***As I grew up***



 バスローブ姿でソファに座り、一ノ蔵はシュークリームを食べていた。
 教訓通り二人で遅い夕食を取り、いまは宮坂がシャワーを浴びている。一ノ蔵は宮坂が片付けをしている間に、浴び終わっていた。
 間接照明だけがぼんやりと灯る薄暗い部屋。BGMもない中で、傍らの紅茶に手を伸ばす。熱い液体が喉を流れ、一ノ蔵は深く息をついた。
 あれだけうろたえたのが嘘のように、心が穏やかだ。一体、何が怖かったんだろう?自分が怖かったんなら、きっと宮坂はもっと怖かった筈。何故だか分からないけど、そんな風に感じた。
 カチャ
 音がして顔を上げると、バスローブ姿の宮坂がバスルームから出てくる。一ノ蔵が自分の部屋にいないことに、少なからず驚いたようだった。上気した頬の上で、黒い瞳が丸くなる。
「なにしてるの?」
「ケーキ食べるの忘れてたから。今日中に食べるようにって書いてあるし」
「あ、そうか」
 髪を拭きながら宮坂が一ノ蔵の隣りに座る。ケーキの箱を覗き込むと、宮坂の目が輝いた。
「ああああ!ナポレオンパイがある!」
「あ、それなんかイチゴがたくさんでゴージャスっぽかったから買ってみました」
「たっ・・・たっ・・・食べてもいい?(どもるほど好きなのか・・・)」
「だって、忍さんのために買ってきたんですよ」
 当然という顔で微笑む一ノ蔵に、宮坂が感激の眼差しを送る。カサカサと銀紙を鳴らしながら、宮坂の指がケーキを掴んで、そのままかぶりついた。
「美味しそうに食べてくれますね〜」
 素直に感心して一ノ蔵が呟く。宮坂はモクモクと口を動かしながら、まさに至福といった顔をして見せた。
「美味しい?」
 一ノ蔵の問いかけに、コクコクと何度も肯いてみせる。一ノ蔵はそれを楽しそうに眺めながら、宮坂の頬に付いたクリームを指先ですくった。
「ん。確かに美味しい」
 パクっと指先を舐め、一ノ蔵が言う。向けられた笑顔に宮坂はなんだか恥ずかしくなって、食べかけのケーキを置いた。
「あれ?食べないんですか?」
 さっきのシュークリームの食べかけを口の中に放り込みながら、一ノ蔵が宮坂を見る。宮坂は小さく肯くと、傍らのティッシュに手を伸ばした。
 恥ずかしそうに俯きながら、口の周りをティッシュで拭く。もう残ってないよねと、心の中で祈ってみた。
「あとで、食べるから・・・・」
 あと?なんの・・・あと?そんなことを考えてしまい、シュークリームを飲み下しながら一ノ蔵もちょっと恥ずかしくなる。さっきはあんなに落ち着いてるなと思ってたのに、やはり本人を目の前にすると駄目みたいである。
「すみません。ちょっとティッシュ俺にも・・・」
 と、一ノ蔵が宮坂の目の前に手を伸ばす。一ノ蔵としては宮坂の前にあるティッシュを取ろうとしただけ。が、宮坂はその指についたカスタードクリームを少し眺めた後、ペロリと舐めた。
「しのっ・・・!」
 ゾクリと駆け上がる感触。宮坂は自分がしたことの効果に気付かぬまま、きょとんと一ノ蔵を見返した。
「ど・・・どうしたの?」
 『ティッシュペーパーも貴重な資源』とは、自称エセエコロジスト(←なぜかエセ)のカナメの言葉。だから、舐めただけなんだけど・・・。
 指先に感じた宮坂の舌の感触に、一ノ蔵が『困ったなぁ』という顔をして見せる。さすがにこの想像は、宮坂には言えなかったけど。
「寝た子が・・・起こされちゃいました」
 頬を指先でポリポリと掻きながらの呟き。いくらなんでもこの言葉の意味は分かる。宮坂は顔を真っ赤にすると、黙って俯いた。
「忍さん・・・・」
 俯く宮坂の顎に指をかけ、そっと上を向かせる。戸惑いながらも絡めてくる視線。一ノ蔵が、不意打ちで額に軽くくちづける。そのキスで微笑んだ宮坂に、そのまま口唇を重ねた。
「・・・・・んっ・・・」
