未成年の主張−第二部恋のかけだし編第五話

                                    乙姫 静香

 頭痛。カオルは頭を抱えると、生徒会室の机に突っ伏した。
 よみがえるおぞましい記憶。
「うーん。うーん」
 苦しげにうめいては、のたうちまわる。と、そんなカオルにユキヤが言った。
「先輩?どうしたんですか?」
 ユキヤにはまだ、例のミソノちゃんが実は男でマルガリで中学一年生でしたとは言っていない。どうしたもんだかなぁと思いながら、じっとカオルがユキヤを見返した。
「具合でも悪いんですか?顔色もなんか・・・優れないみたいですけど」
「そうかぁ・・・?」
 言っては見たものの、寝れば悪夢に、起きれば現実にうなされる。正直心の休まる時間がなかった。学校に来ては、常にどこからか見られているような錯覚を覚えるし、家に帰ればまた郵便受けに何か入っているのではないかというような気がしてくる。事実、一昨日には刺繍入りのタオルが入っていた。しかも「K&M」というイニシャルで。
−カオル&・・・・ミソノ!?!?
 背筋に寒いものが走る。これでいいのか俺の青春。
 何とはなしにそんなことまで思った。
「熱ですかね?」
 ユキヤの白い手が、そっとカオルの額に当てられる。それと同時に、瞬間湯沸器のようにカオルの顔が赤くなった。
「あ、先輩やっぱり熱あるみたいですよ。あ、どんどん赤くなってます。きっと風邪のひきはじめなんですよ!! すぐに安静にしないと!!」
 ユキヤがカオルの様子に、慌てふためく。カオルがそれを押さえようとしたものの、その隙を与えないほどに、ユキヤが急いでカオルの手を取った。
「先輩、駄目です!保健室・・あ、でももう先生いないかも。どっかで休まないと。・・・あ、先輩。俺の部屋に来ますか??同室の奴、部活の遠征で今日の午後からいないし。ゆっくりできますよ!」
−なっ!?ユキヤの部屋!?!?!?
 喜んでいいのか、焦ればいいのかよくわからない。そうこうしている間にも、あっさりとカオルはユキヤの住む東月学園寮に連れてこられた。
−そんな二人っきりでユキヤの部屋なんて・・・。
  さっきまでの頭痛はどこへやら、何やらそわそわと落着かなくなる。
「ここが俺の部屋です。どうぞ」
 寮の2階の奥の部屋。ユキヤがドアを開けた。
「お・・おじゃまします」
 しゃちほこばったカオルが部屋に入る。部屋はいたって普通の寮で、向かって右側がユキヤのエリアのようであった。
 何故それが分かったかというと、左側にはおそらくユキヤが捨てたであろうゴミが綺麗に整頓されていたからだ。こりゃ売ってるのは消しゴムどころではないな・・・とカオルは思った。
「ユキヤ!」
「はい?」
「こ・・っこ・・これは?」
 ある物を発見し、プルプルと震える指で、カオルが左の机の上にあるものを指す。
「あ、それは俺が使ってた歯ブラシですけど、同室の奴が理科室の水槽洗うのにたくさん必要だから、俺が捨てようとすると欲しいって・・・」
「没収!!」
「あ!」
 カオルが即座に手近にあったコンビニ袋を広げ、机の上にあった使用済み歯ブラシ数本を放り込む。更に目を光らせると、机の上にまたある物を発見した。
「ユキヤ!」
「はい!」
 カオルのただならぬ様子に、ユキヤも緊張の面持ちで答える。
「これは?」
「あ、それは去年俺が着てた体操服です。切れちゃったし学年が変わってゼッケンも変わったから捨てよう思ったんですけど、ゾウキンにするって・・・」
「没収!!」
 またも即座に放り込む。それから左のエリアを練り歩き、優にコンビニ袋5袋分のユキヤ印商品(主に日常使い系のモノ)をまとめると、カオルがユキヤに向き直って言った。
「ユキヤ!」
「はい!」
「ゴミをあげちゃ駄目!!」
 カオルが真剣にユキヤの目を見る。ユキヤはどうしてカオルが怒ってるのか分からずに、小さく答えた。
「・・・はい。・・・でも、どうしてですか?」
「どうして・・って・・・」
 ユキヤファンの人にそれを売ってるんだよ・・・とは、とても言えない。ましてや、その大元締めが同室の奴だとは・・・。
「どうしてかっていうと・・・」
 でも納得のいかない答えでは、ユキヤも引かないであろう。うーん。どうしたらいいのだろうと、カオルが頭を悩ませた。
