、指を増やす度に、きゅっと心地よい締め付けを指に伝える。貴明は亨の中で指を動かすと、あるポイントを探して、内壁を軽く擦った。
「っ・・・ん・・・・っああっ・・・」
ある場所に触れたところで、貴明の手の中にある亨のそれがピクンと跳ねる。貴明は探していた場所を見つけた確信を持つと、執拗にその場所を指先で攻めた。
「なっ・・・・あ・・あっ・・・」
シーツを握り締める亨の手に力が入る。と同時に、たまりかねたように亨が言った。
「何で・・っ・・・俺ばっか・・・・っ・・・」
どうしてこんな一方的なやり方をするんだろうと、亨は思っていた。
「さっさとアンタも・・・」
しかし、言いながら背後に伸ばした手が貴明の勃ちあがったそれに触れた時、亨の目が見開かれた。
「ちょ・・・っ、これ・・・・」
亨の手に伝えられる、自分が一人でするときの感触とは明らかに違う量感。恐る恐る振り返り、そして今度は視線が固まった。
「本当に、もう、大丈夫か・・・?」
入れられた指が、クチュクチュと音を立てて自分の中をかき回している。しかし、そんな指とは比べ物にならないほどのモノを目の当たりにし、亨は声を無くしていた。
その時初めて、亨はなんで貴明がこんなに時間をかけるのかが分かったような気がした。貴明が、自分のことを気遣ってくれているのだということも・・・。
背中越しに投げた視線を、静かに前に戻す。あんなモン入るかよ!と亨は心の中で叫んだ。
本当はそこまで激しい大きさでも無い。しかし、亨の中の何かが、必要以上に貴明の存在を大きく見せていた。
「い・・・いいから、さっさとしろよ・・・っ・・・」
亨が投げやりに呟くと、貴明は入れていた指を抜いて言った。
「じゃあ、こっちを向いてくれ」
貴明に言われるままに、亨は顔をあげノロノロと貴明に向きあう。ベッドに座った貴明が両手で亨の身体を掴み、自分の身体の上へと促した。
「自分のペースでいいから、ゆっくりと身体を下ろしてくれ。辛い時は、無理しなくてもいいから」
もしもさっきのオヤジにこんなセリフを吐かれていたら、ふざけんなと亨は鼻で笑ったであろう。しかし、何故だか貴明の言葉は、素直に受け取ることが出来た。
貴明の腰にまたがり、見下ろした貴明と目が合う。思わず顔を背けたから、その後に貴明が見せた目を、亨は見なかった。もしもその目を見ていたなら、何かが変わっていたかもしれないのに。
後ろに、ゴムを付けた貴明のそれをあてがわれ、不安を感じながらも腰を下ろし始める。クプっと先を飲み込み始めた時から、身体を押し上げるような圧迫感に、亨が喉を反らせた。
貴明の肩に手を置き、ゆっくりと腰を下ろしていく。その間にも貴明の手は亨の前で切なく震えるそれを擦り上げ、亨の息をさらに荒くする。自分の中を割って入ってくる、貴明の熱い身体。キュッと締めるたびに存在感を増す貴明を感じながら、亨は貴明の上に腰を下ろしきった。
「大丈夫・・・か?」
少し乱れる貴明の呼吸。それが自分の締め付けによることだということが、亨を少し安心させる。昂ぶっているのは貴明も同じ。そのことが、少しだけ屈辱感を忘れさせた。
「別に・・・好きに動けばいいだろ・・・っ。それとも、俺に・・・動いて欲しいのかよ・・・」
本当は、今動かれたらキツイ。しかし、そんな子供みたいなことを言うのは、亨のプライドに反していた。
「しかし・・・」
亨の身体を抱き寄せ、繋がったままベッドに横たえる。ピッチリと隙間なく締め付ける亨に、貴明はできるだけゆっくりと動き出した。
「あっ・・・」
いっぱいいっぱいながらも、オイルの所為で滑りは良くなっている。貴明が身体を引くたびに、今までに感じたことのない快感と鈍い痛みに襲われ、亨は知らず声をあげ続けていた。
「うっ・・・ん・・・・あっ・・・・」
痛いだけだと思っていたのに、何故だか亨の前で勃ちあがっているそれからは、とめどなく先走りが滴り落ちてくる。貴明が亨の身体を突き上げる度に、亨の口から漏れる切ない喘ぎ。
