未成年の主張−第三部恋のからまり編第一話

                                    乙姫 静香




 教える・・・・。

 突然降ってわいた課題に、カオルは頭を抱えて机に突っ伏した。学園祭も間近の2学期の生徒会室、今日もカオルは掃除をしていた。ユキヤは、まだ来ていない。
 あーんなこともこーんなこともしようと思っていた夏休みがあっという間に過ぎ、すっかり秋の気配である。ユキヤはカオルの両親に会った後も特に変わった様子はなく、相変わらず無邪気に微笑んでいた。
 教えるっていったって、一体何を?どう?とカオルは思う。教える方にしたって未知なるワールドが殆どだというのに教えることなんてできるんだろうか?
−−教えるくらいなら、いっそ突入した方が・・・・。
 一瞬怖い考えがよぎり、頭をブルブルと振る。そんな心の準備、自分にだってないのだ。大体、デートらしいデートもしたことがなく、恋人らしい雰囲気を作ることにすら難儀している自分に、そんなだいそれたコトができるのだろうか?カオルは机の上に頭を乗せたまま、大きく長いため息をついた。
「はぁ〜〜〜〜〜〜っ」
「先輩、どうしたんですか?」
 聞きなれた愛くるしい声に、カオルがはじかれたように顔を上げる。するとそこには、いつもの箒をもったユキヤが立っていた。
「ユキヤぁ!!」
 泣きたいような気持ちで思わず叫ぶ。いつも同じように会ってるのに、どんどん会えない時間を長く感じるようになる。ちょっと気弱なカオルの様子に、ユキヤが首を傾げて隣りに座った。
「どうかしたんですか?カオル先輩?」
 どうかしたといえばどうかした、いや、むしろどうかしてると言った方がいいのではないかとカオルは思う。そこのところをユキヤがどう思ってるのか分からないだけに、カオルの頭はこんがらがる。
「ユキヤぁ・・・・」
「はい?」
 まさに天使の微笑み。そんな笑みを見ながら、カオルは自分がしっかりしなければ!と背筋を伸ばした。
「あのさ・・冬の旅行のことなんだけど・・・」
「あ、この間先輩のお父様が言ってたことですね?」
「あ・・・そうなんだけど・・・・」
「楽しみですね。雪景色に露天風呂でしたっけ?チハル姉さんが羨ましがってました」
 思いもかけない名前が出て、カオルの目が丸くなる。
「チ・・・チハルさんって・・・ユキヤ、言ったの?」
「はい。旅行でしたら俺も両親に言っておかなくちゃいけないですし、別に隠すことでも・・・・。え、駄目なんですか?」
「だ・・・駄目じゃないけど・・・駄目じゃないけど・・・・・」
−−二人で旅行に行くなんていったら、あの人たちついて来そうなんだもん!!!
 怖い想像が頭の中を駆け巡る。カオルの両親だけでも扱いに困るのに、これでユキヤの姉さん達が来たらどんなことになるのか分かったもんじゃない。ある意味初夜どころではないだろう。
「その旅行が、どうかしたんですか?」
 ユキヤはカオルの様子が気になるのか、覗き込むようにカオルを見る。夏服の襟から覗く白い首筋が目に眩しかった。
「い・・・いや、別に・・・・冬が近づいたら、ちゃんと計画たてないとな?」
「はいっ!」
 カオルが微笑み、ユキヤがそれに満面の笑みで答える。カオルはそんなユキヤをぎゅっと抱きしめたい衝動をとりあえずこらえた。
「ところで、先輩のところは何をするんですか、文化祭」
 東月学園では部活動に必ず参加しなければいけないため、文化祭はクラス単位と部活単位の両方で催しを考える。地元のお客さんも毎年楽しみにしているかなり大規模な祭りなのだ。
「テニス部の方はいつも通りのお化け屋敷だろ。で、クラスの方は・・・なんだったけな。あれ?俺・・なにか忘れてるような・・・・」
 なにか今日、大切なことがあったような気がする。カオルは何かを思い出しかけ、でもユキヤが話し始めた途端にそれを忘れた。
「うちは、合気道部がお茶室をやるのがいつも通りで、クラスの方は、なんだか劇をやるそうです」
「劇?」
「はい。まだ配役は決まってないんですけど」
 箒を握ったままユキヤが小さく肯く、危険な予感にカオルが恐る恐る聞いた。
「なに・・・・やるの?」
「えーっと、白雪姫です」
 ・・・・・・・・・・・・・・・・配役決まってるじゃん・・・と、カオルは心の中で思う。ユキヤが気付いていなくとも、既にクラスの心はひとつだな・・・と、カオルは確信した。
 と、そこへ誰かか生徒会室のドアをノックする。
「はい。どうぞ」
 カオルの返事と共に開くドア。二人が黙ってそれを見ていると、顔を出したのはカオルと部活もクラスも同じのトモキであった。
「おい、カオル。なんでお前さぼってこんな所いるんだよ。お前抜きで決まっちまったぞ、文化祭のだしもん」
「あっ!」
 言われて気付く、カオルが忘れていたのはそれ。今日の放課後、文化祭の出し物の話をすることになっていたのだ。
「悪い悪い、すっかり忘れてたわ。で、何になったんだ?」
 トモキがドアを閉めて二人の向かいに座る。
 カオルとは違った意味で女の子にもてそうな顔。テニス焼けした肌に、少し長めの黒髪。気の強そうな目線が、時に高校一年生とは思えないほど大人びた表情を作る。そのせいか笑った時に妙に若く可愛く見えるギャップが、本人的には気に入らないようであった。
 実は、カオルの母親・飾子の小説を読みたいと言い、読んだ上でカオルをからかうことなく真剣に感想を述べたのは、このトモキが初めてである。カオルも、トモキにはユキヤとの付合いを打ち明けていた。
「で・・・じゃねぇよ。お前がいないからいけねぇんだぞ」
「なんだよ、さっさと教えろよ」
 カオルが笑い交じりにトモキの先を促す。するとトモキは、しらねぇぞーとばかりに呆れた顔をして見せ、言った。
「映画撮るってよ。お前主役で」
「映画?・・・・俺・・・・主役ぅっ!?」
 思わずカオルが立ち上がる。思い通りの反応に、トモキがため息をひとつつき、さらに続けた。
「でもって、脚本は飾子さんに頼みたいんだってよ。どうするさ、お前」
「げ!母さんが脚本??んなの・・・・・喜んで書くに決まってるじゃん!自分の書いたアヤシイもんが男子校生総出演で実写化なんて・・・・・」
 キャピキャピ喜びそうな母の姿が頭をよぎり、背筋を走る悪寒。トモキは傍らの椅子に脚を乗せてカオルを見上げる。カオルが首を振りながら深いため息をつくと、隣りで黙って聞いていたユキヤが、にこっと微笑んで言った。
「面白そうですね」

 絶好調クランクイン?