***As I grew up***
「裕次郎で珠三郎ってことは、上にも居るのか?兄ちゃんが」
部屋に戻ると、開口一番、大澤が言った。ジーンズに裸足でサンダル。一足早く、大澤は一人で夏を満喫しているようである。
「あぁ、はい。廉太郎(れんたろう)は、確かヨッさんたちと同じ年ですよ」
一ノ蔵はドアの鍵を閉め、勝手に座る一同を見回しながら冷蔵庫を開ける。果たして、明日から仕事というこの夜に、どうしたもんか・・・というのが本音。
「レンタローっていうの?お兄ちゃん」
さっさとクッションを出してくつろぎ始めるカナメ。こっちもノーズリーブで完全に夏モードだ。いくら今日が暖かいとはいえ・・・。
「はい。・・・で、なに飲み・・・」
と、一ノ蔵が言いかけた時だった。
「発見!珠ちゃんコップーッ!」
部屋の向こうでゴソゴソやっていた大澤が、日本酒の一升瓶を見つけて喜んでいる。二日酔いの一ノ蔵としては、飲むつもりはなかったのだが、大澤の笑顔に、なにかをふっきった。
「あの・・・ごめんね。急に押しかけて・・・」
四つん這いで近づいてきた宮坂が、足元に座って一ノ蔵を見上げる。今日はなぜだか、ちょっと雰囲気の違う宮坂。その理由はきっと、裕次郎を自分と間違えた所為にある。浮気したと思われたのかな?
「どうして?忍さんに会えて嬉しいですよ。どっちにしてもヨッさん達には話があったし・・・」
笑顔で返すと、ほころぶ宮坂の顔。改めて、見合いに対する闘志が湧いてきた。
「はい。コップお願いします。適当にツマミも持っていきますから」
「うん」
気分的には飲みたかったし・・・と、気を取り直して一ノ蔵が冷蔵庫を閉める。そうだ!俺は見合いなんかしたくないんだ!結婚するなら、忍さんとと決めてるんだし!(←できないッツーの)
「滝廉太郎と石原裕次郎と坂東玉三郎だよねー!面白い親。っつーか、双子の弟っていうと、珠ちゃんってば、おすぎと一緒じゃん!」
さっさとコップに酒を注ぎながら、カナメが感心したように呟く(それ以前に、カナメはドライバーなのでは?)。さすがに、おすぎはちょっと悲しいなと、一ノ蔵は思った。
「はいはい。珠ちゃんもグラス持って。乾杯するから」
自分の隣の床を叩いて、大澤が一ノ蔵を呼ぶ。一ノ蔵が素直に隣に腰を下ろすと、宮坂が不思議そうに言った。
「乾杯ってなにに?」
「そりゃもちろん、決まってるっしょ」
はぁ、そうなんですか?と一ノ蔵のモノローグ。そして全員がグラスを持つと、カナメが意気揚々と声を上げた。
「珠ちゃんが浮気してなかったことを祝って、カンパーイ!」
***As I grew up***
そして、適当に飲み始めた全員は、とても明日が月曜日とは思えないほど良い飲みっぷりで、良い具合に出来上がり始めていた。
そう、それは完璧にお泊りモード。昨晩おそらく一睡もしてなかったであろう宮坂は、ベッドの上で既に寝息をたてていた。
「あぁ、忍のヤツ熟睡だな。いざとなったら置いてってもいいか?」
大澤がビーフジャーキーをかじりながら呟く。その傍らでカナメがタクワンをポリポリいわせながら言った。
「置いてくもなにも、邪魔するようで悪いけど、アタシも一寝しないとヤバイわ、コレ。寝ないまでも、すぐには帰れないって」
「いや、俺もさすがにカナメさんに運転させられないですよ。狭いんで申し訳ないけど、酔いが覚めるまでは居てください。明日の仕事は大丈夫なんですか?」
一ノ蔵も、日本酒で喉を潤しながら、とりあえずは心配する。
「大丈夫ー。アタシと忍、明日は自宅で仕事だから。ヨシと珠ちゃんの方が大変よねー」
と言いながらも、飲むのを止める気配は無い。既に日本酒だけでなく、テキーラのボトルにまでも悪の手は及んでいた。
「みんなで雑魚寝も悪くねぇなー。暖かくなってきたし」
壁にもたれて大澤が呟く。まさに、今が一番気持ち良い状態。適度に暖かくて、適度に酔いが回ってて、適度に理性もある。
それにしてもよく飲むなぁと、一ノ蔵はちょっと感心した。
「まぁ、いいですけど。・・・・でも・・・」
と、言いながら、一ノ蔵が寝ている宮坂を覗き込む。大澤はその様子を見て、笑いながら言った。
