未成年の主張 第一部−第二話
                                                    乙姫 静香


 ここは某県某市にある東月学園(とうげつがくえん)。中高一貫教育で知られる名門男子校である。国立私立を問わず、有名大学への進学率も高く、全国から優秀な生徒が集まることでも知られている。しかし学校の中は、そんな表の澄ました顔とは違って、どちらかというとのんびりのほほんとした雰囲気であることはあまり知られていない。

  生徒会室。今日も生徒会役員であるカオルとユキヤは居残って掃除をしていた。
 今日は卒業式だったので、他の中等部生や高等部の1、2年生は登校していない。登校しているのは、部活の関係で追い出し会などの準備をする者たちと、カオルやユキヤのように卒業式関係者だけである。
東月学園にはちゃんとした講堂があり、そこが使われたため、椅子の片づけなどは不要である。それでも、胸に付ける花の準備だとか、細かい仕事が前後に結構あるのだ。
「これ、残ったのどこに置きましょう?」
 ユキヤがボール紙でできた箱を、両手に抱える。白い造花がまだいくつか入っていた。
「あぁ。それは・・・」
  いいながら、今日の卒業式を思い出す。入り口で生徒会の人間が卒業生の胸に花を差すのだが、カオルの予想通り(そんなことを予想するのは、おそらくカオルだけだったろうが)ユキヤの前に黒山の人だかりができたのだ。さながら白雪姫と50人の狼たち。笑顔で花を差し続けるユキヤを、カオルは本気ですごいと思った。
前回(読むように)の告白(のようなもの)からこっち、カオルはときめきだした胸をもてあましているような状態なのに、ユキヤの方は相変わらず可愛い笑みを向けるだけ。おまけにカオルの胸の中でくすぶるある疑問。それだけは確認しなければ!と熱い高ぶりを胸に、カオルは今日こそ決めてやる!と思っていた。
「花は、来年も使うと思うから、あとで先生の方に持ってけばいいと思う。そこ置いとけよ」
「はい」
 にこっと笑って、トテトテとユキヤが走る。また、可愛いなぁと見とれてしまった。
−はっ!
可愛さにごまかされそうになる頭を、プルプルと振る。ユキヤがカオルの目の前に戻ってきて、じっとカオルを見上げた。
「な・・・なんだよ」
 照れ隠しに、つい荒い言葉をぶつけてしまう。それに傷ついた様子もなく、ユキヤが言った。
「何でもないですよう。今日も先輩、かっこいいなぁって思って」
−ずっきん!
 いつからだろう、ユキヤの言葉がドキンではなく、ズキンと胸に刺さるようになったのは。
 ドキドキと高鳴る胸を悟られないように、カオルが箒を持つ手に力を込める。
「ばっ・・馬鹿。変なこと言うなよ」
「変なこと・・・なんですか?」
「おっお前、他でもそんなこといってんじゃないの?」
 アサッテの方向を見ながら、ぎこちなくカオルが笑う。心の中では「そんなことないですよう」と笑うユキヤの顔が願望のようにグルグルとまわっていた。
「ははっ。そんなことないですよう」
−よっしゃー!よっしゃー!
 心の中で、拳が幾度も握られる。今こそ、例の疑問を問いただす時!とカオルは意を決した。
「な・・・なぁユキヤ」
「はい?」
  自分の箒を手に持って、ユキヤがカオルの前に戻ってくる。カオルはアサッテの方向を向いたまま、紅潮した顔で言った。
「この前、お前言ったよなぁ?」
「何をですか?」
「なんだか、俺を見ると・・・どっどっどきどき・・するとかしないとかっ」
「カオル先輩、なんか顔赤いですよ。俺、あれあげましょうか?」
「い・・いいからっ!救心はいいから!」
 鞄に向かおうとするユキヤを押しとどめて、カオルがユキヤの腕をつかむ。細い腕に触れたことで、ますます顔が赤くなった。
「言ったよな?」
「はい。言いましたけど、それがどうかしたんですか?」
 腕を離すタイミングを逸してしまい、腕をつかんだままカオルが顔を背ける。
「それって・・・どんな時にどんな風に・・・どきどき・・・しちゃうのかなぁ?」
「そうですねぇ」
 ユキヤはつかまれたまま、首をかしげて考える。沈黙に、心臓の音が聞こえやしないかとカオルがびくついた。
 確認したい事、それはユキヤがどっちの気持ちで自分にドキドキするのかということ。ぶっちゃけた話、上か下か・・・ということである。ちなみにカオルの希望=上であった。(下品)
「例えば・・・今とか」
 ユキヤがカオルの顔を見上げる。カオルはその白く無垢な表情に心臓が止まるかと思った。
「先輩にぎゅって抱きしめられたらとかって思うと・・・どきどきしちゃいます」
−よっしゃよっしゃよっしゃーーー!!!俺、男役〜〜!?
 心の中では涙を流して、カオルが踊り狂っている。口唇の端がにやけそうになるのを必死でこらえた。
「でもその中でも一番ドキドキするのが・・・」
「な・・なんだ?」
 ちょっと恥ずかしそうに、ユキヤがうつむく。カオルがめずらしく積極的に、そんなユキヤの顔を覗き込んだ。
「い・・言ってみろよ。怒らないから・・・」
「でもなんか、恥ずかしいです」
−な、何を考えてるんだ??
「いいから、言えよう」
  つかんだ腕を、ちょっとゆさゆさしてみる。なんか俺たち今、カップルっぽいかも・・とカオルはにやけた。
「笑わないで下さいね」
「お前が真剣に思ってること、笑うわけないだろう」
「じゃ、あの・・・俺、先輩に後ろからぎゅってされたらって思うと・・・本当にどきどきしちゃって・・・」
−そ、それって後ろは俺のもんってこと??(そんなことは言ってない)
「だっ・・えっ・・それって・・・ユキヤ・・・?」
 途端にどぎまぎしてカオルが呟く。奥手ながらも耳年増のようだ。
「今にも、バックドロップとか決められそうな緊張感があるじゃないですか。そのスリルがたまらなくって、想像すると本当にどきどきしちゃうんですよ」
「え?」
 顔を赤らめるユキヤに、カオルが固まる。それって・・・・プロレス??
「馬鹿みたいですよね。先輩そんなことする訳ないのに・・・」
 恥じらうユキヤ。ユキヤの腕を握るカオルの力がどっと抜ける。
 そんなドキドキって、別に俺が相手でなくても・・・。
 途端にカオルの胸の中で踊っていたカオルがそそくさとダンス道具をしまいはじめる。
  箒を握り直すと、カオルは再び力なく掃除をはじめた。

 あぁ、春はまだ遠い・・・らしい。