「それは・・・それはだなぁ・・」
「それは・・・?」
−あああ、どうしよう!?ええい!ままよ!!!
「たとえゴミでも、ユキヤのものが人の手に渡るのは嫌なの!」
かああああああっ。と、言った瞬間にカオルの顔が真っ赤に染まる。言われたユキヤも一瞬きょとんとしたものの、その言葉の意味を理解するや、見る間に顔を赤くして恥ずかしそうに俯いた。
「わわわわ・・わかった?」
「は・・・はい」
 熱を発散しそうなほど赤くなって、二人が部屋の中で黙り込む。遠くからは部活中の生徒の声。寮の中自体は静まり返っている。カオルが次の言葉に詰まっていると、ユキヤがぽそりと呟いた。
「あの・・・カオル先輩・・・?」
「な・・なに?」
 心臓の音が自分でも良く聞こえる。ひさびさに血圧が上昇するようなシチュエーションに、汗がじんわりとにじんだ。
「なんだろう・・・すごく、熱いんですけど・・・」
 見れば、潤んだ瞳でユキヤが見返してくる。上気した頬はほんのりと赤く、半開きの口唇は艶やかに光っている。
−うわっ!ユキヤ・・そんな・・・!?
 ほのかな色気にカオルがたじろぐ。ユキヤは静かに学ランのボタンを外すと、するりとそれを脱いで椅子の背にかけた。そのままカッターシャツも脱ぎ、Tシャツ姿になる。
「だっ・・どわっ・・・ユキヤ!」
「はい?」
 あっさりと答え、ユキヤは尚も脱ごうとする。ベルトに手がかかった時、カオルがその手を押さえ込んだ。
「だ・・っだ・・・っだ・・・駄目っ!!まだそんな!早すぎるって!!」
「でも、同室の奴がいない間じゃないと・・・」
 揺れる瞳でユキヤがカオルを見返す。カオルは真っ赤な顔でユキヤの手を握り締めた。
「そ・・そんなこと言われても・・心の準備ってものが・・・」
「先輩も、顔赤いし・・・」
「そりゃ、そうだけど・・」
「先輩も・・・脱いで」
−ぎゃあああああ!!そんなユキヤ!!大胆な!!あまりにも突然の展開!!そんな目で俺を見ないで〜〜!!!!!
「風邪薬、持ってきますから。寝ましょ」
−・・・・へ?
「・・・・・風邪薬??」
 ユキヤの言葉を繰り返す。風邪薬って??
「そうですよ。俺も熱いし、もしかしたら先輩の風邪が移ったのかもしれないでしょう?だから服脱いで、寝ましょう。先輩は俺のベッド使ってください。風邪には寝るのが一番ですよ」
 そして綺麗な瞳でにっこりと微笑む。カオルは激しい脱力感を感じると、そのまま外されたユキヤのベルトをはめ直し、ユキヤの両肩に手を置いた。
「ユキヤのは、きっと風邪じゃないから」
「え・・・でも・・・じゃあ、救心・・・?」
「それもいらないから」
  まだ持ってるのかと思いつつ、カオルが苦笑い。
「まぁ、ちょっと座ろうか」
 と、ベッドの上に二人で腰掛ける。枕側にユキヤ、脚側にカオル。ユキヤが膝に手を乗せると、カオルがひとうなりして言った。
「えー・・と。ユキヤはもう、こう・・・誰かのことを好きになると、どきどきしたりとかって事は分かってるよな」
「はい。先輩のこと見てると、どきっとします」
 ずきっ。真剣に答えるユキヤに、カオルの胸がきゅんとする。
「だから、それが風邪とかじゃないってことは分かってるよね」
「はい。でも、なんだか熱が・・・」
 自分の額に手を当てて、ユキヤがカオルを見る。するとカオルがそんなユキヤに微笑んだ。
「それも、どきどきの先のことなんだよ」
「ええ!?そうなんですか??これって、これって病気なんですか??」
 大きな目を見開いて、ユキヤがカオルに詰め寄る。カオルは慌てて手を振ると、ユキヤに言った。
「病気じゃなくて、普通のことだから。だれでもそうなるもんだから」
「そうなんですか?良かった」
 ほっと、ユキヤが息をつく。本当に可愛いなぁとカオルは思った。
「でも、何のためにこんな風に身体が熱くなったりするんですか?この後、どうするんですか?」
「それは、初夜でしょう」
 言った後に自分ではっとする。言ってはいけない単語を口にしてしまったと思った時には遅かった。
「ええ!?じゃあ、今、先輩と初夜してもいいんですか??そうなんですか??」
「あ・・・それは・・・その・・・」
 返事に詰まってカオルが固まる。そんなカオルの手を取ると、嬉しそうに微笑んで、ユキヤが言った。
「先輩。初夜しましょ」


 さあてどうするカオル君?