***As I grew up***



 部屋の電気を消して、宮坂は居間のソファに座った。
 う。やはり不自然?立ち上がり、電気を点ける。
 でも、煌煌と電気を点けていたら、いかにも待ってましたみたいな感じじゃないか?
 で、もう一度電気を消す。
 ソファにちょこんと座り、玄関の方をやぶ睨み。う、でもこれで寝てると思われて帰られちゃったらどうしよう。もう、終電もアブナイ時間だし。
 そこで、もう一度電気を点ける。モールス信号のように電気をつけたり消したりしながら、ここでも宮坂は動物園のクマのようにウロウロしていた。
 カナメが出ていった後もただひたすら落着かなくて、思わずシャワーを浴びてしまったり。いや、走って汗かいたから浴びたんであって、あくまで他意はないし、別に・・・期待もないし。と、誰へともなく言い訳をしたりしている。だが、思わずお気に入りのパンツを穿いてしまったことへの言い訳は、どうしても出来なかった。ちょっぴり赤面。おまけに、脱ぎ易い前開きのパジャマだったりもします。もじもじ。
 来るのだろうか?来ないのだろうか?どきどきどきどき・・・・。




***As I grew up***



 その頃、一ノ蔵も困っていた。
 玄関前まで、足音を忍ばせ(←泥棒じゃあるまいし)来てしまった。
 乗せられて来たはいいけど、別に宮坂がそれを望んでいるかどうかは分からない。なのに来てしまったことを少し後悔した。
 電話を切ってから、考え込む間にシャワーを浴び、いや、仕事疲れを取るためであって、別に何をしようという訳ではないのだけど・・・と、こちらも誰にするでもない言い訳をしている。けれど、普段そんなにつけないコロンなんかをつけてしまったことへの言い訳は、出来ないでいた。
 それでこんなに遅くなってしまったのだけど、いまから駅に向かってダッシュすればまだ終電には間に合う時間。微かに漏れるモールス信号のような明りに首を傾げながら、一ノ蔵はチャイムに指をつけた。




***As I grew up***



 ん?今、ノックが聞こえた?
 コンコンって・・・・聞こえたような気がする。でもなんでチャイムを鳴らさないんだ?
 宮坂は念のために、秘密兵器を手に(←以前ストーカーに襲われた経験あり)、玄関へと足を忍ばせた。
 魚眼レンズに映る一ノ蔵の私服姿。そういえばスーツ姿しか見たことないんだと気付くと同時に、ラフな姿もかっこいいなぁ・・・と思わず胸をときめかせた。
 一ノ蔵は中から反応がないせいか、玄関に背を向けて二・三歩進む。そこで宮坂、慌てて玄関のドアを開けた。
「あのっ!」
「あ・・・・・・すみません、こんな遅くに・・・・」
 ベージュのチノパンにフード付きのトレーナー。トレーナーのカンガルーポケットに片手を突っ込んでいる姿が、妙に可愛かった。
「それ・・・なんですか?」
「え?」
 宮坂の手に握られている黒いシェーバーのようなものに、一ノ蔵の視線が落ちる。宮坂はとてもそれが「痴漢撃退用のショックガン」だとは言えずに、ひきつった微笑みで返した。
「こっ・・・これは、魚の鱗取りなんですよ。ゾーリンゲンの最新商品で。あははは。ところで、あの、チャイム・・・壊れてましたか?」
 ショックガンを背後に隠し、念のためにチャイムを押してみながら宮坂が聞く。ピンポーンと軽快な音が、二人の間に響き渡った。
「いえ・・・・その、もしも寝てらしたら・・・起こしちゃいけないと思って・・・」
 すみません。本当は勇気が無かったんです。気付くかどうか、賭けてみたんです。・・・と、一ノ蔵の心の声。
「あ・・・・・・」
 そうなんだ・・・と、宮坂は納得。そして、そんな流れからか、結構自然に言えた。
「あの・・・せっかくですからお茶でも・・・・」




