***As I grew up***
「どうぞ。散らかってますけど」
と、通された部屋は、確かに散らかっていた(爆笑)。
けれど、別に不衛生とか食べカスがそこらに落ちているとかそういう感じではなく、単なる整理下手ではないかと思われる。片付け魔のカナメと同居している宮坂であるが、実はそんなに神経質という訳ではない。初めての一ノ蔵の部屋に、少しどきどきしながらも、笑顔で靴を脱いだ。
十六畳程のワンルーム。その真ん中にちょこんと座り、宮坂がくるりと部屋を見回す。
コンクリートのうちっぱなしの壁に、今朝起きたままという雰囲気の漂うセミダブルのベッド。脇につんである雑誌。生活感が伝わってきて、思わず微笑んだ。
「すみません。本当に散らかってて」
恥ずかしそうに呟く一ノ蔵に、宮坂が笑顔で返す。低いテーブルの上に買ってきたビールを並べると、一ノ蔵が宮坂の向かいに座った。
「一人で住むには、結構広いですよね」
「実はここ、親戚の持ち物なんすよ。古い建物だし、それで格安なんです」
「へぇ〜」
プシュっと音を立てて、一ノ蔵が缶ビールを開ける。それをグラスに移して二人は乾杯をした。
「あっ!」
ビールを飲みながら本棚を見つめていた宮坂が、短く声を上げる。その視線の先を辿り、一ノ蔵が納得しながら言った。
「ヨッさんに教えてもらって読みました。面白かったですよ」
宮坂が慌てて本棚に手を伸ばす。そこにあったのは、宮坂がはるか昔に翻訳した恋愛小説だった。
「こっ・・これは、まだ・・・なんていうか・・・」
慣れてなくて・・・と言いかけた口をぐっと閉じる。恥ずかしいけど、言い訳は無用。それが仕事だと思うから。
「今度、新しいのが出たら差し上げますから・・・。あ、もしも良かったら・・・の話ですけど」
「喜んで。本読むの、好きなんです」
一ノ蔵がそういうのも肯ける。何といっても、一ノ蔵の部屋が雑然として見えるのは、その部屋の至る所に本があるから。ジャンルもいろいろ。これのすべてを読んでいるのだとしたら、結構すごい。
「どんな本が好きなんですか?」
「そうですね、なんでも読むんですけど・・・ちょっと活字中毒気味なんで」
それも納得。それだけ、本当に本が多かった。火事でもあったら、きっと良く燃えることだろう(←縁起でもない)。宮坂も映画中毒。最近はもっぱらビデオだが、家に見るべきビデオがないと落ち着かない(私もそうです)。
「推理モノも好きですし、恋愛モノとか、ファンタジーとか。歴史モノもそれなりに・・・」
「へぇ。すごいですね。ちなみに、一番とかって決められますか?」
「一番ですか?・・・そうですねぇ」
少し考える一ノ蔵。が、出てきた名前は意外なものだった。
「『百万回生きた猫』ですかね?」
宮坂は、首を傾げる。読んだことがない・・・と思った。
「誰が書いた話なんですか?」
「確か、佐野ヨウコとかなんとか・・・谷川俊太郎の奥さんでしたっけ?違ってたらすみません。あ、絵本なんです」
「絵本?」
一ノ蔵は、絵本も読むのか?とまた、宮坂驚く。すると、一ノ蔵は積んである本の中をごそごそとまさぐり、薄い絵本を宮坂に渡した。
「良かったら、読みますか?あ、でも家で読んだ方がいいですよ」
素直に受け取って、宮坂が一ノ蔵を見る。なんというか、知れば知るほど不思議な人。宮坂は、初めて見た時一ノ蔵に感じた直感めいたものが間違っていないことを悟った。
「ありがとう・・・」
「宮坂さんは、何か好きな話とかありますか?」
「好きな・・・話?」
視線を巡らせて、考えてみる。映画だったら、あるけど。
「どっちかというと・・・幸せな話の方が好きなんですけど・・・」
そう。好きなのはハッピーエンド。悲しい終わり方は痛すぎる。それが現実と言う人もいるかも知れないけど、痛いのは現実だけで充分だと宮坂は思う。
「『めぐり逢えたら』とか、印象に残る台詞のあるものが好きです」
二人して、ビールを一口。そして、一ノ蔵が言った。
「へぇ。それはどんな台詞だったんですか?」
「主人公のトム・ハンクスは奥さんを病気で亡くしていて、それでその息子が落ち込んでるお父さんの為にラジオの相談室に電話をするんです。『サンタがパパに新しい奥さんをくれますように』って。で、ムリヤリ電話に出させられたトム・ハンクスが、無くなった奥さんがいかに特別な存在で、どれほど愛してたかってことを語るシーンで言うんです。『She made everything beautiful.(彼女が僕の世界のすべてを素晴らしくしてくれた)』って・・・」
