団臨「みんなのパノラマカー」に乗って  09.08.23 UP

09.7.19の団臨パノラマカーの完全引退を1週間後に控えた8月22日、名鉄岐阜−新可児−新鵜沼の工程で走った団体列車に乗車する機会を得ました。12/26の定期運行最終日、3/21の日本車両鉄道同好部さんの団臨に続く「3回目の乗り納め?」となりましたが、お誘いをいただいてから、乗車当日のできごとまでをレポートにしてみました。

●最終営業の1週間前

09.7.19の団臨09.7.19のこと。7011Fの団臨が名鉄岐阜−新可児で走ると聞き、撮影に出掛けました。そして「にんじんカーブ」(羽場−鵜沼宿)でMさんに会いました。大阪在住時代から郷里へ帰った時にはたびたび顔を合わせている方です。列車を待つ間、Mさんは少し小声で、
「実は8/22に今日と同様のダイヤで団臨を計画している人がいるんですよ。よかったら乗りませんか。」
「8/22って・・・。最終まで1週間しかないじゃないですか。よくそんな時期に枠が取れましたね。」
 あの人なら喜んで乗りたいと言うだろうと思った人が数人いたため、「何人か誘ってみます。」と返答しました。この時期に名鉄さんを動かした幹事さんの努力は並大抵ではないでしょう。名鉄の社内でも実現に向けて骨を折って下さった方がいらっしゃると聞きます。その努力とパノラマカーに対する愛着に賛意を感じ、陰ながらもできるだけの協力をさせていただきたいと思いました。

●メンバー集め

当初、幹事さんが参加者集めに苦労されているとの話を聞きました。声をかけた人皆が飛び付いたかといえばそうでもないことは、ご苦労を裏付けているようでした。打診の結果、進んで応募した人は半分もありません。そんな中、相互リンク先「五条川鉄道写真館」の吉野富雄さんからは「もう乗る機会があるとは考えもしなかった。ぜひとも参加したい。」との表明をいただき、喜びの声を幹事さんにも伝えました。
 媒体による広告は一切なく、「人づて」だけの募集にもかかわわず、最終的には定員を満たしたと聞きました。

 私たちは自分を含め、6名で参加することになりました。席割の関係で受け入れ承認の通知を待っていたOさんに連絡したのは西浦温泉への家族旅行の最中でした。しかし、Oさんからの返信は「明日電話する。」でした。
 翌日、電話を受けると、誘っていた人が行けなくなったとのことでした。家族旅行中のキャンセルを避けようとしたOさんの気配りでした。
 もう再度の開催が不可能なイベントです。貴重な座席をまさか空席のまま走らせるわけにはいきません。参加表明のなかったメンバーに再度声をかけましたが、どうも行きたいという気持ちが感じられません。人の価値観はそれぞれですので、高い参加料を支払って来ていただくのはかえって申し訳ないと思いました。
 面識のある方の中で、あの人ならばという候補者が数人いましたが、全員アウト!Oさんの方も皆断られてしまったとのことでした。
 こうなったら、たとえ面識のない方でも構わない。「ぜひ乗りたい」という方を探すことに決めました。喜んで下さる方に乗っていただくことがパノラマカーへのはなむけになると考えたのです。

最終運転間近の混乱を避けるべき時期でもあるため、「意欲」のほか「信用」も重視しました。既にエントリーしたメンバーである中武鉄道さんが精力的に協力してくれました。打診中、「その件なら聞いているけれど、撮影へ回ります。」や、「乗るんだったら特別な料金がいらないので7700系に・・・。」という返答もあったと聞きます。

 よい返事が聞かれず、いよいよ「空席のまま」を覚悟した頃、熱意のある方としてりんてつさんの紹介を得られました。りんてつさんは「りんてつのパノラマブログ」というブログを開設されていて、ネット上でお名前を見掛けていることも信用につながりました。本人に連絡を取ってみると、「もう乗る機会はないと思っていたので、思いがけないチャンスはたいへんありがたいです。」とのお返事でした。適任と判断し、団体旅行の共済保険手続きで必要な個人情報もいただけたため、早速幹事さんにメンバー決定の連絡をしました。

●そして当日

朝、岐阜市内は時々強い雨に見舞われました。しかし、天気予報では次第に回復に向かうとのこと。それを信じて名鉄岐阜駅へ向かいました。既に大勢の方が集まっています。担当幹事のMさんとは初めて直接お話ができました。「いろいろお世話になりまして・・・。」「いいえ、こちらこそ。」

 面識のないりんてつさんには特徴を伝えておきましたが、受付を終えるとすぐに声を掛けてくれました。待っている方の中には名前は知らないけれど、撮影でよくお会いする方が何人もいらっしゃいます。個人の参加が多いと予想していましたが、お子さんを含む家族連れが目立ったのは少し意外でした。

 パノラマカーはファンだけのものではありません。幅広い客層のほうがツアー名である「みんなのパノラマカー」にふさわしいでしょうか。あるいは、最近パノラマカーがどこどこで走ると言っては出かけてしまうパパが家族に罪滅ぼしをする絶好の機会だったのかも知れません。(笑)

 「チッ、チッ」というあまり響きのよくない電鈴が鳴るとゆっくり発車します。臨時ダイヤのせいか、ややのんびりした走りです。流暢なアナウンスは幹事さんでしょうか。パノラマカー最後の岐阜であることから全員で岐阜の街に手を振りましょうという誘導はたいへんお上手で、車内を和ませました。そして、発車時にメンバーに配布したビールやお茶が空く頃には三柿野に到着しました。
1800系と並ぶ7011F号車単位で記念撮影が始まります。反対側のホームへ回って編成写真を撮っていると、思いがけないお顔を見掛けました。「おや?なんでこの人が・・・。」
 碧電の解説でも参加いただいている「気のいい車掌さん」は現業機関の方。大阪在住中はたいへんお世話になりました。そしてもう一人同グループの「懐かしい顔」はやはり大阪の方ですが、スタッフとして腕章を付けています。聞けば幹事さんとのつながりとのこと。世間が狭いと感じることは度々あるものです。