***As I grew up***



 「どうぞ、好きな所に座って下さい。いま、お茶いれますから。何がいいですか?」
「あ、じゃあ普通のお茶で」
「はい」
 微笑みをそえた短い返事で、宮坂がキッチンに消える。一ノ蔵は目の前にあるソファを見つめてしばし固まった。
 二人用がひとつと、一人用がひとつ。この場合、やはり二人用に座るべきだろうか?でも、真ん中に座ったら宮坂はきっと一人用に座ってしまう。ということで、一ノ蔵、やたらと端によって二人用のソファに座った。
「はい、どうぞ」
 目の前のテーブルに置かれる、お客様用お湯のみ。
「どうもありがとうございます」
 答えながらも、一ノ蔵の目は宮坂がどこに座るかを追っている。隣りに来るか、それとも遠慮して(?)一人用に座るか・・・・。まぁ、一人用に座ったら、反対側の端に寄ればいいし(←近くなる)・・・と思っていたら、なんと宮坂、二人用のソファの正面の床に直接座った。
「え?」
「はい?」
 思わずあげた一ノ蔵の声に、宮坂が顔をあげる。
「どうかしましたか?」
「あ、いえ・・・あの、緑茶だなって」
 ひきつった笑顔の一ノ蔵。お互いを遮るこの低いテーブルが、万里の長城にも思える。宮坂がちょっととまどって言った。
「ごめんなさい。お茶っていうと、緑茶かなって思って・・・紅茶の方がよかったですか?」
「いえいえいえ。緑茶でいいんです。緑茶が大好きなんです。カテキン命なもんで」
「はぁ、カテキン・・・ですか?」
 不思議なテンションの一ノ蔵に、宮坂が首を傾げる。が、会話が止まった瞬間に、二人の中で少し忘れられていた胸の高鳴りが再発した。
 ここまでくれば、お互いの好意というものはいい加減見えてくる。泊まりを覚悟でやって来た一ノ蔵と、それを迎えた宮坂。嫌いな訳はないであろう。が、それがどれだけのものか・・・そこが問題だった。
 双方が双方ともに、「抱きたい」「抱かれたい」ランキングの上位に常に位置しているだけあって、愛のないアプローチも数限りなくある。まさか・・・と思いながらも、「この人に限って」と信じたい気持ちもあり、そして二人は訳もなく目を見合わせては笑ってみた。
「はははははははは」
 乾いている・・・・。一ノ蔵がどうしたもんだと考えた時、口を開いたのは宮坂の方だった。
「あの・・・・すみません。なんだか、無理に来させちゃったみたいで」
「いえ、そんなことないです。俺の方こそ、すみません・・・・勝手に誤解して」
 恐縮する一ノ蔵に、宮坂は首をふるふると横に振る。
「ううん。そういう風に見えるようにって・・・わざとやってる訳だから。誤解っていうか・・・僕が悪い訳で。でも、あの二人・・・大澤と滝口は何も悪くないから、責めないでくれると・・・嬉しいです」
「そんな、責めるだなんて。・・・・でも、本当に仲いいっすね。家族みたいで」
 イヤミでなく本心。大澤もカナメも、きっと宮坂のことを本当に大事にしている。少しおせっかいに見えるかもしれないけれど、それがこの三人のバランスなのだろうと一ノ蔵は思った。多分、そこまでこっちから深く入り込んでいかないと、宮坂もなかなか自分を出さないに違いない。
「僕の家族は日本にいないんで、やっぱりなにかあると頼っちゃうのはあの二人だから。実際、家族よりも安心できるし。老後は同じ老人ホームにでも入るかってくらい・・・」
 ふふっと笑う宮坂に、一ノ蔵も笑顔で返す。一瞬、老人ホームの中で相手を物色する大澤の姿が頭をよぎったが、せっかくのいい話の最中ということで、言わないことにした。
 それにしても、友達の話をする宮坂は、とても嬉しそうである。ちょっぴり妬けるものの、一ノ蔵はそんな宮坂をまた好きになっていた。
