オーディオ日記 第59章 ただ音楽のために(その9)2025年5月15日


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デジタル接続の経路に悩む:

Auralic Aries S1が我が家に来て一月半ほど経過し、今やデジタルトランスポートの主役の座を占めるようになっているが機器構成を改めて見直してみようと考えた。導入時のプランは断捨離の目的でAries S1から直接デジチャンにS/PDIFを入力する想定であったが、初期段階ではMUTEC MC-3+USB(+マスタークロック)とUSB接続させた方が好ましく感じられたのでやむを得ずその構成のまま使ってきたという経緯がある。

Aries S1の稼働時間もそれなりに経過し大分馴染んできたと思われるので、改めて確認がてらいろいろな接続スタイルを試してみようと。目標としてはなるべくシンプルな構成を目指すということもあるので、目論見としてはまずはデジチャンへのS/PDIF直結で、同軸ケーブル、光ケーブル、更にAES/EBU出力(注)をトライ。この結果であるが、光ケーブルはちょっと却下かな、という感じだし同軸ケーブルの場合もMUTECを経由する音の方が好ましく感じられ、ここまでは以前の比較の通りであった。

ところが今回初めてAES/EBU出力を試したのだが、自分でも半信半疑、、、この接続の音が不思議なのだが同軸よりも良いように思われた。敢えて云えばMUTECを経由しなくてもかなり納得の音(同等?)になる。これは感違い、それとも何か理由があるのか?
(注)デジチャン(DF-75)にはAES/EBU入力の端子が無いので、この接続ではXLR/RCA変換ケーブルを用いることになる。

使用しているケーブルは同軸がOYAIDE DR-510(70cm)、AES/EBU~RCA変換ケーブルがZAOLLA(90cm)でどちらも線材はSolid Silver。20㎝の微妙な長さの差異で違いが生まれているとは考えにくいし、そもそもデジチャン側は同じ同軸の入力端子である。気のせい、という以外には説明不能なのだ。それでも、やはり自分にとってはAES/EBU出力を使いたくなる、、、

同軸のS/PDIFとキャノンのAES/EBUはそもそもPCM信号としても規格が異なるのだが、面白いことにデータ形式は基本同じ(細部の情報の扱いには差がある)であるためデジタル信号のフレームとしての互換性があるので、送り出しと受け側が異なっていても音源再生そのものは問題がないことで知られている。違いは、ケーブルインピーダンス(75Ωと110Ω)と信号電圧振幅(0.5Vppと2~5Vpp)。AES/EBUの信号電圧は調べた限りではばらつきがあるようで必ずしも規格通りに厳密な2~5Vppの範囲になっているとは限らない。
(注)いろいろな機器の信号電圧振幅をカタログ等から調べてみた。AES/EBU(AES3-2003/IEC60958-4)は0.2Vpp~10Vppと比較的大きな幅があり、S/PDIF(IEC60958-3)では0.2~0.6Vppとこちらもそれなりには差がある。この辺りは規格と実装における実用上の許容範囲であろうと推測している。なお、規格に関してこちらの 文献 を参考とした。

Aries S1からの信号電圧振幅がAES/EBU、同軸でそれぞれでどのようになっているのか測定はしていないので、実際の値は未把握。しかしながら、この許容範囲レベルでの差異があるからと云って結果的に音の差が生まれるとは一般論的には考え難い。それでも、従来考えてもいなかったところで何らかの音の違いがあると感じてしまったことになる。ただし、因果関係について明確となっている訳ではない。

微妙ではあるかもしれないが、当初プランである断捨離を実行するのであれば、好みに従ってAES/EBU出力を選択することになろう。Auralic Aries S1自体のクロックもまぁまぁ優秀なもの(Dual 60fs Femto Clock)が採用されているので、クロック精度あるいは位相雑音において大きなビハインドは無いものと思う。

音を言葉で表すことはとても難しいのだが敢えて例えれば、AES/EBU出力直では(健康的で屈託のない?)素顔のままのようなイメージであり、MUTECでリクロックすると(上品な薄化粧の?)端正さ、とでも云えるだろうか。この信号電圧が何となく関係しているようにも推測されるのだが、当方の知識レベルでは現状ちゃんとした「解」は出せない。

じゃ、単純にはMUTECを経由しMUTECからAES/EBUを出力させれば、双方の良いとこ取りもできるかもと思ったのだが、ここでは変化の印象が薄く、MUTECからAES/EBUでの出力、S/PDIFと変えてみても差異は無い。Aries S1から直AES/EBUで出す場合と比して敢えてMUTECを経由する優位性が無いように思えるのだ。

整理としては:
・Aries S1からのAES/EBU出力の場合、デジチャン直受け(S/PDIF)で素直さ?
・Aresi S1からUSB出力でMUTEC経由の場合、たたずまいの良さ(リクロック効果?)