 12:04、7700系の急行が先発するとあと10分で発車です。同系列と言っても差し支えのない7700系との営業列車としての並びも今日が最後になるかも知れません。

 羽場を通過し、カーブしながら築堤を下ると各務原線の名撮影地「にんじんカーブ」です。ここでMさんと会わなかったら私たちは乗っていなかった可能性が大です。
 皆さん撮影に夢中で、車内から手を振っている私たちに手を振り返してくれる方はほとんどいません。しかし、注目を浴びる快感が味わえるのはこのようなイベント列車ならではの楽しみでもあります。

 犬山遊園駅でも大勢のファンがカメラを構えています。犬山駅に到着すると、展望席を楽しんだ方々が自席へ戻っていきます。今回の企画では区間を区切って前または後ろの展望席へ着席できるように考えられていて、犬山は交代の指定駅になっていました。

   

●最終工程、展望席へ

新可児では折り返し発車まで50分あります。参加者が思い思いに観察したり写真を撮ったりしていればすぐに発車時間です。私たちは指定された展望席1号車(後ろ向き)へ行きました。
 床下からはコンプレッサーのレトロな音が聞こえてきます。そして、定刻になると、二度と来ることのない新可児駅を後にしました。

 申込時期の関係で、6人中2人は「展望席着席なし承知」の扱いになっていました。しかし、そこは今日ご一緒している仲間です。交代で座ることにしました。他のグループの方が空いている席へ座らせて下さったりして、ほとんどの区間で着席することができました。
 中学生の頃以来、何度も乗った展望席は今日が最後です。ビデオを回していましたが、手ぶれ補正はカメラにお任せ。ディスプレーをあまり見ることなく、車窓をこの目に焼き付けました。

 

犬山橋を渡ると終点新鵜沼はすぐそこ。 最初の案内では犬山で下車の予定でしたが、ダイヤ上停車時間が短いため、新鵜沼まで乗車することになったそうです。おかげで犬山橋の通過をラストシーンにすることができました。
 定時に終点新鵜沼に到着。まだ降りるのは惜しい気がします。皆さん思いは同じと見えて、なかなか改札口へ進めません。折り返し回送列車の発車時には拍手が巻き起こりました。

 最後に駅前で4人の幹事さんが並んでの挨拶があり、イベントの終了です。参加者一同の盛大な拍手は満足感の高さを表すとともに、幹事さんのご苦労に対するねぎらいが込められていました。今日、幹事さんたちはおいしいお酒が飲めるといいですね。
 私たち6名もここで解散です。乗車されていたというHNさん、TKさんが声を掛けて下さいましたが、ゆっくりお話できずで申し訳ないことをしました。

今日の営業を終えて豊明へ帰る7011F
14:32発の豊橋行特急に乗れば回送列車を追い越せることがわかったため、希望者の4名で本笠寺へ向かいます。市街地にもかかわらず、緑をバックに、建物が写り込まない好ポイントです。先客2名の方とともに順光で撮影することができました。
 遠路東京から参加下さった田町のOLD鉄さんは乗車のほか回送列車の撮影もでき、ご満悦の様子です。このあとは夕食にひつまぶしを賞味されて、翌日は佐久間レールパークへ立ち寄られるご予定とか。以前、P4、P6が頻繁に撮れた頃に撮影にお見えになりましたが、今後こちらへ来ていただく機会もないのではと思うと、是非ともお誘いしたかったお一人でした。

 

●絆

今回のツアーでは一部区間のヘッドマークや側面サボに「絆」の一文字が入っています。幹事さんにお尋ねしたわけではありませんが、その意味について私なりに考えてみました。
 それは人々に愛される路線や車両たちがそれに関わる人々の絆を取り持っているということです。私たちファン同士は最初からの友人であることも多いのですが、撮影地などでたびたび顔を合わせることによって交流を深めた方も少なくありません。パノラマカーもその貢献度の大きな車両です。それ自身が持つ魅力の他、豊富な話題を提供し、各地で「こんにちは。また会いましたね。」と何度言わせたことでしょうか。今回のツアー参加者も人づてオンリーで、まさに絆の結集でした。

 ここ数年、東海地方ではファンが集まるような魅力的な列車が劇的に減ってしまいました。最近JR東海の姿勢が軟化し、再びイベントが実施されるようになってきていますが、既に画一化が進み、ファン目線からは魅力が減ってしまっています。
 名鉄では子供のころから慣れ親しんできたパノラマカーがついに引退の時を迎えます。この後、厳しい現実が待っているとも聞きます。

 まだまだ効率追及の時代は続き、ファン同士をつないでくれていた車両や路線はこれからも減っていくことでしょう。
 「パノラマカーがなくなったら、よく会うあの人にも、なかなか会えなくなるかな・・・。」そんな想像をすると寂しさを感じます。しかし、これまで鉄道ファンにありがちであった他人任せ、受け身の姿勢では趣味の質も人間関係も衰退の方向に向かうのは自明です。
 そんな中、決して順風の環境ではないにもかかわらず、今回のイベントを立ち上げて下さった幹事さんたちが絆を築く場を与えて下さいました。ツアーに参加して、ファンが自ら行動することの大切さを改めて認識した次第です。

 最後になりましたが、今回のイベントを企画して下さった幹事さんを始め、スタッフの皆様、名鉄の皆様、おかげさまでパノラマカーとのよき思い出を作ることができました。ありがとうございました。

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