「中学からって・・・長いですよね」
「そうだなぁ・・・かれこれもう18年?うわっ・・・年取るはずだ・・・・」
 恐ろしいことに気付いてしまったと言わんばかりの宮坂。一ノ蔵はそんな宮坂の様子を、可愛いなぁと眺めていた。
「一ノ蔵さんは27でしたよね?」
「はい。でも、四捨五入すれば30ですよ」
 宮坂さんと同じで・・・といいたい所をぐっと自制。すると、宮坂が少し羨ましそうな表情で言った。
「いいなぁ。若いの・・・」
「七捨八入すれば20です」
 あまりの変わり身の早さに、宮坂が吹き出す。一ノ蔵はさすがに少し恥ずかしくなって、言った。
「宮坂さん・・・充分若いですよ。こう言ったら失礼かもしれないですけど、俺の年下って言っても通用すると思いますよ」
 返す言葉も浮かばずに、宮坂が赤くなって俯く。取りようによっては失礼に聞こえる言葉も、そう取る気が無ければ立派な誉め言葉。この場合はオッケーだったらしい。
 なんとなく良い雰囲気になりながら、これはひょっとするとひょっとするか?と一ノ蔵が思った時、無情にも己の肉体はその雰囲気をぶち壊しにかかった。
「あの・・・・宮坂さん」
 こっちに座りませんか?と、とりあえずは第一段階を踏もうとした時。
 ぐ〜きゅるるるるる
 思わず、合わせた目をゆっくりと逸らす一ノ蔵。たて続く緊張感で忘れていたものの、夕飯を食べていなかったのだ。
「良かったら、なにか食べますか?」
「えっ・・・いや・・あの・・・・・・・・・すみません」
 宮坂が立ち上がり、大きな身体を小さくして一ノ蔵が返す。やはりここで食べておかないと、一晩こんな調子で終わってしまう。せっかく歯磨きして来たのに・・・・しかも念入りに。
 そういえば、自分も手土産ひとつ持ってこなかったし・・・自分の気の利かなさ加減に、少しへこむ一ノ蔵であった。
「和洋中・・・どれがいいですかね?」
「なんでもいいです。好き嫌いないんで、あるものでちょこっといただければ」
 冷蔵庫を覗く宮坂の背後から、一ノ蔵が中を覗く。宮坂は背中に感じる一ノ蔵の温度に、思わず顔を赤くしていた。
 その間一ノ蔵は冷蔵庫を見ながら、猛スピードで考えていた。
 ヤキソバ←青海苔が危険
 カレー(レトルト)←その後キス不可能
 野菜炒めに焼き魚←時間と手間がかかり過ぎ
 それにしても、結構食材が揃っているなと感心。カナメか宮坂のどっちかが料理好きなのだろうか?かくいう一ノ蔵は、料理が嫌いではなかった。ただし、後片付けは嫌い(←こういう人、実は多いと思う)。ところで、宮坂はなんの魚の鱗を取ってたんだ?見当たらないのだが・・・。
「宮坂さん、料理はお好きですか?」
「好きだけど・・・・上手じゃないです。滝口の方がおいしいもの作るし。あ、こっちの鍋にクリームシチューの残りもあるけど」
「あ、それ頂きます。いいですか?」
 クリームシチューならとりあえず安全圏(←なんの?)。一ノ蔵が微笑むと、宮坂が言った。
「じゃあ、温めて持っていくから、座ってて下さい」
「あ、俺やりましょうか?」
「今日はいいですよ。お客さんだから、座ってて下さい」
 宮坂が言いながら、一ノ蔵の背中を押す。そのトレーナーの下の筋肉の感触に、また胸をホンワカさせてしまう宮坂であった。
 手のひらに残る感触から、ついつい引き締まった背中を想像してしまう(←当然裸で)。肩甲骨の辺りの張りとか、その間を走る背骨の窪みとか。
 うわっ!うわっ!うわっ!!だめだめ俺!そんなこと考えちゃだめ〜〜っ!
 と思えば思う程、想像はエスカレート。シチューを焦がさないようにという想いが、かろうじて宮坂を現実に引き止めていた。