いまでもそのシーンを思い出すと胸がじんとする。誰かがいるだけで、この世界に色がつく。音楽が鳴り響き、苦痛が和らいで、涙が微笑みに変るということを、この台詞が表していると思う。だから、この台詞が大好きだった。
「芳之には笑われましたけどね」
宮坂は茶化して笑って見せる。すると、一ノ蔵はそんな宮坂の頬を指先で軽く撫でた。
やばいことに我慢の限界。即座に引っ込める指。あまりにも可愛らしく語る宮坂に、触れたくてたまらなくなってしまう。が、何もしないと約束したのは自分。微笑み返す頬がピキピキと震えた。
「一ノ蔵さん・・・・」
宮坂も胸がドキドキと高鳴り出す。何もしないって言ったけど、やっぱりそれって方便?いや・・・それでも一向に構わないというか、むしろ嬉しいんだけど。あ、でもあんまり嬉しそうな顔しない方がいいのかな?したいだけって思われたらやだし。自分から服脱ぐのが駄目なんだから、自分から誘うのももってのほかだろうし・・・。
そんな宮坂の目を見つめ返しながら、うっわー、やばい・・・とこれは一ノ蔵。この沈黙。こりゃキスでもしなけりゃ埋まりようも無い。が、それをしたら最後、終点まで停まらない特急列車になってしまうこと間違いなしと、一ノ蔵は思う。頑張れ俺の理性くん!!!
「す・・・すみませんっ」
一応、触ってしまったことに対するお詫び。が、宮坂はその意味が分からずに、ぽつりと漏らした。
「どうして、謝るんですか?」
どうして・・・?って聞いてくるってことは、さっきの台詞はチャラ?なにかしてもいいの?と一ノ蔵は思う。もし、そうなんだったら・・・・。いやいやいや、でもでもでも。
「ラテンの貴公子が・・・」
「ラテンの・・・・?リッキー・マーティンですか?」
突然訳の分からないことを言い出した一ノ蔵に、宮坂が首を傾げる。一ノ蔵はもう、なんと返していいか分からずに、ただひきつった微笑みを浮かべた。
「嫌いじゃ・・・ないですけど。それが?」
あ、やっぱり好きなんだ(←そういうことじゃないでしょ)。ってことは、付き合ったことあるのかな?セクシービームのラテン系と・・・。
「い・・・いや、あの。宮坂さんは、どういうタイプが好きなのかなって思って・・・・」
目を合わさずに言う一ノ蔵。その様子に、宮坂はピンと来る。しかし、ピンと来たもののちょっと納得がいかない。そんなの、言わなくても分かってると思ってたから。
「僕は・・・・・、器用そうに見える割に実は不器用な所があったり、敏感かなと思ったら意外と鈍感なところがあったり・・・・それで、僕の友達とも仲良くできたり、スーツ姿も素敵だけどカジュアルな格好も良く似合って・・・・」
なんだそりゃ、えらく具体的だなと一ノ蔵は思う。おまけに、結構高そうなハードルだったりして。
「それで、僕の話をちゃんと聞いてくれる。そんな人が好きです」
言い切って、宮坂がちらりと一ノ蔵を見る。一ノ蔵は真剣に肯いて返した。
「そうですか・・・・。結構難しそうですねぇ。外見とかは気にしないんですか?」
やっぱり分かってない・・・と、宮坂はやや上目遣いで一ノ蔵を見る。
「外見は・・・気にしないといったら嘘になりますけど・・・。いま、目の前にいる人が好みです」
「あ、その時付き合ってる人が好みってやつですか?」
分かってないだけでなく、気付かない。やはりここは素直に言うしかないのかな・・・と、宮坂が視線を落とした。
「そうじゃなくて・・・。一ノ蔵さんが好きです」
・・・・・と。一ノ蔵が固まって、ポカンと宮坂を見返す。瞬きすら忘れて、ちらりと視線を送ってくる宮坂を見ていたものの、徐々に首の方から赤くなり、そしてそのまま爆発した。
「だっ・・・でっ・・・・お・・・俺・・・ですか!?」
別に一ノ蔵もそこまで鈍い訳ではない。ただ、あくまでも一般論の話をしているつもりだったから、さっぱり気付かなかったってだけで・・・。が、突然(←いや・・・全然突然じゃないと思うけど)宮坂の口から直接出た言葉に、今日は休業の予定だったミスターエックスがのれんを掲げ始めた。だめだっつーの!
