未成年の主張−第二部恋のかけだし編第六話
乙姫
静香
「先輩。初夜しましょ」
ユキヤのニコニコ顔にカオルがたじろぐ。自分の失言からユキヤをその気にしてしまったものの、正直カオルにもどうしていいのか分からない。なんともカオル的には緊迫した空気が流れていた。
「で・・・でも、ユキヤ・・・どうするか知ってて言ってるの?」
かろうじてそんな抵抗を試みて見る。すると案外ユキヤはあっさりと返した。
「知らないです。あ、そうそう、昨日ミウ姉さんから本が届いたんですよ。参考にしなさいって電話で言ってたんですけど、どんな本なんでしょうね?」
ぎくり。参考にする本?・・・とカオルの胸の中に危険信号。ユキヤは立ち上がると机の上に置いておいたクラフト包みを取り上げた。
「昨夜、開けるの忘れて寝ちゃったんですよね」
てへっと笑って、ユキヤが開封する。
「どんな本かなぁ」
ユキヤの白い手が封筒の中に差し込まれ、本の端がちらりと見えた瞬間、カオルの胸の危険信号は最大モードにばくつき、弾かれたようにユキヤの手から本を奪い取っていた。
「うわっ!!」
「せ・・・先輩?」
咄嗟のカオルの行動に、ユキヤが目を丸くする。カオルは本を背後に回し、その上その本の背表紙を確認すると、やっぱり・・・といいたげにため息をついた。ピンク色の、やな感じむんむんの背表紙。ハードやおい小説。しかもこれって・・・。
「どうしたんですか?」
ユキヤの方は状況がつかめずに、きょとんとカオルを見ている。カオルはユキヤに向き直ってひきつった笑みを見せると、もぞもぞと本を自分の尻の下に敷きながら言った。
「ご・・ごめん、驚いた?」
「驚きましたよう。その本・・・どうかしたんですか?」
「これは、俺の方からミウさんに送っとくよ。ユキヤは、見ない方がいいからさ」
「どうしてですか?見せて下さいよぉ。気になります」
気になる気持ちはとってもよく分かる。でも、ああそれでも、これは見せる訳には・・・。
「じゃあユキヤ、これから俺の言う言葉を知ってたら教えて?」
「はい。いいですよ」
にっこり即答。カオルは背中に変な汗が流れそうになりながら一つ咳込んだ。
「え・・と。・・・SM」
「?誰かのイニシャルですか?」
「はい、次。・・・・イメクラ」
「プリクラの新しいのですか?」
クイズをしているようにわくわくとユキヤが答える。カオルは伺うような視線でユキヤを見返した。
「ううん。・・・じゃあ次。・・・スカトロ」
「なんだろう?マグロの大トロみたいなもんですか?美味しそうですね」
「ごほっ!」
−お・・美味しそう・・・?そう来るとは思わなかった。美味しいのか?いや、その嗜好の人にはたまらないのかもしれないけど・・・・でも、さすがにそれは・・・。
答えに窮してカオルが床の一点を見つめる。するとユキヤがそんなカオルの顔を覗き込んだ。
「先輩?」
「ぎゃっ!」
突然のどアップにカオルの身体が後退する。飛び出しそうな心臓を押さえるように胸に手を当てるカオルを、ユキヤはただ心配そうに見た。
「先輩・・・本当に具合悪いんじゃ・・・?」
「だ・・・大丈夫。大丈夫だよ。でも・・・初夜はちょっと無理かなぁ?」
体調が悪いことにしてしまえば逃れられるかもと、カオルは思う。我ながら頭良いじゃんとカオルの鼻が少し高くなった。
「そんなに大変なんですか・・・初夜って」
はぁと小さくため息をついてユキヤがうなだれる。その姿はちょっとカオルの胸を打ったが、かといって初夜をする訳にもいかないので、そこはぐっと我慢をした。
「そうそう、大変なんだよ。しっかり体調を整えないとね。それにユキヤはもうちょっと勉強してからだな。いま俺が言った言葉の意味が分からないようじゃ、まだまだ初夜は駄目だな(←そんなことはない)」