「忍は寝たら起きねーぞー」
「ホント?」
「マジマジ。ホント」
大澤の言葉に安心したのか、一ノ蔵が大澤とカナメの二人に向き直る。二人も、その様子につい真面目な顔に戻った。
「実は、二人に話があって・・・」
「なに?どうしたの?」
カナメが身を乗り出してテーブルに肘をつく。大澤はグラスを床に置いて、顎を上げた。
「それが・・・」
と、一ノ蔵は高校時代の養子縁組の口約束のこと、それが今になって実行されようとしていること、そして・・・今回の本題を順序だてて説明した。
「見合いーーーっ!?」
瞬時にして、酔いが覚めた顔を見せる大澤とカナメ。一ノ蔵は両手でそれを抑えながら、宮坂を振り返った。
「ちょっと・・・忍さんが起きるじゃないですか。静かに・・・、あくまでも静かにお願いしますよ」
「って言っても・・・こりゃ驚くぞ。なぁ?」
大澤が目をパチパチと瞬かせながら、隣のカナメに同意を求める。カナメも首を縦に振りながら、しみじみと答えた。
「うん。これは驚くわよ。だって、珠ちゃんって今年で27・・・だっけ?それで、付き合ってる人の有無を聞かれずに即見合いって・・・。なに?珠ちゃん天上人?」
「天上人って・・・それ、いつの時代ですか、カナメさん」
カナメの言葉に、つい笑ってしまう一ノ蔵。しかし、カナメの方は冗談で言ったつもりはないらしく、いたって真剣な顔で返した。
「だぁって、この二十一世紀の日本にさ、自分の結婚自分で決められないって、そんな人そうそういないわよ〜!」
「俺も同感」
片手を上げて、大澤も肯く。一ノ蔵は困ったなぁという顔で、二人を見返した。
「そうですねぇ・・・。結局、田舎だってことなんだと思いますよ。うちの田舎じゃあ、あんまり珍しくも・・・」
「あっ!」
一ノ蔵の言葉を聞きながら、カナメが声を上げる。大澤と一ノ蔵の二人が視線を投げると、カナメはニヤリと笑って人差し指を立てた。
「そういえば、このマンションだって親戚の持ち物だとかって話だよね?ってことはぁ・・・おぬし、金持ちの坊ンだなぁ」
瞬間、言葉をなくす一ノ蔵。すると、その隙を突いて今度は大澤が言った。
「即座に否定できないところが、珠ちゃんの素直なところだねぇ。いい子いい子」
撫で撫で・・・と、酔っ払っていることも手伝ってか、大澤が一ノ蔵の頭を撫でる。一ノ蔵は釈然としない顔で二人を見ると、やや拗ねたように言った。
「でもですね、俺は三男ですし、家を継ぐつもりもないし、このマンションだって親戚価格ですけどちゃんと家賃払ってますし。本家の金は、俺には関係ないですよ」
「でも分家の跡継ぎになったら、そっちは珠ちゃんのもんじゃーん!」
カナメがカカカと笑いながら、空いたグラスにテキーラを注ぐ。
「だから、継ぎませんって!俺には忍さんがっ・・・!」
結局、自分で一番大きな声を出している一ノ蔵。しかし、言いかけた台詞に対しての二人の悪魔の微笑みに、言葉を切って咳払いをひとつ。
「ですから・・・その、なんとか上手く見合いを断る方法をですねぇ・・・」
「そんなの簡単じゃん。今の告白を、親の前ですればいいだけじゃない」
カナメが立ち上がって、グラスに氷を足す。大澤は視線を天井に投げ、一ノ蔵は深いため息でそれに答えた。
「そりゃ無理ってもんだろ。俺だって、家には言ってないしな」
珍しく真面目な(かつマトモな)コメントの大澤。
そういえば、大澤の実家の話ってあんまり聞かないなと、その時一ノ蔵は思った。
「そっかー。みんなウチみたいに楽ってわけじゃないもんね」
「お前のところは特別だっツーの」
あきれたような笑顔の大澤。一ノ蔵は指先でクルクル氷を回しているカナメに聞いた。
「カナメさんのトコロは、ご存知なんですか?」
「うん。知ってるよー。うちのパパはヨシと一緒だし、ママはアタシと一緒だし」
なんでもないことのように言って、カナメがグラスを傾ける。一ノ蔵は、少し考えた後で更に聞いた。
「一緒って・・・お父さんはどっちもイケて、お母さんは女性が好きってことですか?」
すると、カナメと大澤の二人は無言でコクコクと肯く。一ノ蔵はなんて返したらいいのか分からずに、ぽそっと一言呟いた。
