オーディオ日記 第54章 今は空も飛べるはず(その23)2023年2月11日


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RAAT、DirettaそしてAoE:

PCオーディオに嵌って早十数年、いろいろな音楽再生ソフトウェアの変遷を経験してきた。しばらく愛用していたもので既に消え去ってしまったソフトウェアもそこそこあって時代の変化には加速感がある。操作性を犠牲にしても音の良さを売りとしたソフトウェアがかってはいくつかあったのだが、現状はiPAD等のタブレット端末によるリモコンアプリとセットになって「極楽」の操作性を実現しているものが多数派であろう。やはり音楽を聴く上でリスニングポイントに座ったまま選曲ができることは(除くアナログ再生)必須なんだと思う。最早これに慣れ切ってしまった当方にはデスクトップ画面操作などは考えられない、、、

以前からPCオーディオに関しては「操作性」、「安定性」、「音の良さ」の三点がしっかりと揃ったものを、と指向してきたのだが、特別な思い入れが無い限り今はもうあまり拘らなくても良いような気がしてきている。それだけ全体のレベルが格段に進化したんだろうと思う。操作性は好みの問題でもあるし、実感として音の優劣も極端な差がある訳ではないので、気に入ったものを選べば良いか、、、だが、価格構造はフリーウェアからスタートし、更にワンタイムのライセンス購入費用から月額料金制へシフトしているものも出て来ているなど総じてかなり高額になってしまっていることは少々気になる点でもある。

ハードウェアも含めたPC環境のいろいろな対策(電源系ノイズなど)を取ることも常識になっているし、出力デバイス(例えばUSB DAC/DDCなど)の選択肢も多様化しているので、あれこれと楽しみつつ自分流の構成に設えることができる。音に関して云えば環境次第ではあろうけれど、どれもが案外と優秀。

従って、オーディオファイルそれぞれが自分のチョイスに応じた構成で音楽を楽しんでいけば良いんだろうな、と思う。また、RoonのようにPCオーディオ部分とRoon Ready製品を組み合わせるというスタイルも定着していると思う。Direttaも当初はそれに近い構成(Diretta Target製品との組み合わせ)であったが、このところ出力デバイス側(Diretta Target)も任意のPC環境で構成を組めるようになってきている。RoonもRoon BridgeをインストールすればPC(あるいはラズパイ)を出力デバイスとして利用できる。等々、PCオーディオとネットワークプレーヤー機器の境目が無くなってきていること、あるいはそれらを連携させて使うということも既に一般的だと思う。

このような意味での構成の多様化、自由度の向上は今後どんどん進んで行ってもらいたいし、それを趣味としているオーディオファイルにとっては大いに歓迎すべきこと。NASを主体としていた音源の扱いも、急速にストリーミングへと主軸を移していくことは間違いないだろうし、ストリーミングに焦点を当てた機器が(それもかなり廉価で)どんどん出てくると思うし、それに期待もしている。

一方で、オーディオファイルであれば誰でも「突き抜けた音」が欲しいと思う。PCオーディオあるいはネットワークオーディオ機器の後段にある程度のレベルのDACを置くという構成がひとつのパターンかもしれない。DACの前段となる機器を「デジタルトランスポート」とイメージして考えれば良いか。なお、このデジタルトランスポートとしての機能を考えると、音源管理機能(含むストリーミング受信機能)、楽曲再生コントロール機能(所謂プレーヤ―機能)、そして「出力機能(アナログ出力、S/PDIF出力、I2S出力)」となろうか。

この「出力機能」については分離独立させた構成にした方が良いように思える。若干機器が増えるし、構成も面倒とはなるのであるが、やはり経験的には音の優位がある。RoonにおけるRAATでつないだRoon Brdige機能。DirettaにおけるDiretta Target(PC、Pi、App)、AoE Symphonic-MPDにおけるバックエンド機。いずれもがプレーヤ機能と出力機能をLANを介在させた上での分離である。そして後段となる出力機能部分は極力余分なことをさせず、単に受信した(音源)データを出力デバイスに書き出すことのみに徹する。