 やけに甘いのはクリームのせいだけじゃない。一ノ蔵が宮坂の身体を抱き寄せながら、バスローブから覗く足を自分の膝の上に乗せた。
 一ノ蔵の首にゆっくりと回す腕。顔を傾けて一ノ蔵の口唇に応える宮坂が、潤んだ瞳を薄く開けた。
 長いくちづけの合間にも、鼻腔をつく、石鹸とケーキの香り。胸にこみあげるのは、切なさの欠けらとそれを隠して余りあるときめき。距離が縮まる度に強くなる引力が、より一層お互いを近づけ、そして一ノ蔵は宮坂の身体をそっと押し倒した。
「んっ・・・」
 バスローブの裾を割り、一ノ蔵が宮坂の内股を撫で上げる。ピクリと背筋が反り返り、白い胸元がはだけた。そのまま、宮坂のバスローブのベルトをほどく一ノ蔵。薄暗い部屋の中に、宮坂の白い身体が浮かび上がった。
 一ノ蔵の手は宮坂のそれには触れずに、内股を撫でた後、後ろへと回される。小ぶりできゅっとしまった二つの盛り上がりを包む大きな手。そのまま、胸の上で舌を遊ばせながら、一ノ蔵の身体が降りて行く。
「・・・・・っ・・・」
 宮坂のへその脇の小さな黒子をやんわりと歯で噛み、その下にあるモノに舌を絡ませる。一ノ蔵の肩が、宮坂の足の下に入り込んだ。
 が、今回は前のようにただ焦らすのとは違う。前に触れると同時に、湿らせた指が後ろにもゆっくりと侵入する。ソファの袖に乗せた宮坂の頭が、せつなく左右に振られた。
 押さえた呼吸と共に、漏れ始める熱い息。宮坂の手が一ノ蔵の髪を力無く掴み、薄く開いた目がその頭を見下ろした。
 唾液が音を立てるほど激しく、一ノ蔵の舌が宮坂の前を追いつめる。宮坂が自分の手の甲を、口に押し当てた。
「っ・・・・っ・・・」
 漏れそうになる声を押さえて、宮坂が目を潤ませる。激しく上下する胸が、宮坂の高まりを伝えていた。
 この間とは違うなと、宮坂も思っていた。この間と変わらなく優しいけれど、この間よりも熱い。安心して委ねられるような、そんな大きな波のような感じ。このまま、巻かれてしまいたいような・・・。
「っ・・・あっ・・・・!」
 足を持ち上げられ、指が増えていく感触。口唇は震え、こらえきれない声が漏れる。
「大丈夫?・・・・忍さん」
 一ノ蔵は、手では宮坂をいじりながら身体を宮坂の間に置き、心配そうに宮坂のことを覗き込む。顔が近付き、宮坂の頬にくちづけた。
「大・・・丈・・・・っん」
 話しながらも、自分が一ノ蔵の指を締め付けてるのが分かり、恥ずかしさに目を閉じる。一ノ蔵はその締め付けのきつさに、少し首を傾げた。
 これって・・・・。こんなにせまくちゃ無理なんじゃないかな?と一ノ蔵は思う。これじゃあ、無理をしたら宮坂のことを傷つけかねない。それは嫌だし・・・。と、一ノ蔵はあることを思い出し、宮坂の身体から指を抜いた。
「・・・・?」
 身体を離す一ノ蔵を、宮坂は不思議そうに見上げる。
「ちょっと、待ってて下さいね」
 微笑んで一ノ蔵は言うと、自分のスーツのポケットからあるものを取り出し、ソファに戻った。
「どう・・・したの?」
 身体を起こして問い掛ける宮坂。一ノ蔵は一瞬返事に困り、曖昧な笑顔を見せる。それでも首を傾げる宮坂に、恥ずかしそうに言った。
「笑わないって・・・誓ってくれます?あ、もしかしたら怒るかもしれないけど・・・」
 言いながら、財布を広げる。宮坂は訳が分からずにその財布を覗き込んだ。
「怒るようなこと、したの?」
 宮坂の言葉の間にも、一ノ蔵は財布の奥にこっそり隠してあったものを取り出す。それを見て、宮坂も恥ずかしそうに一ノ蔵を見返した。
「これって・・・・・」
「前に、ホテルでバッタリ会った事あったじゃないですか?あの時に、ヨッさんに貰ったんですよ」
 そう言って一ノ蔵が宮坂に渡したものは、ズバリ、コンドーさん。ビニールの表面にはマジックで『ジャストミート祈願』と書いてあった。
「芳之・・・・」
 あまりの恥ずかしさに、宮坂が手で口元を隠し顔を逸らす。