***As I grew up***



 「ごちそう様でした」
 礼儀正しく両手を合わせる一ノ蔵に、宮坂が微笑む。一ノ蔵のこういう所が、宮坂は「好きだなぁ」と思う。たとえ部屋が乱雑でも(←いや、見たことないけど)、なんとなくきっちりした感じを受けるというか、そう、マナーがいい。結局、宮坂も少し一緒に食べながら、なごやかに遅い夕飯は終わった。
 その後、宮坂がワインを持ち出し、ソムリエナイフを探している間、一ノ蔵がなんとはなしにテレビをつける。チャンネルの落ち着いた先は、映画チャンネルだった。
「ケーブル入れてるんですね」
「うん。やっぱり番組の嗜好を考えるとね」
 ソムリエナイフを片手に、宮坂が一ノ蔵の隣りに座る。ワインがそこにあったからと言えばそれまでなのだが、一ノ蔵的にはまさに待ってましたの状況であった。
「あ、チーズ持ってくるね」
「ああ!」
 立ち上がろうとする宮坂を、一ノ蔵が必死に押し留める。
「俺が取って来ますから。宮坂さん、ワイン開けてて下さい」
 精一杯の微笑み。宮坂はきょとんとしながらも、肯いてワインボトルと格闘し始めた。
 なんていうか、これぞ本当に良い雰囲気じゃないか?と一ノ蔵は思う。まるで新婚夫婦みたいだぞ!と。
 もしかして、このまま告白とかしないでも、うまく行けてしまうんじゃないかと思う。そりゃ、そういう心臓に悪いことをしなくても済むならそれに越したことはないが・・・。いやいやでも、宮坂の場合、やっぱりそれを飛ばしてはいけないような気がした(←正しい)。自分的にも、こんなにしっかり好きになったのは初めてだから、ちゃんとしときたいっていうのもあるし・・・。
 カブリの箱と切ったチーズを運んで、テーブルの上に置く。一ノ蔵が元の場所に戻ると、ワインがグラスに注がれていた。
 チンっとグラスを鳴らしてワインを飲む。ううむ、やはり新婚のようだと一ノ蔵は思った(←新婚のイメージ一例)。
 さて、空腹も満たされ、ワインなんぞも入りつつ、今度こそまさに告白タイム?と双方、肩に力が入る。しかし、雰囲気は充分ながら、今度はとっかかりがない。宮坂もそこそこの緊張感を感じていると、一ノ蔵が言った。
「あの・・・変なこと聞いてもいいですか?」
 変なこと?と宮坂心の中で首を傾げる。なんだろう。下ネタだろうか?いや、そんな大澤みたいなことは無いだろうし・・・・(←失礼な)。まぁ、とりあえずは質問を聞いてみよう。
「変なこと・・・ですか?答えられる質問なら・・・いいですけど」
 少し警戒してるような宮坂に、一ノ蔵が戸惑う。それでも、ワインを一口飲んで、一ノ蔵が言った。
「・・・・・宮坂さんはその・・・どんな時に淋しくなったりとか・・・しますか?」
「・・・・・・・・・・え?」
 たっぷり数秒黙った後、宮坂が聞き返す。すると一ノ蔵、とっても真剣な顔で続けた。
「俺はその・・・恥ずかしい話ですけど、結構映画とかドラマとか見てて泣く方で。前に友達に言ったらすごく馬鹿にされたんですけど、他の人が何も思わないようなことでも、急に・・・・なんかやるせないというか・・・・。すみません、よく分かんない話ですね」
 一ノ蔵が誤魔化すように笑って話を辞めようとする。と、宮坂は真面目な顔で言った。
「分からなくないです!」
 それはきっと、誰かに話したかったに違いない話だと、宮坂は思った。そして、それを宮坂も聞いてみたいと思う。思いもかけないシリアスな展開だったけど、でも・・・嬉しい誤算だと宮坂は思った。
「あの・・・・他の人は分かりませんけど、僕は・・・・聞きたいです、一ノ蔵さんの話。だから、途中で話をやめたりとか・・・・しなくていいです。最後まで、話して下さい」
「宮坂さん・・・・」
