「被団協」271号  2001年8月

主な内容
1面 いま 語り継ぐ
2面  問題点多い新たな認定基準  平和祈念館の説明文について   「核かくしかじか」
3面  郭貴勲裁判・東裁判  長崎被爆地域指定拡大について
4〜5面 結成45周年−日本被団協の歩みから
7面 ギリシアで平和会議 各県の状況
8面 相談のまど 「被爆二世検診について」 

21世紀最初の夏 いま 語り継ぐ 


  あの日 14歳の願い    
    
  あの日、上半身黒こげになって山に避難したとき、私は十四歳でした。そこには、およそ二百人ぐらいの負傷者たちがいました。その中から、「お母さん、お母さん」という悲鳴が聞こえてきました。しかし一人またひとり、その声が絶えてゆきました。
  いま私は、こうして子どもたちに原爆の話をしながら、おとなの責任で子どもたちの命を守らなければ、と誓いを新たにしています。
  私たちの余命は少ないけれど、一日も早く核兵器廃絶を実現させる以外にないのです。
     

   日本被団協代表委員  山口 仙二


問題点多い新たな原爆症認定基準

 厚生労働省が公表した原爆症認定「審査方針」(本紙6月号既報)にたいし、日本被団協は、科学者、医師、法律家など専門家をまじえた「日本被団協認定基準検討会」を設けました。
 それは、この「審査方針」が、これまでよりもいっそう機械的な切り捨てにつながる恐れがあるため、その問題点を明らかにし、厚生労働大臣および認定審査会原爆被爆者医療分科会の各委員に意見を出すためです。

記者会見を開きマスコミにも公表

 第1回の検討会は6月29日に開催。放射線防護学が専門の安斎育郎、清水雅美両氏共同執筆の「寄与リスク」についての批判論文(通称 「作業文書1」 )を検討し、7月9日に厚生労働大臣に提出するとともに、各委員あてに送りました。
 また7月26日には、物理学者の沢田昭二氏が作成したもう一つの批判論文(通称 「作業文書2」 )を、先に提出した「作業文書1」とあわせて記者会見を開き、マスコミに発表しました。
 記者会見には、安斎、沢田両氏のほか、内藤雅義弁護士、日本被団協の藤平典代表委員、田中煕巳事務局長、小西悟事務局次長、伊藤直子相談員らが同席。松谷裁判、京都裁判での状況、最近の原爆症認定の実情などがつぶさに報告され、被爆者のガンについては「疑わしきは認定」の立場に立つ、原爆症認定制度の抜本的改善の緊急性が強調されました。
 なお、記者会見で発表された「作業文書2」は、7月30日に厚生労働大臣あてに提出され、引き続きさまざまな角度から厚生労働省「審査方針」に検討を加えていく予定です。

シリーズ 「認定」のあり方を問う @
「寄与リスク」への誤解   安斎育郎(立命館大学教授)

 厚生労働省は原爆症認定の新基準をつくり、すでに適用し始めています。被団協は「認定基準検討会」を組織し、この程「作業文書」第1号として「『寄与リスク』概念をめぐる誤解について」(安斎ら著)を公表しました。厚生労働省が新しい認定基準を検討する際に基礎とした児玉和紀教授(広島大学)の論文「原爆放射線の人体への健康影響評価に関する研究」の誤りや問題点を指摘したものです。

いろいろあるリスクの表し方

 例えば、ある癌が10万人あたり非被爆者群で10人、被爆者群で15人発生したとします。つまり、被曝によって5人余計に発生した発生した場合です。この時、被曝による危険度(リスク)をどのように表したらよいでしょう。
 三つの考え方があります。1、発癌者が5人増えた(絶対リスク)、2、発癌者が1.5倍に増えた(相対リスク)、3、被爆者群の発癌者15人のうち被曝に起因するのは5人だから、被曝の寄与率は33%だ(寄与リスク、「原因確率」ともいう)の三つです。

寄与リスクは「最適」か?

 児玉論文は、「寄与リスクは絶対リスクと相対リスクの考えを併せもつ最適リスク評価尺度だ」と主張しましたが、これは誤りです。
 なぜなら、非被爆者群で20人発生していた癌が被爆者群で10人増えて30人になった場合、絶対リスク10人、相対リスク1.5倍、寄与リスク33%となり、相対リスクも寄与リスクも、前のケースと区別できないのです。寄与リスクは相対リスクと同じ欠陥をもつ尺度に過ぎず、「最適性」の主張には根拠がありません。それに、同じような状況下で被災した被爆者を放射線起因性で認定したりしなかったりするのは、非情でもあり非現実的です。
 さらに、新しい線量評価方式(DS86)は遠距離被爆者の場合に大きな誤差を含むことも大きな問題です。被爆者補償の精神は国家責任の自覚と弱者救済の視点を基本とすべきで、一見科学的に見える方式で機械的に処理するようなことにならないことを切望します。



郭貴勲裁判 法の平等適用示した大阪地裁判決の意義と控訴した国側の動き

 大阪地裁判決は、@居住も現在もしなくなった場合に地位を喪失する旨の明文規定は一切ない、A明文がなくて解釈で地位を喪失させうる場合があるとしても、「被爆者援護法は、人道的見地から被爆者の救済をはかることを目的としたものなのであるから、国の解釈はその人道的見地に反する。解釈に基づく運用は、日本に居住しているものと日本に現在しかしていない者との間に、容易に説明しがたい差別を生じさせることになるから、憲法14条に反するおそれもあり」として、「日本出国後も健康管理手当を継続支給べきである」という在韓被爆者・郭貴勲さんの訴えを全面的に認めた。
 この判決を不服として控訴した国側は、坂口厚生労働大臣が控訴直後の記者会見で「外国居住被爆者の問題をどうするのか、被爆者の認定や失格の要件を明確に法律に書き込むべきだと思うので、被爆者援護法の法改正を検討したい」として、7月9日に有識者7名による「在外被爆者に関する検討会」を発足させ、8月1日に第1回会合を開くことを決めた。
 坂口大臣は「検討会」の目的が、在外被爆者への援護法適用にあるのかどうかを明確にしないまま、これを発足させ、年内にも結論を出すという。検討会に予断は許されない。検討会のメンバーに、「在外被爆者には援護法を適用せず」との考えを持つ人がいるとしたら、それは、大阪地裁判決が明確に述べたように、「被爆者援護法の人道目的に反し、憲法14条にも違反する」ことを、強く申し入れていく必要がある。
                    (韓国の原爆被害者を救援する市民の会会長・市場淳子)

東原爆裁判第10回口頭弁論

 7月5日、東(あずま)原爆裁判第10回口頭弁論が東京地裁606法廷で開かれ、原告・東数男さんら23人が傍聴しました。
 今回の弁論では、東側弁護団が証人に申請した4人のうちの1人・肥田舜太郎医師(中央相談所理事長)について、国側代理人が「採用すべきでない」と二度も文書で申請していることが問題になりました。しかも裁判所は、「松谷・京都訴訟の調書を読めば十分」という国側の主張に傾いています。
 「原爆裁判の勝利をめざす東京の会」はこの問題を重視。緊急に役員会を開いて検討し、集まっている「署名」を8月17日に提出することにしました。次回弁論は8月24日。


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