「残念ながら、一個しかありませんけど」
 一ノ蔵が言うと、宮坂がバスローブを身体の前で引き合わせて立ち上がる。どうしたのかと一ノ蔵が視線で追いかけると、宮坂も自分の部屋に入って何かを取ってきた。
 ポンっと・・・宮坂が一ノ蔵の手に小さな箱を渡す。薄暗い中、目を凝らすと、箱を覆うビニールに『交わる角には福来たる。ケンカをしたら即使用!』と書いてあった。
「この間置いてったの・・・・」
「ヨッさん・・・・・」
 なんとも表現しがたい笑顔を見せて、一ノ蔵が首を傾げる。これも大澤なりの応援なのか。それにしても、本当にあの人はセックス重視なんだなと、一ノ蔵は思った。分からないでもないけど。
「じゃあ、あの・・・・」
「・・・・・・うん・・」
 まだどこか恥じらいの抜けない宮坂の同意を聞きつつも、一ノ蔵は『ジャストミート祈願』を口の端にくわえる。ソファに座り直した宮坂の身体にのしかかり、はだけるバスローブ。宮坂の箱の方をテーブルに置くと、ビニールの端を歯で押さえたまま片手でビニールを破・・・・・ろうとして止まった。
 宮坂の膝を割りつつも、やはりこれでいいのかな?という気がする。いや、今回は変な自意識過剰ではなくて・・・。
「ね、忍さん?」
「・・・・なに?」
 口にくわえたブツを指先で掴み、甘い視線の宮坂を見つめる。一ノ蔵は改めてソファの上に両膝を揃えて座ると、乱れる宮坂の前髪を指で掻き上げながら言った。
「ぎゅっと抱きしめて・・・」
 一ノ蔵の要望に、宮坂がやわらかい笑顔で首に腕を回す。ぎゅっと抱きしめると、一ノ蔵の腕が宮坂の身体を抱き返した。
「次は・・・・キスして」
 ねだるように言う一ノ蔵に、宮坂は少し恥じらいながらも口唇を重ねる。優しいキスに目を閉じ、舌を絡めると、最後に一ノ蔵が言った。
「じゃあ・・・本当のこと言ってね」
「・・・・・?・・・本当のこと?」
 抱き合ったまま、鼻が触れ合う距離で見つめ合う。宮坂の瞳が一ノ蔵のそれを捕らえ、頼りなく揺れた。
「本当に・・・・してもいいの?」
 一ノ蔵が目を閉じて、コツンと額を合わせてくる。宮坂は一ノ蔵の言葉の意味が分からずに、目を開けたまま次の言葉を待った。
「俺のために無理してるんだったら、気持ちは嬉しいですけど・・・。でも、忍さんが辛そうなのは俺も辛いですよ」
 その台詞で、宮坂も一ノ蔵の言わんとすることが分かった。確かに、行為自体は必ずしも受け手が存在しなくても成り立つ。実際、男のそれはそこまでフレキシブルな訳ではないのだし(まぁ、用途がそもそも・・・ねぇ)。受け手を存在させれば負担になるのも否めない。けれど・・・・。
「一ノ蔵さん・・・・・」
 そこまで考えてくれた人など、いなかった。その行為が嫌いという人はさておき、宮坂の身体を気遣ってためらうことなど、他の誰もしなかった。できるときには皆したし、宮坂もどこかそういうもんだと思っていたのかもしれない。それで辛い思いもしたけれど、拒んだらその相手との関係も終わってしまうかもしれないという気持ちが、自然と宮坂から拒絶の言葉を奪っていた。
 だから・・・嬉しかった。と同時に、ちょっぴり悲しかった。なんで悲しかったのかは、うまく説明できなかったけど。
 きゅっと、抱きしめる腕。ぎゅっと、抱き返してくる腕。どうしてこの人は、こんなにも優しいのだろう?まだ自分はなにも一ノ蔵にしてあげてないというのに。
「その・・・・・・入れ・・・なくても、一ノ蔵さんは・・・・いいの?」
 耳元で、小さく囁く。その泣きそうな声に、今度は一ノ蔵の胸が軋んだ。その弱気な囁きが、いままでの辛さを物語っているようで・・・。
 きっと、一ノ蔵が聞かなかったら、何も言わずに身をまかせていたに違いない。一人で辛い思いをして、それでも責める言葉ひとつ漏らさないのだろう。
 どうしてそんな?なんでそんな?自分を傷つけてまで与えようとするの?