 今まで、こんな風に話してくれる人なんていなかった。食欲の後は性欲ではないけれど、大体の男は心を開くよりも身体を開くことの方に一生懸命で、だから宮坂も心のどこかで、それを普通と思うようになっていたかもしれない。もしかしたら、そういう風に相手に理由をつけて自分も努力をしてなかったのかもしれないけど・・・・けど、そんな風に素直に反省できてしまうほど、一ノ蔵の話は、じわっと胸に染みた。
「僕も・・・よくあります。なんか・・・言葉に出来ない虚しさとかが急に襲ってきたりとか、すごく嫌な自分になってるような気がしたりとか・・・・」
 宮坂は言うまでもなく、わがままで淋しがり屋だ。以前はわがままなんて言えないほど、自分の感情を表に出すことが苦手だった。誰かを妬ましく思って、でもその妬みを直視することが出来ないくせに、自分を責めたりした。
 それを少しづつ変えたのが、大澤とカナメだった。二人が二人とも、宮坂のわがままと嫌な面を真っ向から受け止め、宮坂に伝えた。そしてそれは、宮坂の両親が放棄したことでもあったのだ。
「俺、思うんですよ。お互いの淋しさに気付けなければ、恋人関係は続かないって・・・」
 それは、一ノ蔵の反省も込めた言葉。契約のような恋人関係で、それでも繋がれていると思っていた頃の。
「人間って、洗面器一杯分の水があれば溺死できるじゃないですか。それと一緒だなって思うんですよ。例えば、悲しくて自殺したくなるようなことって、必ずしもすごく大きな理由とは限らないって。他の人から見たら、本当にささいなことかもしれない。でも、それで十分な時もあるって・・・。溺れる場所は必ずしも、海だったり大きな湖だったりする必要はないって・・・。」
 宮坂は小さく肯いた。なんだろう、一ノ蔵をより近くに感じる。別に、傍に寄り添ってる訳でもないのに、肌の一部が触れているような感じ。
「だから、知りたいんです。・・・・宮坂さんの、淋しい時、辛い時、悲しい時、痛い時・・・それが分かるように。宮坂さんが、一人で泣かないように・・・」
 そこまで言って、一ノ蔵が宮坂を見る。そして、そのまま止まる・・・視線。
 宮坂はしばらく、自分が泣いていることに気付かなかった。それは今まで、こんなに優しい告白を聞いたことがなかったからだろう。恋愛沙汰で泣くのは、大体が悲しかったり怒っていたりする時で。こんなに心を潤してくれる言葉で、泣くことはなかったのだ。
「宮坂さん・・・・・・」
 心が温かくなって、一ノ蔵のその腕に触れたいと思う。その肌に、その胸に・・・触れて確かめたいと思う。何を確かめたいのかはよく分からないけど、とりあえずは彼がそこに居るということを。
「っ・・・すみま・・・せん・・っ。な・・か、今日は・・・涙腺が、ゆるいのかも・・・・」
 目を逸らして涙を拭こうとする宮坂に、触れたいという衝動。怖がられないだろうか?嫌がられないだろうか?ちゃんと気持ちは、伝わってるのだろうか?
 一ノ蔵の指先が、宮坂の濡れた指先に絡む。すると、宮坂の方からその手を握り返してきた。
 高鳴る胸に、震える深呼吸。好きという言葉以外、頭に浮かばない。
 手を伝わってくる温度にどこか心ざわめいて、宮坂が濡れた顔を一ノ蔵の肩に預ける。一ノ蔵のもう一方の腕が、そっと宮坂の背中に回された。
 服を通して届く早い鼓動に、お互いの気持ちの真摯さが分かるようで、二人は少し身体を離して目を見合わせては、ふと微笑んだ。
 ぎこちなく宮坂の頬に触れる一ノ蔵の口唇。肌の感触を味わうように触れて、それは少し下に降りていく。宮坂の口唇の端にためらいがちに重なったそれに、宮坂が微笑みながら首を傾けた。
 抱きしめた宮坂の薄い身体が、熱くなっていくのが分かる。宮坂が一ノ蔵のトレーナーに手を差し入れ、背中から脱がしていく。