宮坂はこくりと肯き、ちょこっと一ノ蔵の方に近づく。膝が触れ合い、お互いの熱が伝わった。
「あ・・・あのっ・・・・・。もし良かったら・・・あの、本当に、よかったら・・・でいいんですけど。・・・・『忍さん』ってお呼びしても・・・・いいでしょうか?」
あまりにも熱くて汗が出そう。一ノ蔵は、自分の手の甲で頬を冷やしながら言う。すると宮坂が恥ずかしそうに、でも嬉しそうに微笑んで返した。
「・・・・・はい」
***As I grew up***
その頃、部屋の中でカナメが唸っていた。
現像して出来上がった写真をテーブルの上に投げる。ソファの上で伸びをして、再び腕を組んだ。
今日は宮坂がデートなので、勝手に「帰ってこない」と予想。現像液の匂いが苦手な宮坂がいないのを狙って焼いていたのだが・・・。
「うーん」
腕を組んで唸ってみる。時折玄関を見ては、電話で呼び出した奴はまだ来ないのかと、少し苛立った。
ピンポーン
玄関のチャイムが鳴り、続いてドアを開ける音。
「おーい。鍵かけないとあぶねぇぞ」
言いながらあがってきたのは、他ならぬ大澤だった。
会社帰りのスーツ姿に、カナメが一瞥をくれる。
「よ、働きもん。偉いねぇ、お疲れさん」
そんな言葉に手を振り、ネクタイを解きながら荷物を置く大澤。カナメが立ち上がり、大澤用のマグカップを取り出した。
「なんかメシないか?マジで腹減った。あ、今日泊まるから。明日ニコタマ直行だから、ここから行くわ」
「オッケー・・・っと、食べるもんねぇ・・・・。今日は忍がいないから、適当に済ませちゃったのよね。あんた米好きだし」
パンを横目に見ながらも、ご飯党の大澤のために、カナメがご飯のオカズを探す。
「カラシ高菜があるから、お茶漬けにする?」
「いいねぇ。最高」
ソファの上に置かれた写真に手を伸ばしながら、大澤が答える。その返事に、すぐに食事の準備を始めた。
「これか?話してた奴」
「あぁ、そうそう。分かるかな?」
写真をめくり出す大澤に、カナメがキッチンから声をかける。大澤は目当ての写真が見つからないのか、一度写真を置いて服を脱ぎ出す。そのまま立ち上がり、宮坂の部屋に入ると、宮坂の部屋着に着替えて出てきた。
「はいよ」
大澤が再びソファに戻ったところで、カナメがカラシ高菜大盛りのお茶漬けを目の前に差し出す。大澤は有り難く合掌して、それを食べ始めた(なんかこの話、食ってばかりのような・・・)。
「美味い!」
「でっしょ!ここの高菜は本当に美味しいのよ!絶品」
とかなんとか話しながらも、大澤は写真に目を落とす。が、いつまでも反応の見られない大澤に業を煮やしたカナメが、その写真の束に手を伸ばした。
「ちょっと待って・・・アタシが探すから」
「うん。そうしてくれ。俺は先ず食いたい」
「うん。食っててくれ」
ぱらぱらと写真をめくっていくカナメに、するするとお茶漬けを食べる大澤。その合間に、ふとカナメが言った。
「そうだ。珠ちゃんって・・・どんな感じなのよ。いい奴?」
大澤は食べる手を止めずに、肯く。口の中にあるものを飲み込むと、大きく息をついた。
「・・・・・いい奴、なんじゃないのか?少なくとも、忍のことはマジみたいだし」
「まぁ、あんたがそう感じるならそうなんでしょうねぇ」
と、意味深なカナメのコメントにも、大澤は涼しい顔でお茶漬けを食べ続ける。
「俺の好みじゃないけどな」
「そうね。ヨシは一途なタイプはだめだもんね。本人がふしだらだから」