 一ノ蔵は宮坂の頭を撫でながら、出来るだけ笑顔で呟いた。
「俺はただ・・・・二人で、一緒に気持ち良くなりたいだけですよ」
 宮坂は、じっと一ノ蔵のことを見つめ、そのまま一ノ蔵の口唇に自分のそれを重ねる。そして口唇を離して一ノ蔵の首にしがみつくと、擦れる声で呟いた。
「他の誰も・・・・知らなきゃよかったな。一ノ蔵さんが、最初だったら良かったのに・・・・」
 なんて可愛いことを言うのだろうと、一ノ蔵は切なさに眉を寄せる。一ノ蔵は自分の足の上に座る宮坂をぎゅっと抱きしめて言った。
「何言ってるんですか。そんな嬉しいこと言ってもらえるのも、今までの忍さんがあったからでしょ?それが無かったら、こんな風にいま・・・一緒にいなかったかもしれないじゃないですか」
 宮坂は、身体を離して一ノ蔵の顔を覗き込む。半開きの宮坂の口唇が、うす闇の中で艶やかに光った。
「俺が好きなのは、ここに今こうしている忍さんで・・・・・。だから・・・・今までのなにもかも・・・きっと無駄じゃないと思いますよ。・・・ね?」
 優しく微笑む一ノ蔵を、宮坂は大きな瞳で見返している。潤んだ目が、静かに細められた。
 胸に広がる、甘い痛み。嬉しいのは、きっと今までが痛かったから。無傷の心だったら、染みなかったであろう言葉。
 宮坂は、手を伸ばして一ノ蔵のバスローブのベルトをゆっくりと解く。はだけた胸へ手を滑り込ませると、一ノ蔵の首筋に顔をうずめながら言った。
「無理なんか・・・・。今までのことが、無駄じゃないなら・・・・きっと・・・このためだもの」
 一ノ蔵は、やられたといった顔で甘いため息をつく。そのまま柔らかい髪を撫でると、恥ずかしさに顔をあげようとしない宮坂に言った。
「全く、本当に・・・寝た子を起こすのが上手いですねぇ・・・」




***As I grew up***



 繰り返される甘いくちづけ。ソファが軋んで音をたてる。
 宮坂は熱くなった一ノ蔵の身体に、しがみつくように抱きついた。
「ん・・・・辛かったら・・・・言ってね、忍さん」
 ゆっくりと侵入してくる一ノ蔵に、宮坂が首を縦に振って応える。本当は既にきつかったのだが、宮坂はなにも言わなかった。
 一ノ蔵が宮坂の耳に舌を差し入れ、宮坂の背筋がひきつるように反り返る。けれど、同時にゆるまった締め付けに、一ノ蔵が息をついた。
「はっ・・・・あ・・・」
 いつまでも耳から出て行かない一ノ蔵の舌に、宮坂が眉を寄せて身体を震わせる。自分では押さえようも無い痺れが断続的に与えられ、宮坂の目尻に涙が滲んだ。その間にも、ジリジリと身体を進める一ノ蔵。
 閉じることのできない口唇からは、熱い吐息が漏れていく。一ノ蔵の手が宮坂の前をゆっくりと撫で上げる。決して焦ることのない愛撫が、余計にもどかしく宮坂の身体を熱くした。
「あっ・・・一ノ蔵・・・・さんっ・・・」
 限りない甘さを伴った疼き。熱に浮かされたように自分を呼ぶ宮坂に、一ノ蔵がそっとくちづける。
「大丈夫・・・だからっ・・・・・もっと・・・」
 好きにして構わないのに・・・と宮坂は思う。身体は、次の刺激を求め、繰り返すひくつき。と、一ノ蔵がかすかに赤くなった宮坂の耳元で囁いた。
「忍さん・・・・溶けてきてる。吸い付くみたいに・・・・」
 途端、恥ずかしさにカッと熱くなる宮坂の身体。一ノ蔵は宮坂の太腿に手をかけると、柔らかいソファの上に膝を立てて宮坂を見下ろした。
「じゃあ・・・・ゆっくりね」
 言葉通り、ゆっくりと一ノ蔵が動き出す。その動きに合わせて揺れる宮坂の身体。柔らかい髪が、ソファの上で細かくうねりだした。
「んっ・・・・っ・・・・」