 ソファの上に寝かされた宮坂の胸の中に、滑り込んでいく一ノ蔵の指先。パジャマの前をはずし、白い胸があらわになると、宮坂が少し恥ずかしそうに言った。
「あの・・・そこのリモコン・・・」
「え?」
 早くも上気した顔で、一ノ蔵が指差されたテーブルの上を見る。宮坂は少しパジャマの前を引き寄せながら続けた。
「それで、電気が調節できるので・・・・」
 さすがに明るいのは双方気になるのか、一ノ蔵が手を伸ばしてライトの光量を下げる。ついでにつけっぱなしだったテレビを消した。
 音が消えた世界で、お互いのぬるい息遣いと心臓の音が聞こえてくる。宮坂が一ノ蔵のシャツの下に手を入れ、熱い素肌に触れた。
 何度目かの口づけを交わし、お互いの素肌をまさぐり合う。頭の中まで染みてくるような甘い感触に、宮坂が一ノ蔵の耳たぶを口唇で噛んだ。
「・・・んっ・・・・」
 宮坂の細い腰を滑る一ノ蔵の手。くすぐったいようなぞくっとくるような感覚に、宮坂の声が漏れる。その下に指を滑り込ませてもいいだろうかと、一瞬、一ノ蔵がためらう。それでも、やわらかな腹筋を手のひらで感じながら、その手を下にずらそうとした時、一ノ蔵の動きがぴたっと止まった。
「・・・・・・?・・・っ・・・」
 宮坂が、突然険しい顔をする一ノ蔵を不思議そうに見上げる。
「どう・・・」
 したんですか?と続けようとする宮坂の口唇に、人差し指をあてて遮ると、一ノ蔵が擦れる声で囁いた。
「なんか・・・・音がしませんか?」
「・・・・音?」
 こちらも宮坂、囁きで返す。ソファの上で身体を起こそうとした瞬間、その疑惑は本物と判明した。
 ピンポーン♪
 軽快なチャイムに軽いノックの音。
「忍〜。俺〜」
 小さい声だが、明らかに大澤のもの。咄嗟に立ち上がろうとした一ノ蔵が、ソファの上から転げ落ちた。
「一ッ!・・・・」
 名前を呼びかけて、宮坂が言葉を飲み込む。時計を見ると、確かに上りの終電は過ぎているが、下りの電車はまだ走っている時間。週末ということも手伝って、大澤が遊びに来たのだった。
「し・の・ぶちゃ〜ん!起きてるんでしょ?この時間で寝てるわけないもんな」
 とりあえず、隣近所には聞こえなさそうな声。一ノ蔵が転んだ時に打った膝をさすりながら、リモコンで電気の光量を上げ、テレビの電源を入れた。
「あいた・・・っ・・・。宮坂さん・・・出ないと・・・っ・・・」
「でも・・・・っ・・・」
 二人して上半身裸で、しかもなんだか妙に艶のいい顔をしていたりして、こりゃどう見たって疑われる。しかし、一ノ蔵はうーんと唸った後、仕方ないという表情で言った。
「でも、終電はもう無いし。これで出なかったら、ヨッさん野宿でしょ?」
 それはそうだ。ということで、宮坂は慌ててパジャマの上を着ながら玄関へと走った。もちろん、その間に一ノ蔵もシャツとトレーナーを着る。手近な鏡で髪型をチェックし、ゆっくりと深呼吸をした。
「あれ?誰かいるの・・・・?あ、珠ちゃん」
 玄関から近付いてくる声。さも今気付いたように振り返り、一ノ蔵がロボットのような動きで手を上げた。
「や・・やぁ、ヨッさん!こんばんわ!奇遇だねぇ!」
 その不自然な笑顔に、大澤が背後に居る宮坂を振り返る。
「ごめ・・・・。俺、邪魔したよね」
「そ・・そんなっ!邪魔だなんて!ねぇ!一ノ蔵さん!人は多い方が楽しいし」
「ねぇ!」
 微笑みで返し、一ノ蔵がワインを飲み干す。と、大澤がそれこそ本気の真剣な顔で言った。
「え?3P?」
 瞬間、ゴフーッっと一ノ蔵がワインを吹き出したことは言うまでもない。




***As I grew up***



祝・初ちゅう♪
ってことで許しちゃもらえないでしょうかね(^^;)
恋の助っ人、転じて、恋の邪魔者?
ちなみにカブリの5グレイン食べると
とても御通じが良くなります。
便秘症の方にはオススメです♪