ステロイド薬
 一般に「ステロイド」と呼ばれていますが,正確には,「副腎皮質ステロイドホルモン」です。 腎臓の上の副腎というホルモン臓器の表面(皮質)から分泌されていて,一言でいうと「元気のでるホルモン」です。

 これを薬にしたものがいわゆる「ステロイドホルモン剤」で,薬の商品名では「プレドニン」あるいは「メドロール」 などがあります。普通の人間の生体からは,プレドニンあるいはメドロール1錠分のステロイドホルモンが分泌されています。 サルコイドーシスの治療で使用するときは,この薬を12錠などと多い量から開始します。

 商品では一般にはプレドニンが普通に使われていますが,私はいろいろな考えから,プレドニンよりはメドロールを多用しています。 皮膚サルコイドーシスに対しては,デカドロンという,作用時間の長い(副作用も強い)薬を使っています。

 ステロイドについて何よりも知っておいていただきたいのは,医師の注意にしたがって服用すれば, 「ステロイド剤はそんなに恐い薬剤ではない」ということです。「ステロイドは恐い薬だ」という風聞を信用し, ステロイドの服用を拒み,かえって病気がわるくなったという方を何人か知っています。ほかに有効な薬がないことが多いのです。 どうぞそんな風聞よりもお医者さんのほうを信用して早く病気を良くしてください。

副作用
 さて副作用についてです。確かにつづけて服用するとさまざまな副作用が出てくる可能性がありますので, 私たちは細心の注意をはらって処方しています。ただ,サルコイドーシスは一般にステロイドがとてもよく効くので, 一日12錠でも隔日投与(2 日に1回服用する)で済むことが多いのです。この投与方法だと以下に記すいろいろな副作用が とても出づらいことがわかっています。

 短期(服用直後)の副作用としては,稀ですが,不眠・精神変調・胃痛・頭痛などがあります。 それから,かなりの頻度で食欲亢進がでてきます。代謝が亢進して,おなかが減ってしかたがないということで, 多食になると当然太ってきます。薬を飲んでいる間はしかたないとあきらめるか,何とかダイエット食でしのいでいただくかです。

 長く服用していて出てくる副作用は,可能性としてはたくさんあります。列挙して簡単に解説をくわえます。

1.満月様顔貌・野牛肩;
顔が丸くなり,肩に肉がついてきます。とても目立つ人とそうでない人がいます。 出現した場合には,一時的なものとあきらめてください。ステロイド剤を減量していくにつれて必ず改善していきます。

2.浮腫;
手や足にでることがある。これも薬の減量にしたがって改善します。

3.血圧上昇;
これも一時的なものです。

4.多毛・皮膚が薄くなり,弱くなる;
かなり長く服用していると手足が細くなって,多毛になり,皮下溢血が 目立つようになります。隔日投与では出現率は低い。

5.胃潰瘍;
胃の壁も薄くなって胃潰瘍がおこりやすくなります。 短期でも私は必ずステロイドには胃薬を併用しています。長期になればH2ブロッカーというかなり強い抗潰瘍薬を使います。 胃薬を併用していればまず大丈夫です。

6.骨粗しょう症;
長く服用していると骨のカルシウムが減少してきます。とくに女性におこりやすく, ひどいときには骨折がおこって手術が必要な事態もおこりえます。これを防ぐためには,ビタミンDや,カルシウム剤を 併用することがあります。

7.誘発感染症;
ステロイドはリンパ球の数を減少させる作用があり,このため長期服用していると感染がおこりやすく なることがあります。私はこまめにリンパ球数と免疫グロブリンの値を調べて,低下してくるようであれば, 予防的に抗菌剤(抗結核剤のINHや抗生物質のバクタなど)の投与をはじめます。

8.糖尿病;
ステロイドを服用していてやっかいなのが糖尿病の合併です。これもステロイドの減量とともに改善してくるものです。 しかし,ときにはインスリンや経口糖尿病薬を併用しなければいけないこともあります。

9.ステロイド筋症;
まれな副作用ですが,長期のステロイド服用で筋力低下がおこることがあります。 しゃがめない,立ち上がれない,という訴えでこられることが多く,これがおこるとステロイドは減量せざる をえないでしょう。ゆっくりですが,やはりステロイド減量にともなって改善してきます。

10.眼の調節障害;
ステロイドを服用していて,眼のピントがあわないと訴える方が多いと思います。 眼科にいっても異常なしといわれますが,私はやはりステロイドの副作用だと思っています。詳しく書かれた本はありません。 多くは生活に支障をきたすものではなく,また,ステロイドの減量にともなって改善してくるものです。

11.白内障;
比較的多量のステロイド長期服用者にでることがあります。視力が落ちます。 これは一旦重症になってしまうと手術で治療するしかありません。最近では手術後の成績は良好です。

12.緑内障;
私はステロイドで緑内障になった患者さんの経験はありません。点眼薬などで対処しているようです。

 以上,代表的なステロイドの副作用について記しました。くり返しますが,ステロイドの副作用は薬の減量によって 多くが改善しますので,実際にはステロイドの副作用で苦しんでいる人には滅多におめにかかりません。 ステロイドの治療を恐がって治療から逃げてしまう場合のほうが,病気が進行して悪い結果になることが多いと言えるでしょう。


前のページへ ホームページへ次のページへ