 突き上げられると同時に前をいじられ、必要以上に中の一ノ蔵を締め付けてしまう。最初からこんなにも乱れる自分が恥ずかしくて、宮坂が自分の顔の上で、腕を交差した。
「どうして・・・・?」
 ギッギッと一定のリズムで揺れるソファの上で、一ノ蔵は宮坂の腕に手をかける。その下に隠された顔を覗き込んでは、嬉しそうに微笑んだ。
 細かな出し入れが、徐々に深い抜き差しへと変わって行く。無理なく動けるようになってきた一ノ蔵が、手の動きも早めて行く。
「はっ・・・あっ・・」
「平気・・・?もっと、欲しい・・・?」
 柔らかい口調ながら、質問の内容に宮坂の羞恥心が疼く。そんなことを言われても、返答に困るのに・・・。
 けれど、一ノ蔵の気遣いの所為で痛むことのなかった身体は、怖いくらいに甘く反応している。一ノ蔵は、赤く上気した宮坂の身体を抱き寄せた。
 首筋に這わせる舌。宮坂の腕が、けだるく一ノ蔵の首に回される。汗ばんだ一ノ蔵の身体は、宮坂のそれよりも熱かった。
 そのまま一ノ蔵は身体を反転させ、宮坂を上に乗せる。一ノ蔵を見下ろすような体勢になり、宮坂が一ノ蔵の胸に手を置いた。
 ゆっくりと動き出す一ノ蔵。下から突き上げられ、宮坂の身体が拠り所の無いままに切なく揺れる。
「っ・・・んっ・・・・」
 一ノ蔵の動きに合わせて、内側が細かく収縮を繰り返す。宮坂の前で震えるそれも、そろそろ限界のようだった。
 一ノ蔵は、細い腰を掴んだまま、目の前の宮坂を見とれるように見つめている。伏せた睫毛に滲む涙が、痛いくらいに愛しい。宮坂にはああいったものの、こんな宮坂を知ってるのが自分だけならいいのに・・・とも思った。
「はっ・・・・ん・・・・あ・・」
 必死に声を堪えているのが分かる。目を閉じ、首を振る宮坂。
「忍さん・・・っ・・・綺麗・・・」
「えっ・・・」
 瞬間、閉じていた目を薄く開いて宮坂が一ノ蔵を見下ろす。自分をじっと見つめる一ノ蔵に、再び羞恥心が刺激された。
「・・っ・・・や・・・」
 言葉の代りに、滲んでいた涙が一ノ蔵の胸に落ちる。一ノ蔵は下から宮坂を支えたまま、上半身を起こして宮坂に向かい合った。
 優しく髪を撫でて、触れる口唇。軽く触れると、宮坂が子供のようにしがみついてきた。
「離れ・・・・ないで・・・っ・・・」
 どうしてだか泣き出す宮坂。一ノ蔵は不思議に思いながらも、優しく抱き返す。
「じゃあ・・・・このまま・・・ね」
 一ノ蔵が膝を曲げて、抱き合ったまま動き出す。足りないものを貰ったように、宮坂が熱い息を漏らした。




***As I grew up***



 熟睡。
 心身ともに満たされたというか、心地良い疲労というか、とにかく二人はベッドで熟睡していた。ソファの周りには脱ぎ散らかしたバスローブ。一ノ蔵の腕の中で、宮坂は『目覚めれば忘れるけれど、とにかく楽しい夢』を見ていた。それほど充実していたのだ。
 ・・・・・目覚し時計をかけ忘れるほどに・・・・。
 一ノ蔵はぼんやりと目を開けると、見なれない天井に違和感を覚える。が、すぐにそれが宮坂の部屋だと気付き、腕に感じる宮坂の頭の重みに微笑んだ。
 宮坂は一ノ蔵の胸に腕を回して眠っている。規則正しい寝息が、その眠りが安らかであることを物語っていた。
 あれからベッドに移動して、何度もキスをした。それこそ、数えられないくらいの・・・。
 宮坂はキスが上手いなと思う。キスだけでその気にさせるというか・・・とにかく、あんなキスをする人に出会ったのは初めてだ。口唇も舌も・・・・。
 舌・・・という言葉に、あらぬことを想像してしまう一ノ蔵。あの舌で・・・・・してもらったら、すごいだろうな・・・と。いやいやいやっ!本当に求めるのはそういうことではなくて・・・。
