オーディオ日記 第53章 超えてきた壁越えられぬ壁(その11)2022年3月10日


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低音の質感と量感:

オーディオの低音に関して、しっかりした低域の支えがなければそもそも「音楽として成り立たない」というくらい重要なものだと考えている。自分でも納得する低音の質感と量感が得られたならば、もうあれこれ弄るのは卒業しても良い程と思っているのだが、現実は理想には遠くなかなかに厳しい。当然ながらスピーカーユニット周りの能力とリスニング環境である部屋の構造にも大きく依存する。

低音あるいは低域という定義をどの周波数帯域とするか、その点はオーディオファイルとしては議論百出するかもしれない。200Hz辺りを境に、という考えでも良いかもしれないし、ぐっとオーディオ寄りに考えれば100Hz以下、時には50Hzまでという感覚もあるかも。

重く迫力のある、腹に響く、などという表現もあるし、軽く乾いた低音という云い方をする時もある。最新鋭の映画館で聴く重低音は最早限度を越えて恐怖心さえ導き出すような仕掛けになっている、としか云いようがない。まぁ、映画館のレベルの低音は行き過ぎとしてもこれに近いものを求めるのはオーディオビジュアルファンだけとは限らないと思うのだが、実現するにはまずは専用の部屋とサブウーファが最低限必須になってしまうだろう。

一方で質感については更に難しいものがあって、再生周波数の下限をのばし必要以上の量感を追求すると音楽としては破綻してしまう危険性も高い。映画のシーンで爆発音などをリアリティ豊かに聴くのなら望ましいんだろうけれど、それは音楽ではない、、、楽器としての質感が適切に再現できれば良いと考えるが、低音を出す楽器自体がパイプオルガン、コントラバス、ティンパニ、ピアノの低弦、エレキベース、ドラム等々と多彩でそうそう一筋縄では納得レベルの「質」には達しない。

翻って、我が家の再生環境であるが、そもそも絶対的な音量がそれほど大きくはない。(ただ家人に云わせれば、どうもその限りではないようなのだが、、、)従って、ある程度低音を充実させた周波数レスポンスカーブを作らないと実体感が伴ってこない。このため現状は通常聴く音量レベルで50Hz~40Hzにかけて測定上で+5dB程度となるように設定している。

現状の低域用スピーカーユニットは紙コーンの15インチ、バスレフエンクロージャである。バスレフポートのチューニングにもよると思うのだが、我が家のレベルでは量感的にはこれで充分かもと考えてきた。低域のクロスオーバー周波数は今は140Hzとしており、中低域ユニットの受持帯域をあまり下げないようにして中音域の混濁感を排除する目論みもある設定。

だが、部屋を含めた環境の課題もあって悩ましきポイントは尽きない。我が家は集合住宅であり、スピーカーの背面はコンクリートに壁紙を張った仕様のもの。ある程度は壁との距離を確保しているもの、我が家におけるリビングルームではオーディオ機器設置の「防衛ライン」というものがあり、野放図には前には出せない(正しくは許可が出ない)という厳しい現実もある。

4wayのマルチアンプシステムの調整を続けてきて、概ね中低域から高域まではそこそこ納得できる音にもなってきたと思うのだが、やはり低域は難しい。これは単なる周波数レスポンス、出力レベルではなく、「質感」も含めた総合的な課題があるんだろうなと。背面の壁の恩恵で量感は確保できていると思うのだが、肝心の質感がまだまだふわふわとしている。量感を失うことなく引き締まった、軽い低音も欲しいし低音楽器の実体感ももっと出したい。そう、ソリッドで爽やかな低音が欲しいのだ。量感を求める余り茫洋とした低音になってはならないのだ。

一般論的に考えれば、バスレフを採用したエンクロージャではこの質感の向上は難儀するポイント。もちろん、理論に基づく厳密なバスレフ設計がなされたスピーカーシステムであればこのような危惧は少ないのだろうけれど。当然の帰結として、じゃ密閉にすれば? ということにもなるのだが、事はそうシンプルではない。15インチウーファーで密閉箱とし、充分な低域再生限界を得るためには相当なサイズのエンクロージャーが必要となってしまう。

我が家のエンクロージャは家宝とも云うべきWoody&Allen製。これを再製作するつもりは毛頭無い。だが、何か工夫の余地はないか? 知恵の無い(毛はある!)頭であれこれ考えてみれば、まず思い浮かぶのはバスレフポートをすべて塞いでみるという案。で、早速やってみたが、これは質感以前に測定しても明らかで50Hzより下のレスポンスが低下してしまって全く豊かさが無く面白味のない低音となってしまう。

だが、壁に敢えて近づけるという対応で低域の増強を図れば、これは元の木阿弥となろう。次に考えたのは二つあるバスレフポートの片方だけ塞ぐという方法。これは予想以上に質感の向上も認められるし、量感が削がれ過ぎた状況にはならない。多少はいい感じなのだが、それでも量感を考えればやはり物足りないものが残る。この点が何とかできれば、、、単に低域チャネルの出力レベルを上げてしまうと、140Hzというクロスオーバー周波数以下の全体が持ち上がってしまうので、その方法は採用できない。

で、更に考えてみた。極々常識的にはトーンコントロールによる量感の増強である。また一部のプリアンプ等にはコンペンセーターという音量によって低域(や高域)を増強する仕組みもある。だが、我が家にはその仕組みはない。頼みのデジチャンも万能の神ではなく、チャネル単位に補正(増強)する仕掛けを持っていない。

DSPによる補正が残る手段、、、とも考えたが、今ここでDG-68を導入する選択は考えにくく、これは次世代のデジチャン登場を待ちたいが故。なお次なる代替手段としては低域チャネルにのみイコライザーの類を挿入するという方法もあり、まずはこれを実験的にやってみようかと。世には多少価格の安いデジタルイコライザも若干あるが、低域チャネルにのみ単体機器を挿入するスタイルならば、デジチャンの後段に接続するアナログ式のものでも問題はないかも?