「・・・・・・おやまぁ」
「でもねー、二人とも子供が好きで、欲しかったんだと思うんだよねー。で、とりあえずこの人ならいいかもーってことで結婚したんだと思う。今は離婚して別々に暮らしてるし、それぞれに恋人もいるけど、いまだに仲良いよ〜。ホント。友達としては最高なんだと思う」
まるで映画か漫画の世界のようだ・・・と一ノ蔵は呆然とする。そんな話がありえるなんて・・・と感心したのもあった。
「また、コイツの父親かっこいいんだわ。マジで」
隣で飲みながら、大澤が深く肯く。
「あんなにカッコイイ父親がいたら、普通の男には惚れないって」
あまりにも褒める大澤に、一ノ蔵は、まさか大澤はカナメの父親に気があったのでは?と勘ぐってしまう。気があった程度で済めばいい話なんだけど・・・と更にその先を考えると怖い想像になってしまったので、とりあえずそこでやめておいた。
「そうだねー。アタシ、ファザコンでマザコンだもん。珠ちゃんとこは、どうなの?理解してくれなさそうなの?」
「理解もなにも・・・。話の意味すら理解できないと思いますけど・・・」
ふぅーっとため息をついて、うなだれる一ノ蔵。それを見た大澤が、こちらも深いため息で返した。
「だよなー。俺んトコも、そんな感じだもん」
カナメは大澤の両親を知っているのか、それに小さく肩をすくめて返す。
それぞれ思うところがあるのか、ふと流れた妙な沈黙。カナメは暗い一ノ蔵の顔を横目で見ると、場の空気を変えるように言った。
「さて、見合いをどうするかだよね?」
***As I grew up***
とかなんとか言ってるうちに、夏。
あれから、特に思い切った案も出ず、だらだらと時間だけが流れた。
一ノ蔵は仕事が忙しいという理由で田舎に帰ることを伸ばし伸ばしにし、見合いの話も「断ります」と言ったまま、双方にらみ合いの状況が続いている。しかし、どこかで実家に帰ってはっきりさせないと、事態がこのまま収まることがないことを、一ノ蔵はよく分かっていた。
で、一ノ蔵とカナメの二人は、一ノ蔵の会社近くのレストランでランチを食べていた。
カナメが近くまで来た・・・というのもあるが、実はコレ、宮坂にも大澤にも内緒の密会。そう、二人には、二人きりでなければ話せない秘密があったのだ。
この間は一ノ蔵の見合い話でうやむやになってしまったものの、カナメと一ノ蔵にはどうにかしたいことが二つあったのである。
ひとつは、宮坂に、カナメとウィルが一緒に仕事をするということを、最小限のショックで教えるということ。ふたつ目は、大澤とジョーにゆっくりと話をする機会を与えるというものだ。
「さて・・・どうしようかぁ・・・」
珍しく気弱な顔で呟いたカナメは、腕を組みながらため息を漏らす。一ノ蔵も同じように腕を組むと、ため息交じりでうなだれた。
「ジョー君さぁ・・・、やっぱりヨシのこと気になってると思うんだよねぇ・・・かなり」
沖縄で話した時に得た確信。あれは恋する人間の顔。しかも相手は・・・大澤に違いない。
「どんな風に言ってたんですか?ヨッさんのこと」
「んとねー、実は直接ジョーくんが『大澤論』(←どういうもんだ?)を語ったわけじゃないんだけどさ、アタシがヨシのこと話すと、なんかイロイロ突っ込んでくるんだよねー。中学時代のヨシのこととか、趣味とか好みとか恋愛感覚とかさー」
大澤の趣味とか好みとか恋愛感覚・・・。一ノ蔵は、別に大澤とどうこうするつもりはないけれど、中々興味深いトピックだなぁと思った。今度、じっくり突っ込んでみよう。
「で、それを聞いてる時の顔が、可愛いんだー。バレバレなんだもん、好き好きー!ってのがさ」
「好き好きがバレバレの顔・・・ですか?はぁ・・・」
どういう顔なんだそりゃ?と言いたげな一ノ蔵の顔。するとカナメは、傍らの水に手を伸ばして、少し喉を潤した後に、ふと漏らした。
「そういやさ、知ってる?忍ってねー、綺麗なフォームで泳ぐんだよー」
「忍さんがですか?」
語尾にハートマークがついているような一ノ蔵の反応。すかさずカナメは続けた。
