未成年の主張−第二部恋のかけだし編第七話
乙姫
静香
「今度、先輩のお家にも遊びに行きたいな・・・」
ユキヤの言葉が頭の中でこだまする。カオルは学園から歩いて15分の所にある自宅に着くと、家の門を開けながらひとつ息をついた。
−−でも、俺だってユキヤの実家まで遊びに行ってるし、ご両親にもご挨拶してるもんなぁ。普通だったら、俺の方も紹介するのが自然なんだろうなぁ。
考えごとをしながら郵便受けをチェック。何も無い。今日は母親が起きているようだな・・と、カオルは思った。
−−でもなんか、両親に紹介なんて・・・・。
『父さん、母さん。これが僕の選んだ人だよ』
『お父さん、お母さん、はじめまして。カオル先輩とお付き合いをさせていただいているユキヤです』
『う〜む、さすがカオルの選んだ人だ。なんとも可愛らしい・・・』
『そうよねぇ、あなた。うちのカオルにはもったいないくらいだわ』
玄関のノブに手をかけたまま、ぽーっと妄想にひたる。自分の口が、半開きになってることに気付き、カオルはきゅっと口を引き結んだ。いやいや、こんなにうまく行くはずが無い。なんたって、あの両親なんだから・・・と、カオルはため息をついた。
それにしても、今の妄想だって、自分がユキヤの実家に行った時のものと大差が無い。作家の母を持ちながら、なんとも貧困な想像力だなと、少し情けなくなった。
「ただいま〜」
玄関を開けて中に入る。
「母さん、起きてるの〜?」
と、居間に顔を出すと、そこには・・・・。
「あ、先輩。お帰りなさい」
涼しい顔でカオルの母と談笑するミソノの姿があった。
「うんぎゃあああああああ!!!!」
「カオルッ!?どうしたの!?」
奇声を上げて腰を抜かすカオル。カオルの母は目を丸くしてそれを見下ろした。
「あっ・・・あ・・・悪霊退散っ!散れ!悪魔っ!!」
「これ、あんた何言ってんのよ。まったく失礼な子ね」
カオルの母が呆れたようにカオルの頭をはたく。すると、ミソノがふっと笑って言った。
「いえ、お母さん。いいんですよ。これが自分と先輩の愛のコミュニケーションなんです」
「あら?そうなの?面白そうねぇ。今度じっくり聞かせていただきたいわ」
「母さんっ!?」
カオルは目の前で起こってることが信じられずに、母親とミソノの間で視線を行き来させている。カオルの母は、そんなカオルにことの次第を説明した。
<回想シーン>
カオルの自宅前。「今日のラブレター」を持って、家の前にやってくるミソノ。
家の中で鳴り出す電話。ミソノが顔を上げると同時に、玄関から半狂乱の母が飛び出した。
「ぎゃあああ!!電話が来たぁ!!だ・・誰か出てぇ〜!!あ、そこの君!!ちょっと、家の中にいらっしゃい。私の代わりに電話に出て〜!!そして、家には誰も居ないと言ってぇ〜!!」
実は、母は締切り前。原稿が書きあがっていない・・・が、かといって電話を無視する訳にもいかず、外にいたミソノを家の中に引きずり込んだのである。
「母さん・・・なんでよりによってこいつを・・・」
居間のソファに座り、カオルが頭を抱える。
「だって、ミソノくん、最近よく家の前にいるんだもの。初めて見る顔じゃないから大丈夫かなと思って。おまけにあんたと同じ制服だから、あぁ東月だなぁ・・・と」
最近よく家の前にいるって・・・それじゃあストーカーじゃないか!?とカオルは、目をひん剥いてミソノを見る。ミソノはその視線に気付き、涼しい顔でそっぽを向いた。
「いやぁ、それにしても驚きました。まさか、カオル先輩のお母様があの万国旗飾子(ばんこっき・かざりこ)先生だなんて」
「お前、知ってんのぉっ!?」
なんで中学一年生の男がやおい作家の名前なんか知ってんの!?と、カオルは思わずひっくり返る。
「祖母(70歳)が大ファンなんです。先生の作品は、自分も読みました」
「んでもってお前、読んでんのぉっ!?」
知ってるだけでなく読んでるのか・・・。カオルは開いた口がふさがらなかった。
「カオル、あんた失礼にも程があるわよ。あたしの読者さんにケチつけないで頂戴。ねぇ〜ミソノくん」
カオルにそっくりな・・・というと順序が逆だが、カオルとよく似た天然パーマのロングヘアを揺らして飾子(もちろんペンネーム)がミソノに微笑む。それにしても、なんでユキヤだってまだ入ったことのない俺の家にミソノがいるんだよ!とカオルは思う。おまけに妙になじみやがって・・・うがぁっ!