何台ものPCや機器を使うことについては、未だ自分自身でも心理的抵抗が残っている。単体機器で何とかできないのか。そこまでしなければならないのか、それで本当に音が良くなっているのか、等々。だが、多くのオーディオファイルは一聴すれば結論を出すだろう。そして自分もそうしてきた。

このところ、この分離構成を実現するRoonのRAAT環境、Diretta環境についていろいろと実験や試聴を繰り返してきたのだが、総論として出力機能を分離させて単独機器として使う、という構成に分があることは間違いないと改めて認識した。しかし、その優位性が具体的にどんなもので、それはどのような根拠、裏付けがあるのか、と問われれば論理的に説明することは能わない。若干は、、、こんなことじゃないか、、、という項目は挙げられたとしても。

また、この音楽プレーヤ機能と出力機能をLANで分離するプロトコル自体、RAAT、Diretta、AoE(Audio over Ethernet)という三種類を試している中で、そこでの伝送処理の内容によって音の差が生じるのか、という疑問も当然ながら湧く。そしてそこを中心に聴いてもきた。

NASによって音が変わる、LANケーブルによって音が変わる、ハブによって(ハブ介在の有無でも)音が変わる、一般論的にはそのような議論もなされ、決して業界における商品宣伝だけではない微妙なものも実際に存在してはいる。ここまでの議論はDACの前段となるデジタル信号の送り出し部分について書いてきたが、つまりは後段のDACならびにそれ以降のアンプやスピーカーが全く同一構成であったとしても差異が生じることは否めない。突き詰めれば、それは出力機能が送り出す「デジタル信号の質」に何等かのインパクトを与える要因があるものと考えるのが妥当かもしれない。かってはジッターというものがその辺りの要因としてかなり話題となっていたが、近ごろはあまりこの観点での話題は無いようだ。

では、デジタル信号の質とはどのように捉えられ、その質的な評価が可能なのか。単に何らかの測定によって捕捉可能なものなのか。分離構成においては、RAAT、Diretta、AoEのLAN上の伝送内容をトレースして解析すれば音の優劣が語れるのか。そこにはそれぞれのプロトコルに従った電文のやり取りがあるだけで、おそらく「質的なもの」は捉えられないだろうと思う。古い話であるが「デジタルだから音は変わらない」という論点はすべてのオーディオファイルが否定するだろう。だが、それでは「音が変わる理由は何か」という素朴な問いに対する明解な答えは未だに無いことももう一つの事実だと考えている(いや、オーディオと云うものはすべてそうであって、音の良否の要因など判らんのだよ、という議論は置いておく)。

出力機能を分離した(基本二台構成)でRAAT、Diretta、AoEを聴き較べてみて、そこにほにゃららはあるんか? というどこぞのコマーシャルの文言ではないが、ここに自分なりの結論を出さねばならない。RAATは音楽プレーヤ機能はRoon、出力デバイスはRoon Bridge(PCとラズパイ)、DirettaはWindowsでは音楽プレーヤ機能としてJRMC、LinuxではMPD、Diretta TargetはPCならびにラズパイ、AoEはLinuxのみで音楽プレーヤ機能はMPD、出力機能はラズパイのみ。そのようないくつかの構成で聴いてきた。

自分としてはっきりこうだろうと思うのは、RAAT、Diretta、AoEという伝送プロトコル自体では音の変わる要素は無い(異論はもちろんあると思う)。むしろ影響があるのは出力機能がどのようなデバイス、機器環境で稼働しているか、どのデジタル信号(USB、S/PDIF、I2S)を出力させているか。そして電源周りの手当の内容や使用しているチップ自体の性能、クロックの性能等々。