「うん。いまでも一緒にジムに行ったりするんだけどね、波を立てずに、魚みたいに泳ぐんだよ。今度みんなで海にでも行こうよ。忍も、新しい水着買おうかなって言ってたし」
「へぇー、そうなんですかー!いやぁ、忍さんらしいなぁ・・・泳ぎが綺麗かぁ・・・」
即座に思いは夏の海へ。同時に膨らむあらぬ妄想。水着って、どんなんだろう・・・?と、その瞬間。
「はい!その顔っ!」
突然、ビシッと指をさされて一ノ蔵が固まる。一体何事かとカナメを見返すと、カナメがにっこり微笑んで言った。
「それが『好き好きがバレバレの顔』なのよ」
う。確かに、頬の筋肉が違ってるのが自分でも分かる。納得ですカナメさん・・・と、一ノ蔵は苦笑した。
「なるほど・・・・ははは」
「分かるでしょー。アタシ、なんか切なくなってきちゃってさー。あまりにも真正直に顔にでるんだもの、アレじゃあウィルだって気付くわよ」
ふぅっとため息を漏らすカナメ。一ノ蔵は出されたコーヒーに手を伸ばしながら、カナメを見た。
「え?ウィルさんは気付いてるんですか?じゃあ反対・・・とか?」
するとそれに、どうして?という顔で一ノ蔵を見るカナメ。
「とんでもない、ヨシはウィルのこと嫌いだけど、ウィルはヨシのこと好きだもの。だから、自分が忍をふった直後にヨシに電話したんだし」
「電話・・・ですか?」
「うん。『今、追い出したから』みたいなことを、ちょっとね。でもさー、本当に忍のことどうでもいいと思ってたら、ヨシにそんな電話してないと思うんだよね。アタシもヤツの物言いには、かなりカチンとくる部分もあるけど、でもヨシが感じてるほど、ウィルは悪いヤツじゃないと思うんだ。ジョーくん見て、アタシ、ウィルのこと見直したもん」
『追い出したから』・・・。一ノ蔵の胸の中がチリっと焼ける。この間会ったウィルの感じでは、今も昔もウィルは忍のことが好きみたいだったのに、なんでそんなことを言わなくちゃいけなかったんだろう?それは、この間も不思議に思ったんだけど・・・。
「ジョーくんね、いい子なんだー。マナーはいいし、敬語もちゃんと使えるしさ。優しいし気が利くし、素直だしね。オヤジを反面教師にしたのか、いい方に転んだみたい。でも、そこまでちゃんと育てたのはウィルだって思うとさ、へぇ・・・こいつもやるじゃんって思った」
「でも、ヨッさんは誤解したまんまですよね?ジョーくんがなんか企んでたと思ってるんでしたっけ?」
コーヒーを飲み干し、一ノ蔵が呟く。その言葉に、カナメが天井を仰いで吐き出した。
「あーーーもーーーそうなのよねーーーーっ!そこだけは親に似ちゃったっていうかさ、本当に好きな相手には、素直になれないっつー変な習性があるのよー!」
それは困った習性だなと、一ノ蔵も思わず首を傾げてしまう。素直になるにも勇気がいるっていうのは分かるけど、十七歳で素直に恋ができないのは、ちょっと悲しいなと思った。
「ってことでね、ちょっと考えがあるんだ。全部を一気にまとめちゃおうっていう作戦がさ!」
そこで、人差し指を立てて、カナメが満面の笑みを浮かべる。一ノ蔵は、微妙に嫌な予感がしながらも、とりあえず聞いてみた。
「作戦・・・ですか?」
***As I grew up***
「というわけで、今日からしばらくウチで合宿してもらうことになったジョーくんです!」
宮坂は、カナメが突然連れてきた少年を前に、ポカンと口を開けた。
「・・・はぁ」
連れてこられたジョーの方も、やや緊張の面持ちで宮坂を見ている。
「ジョーくん、こっちはアタシのルームメイトで中学時代からの友達の宮坂忍。翻訳家だから、家で仕事してるの。で、忍、こっちが、今度アタシがモデルとして一緒に仕事をしていくジョー・・・えっとね、苗字は仕事では使わないから省略!で、ジョーくんはまだモデルは始めたばっかりだし、高校が丁度夏休みに入ってるから、ウチで修行も兼ねて合宿してもらうおうと思って。・・・ダメかな?」
いきなり連れてきてダメかと聞かれても、本人のいる前でダメとも言えないだろう・・・と宮坂は思う。それ以前に、ジョーの東洋的であり西洋的でもある独特の雰囲気に、思わず見とれてしまった。