考えられるのは、Aries S1のAES/EBUにおける信号振幅とデジチャン側のS/PDIF入力が絶妙にマッチしているという固有のケースなのだろうか。オーディオにおける所謂「機器の相性?」あるいは「組み合わせの妙」、という奴か。そうであってもインピーダンスも絡むのでこれは全く腑に落ちない。はたまた断捨離願望が「Simple is the best」で使う方向へと無意識に印象操作をしているということなのかもしれない。

逆に考えて、この程度の微妙な差も検知できるほどにシステムが煮詰まってきているとするなら、それはそれで嬉しいことでもあるのだが、、、

従って、継続して印象が変わらないのかどうか少し時間をかけて検証してみようと思う。AES/EBUからデジチャン直結での音でビハインド感が無く、好みの音の印象であれば希望するシンプルな構成に出来る訳だし、将来的なコスト(マスタークロックのアップグレードやMUTECの更新)負担からも逃れられるというメリットも生ずることになる。つまりはこれならば断捨離プランは実行可能であると判断できる。

コバケンの熱き"振り"も堪能できねばならぬ:
Auralic Aries S1

なお、その他としてBluesound Nodeをどのように構成に組み入れて活用するかも考えてみた。プレイリストの柔軟さに関してはBluOSの優位は残っているし、既に大量のBluOSプレイリストがある。特にハイブリッドプレイリスト(ストリーミングとライブラリ音源のミックス)はBGM的に聴く際になるべく有効活用したいと思う。現状はNodeからのUSB出力をMUTECに入れるスタイルであるが、ここを断捨離前提で考えると、Aries S1にデジタル入力を入れる方法。この経路とすればAries S1のイコライザやリサンプラーなども使えることになるので、これはまぁ「あり」かもと思う。

Aries S1はUSB、光、同軸のいずれも受け付けるのだが、いろいろと試した結果USBの場合若干不安定要素があったのでまずは同軸での接続としてみた(Aries S1からはAES/EBU出力でデジチャンへ、というルートは単体の場合と同じでMUTECを経由しない)。厳密に云えば、僅かにAries S1単体と差があるようにも思われるが実用上(ハイブリッドプレイリストを使用したBMG的再生が中心となるので若干なら妥協できる)は問題なさそう。この辺りも思わぬ良い使い方があるかも知れず(柳の下の泥鰌?)、もう少し遊んでみようと思う。

(しばらく経過した後で)
比較試聴しながら、ふと気が付いた。Aries S1からのAES/EBU出力は本来MUTECのAES/EBUに入れる必要があるかも。今までの比較ではAES/EBU~S/PDIF変換のケーブルとUSBケーブル、同軸ケーブルの三通りしか試していなかった。これは片手落ちである。デジチャンの入力がS/PDIF入力しかないため、デジタルXLRケーブルにはこのところお世話になっていなかったためうっかりしていた。早速、しばらく使っていないZAOLLAのデジタルXLRケーブル(110Ω、Solid Siver、90㎝)を引っ張り出してくる。

しばらく振りに通電するケーブルのせいかどうか釈然としないのだが、Aries S1出力とMUTEC入力をAES/EBUに統一しても、MUTECを経由した場合の印象は大きくは変わらない(MUTECからデジチャンはAES/EBU~RCA変換のまま)。うむむ、摩訶不思議。そこで、このデジタルXLRケーブルにXLR/RCA変換コネクタ(TOMOKA製)をかまして、Aries S1~デジチャン直で使ってみた。AES/EBU~RCA変換ケーブルを使った時と基本的には同じ使い方となるのだが、やはりこの場合でも直接が好みかもという微妙な差を感じる。

AES/EBU~S/PDIF変換ケーブル(上)、AES/EBUケーブル+変換コネクタ(下)を試す:
AES/EBU to SPDIF

これにより単なる電線病?の範疇ではないだろうと思われるし、気のせいばかりとも云い切れない。むしろ、デジタル信号規格の違いによるもの? この辺りは全く知見が無く、謂わば感覚頼りなので、必ずしも正しい判断が出来ているとは限らない。決して大きい差ではないのだが、やはりデジタルの領域には未だ当方が知り得ていないような異世界があるのだろうか。あるいは明確には語られておらず闇に潜んでいる何かが、、、