「痛い・・・か・・・っ・・・・?」
口唇を重ねられ、熱い貴明の吐息が頬をなでる。軋むベッドの上で首を横に振り薄目を開けると、オレンジ色のライトに照らされた貴明の首を汗の筋が伝っていくのが見えた。
「ああっ・・・・あ・・んっ・・・・は・・・」
亨のものをいじりながら幾度も突き上げてくる貴明。ゾクゾクと駆け上がるような快感は、亨の視界を涙で曇らせる。貴明の手の中で、張り詰めた亨が限界を知らせるようにヒクヒクと痙攣した。
「んんっ・・・・ん・・・あっ・・・・んっ・・・」
ベッドの音に合わせて漏れる亨の声。亨がひときわ甘い声をあげて貴明の手の中に再び己を解放しても、貴明は動きを止めぬまま、亨のそれを愛撫し続けた。
貴明の口唇は、亨の胸の赤く濡れた突起を口に含み、軽く噛む。亨がギュッと目を閉じると、目尻から再び涙がこぼれた。
「んっ・・・ふっ・・・・んん・・・っ・・・あ・・・」
脳を貫かれているように、幾度も幾度も埋め込まれる貴明の身体。もはや痛みを越えた甘い刺激は、亨のなにかを少しずつ溶かし始めた。
「もう一回・・・っ・・・イキ・・・そうだな・・・っ・・・」
荒い息混じりに貴明が言った瞬間に、亨の頬に落ちる貴明の汗。亨の目尻から零れ続ける涙は、亨の耳を濡らしシーツに汗と一緒になって吸い込まれていった。
「も・・・もうっ・・・・・あ・・・んっ・・・・は・・あ・・っ・・・」
言うが早いか、オイルや汗で汚れた自分の腹の上に、新たなモノを放つ。それを待っていたのか、貴明も次の瞬間に身体を震わせた。
「っ・・・・・・く・・・」
貴明が身体を抜いてもまだ、ビクビクと痙攣し続ける亨の身体。貴明は、整わぬ息のままうつろな瞳で天井を見上げる亨を、熱っぽい瞳で見下ろした。
「辛かった・・・か・・・?」
亨はもはや答えることも出来ないまま、ベッドの上に身体を投げ出している。貴明は涙の跡の残る亨の目尻に口付けると、亨の隣に、倒れこむように横たわった。
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亨は、バスタブの中で揺れる水面を見ていた。
隣でシャワーを浴びている貴明を、見る勇気はない。ただ、今自分の心を占めているものが、羞恥心や頑ななプライドでないことだけは分かっていた。
足腰の立たなくなった亨を、優しく運んでくれた貴明。再び包帯を外し、疲れているだろうからと、汚れた身体を洗うことまでしてくれた。こいつに比べれば、自分は何なんだろう?と亨は思う。なんて、ちっぽけなケチな存在。貴明が優しければ優しいほど、亨はさっきまでとは違う意味で泣きたくなる。
本当に、誰でもいいなんてこと・・・あるんだろうか?今でも俺は、コイツにそう言えるんだろうか?
痛む足の裏や、怪我や重い腰が、いっそのことありがたい。誰でもいいから、俺を責めてくれ・・・と、亨は思っていた。
「のぼせたか・・・?」
両手で顔を覆う亨を、貴明が見下ろしている。亨は顔を拭くフリで涙を拭うと、バスタブの淵を握って立ち上がろうとし・・・そして、フラついた。
「無理はしない方がいい。足の裏だって痛むだろう?」
バスタオルを取って、貴明が亨の髪を拭く。自分も軽く身体を拭いて腰にタオルを巻くと、貴明が亨の身体を支えながら二人でバスルームを出た。
「なぁ・・・」
濡れて前に垂れた亨の前髪から、滴り落ちる雫。廊下を抜ける時に目を伏せたまま呟くと、貴明がそっけなく答えた。
「ん?なんだ・・・?」
貴明に対する妙な罪悪感。それと同時に沸き起こる、でもどうせ金で取引してるんだし・・・という投げやりな感情。それら二つを持て余し、亨は貴明のベッドに腰掛けながら、感情の見えない声で言った。
「今度・・・何時に来ればいいんだよ・・・」
貴明は、しばらく黙って亨を見つめていた。
Scene 5 / End