傍からきいていると随分なことを言われている大澤。だけど、それが事実だから仕方ない。別に大澤も怒る気配はないし。
「っつーかさ、ツラくないか?キリがないっつーか」
「キリ?」
写真をめくりながら、軽く眉をひそめるカナメ。大澤を見ると、大澤はいま正に食事終えるところだった。
「ふ〜。ごっそさん」
「おそまつさま」
再び合掌の大澤。食べた器をキッチンに運ぶと、自分を見上げるカナメの前に座り、話を続けた。
「だってだぞ、例えばステディな奴ができて、そうすると基本的にそいつ以外とはしないってことになる訳だろ?」
「そりゃそうねぇ。普通は」
普通?と思いながらも、とりあえず大澤が話を進めることにした。
「でも、人間だって動物だから『何月何日に会うから、その時に欲情しましょう』なんて計画的に行かなかったりするだろ?」
「まぁ・・・そういうこともあるわね」
「そうすると、突然したくなった時に、相手の都合をこっちに合わせたり、こっちの都合を相手に合わせたりしなくちゃいけなくなるだろ?」
あくまでもすることが基本なのね・・・とカナメは思ったが、それは敢えて口には出さない。静かに肯き返すと、大澤が続けた。
「で、それがうまく行ってる時はいいけど、うまく行かない時が嫌なんだよ。お互い仕事だってあるし、動かせない予定だってある。その時に仕事だなんだひっくるめて、人生の優先順位みたいのものを迫られたりすると一気に引くんだよな〜」
「仕事とアタシとどっちが大事なの〜みたいなの?」
「まぁ、ぶっちゃけた話、それもある」
ふぅん・・・と、カナメは冷静に納得する。
「それなら、アタシも分かるけど。だって、比べるもんじゃないでしょ」
その返事に、大澤は深〜く肯く。元々似た者同志の二人である。字面以上のモノがすぐに通じる。
「基本的に、自分の生活を変える気は全くないから、相手に合わせるのも面倒くさいし・・・」
それにも、ふぅ〜んとカナメは黙って聞いている。
「まぁ、ああいう『あなたじゃなくちゃ駄目なんです』みたいなのも良いとは思うけど、俺向きじゃないな・・・」
その時、カナメの中で蘇る昔の話。そういうアンタも、そんな風に思ってた時があったじゃないと突っ込みかけてやめた。似た者同志だから、触れられたくないトコロもよく分かっている。大澤のホンネは、言葉にならない所にあるのだ。
「じゃあさ、浮気されても構わないの?」
「本気じゃなきゃね」
これにはさすがのカナメも、う〜んと唸る。
「それは違うと思うな。アンタはそう言いながら、浮気されたら別れると思うもの」
「そうかな?」
お茶を飲みながら、カナメを見返す大澤。カナメはゆっくりと写真をめくりながら続けた。
「ヨシはきっと、『浮気してやる!』って強気で言いながらも実はしない子・・・みたいのがタイプだと思うもの。アンタが言うほど、アンタの貞操観念って軽くないわよ」
「それはお前の買い被りだろう。したい時はするぞ、俺は」
「でも、この間の・・・あれ、西川だっけ?あれと寝たのは忍のためでしょ?話聞いてると、全然ヨシの好みじゃないもの」
それには大澤も黙るしかない。宮坂には言えないけど図星。まぁ、スポーツと割り切ってるし、最近運動不足だったからいいかなと思ってるけど、やはりあいつは好みじゃなかったなぁ。
「そういうお前だって、忍に変な入れ知恵しただろう。脱ぐなとかなんとか・・・」