「ところで、あんた。ミソノ君と付き合ってるんですって?」
「付き合ってないよ!!なにふかしこいてんだよ、お前!!」
「通訳すると『俺に黙ってばらすなよ、恥ずかしいじゃん。むちゅ(←ちゅうのことらしい)』ってとこですかね?」
「あはははは!!ミソノくん面白〜い!!」
飾子は両手を叩いて喜んでいる。カオルは大きなため息とともに、頭を抱えた。
「カオル先輩照れ屋だから」
くすっとミソノが笑う。こいつ、マジであきらめるつもり無いらしい・・・と、カオルが拳を握り締めた。
「や〜、期待して良かったわぁ。カオルって名前つけた甲斐があるってもんよ。これが金太だったらこうはいかなかったわね(全国の金太くんごめんなさい。ワシ的にはありです)」
飾子は両腕を組んで、うむうむと肯く。カオルは自分の名前の由来など考えたことがなかったので、少し興味を引かれて顔を上げた。
「他の候補が、金太だったんですか?」
「うちの旦那さんがね、銀次っていうのよ。だから、カオルは長男だし、俺が銀だからこいつには俺を越えた金になって欲しいって、金太になるところだったの」
「それがどうしてカオルなんだよ」
カオルが突っ込む。すると、飾子はさっぱりと笑って言い放った。
「菅原文太の息子さんがカオルっていうのよ(実話)。で、あの人大ファンだから『俺もそうする』って・・・で、届けを出すその瞬間にカオルに決まったのよ。他の候補は金造、金之助、キンシ○ウバイ(←高級ふりかけ?)・・・」
カオルで良かった・・・と、初めて自分の名前に感謝をするカオル。頭の中を「金太の大冒険」が巡ったことは言うまでもない。
「で、カオルってつけた甲斐があるっていうのは、どういうことなんですか?」
ミソノが面白そうに飾子に聞く。きっと今、ミソノの中のカオルメモリーがぐぐぐっと増えてることは間違い無かった。
「だって、例えばこの子が受けになった時に囁かれるのが『金太・・・』よりも『カオル・・・』の方が耽美じゃない!?ねぇ?どう思う?ミソノくん?」
「そうですねぇ・・・自分はカオル先輩が生まれたままの姿で居てくれれば、それでもう満足この上無しなんですが・・・。確かにカオルの方が、美しくはありますね・・・」
「でしょーーーー!!」
盛り上がる二人。いっつもそうなのだ、自分を無視して盛り上がる両親。昔だってそう、カオルが幼稚園生の頃、夏休みに入った途端、朝、目が覚めると見知らぬ国にいた。「夏休みになったらどこに行こうね〜」とか「どこに行きたい?」とかの相談は全く無し。いつまでも熱々ムードの冷めない夫婦に、カオルはいつも振り回されていた。
「まだなんにもしてないの?さっさとやっちゃえばいいのに。あたしが許す!」
「あ、一応予定はあるんです。まぁ、ベタなんですが、夏休み中に自分の家で・・・と思っています。シチュエーションとしては、甲子園の予選でうちの野球部が破れ、悲嘆に暮れる自分を先輩がなぐさめ、そのまま・・・という感じが良いなぁと思っているのですが」
「確かにちょっとベタだわねぇ。演出過多もどうかと思うけど・・・」
そして今、目の前では飾子とミソノが和気あいあいと語り合っている。一言返さなければ、気が済まなかった。
「ちょっっっっとまって!!なんで俺が受けなの!?生まれたままの姿ってなによ!!勝手に決めないでよ!俺にはねぇ、ユキヤっていう、心に決めたスイートハートがいるんだからな!!」
がたーんと立ち上がりながら、カオルが啖呵を切る。
しーんとして見上げる二人。カオルがそのまま二人と見下ろすと、飾子がお茶を啜りながら言った。
「そんな事言ったって、あんた受け顔なんだもん。しょうがないじゃない。あんた以上の受け顔連れてこなけりゃ納得しないわよ。ミソノくんは年下で、あたし年下攻め好きなんだもん。マルガリだって、最近あたしの中でちょっと旬だしさ。くやしかったら、あんたがタチとしてネタになるような受け顔とやらを見せてみなさいよ」
息子相手にも真っ向勝負(何の?)。やおい界の重鎮として女王の座に座り続ける万国旗飾子の姿が、そこにはあった。・・・が、カオルも負けてはいない。その女王の息子として15年、自分の一挙手一投足がネタにされ続けてきたのだ。母の好みなぞ、もう分かりきっている。
「ふっふっふ。見て驚くなよ母さん。ユキヤはなぁ、誰もが認める受け顔なのっ!それも、半端じゃなく可愛いんだからなっ!!」
「ふ〜ん。それは楽しみだわ。今度連れてらっしゃいよ」
二人の間に火花が飛び散る。その視線の下では、静かな微笑をたたえて、ミソノがひとりお茶を啜っていた。
さて、とうとう何かが起こる夏休み!?