自分の尻の下にしかれたものをジリジリと引き出しながら、カオルが少し安堵の笑みを見せた、その時だった。
「『あぶない放課後2・僕、先生が好きです。陵辱される美術教師がその果てに見たものは・・・』・・・・?」
「ぎゃあ!!なんでっ!?」
ユキヤの呟きに、カオルは慌ててユキヤの手に持たれている本を奪い取る。まさかもう一冊入っていたとは・・・侮りがたしミウ。しかも・・・続いてたのか、これ。
「どうして見ちゃ駄目なんですかぁ!?勉強しなくちゃいけないって言ったのは先輩なのに・・・」
口唇をとがらせてユキヤがカオルを見上げる。つい、可愛いとカオルは見とれてしまった。
「だ・・・だって、見せたくないんだもん・・・」
全くもって理由にならない理由。
「どうして見せたくないんですか?」
陵辱ものなんて見せられる訳ないでしょう?とはとても言えない。おまけに、もうひとつ見せたくない大きな理由があることなんて、尚更言えるはずもない。でもでも、ユキヤの実家にまで行ったのに、教えない訳にもいかない。
頭の中はぐちゃぐちゃと混乱してくる。カオルは瞬きもせずに見返してくるユキヤを見つめると、意を決して聞いた。
「でも多分・・・驚くよ。それでも、聞きたい?」
ユキヤはカオルの真剣な表情に、コックリと肯く。
−あああ、やっぱり肯いちゃったよ。やっぱり言うべきなんだろうか・・・?
尚も悩めるカオルは唸りながら目を閉じる。すると、そんなカオルを見ていたユキヤが小さく言った。
「でも、そんなに先輩が言いたくないんだったら、いいですよ」
「え?」
ぱっと目を開けると、そこには天使の微笑みを浮かべたユキヤの姿。
「先輩が言いたくないってことは、無理に聞きたくないです。先輩が見て欲しくないものだったら、俺も見たくないです。ミウ姉さんには悪いですけど・・・」
「ユキヤ・・・・」
ついたまらずに、ユキヤの細い身体をぎゅっと抱きしめる。
−可愛い可愛い!!誰が何といってもユキヤ可愛すぎる!!
シャツの上からでも分かる華奢な身体。ユキヤの腕がそっとカオルの背に回された。あ、これってもしかしてぎゅっと抱き合ってる?俺たち?とカオルは気がついた。
「先輩の身体って・・・あったかいですね」
ほわ〜んと幸せそうにユキヤが呟く。瞬間、ずっきんとカオルの中の何かがはじけた。
−や・・・やばい。このままでは初夜が出来てしまう・・・。
何気なさを装って、カオルが身体を離す。深呼吸、深呼吸。
−そうそう、なんか違うこと考えないと。あ、そうだ。だから、本の話。
「あ・・あのね、ユキヤ」
名残惜しそうに身体を離すユキヤに、カオルが苦笑い。再び咳払いをすると、カオルが奪った本の最初のページを開きながら言った。
「非常に話しづらいことなんだけど・・・」
「はい」
聞いてもいいのかなぁ?と疑問符を浮かべながらユキヤが肯く。
「これ・・・・俺なの」
「はい。・・・・・えっ!?」
肯いて、それから目を丸くする。パチクリと何度も目を瞬かせ、ユキヤは目で問い直した。
「えーと。何て言ったらいいのか。・・・・この主人公のモデルが・・・俺なのです」
「先輩がモデル!?なんで先輩がモデルになってるんですか!?おまけになんでうちの姉さんがそんな本を持ってるんですか!?」
ダブルで直球な質問。カオルは深くため息をつくと、あきらめた表情で表紙にある名前を指差した。
「これ、この作者・・・・俺の母さん」
「えっ!・・・・・えええええええ!?」
ユキヤの目が、今日一番大きく見開いた。
次はとうとうカオルママ登場か!?