「そりゃそうよ、アンタだってあの子が泣くのはもう見たくないでしょ?あの子の一途は捨て身だから、誤解されやすいし・・・」
カナメと大澤。まるで宮坂の両親のような会話である。
「でも、それだけじゃないだろ?」
と、大澤が企みの目でカナメを見る。それに、全く同じような目で見返して、カナメが微笑んだ。
「そういうあんたもね」
そこで二人の胸に、『忍ってば、面白いもんね〜』という台詞がよぎる。前言撤回。両親というよりも、兄と姉。愛もあるけど、それ以外のものもあるらしい。
「あ、これ。これを見て欲しかったんだ」
写真をめくっていたカナメの手が止まり、一枚を大澤に差し出す。大澤はそれを受け取ると、黙って写真に見入った。
「・・・・・?」
「どれか分かる?」
身を乗りだして、カナメが大澤の見ている写真を覗き込む。普通の男だったら喜んでみるような胸の谷間を惜しげもなくさらすカナメ。しかし、長年見慣れているせいか、大澤は写真の一角を指差してあっさりと言った。
「これ・・・・か?」
「そうそうそう!どうよ、それ」
カナメは大澤の表情を伺うように眺めている。大澤は、写真を近づけたり遠ざけたりしながら低く唸っている。それでも最後は間近で凝視しながら、ぽつりと漏らした。
「確かに似てる・・・・と思う」
その言葉に、カナメは満足そうに肯きで返す。大澤はやっと写真から目を離すと、しばし視線を巡らせて呟いた。
「まさか・・・・・・・な」
***As I grew up***
一ノ蔵の腕が、強く宮坂の身体を引き寄せる。宮坂はされるがままに一ノ蔵の胸の中に抱かれ、ベッドに横たえられた。
ベッドから漂う一ノ蔵の香り。何か言うよりも先に重ねられる口唇。この間の優しいくちづけよりも激しい、熱く絡みつくような舌に、宮坂の腕が一ノ蔵の首に回された。
「っ・・・・ん・・」
一ノ蔵は、宮坂の髪に指を入れながら、そのなめらかさに驚く。ブリーチひとつしたことがなさそうな艶やかな髪。暗いライトの中でも綺麗に艶めく髪を、何度も撫でる。口唇を離すと、宮坂の半開きの目が一ノ蔵のそれを捉えた。
「宮坂さん・・・いい匂いしますね」
髪の中に顔を埋めて、一ノ蔵が呟く。宮坂が大きな目を開いて、表情を緩めた。
「そうかな?・・・・シャンプーも石鹸もカナメが買ってくるから・・・」
「うん。すごく・・・いい。宮坂さんの香り・・・・」
髪の中から首筋に鼻を移動させながら、一ノ蔵が囁く。その声に、くすぐったそうに宮坂が肩をすくめた。
「どうしたんですか?」
いつまでも、くすくすと笑っている宮坂に、一ノ蔵が問い掛ける。一瞬、鼻毛でも出ていただろうかと心配した。
「だって・・・やっぱり『宮坂』って呼ぶから・・・・」
「あ・・・。そうですよね」
言いながら、宮坂の頬にくちづける。口唇を離すと、今度は額をつけて、見つめ合う。
「忍さん」
少し照れくさい。それは宮坂も同じなのか、一呼吸置いてから、微笑みと共に返される。
「はい」
そして再びくちづけ。口唇で口唇を挟み込むようにして、ついばむようなくちづけ。
「忍さん」
「・・・はい」
耳たぶを噛んで、耳の中に入れる舌先。背筋をゾクリとのぼってくる感覚に、宮坂の眉が寄った。
熱い息と共に、囁かれる名前。じらしてるのかというほど、その先に進もうとしない一ノ蔵の首筋に、宮坂が指を這わせた。
それと同時に、白いシャツの上から一ノ蔵の指が宮坂の胸の突起に触れる。やっと来た新たな刺激に、宮坂が喉を逸らせた。
