それは、深い森の中でした。
 そよぐ風と、揺れる樹々と、一点の曇りもない日の光が包んでいました。
 それは洋館。白い壁を、こげ茶色の木が縁取っていました。そのこげ茶は、そのまま床や階段の色。上を歩くとキシキシという声を上げる、なんとも懐かしい香りのする色。
 そこにいた彼は、白い肌と細い肩、そして深い闇をたたえた瞳を持っていました。緑に埋もれながら、緑を待ち続けていました。
なんて、残酷な恋人。
 あぁ・・・あなたが望むのなら、私は神にも永遠にもなろう。脆いあなたが、否定しながらも切望する、永遠になろう。あなたが緑に飲み込まれないように。その濡れた青い月のような面が、深い緑に沈まぬように。


 それは、深い森の中でした。
 あなたが私を探している。私を探して、広い城の中をさまよっている。こげ茶を踏む足音が聞こえる。キシキシ、キシキシと、あなたの悲鳴が聞こえる。
 あぁ・・・あなたが望むのなら、私はただ一度きりの永遠を、あなたに誓い続けよう。


 18・・・19・・・20・・・と、白の部屋は増え続ける。
 罪の城。罰の城。
 流れる記憶。薄れる記憶。
 風の歌。短調の歌。
 チェロの響き。ピアノの調べ。
 気持ちのいい響きです。懐かしい響きです。


 それは深い森の中でした。
 大きな城がありました。
 恋人を待ち続ける者がありました。
 そこへ、一人の旅人が迷い込みました。
  『絶対』を持った旅人。
 時が、流れ始めました。


 それは、深い森の中でした。



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