「いや・・・別に構わないけど・・・。どうも、始めまして、宮坂です」
「あ、始めまして、ジョー・・・です」
苗字は禁止というカナメの言葉を思い出し、ジョーが苗字を飲み込みつつ、ひきつった笑顔を見せる。ジョーはジョーで、これがシンの話していた「忍ちゃん」かと思いながら、目の前の、日本人離れした色気と憂いを含んだ宮坂の顔を凝視していた。
じーーーーーっ。
ついつい無言で見つめ合ってしまう。カナメが、しびれを切らしかけたその時、玄関のベルが鳴った。
「こんばんはー、忍さん。モンブラン(←自由が丘にあるケーキ屋。シュークリーム激ウマ)のシュークリームとサバラン買って来ましたよ」
カナメに通され、上がりこみながら一ノ蔵が不自然な笑顔を見せる。それもその筈、あくまでも自然に登場するようにと、カナメに言われての登場だった。
「忍さんのことを思うと仕事も手につかなくなっちゃって、思わず飛んで来ました〜♪」
一ノ蔵の顔が引きつっている。ちなみにこれもカナメが用意したセリフであった。が、ケーキを居間のテーブルに置いた瞬間、カナメの手が一ノ蔵の腕に伸びる。そして、部屋の隅に引っ張ると、カナメが眉間に皺を寄せながらヒソヒソ声で怒鳴った。
「ちょっとー、自然にって言ったっしょ!なんなのよ、そのアホっぽい登場は!不自然きわまりないじゃんっ!」
すると一ノ蔵も、混乱しながらヒソヒソ声で返す。
「そんなこと言ったって、カナメさんがああ言えって言ったんじゃないですか!俺だって、いっぱいいっぱいですよ!」
「『こんな風なことを言ってね』って言ったんじゃん!大体、あんなこと言うの珠ちゃんのキャラじゃないっしょ!忍だって怪しむよー!」
と、二人揃って、ソロソロと宮坂を振り返る。・・・が、宮坂は何を疑う感じもなく、嬉しそうに一ノ蔵のことを見ていた。
「・・・・え?喜んじゃうの?」
カナメが疑わしい目で呟く。すると一ノ蔵が、安心したように宮坂の隣に移動して座った。
「忍さん、今日は何してたんですか?」
「うん。仕事して、部屋の掃除したんだ。僕も一ノ蔵さんに会いたかった」
ニコニコと語り合う二人。その姿に、さらにカナメが疲れたように呟いた。
「なに・・・?バカップル?」
一瞬にして二人の世界を作り上げた宮坂と一ノ蔵に、自然に来いなんて言わなくても一ノ蔵は来るし、ラブラブっぷりを見せろなんて言わなくても勝手にイチャイチャするのね・・・とカナメは思う。すると、いきなり場外に弾き飛ばされたジョーが、所在無げに言った。
「あ・・あの、僕、席を外しましょうか?」
目の前で展開されるロマンスに、どうしていいか分からず、うろたえるジョー。カナメは待ってましたとばかりにジョーの隣に座って言った。
「あー、いいのいいの!この二人は勝手にラブラブしてるからね。こっちは一ノ蔵珠三郎さん、通称珠ちゃん。忍の彼氏なの」
「え!?」
よし!この反応が欲しかった!と、心の中でガッツポーズのカナメ。ジョーには一ノ蔵の存在は内緒にしていたし、宮坂に恋人がいることも黙っていた。
宮坂は、好きな相手に対しての感情がストレートに出るタイプだし、素直である。それが愛される理由でもあるのだけども、ジョーを直接宮坂にぶつけて、愛される体質を身体で学ばせようという魂胆であった。
そして、宮坂に対しては、『ウィルの息子』という枠をとっぱらった状態で、ジョーとなじんでもらおうという意図。
「ちょ・・・ちょっと、カナメ・・・」
「大丈夫大丈夫!ジョーくんはそういうの大丈夫だから。ね?」
そういうの・・・とは当然、同性愛に対する偏見の意味である。しかし、突然話をふられて、ビクっとしたジョーは、なんとか肯くと、宮坂を気遣ってか、慌てて言った。
「あ、はい。僕もオトコ大丈夫ですっ!」
***As I grew up***
いやぁ、某ドラマと兄弟の名前がかぶってきたりして一瞬焦りましたが
そんなの喉もと過ぎちまえば関係ないヤーって感じです(←おい)。
誤解されることもないと思いますが、パクリではありません(笑)
さて、ジョーくん参戦。これから夏に突入(←季節感無視ッス)。