一ノ蔵は一ノ蔵で、やはり困っていた。本当はもっと触れたい、肌を感じたい。けれど、そうしたら本当に歯止めが利かなくなる。なにもしないって言ったのに、嘘つくことになるじゃないか!と自分を叱咤。
宮坂は「自分から脱いじゃ駄目」というカナメの言葉を律義に守っている。と同時に、大澤が最後に言った「本気を出すな」という言葉を頭の中でグルグルと回していた。
あ、でも・・・脱ぐのは駄目だけど、脱がすのはいいのかな?と、宮坂は思う。宮坂も宮坂で、一ノ蔵の肌に触れたいと思う。特に、この間触れた背中の感じが忘れられなくて、どうしても・・・どうしても!触りたいのだ。・・・・でも、自分から脱ぐのと、相手を脱がすのと、どっちがまずい度合いが高いのかがイマイチ良く分からなかった。
「あ・・・」
出番を主張するミスターエックスを押し留めながら、それでも我慢が出来ずに一ノ蔵の手が宮坂のシャツの下に滑り込む。直に胸のそれをいじくられ、宮坂が熱い息を漏らす。
反対側の手で、宮坂のシャツのボタンが外される。外しながら、一ノ蔵が宮坂の鎖骨を舌でなぞる。きめの細かい肌が、舌を柔らかく受け止めた。
宮坂の前がはだけられ、一ノ蔵の身体が離れる。宮坂が一ノ蔵を見上げると、一ノ蔵が着ていたシャツを脱ぎ捨てた。
はぁ・・・やっぱり綺麗だなぁ・・・と、宮坂は一ノ蔵を見て思う(←宮坂ビジョン)。腹筋の締まった感じとか、締まってるけど筋っぽすぎないというか、胸の厚みとか、肩幅の広さとかがモロに宮坂好みなのだ。横を向いた時の喉仏の感じも、それから変な話、体毛の量までもがツボに入る。
「んっ・・・・」
一ノ蔵の上半身に見とれている間に、再び口唇が重ねられる。はだけられた自分の胸を這い回る一ノ蔵の大きな手のひらが、もどかしくも甘い刺激をくれる。ベッドと背中の間に入れられた手が、肌を撫でた後で腰に回される。薄く目を開けると、一ノ蔵が宮坂を見下ろしていた。
目を見つめたままで、一ノ蔵のもう一方の手が、ためらいがちに下りていく。先を求める気持ちが、宮坂の瞳を潤ませる。服の上から、一ノ蔵の手が宮坂のそこにそっと触れた。
「・・・・っ・・・」
布越しのもどかしさに、自分から脚を開いてしまいそうになるのを、宮坂がぐっと堪える。一ノ蔵の指は、形を変え続けるその変化を確認するようにゆっくりと上下する。たまらず宮坂が、一ノ蔵の首に腕を回した。
どうしてこんなに焦らすのかな?それとも、これがいつもなのかな?と宮坂は思う。ここまで来るのに、こんなに時間をかけられたのは始めてかもしれない。なんにしても、早く触れたい触れてもらいたいという気持ちがはちきれんばかりに盛り上がる。がらにもなく自分から誘ってしまいそうで、またそう想像することでさらに身体が熱くなった。
一ノ蔵はシャツの前をはだけたことを激しく後悔。白いシャツの間から覗く、宮坂の白い身体に眩暈がしそうなほど感じてしまう。それだけでイッてしまいそうだ。薄い胸に、赤い突起が目に眩しい。へその脇の小さな黒子が、妙にいやらしく見えた。
どうしようどうしよう。マジでこれじゃあやってしまう。きっと宮坂も嫌がらなさそうだけど、でもやはり自分で言ったことが気になる。おまけに、心のどこかでまだ、ラテンの貴公子がいたかもしれないことを気にしてる。そりゃあそこまで自分のモノが貧相だとは思ってないけど、なんというかまだ心の準備が・・・。こんなこと初めてだ〜〜!!