 朝から元気になりそうなミスターエックスをなだめながら、一ノ蔵は宮坂の寝顔を見つめる。・・・と、宮坂が小さく身じろぎ、目を開けた。
 薄く開いた目が、ゆっくりとさまよい一ノ蔵を見つける。その瞬間に漏れた笑顔が、一ノ蔵の胸を締め付けた。
「おはよう・・・ございます」
「おはよう・・・」
 目を擦って、宮坂が身体をずり上げる。顔が近付いて、一ノ蔵が宮坂に軽くくちづけた。
 汗の引いた素肌の感触。それを味わうように抱きしめる。何もせずただ抱き合っていると、お互いの鼓動がじんわりとお互いの身体に染み込んでいくような気がした。
「身体・・・辛くないですか?」
 一ノ蔵の問いに、宮坂が少し恥ずかしそうに微笑む。
「一ノ蔵さん・・・優しかったから・・・・・」
 その答えに、安堵の笑みで返す一ノ蔵。宮坂は、言おうかどうしようか迷いながらも、結局続けて言った。
「あの・・・・・ありがとう・・・。昨夜は・・・その・・・・・とても・・・・」
 言いたいことは分かるものの、あまりにも宮坂が照れているので、一ノ蔵にもそれが伝染する。一ノ蔵もどう返したものか考えながら、小さく言った。
「いえ・・・・忍さんも・・・・・とっても・・・・・」
 もじもじもじもじ・・・・。
 一線を越えてなお、恥じらいあう二人。と、その時、居間の方から物音が聞こえた。
「・・・・カナメさん・・・?」
「いや・・・滝口は昼まで帰らないと思うけど・・・・」
 ガウンを着て部屋を出て行く宮坂。一ノ蔵はベッドの上で起き上がりながら、宮坂が渡してくれたガウンに袖を通した。
「えっ!?」
 宮坂の声が聞こえ、一ノ蔵も部屋を出る。・・・と、そこに広がる光景に、一ノ蔵も首を傾げた。
 部屋が、綺麗になっているのである。脱いだままになってる筈のバスローブも、テーブルの上に置きっぱなしの筈のケーキも無い。まるで、昨夜のこと自体がなかったかのように整理された、いつも通りの居間であった。
「まさか・・・・」
 嫌な予感がして宮坂が時計を見る。その瞬間、つられて時計を見た一ノ蔵も宮坂の隣りで固まった。
 昼の十二時。・・・を過ぎている。
 『会社』の2文字が、二人の頭の中でグルグルと回った。
「ど・・・どうしよう・・・」
 呟く宮坂に、一ノ蔵はただ首を横に振る。こりゃあもう、突然の高熱とかでも言わない限り収集がつかない。動揺するよりも先に、一ノ蔵がハンガーにかけてあるスーツから携帯を取り出した。
 中山からの着信履歴がバッチリ入っている。せめてもの救いは、急ぎの仕事がなかったということか?
 ため息交じりで一ノ蔵が会社に電話をしようとした時、玄関の開く音がした。
「ということは・・・・」
 当然、現れたのはカナメ。家に帰ったカナメが部屋を片付けたのだ。もちろん、一ノ蔵がここに居ることも分かっているのだろう。
「あ、おはよう!ゆっくり眠れた〜?むふふん」
 すべてを察した笑顔で微笑むカナメに、二人は返す言葉もなく曖昧な笑みを浮かべる。
「どうせ珠ちゃんも会社休むんでしょ?これからご飯作るから、待っててね〜」
 時に、理解の有り過ぎる友というのも恥ずかしいものだと二人は思う。有り難い時もあれば、困る時もあり。
「ぼーっとしてないで、シャワーでも浴びてきたら?一・緒・に!」
 笑う気力すら起こらずに、二人が再び曖昧な笑みを浮かべる。
 こうして初めての朝(昼?)は、健康的な食事と共に始まるのであった。




***As I grew up***



とりあえず第一段階クリアってことで(笑)。
話はこれから新たな展開へ!
その時一ノ蔵は!?そして宮坂は!?(←なんか妙に煽るなぁ・・・)