同じ出力機能を搭載した機器であっても、CPUの速度や処理を占有させているかどうか、デジタル信号として何を出力させているか、ということに依存する。つまりはこの部分にこそ「デジタル信号の質」の本質的なものが集約されている。ソフトウェア処理のアルゴリズムによる優劣の差よりも大きいものがここにあると思うのだ。ソフトウェア自体は現状ほぼOS的な機能の上に組み上げられているもの。そこにはプレーヤ機能としての差はあってもここで云うところのデジタル信号の質を大きく左右する(損なう)ような要因はほぼない(除くDSP処理、ソフトウェアのバグ、ただしCPUによる処理自体のサイクルディレイなどタイミングの揺らぎの影響は受ける)。端的に云えば、ハードウエアを駆動するドライバーと出力チップそのもの、そしてそれが実装されているハードウエア的な環境(基板やパーツ、レイアウト、チップ自体の品質、クロックの正確性、電源やノイズ対策等々)によって左右されることの方が大きい。

デジタル信号の質という観点で考えてみれば、クロック信号のクォリティも重要で、これに基づくS/PDIF信号のリクロック処理というものも何らかの貢献(改善効果?)が論理的にはあるようにも思われるし、これは我が家の構成において実際に使った上での実感と多少なりとも一致している。このようなことも含めてやはり「デジタル信号の質」というものは確かに存在し、またそれを改善、向上させることによって最終的なアナログの音をブラッシュアップできる、ということなんだろうという考えにも至る。

しかしながら、また問題がややこしいのは、このデジタルトランスポートの出力機能における「デジタル信号の質」は後段の機器(特にDAC)との相関によって音が決まる。つまりはDACを通してしか(人間としては)音を聴くことができず、DACが別の機器に変わればまたこの質の評価も結果として変わってしまうことになる。従って、このデジタル信号の質の評価自体が必ずしも一義的に音の評価として定まるというものでもない、、、

(注記)この観点からは一つの筐体にDACを含めたオールインワン機器の方が音質のチューン(DACチップまでの最短距離のI2S接続をインプリメントできる)と云う観点からむしろベターなのかもしれない。ただ、デジチャンをデジタル入力で使う、という考え方に固執している限り、この選択肢は無い。

これらをどうやって追求していくか、解明していくか、もちろんこうだと簡単に証明することなどとてもできないのだが、さらに掘り下げてみたくなるのだ。当方のような素人にとってはデジタル信号そのものの理論はほとんど理解できていないし、質的なものも感覚的な言葉でしか表せない。デジタル音源自体が標本化定理や誤差、まるめという構造の上に成り立っているものなので、原音のアナログ信号に対して理論的には完全な復元はできない、という頸木を元々持っていることも否めない。そのもどかしさはずっとあるのだけれど、極めて単純に「素敵な音で音楽を聴きたい」からこそ、あれこれあれこれと足掻いているのだと自覚している。

(謝辞)一連のトライを行うに際して、当方の情報収集不足やLinux対応能力の無さに関してアドバイスやサポートをいただいた、改めて深謝。ネット社会についてはダークサイドが語られることも多いが、素晴らしき面と思う。


                 4way MW16TX構成の設定値(2022年1月3日更新)
項目 帯域 備考
Low Mid-Low Mid-High High
使用スピーカー
ユニット
- Sony
SUP-L11
SB Acoustics
MW16TX
Sony
SUP-T11
Scan Speak
D2908
-
能率
能率(90dB基準相対差)
dB 97.0 (+7.0) 87.5 (-2.5) 110.0 (+20.0) 93.0 (+3.0)
定格値
DF-65の
出力設定
dB +1.0 +1.0 -9.0 +4.0
マスターボリューム
アッテネーション
dB -9.0 -2.0 -3.0 -0.0
各チャネル毎の設定
パワーアンプでの
GAIN調整
dB 0 0 -12.0 -12.0
 
スピーカーの
想定出力レベル
dB 89.0 86.5 86.0 85.0
合成での
出力概算値
クロスオーバー
周波数
Hz

140
140

710
710

4000
4000

High Pass

Low Pass
スロープ特性
設定
dB/oct flat-48 48-48 48-24 24-flat
DF-55 DELAY
設定
cm -8.0 +19.5 -37.0 +25.0 相対位置と
測定ベース
極性 - Norm Norm Norm Norm  
DF-55 DELAY COMP
(Delay自動補正)
- ON 自動補正する
DF-55デジタル出力
(Full Level保護)
- OFF 保護しない

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