服の上からでも分かるほど固くなった宮坂のそれを撫でる手が止まり、その上のベルトに触れる。カチッという音と共にベルトが外れると、宮坂が間もなくくるであろう感触を想像する。
「一・・・ノ蔵さん・・・も?」
宮坂が一ノ蔵のベルトに手を伸ばし、一ノ蔵が身体をずらしてその手から逃れる。
「俺は・・・いいですから・・・」
言うよりも先に、一ノ蔵が宮坂の前を開け、中に手を滑らせる。下着越しに感じる熱。一ノ蔵は二、三度下着越しにそれを撫で上げ、ようやく直接それに触れた。
「あっ・・・・・・」
宮坂が膝を立てて腰を引く。一ノ蔵は、少し身体を下げて、宮坂の腰に顔を近づけた。そのままへその脇の黒子を軽く噛んでみる。宮坂の薄い腹筋が、せつなく収縮した。
宮坂の前を大きく開いて、すでに先走りを滲ませているその先端を、一ノ蔵が口に含む。全体を手で包み、先だけを細かく舌で刺激する。それに呼応するように、宮坂の身体が小さく震えた。
「んっ・・・・あ、一ノ蔵・・・さ・・っん・・・」
宮坂の下を脱がし、膝を割って身体を入り込ませる。シャツ一枚の姿の宮坂。シャツにくるまれた腕を自分の顔の上で交差して、恥ずかしさを隠そうとする。その仕種に、一ノ蔵の胸の中の火が燃え上がる。
「忍さん・・・っ・・・・」
「っ・・・・・・は・・・あっ・・・」
それを口に含まれて、宮坂の目に涙が滲む。舌で丹念になぞられては、吸われる動作の繰り返しに、いつしか宮坂の脚が一ノ蔵の背に乗っていた。
「ど・・して・・・っ?」
「え?」
熱い息の合間に呟く宮坂に、一ノ蔵が顔をあげる。宮坂は顔を隠したまま、その隙間から一ノ蔵を見下ろした。
「どう・・て・・・・僕・・・だけ?」
「だって・・・あの・・・、本当は、何もしない・・・って」
薄い胸を上下させる宮坂に、一ノ蔵は手を休めることなく宮坂を追いつめる。
「でも・・・」
その言葉を遮るように、一ノ蔵が再び宮坂のそれを口に含む。同時に、宮坂の後ろで息づいている部分を、やんわりと指でなぞった。
「んっ・・・」
焦らすように入り口を撫でられて、宮坂の腰が上がる。下手に激しい愛撫よりも、よっぽど身体の芯が疼く。頭の中心がじんじんと鳴り、何故か涙が滲んでくる。前で感じる気持ちの良さは、そろそろピークを迎えそうだった。
「や・・・っ・・・もう・・・っ・・」
ピクピクと限界を告げ始めたそれに、一ノ蔵がちらりと視線で宮坂の顔を見る。濡れた口唇が震える様が見え、一度も触れてないにもかかわらず、そのビジョンだけで一ノ蔵もイケてしまいそうだった。
それにしても、自分だけがされているのは恥ずかしくてたまらない。宮坂が今にも襲ってきそうな限界の波から逃れようと、身体をかがめ、一ノ蔵の肩を掴む。
「お・・・願いっ・・・駄目・・・っん・・・」
本当はここでやめられても大変なのに、それでも宮坂が一ノ蔵の身体を引き剥がそうとする。一ノ蔵はそれを咥えたまま、くぐもった声で言った。
「どうして・・・っ?忍さん・・・・すっごく・・・綺麗なのに?」
その声の振動に、とうとうたまらなくなった宮坂が細い腰を震わせる。
「はっ・・・・や・・」
ぎゅっと、宮坂の脚が一ノ蔵の身体を挟み込む。きつく目を閉じて背を逸らせる宮坂の姿を、一ノ蔵が目を細めて見つめた。
***As I grew up***
(株)九州ピクルスの『からかっちゃん』という
カラシ高菜が激ウマです♪ご飯二膳は軽くいける!
でもって佐野ヨウコ(漢字忘れたんです(^^;))さん、本当に谷川さんの奥さんでしたっけ?
誰か(有名作家さん)の 奥さんだったというのは覚えてるんですけどねぇ。
あの絵本は泣きました。マジで(T−T)いいっすよ。