プロ用のアナログベースの機器を見繕ってみると案外といろいろあってこれは楽しい。グラフィックイコライザあるいはパラメトリックイコライザによる補正がまぁ通常だろうな~と思いつつ候補を検討していると面白い機器が目に付いた。Bassプロセッサーと云われる機器である。あるいはBassエンハンサーというのが正しいのかも。

機種によって差異はあるのだが、概ね50Hz辺りを増強する機能を持っている。だが、イコライザ系と若干趣を異にするのは、単に低域周波数領域のレベルアップだけではなく、音の質感にも関与してくるという点。これは賛否ありそう(邪道かも?)だが逆に案外面白いのではないだろうか? 機器の価格もメーカーによって異なるのだが、結構廉価。つまり「お遊び」には持って来い! である。

乗りかかった船には乗ってみよ、で早速入手。お遊び代と考えれば期待通りでなくてもいいかもと。接続はデジチャンの低域チャネルとマルチチャネルアッテネータの間にバランス接続で。バスレフポートは前述のように片方を塞いだ状態で実験開始。

心配するのは機器挿入によるサウンド全体としての質感の低下であるが、この点は(厳密には140Hz以下というクロスオーバー周波数のために判らないだけかも?なのだが)残留ノイズなどによるS/N低下は杞憂で合格ラインをパスしていると思う。で、リスニングポイントにおける周波数レスポンスの測定をしながら、レベル設定を行ってみる。レベル調整によって明確にレスポンスの変動があるのでちゃんと効いている、という感じか。

50Hz~40Hz辺りのレスポンスがバスレフポート二つの時とほぼ同じとなるように設定したが、100Hzより上には影響が少なくこの点はありがたい。100Hzより下はそれなりに上昇していく感じなので、ここはバスレフポートによる低域とは若干ながら異なる点。

ラフな調整ではあるが聴いてみた。あや~これ、、、、案外とイケてる。それとわかるような弊害が無い点も重要で、また一聴して思った以上にタイトな低音なので良い感じ。その上で量感もしっかりと確保できてる。これは正直期待値以上。50Hz~100Hz辺りが僅かに上昇しているのでそれが音の厚みにも貢献している気もする。

交響曲などクラッシック系の低域、あるいはジャズ系のベースなどそこそこ多様な音源を聴いてみたが、いずれも低音の量感を確保したまま質感が良い方向となったように思える。これが単なる周波数バランスによるものか、バスレフポートを減らした効果なのか、あるいはBassプロセッサーの内部処理にも起因しているのか、現状はまだ然りと合点が行くほど判別できていない。おいおいとこの辺りは詰めて行かねばならないだろう。

なお、バスレフポートの両方を塞いでしまう案も考えたが一気にやり過ぎて却って破綻しても困るので、ここはバスレフポート片肺状態をキープして更なる試聴継続と微妙な調整を続けてみようと思う。

(参考)
お試し導入してみた機器は Behringer Sonic Ultramizer SU9920 という超廉価な機器。メーカーの説明に拠れば、「サイコアコースティックに基づく」信号プロセッサーだそうな。原理詳細などは全く不明で、メーカー能書きは下記の通りでこれも理解し難いもの。プロ用機器としてワールドワイドに販売されているものなので、まるきり中身のない製品とは思えないのだが、、、いずれにしても一般的なオーディオファイルが敢えて使うような機器ではなさそう。

「オーディオ信号を改善し、存在感とライブ感を与えるプロフェッショナル信号プロセッサーです。ダイナミックレンジフィルターとフェーズディレイアルゴリズムの組み合わせで信号を処理します。フェーズディレイアルゴリズムはサイコアコースティックに基づき、不自然なサイドエフェクトの無いサウンド改善を実現します。」


                 4way MW16TX構成の設定値(2022年3月10日更新)
項目 帯域 備考
Low Mid-Low Mid-High High
使用スピーカー
ユニット
- Sony
SUP-L11
SB Acoustics
MW16TX
Sony
SUP-T11
Scan Speak
D2908
-
能率
能率(90dB基準相対差)
dB 97.0 (+7.0) 87.5 (-2.5) 110.0 (+20.0) 93.0 (+3.0)
定格値
DF-65の
出力設定
dB +1.0 +1.0 -9.0 +4.0
マスターボリューム
アッテネーション
dB -9.0 -2.0 -3.0 -0.0
各チャネル毎の設定
パワーアンプでの
GAIN調整
dB 0 0 -12.0 -12.0
 
スピーカーの
想定出力レベル
dB 89.0 86.5 86.0 85.0
合成での
出力概算値
クロスオーバー
周波数
Hz

140
140

560
560

3150
4000

High Pass

Low Pass
スロープ特性
設定
dB/oct flat-18 48-48 48-24 24-flat
DF-55 DELAY
設定
cm -8.0 +19.5 -37.0 +25.0 相対位置と
測定ベース
極性 - Norm Norm Norm Norm  
DF-55 DELAY COMP
(Delay自動補正)
- ON 自動補正する
DF-55デジタル出力
(Full Level保護)
- OFF 保護しない

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