オーディオ日記 第51章 行く道は果て無く(その10)2021年4月8日


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風の音:

この地上には大気があり、風がある。大気があるから音がある。

風にも音がある。風で木々がざわめく音。ヨットハーバーに林立するマストは風を受けてグルーブ(セールを付けるマストの溝)が笛のようにひゅうひゅうと鳴る。おっ、今日はタフなセーリングにはなるけどいい風だ! 強くなりすぎればマストにシャックルで留め付けられたハリヤードがカランカラン、あるいはちんちんと鳴って警告する。こういう音がその風景が好きだ。

水面(みなも)を渡る風はまた「見える」。水面には風紋が描かれる。風が弱くて風を探してのセーリングとなると時はこれを見張る。そこには風があるから。また時にはウサギが跳ぶこともある。強風に煽られた波はまるで白いウサギが飛び跳ねているようにも見えるのだ。こういう時はちょっとビビってしまって早くハーバーに帰りたくもなる。

SF映画で飛び回る宇宙船は派手な音を出す。入り乱れる光線やらミサイルや爆発も然り。だが、真空状態であれば本来は「音は無い」。もちろん、人間は真空状態では生きられないので真空での音を聴いた人類はいない?

蝉の発音器官は極めて小さな筋肉なのだが、腹部の空洞に共鳴して途方も無いほどの音を出せる。夏の夕方に聴く蜩の声がとても好きだ。この透明な響き、あちこちから湧き上がるように輪唱するように鳴き続ける声を何時までも聴いていたくなる。

この地上にあるものだけに音があるのだろうか、、、論理的に考えれば、窒素酸素を主とした大気ではなくても音が振動として伝わるものであれば(それが木星のメタンやアンモニアの大気であろうと固体であろうと)音は存在している。

団扇を煽げば風が起こる。だが、それだけでは風の音は聞こえない。人間の腕で幾ら振っても一秒間に数十回あるいはそれ以上振ることなどできないからだ。コイルに電気を通して磁石で動かし、そのコイルの動きを紙などの振動板に伝えて空気を押したり引いたすれば音が出る。当たり前のようなことではあるが、今更ながら「これって凄くね?」とも思う。

大気、空気の重さや粘性というものは案外と大きくて、風の威力は時に大きな風圧を伴って半端ではないことも。大型ジェット機すら翼で浮かぶのは大気があるが故。だから大きな低い音を出すには相当の力(スピーカーなら電力)が必要となる。普段はあまり意識しないことなのではあるが、やはり不思議な気もする。(不思議なことは耳や鼓膜の構造にも、、、)

大気の震えを生き物は音として聴く。当たり前すぎることなのだが、スピーカーというものを通して音楽を聴く時にはそんな事は思い出しもしない。スピーカーユニットの中で振動板が激しく前後していることも想像しない。でも、音が良いだの悪いだのと言及してしまう。もちろん、オーディオファイル的に考えればオーディオシステムは総合的なものであってスピーカーだけが特別な存在ということでもない。でもスピーカーユニットが放つオーラのような波動が無ければ音楽の感動も無いようにも思える。何故だかそれは自分には解らないのだが。

空気を動かして音を出す、それは単純で簡単なようでもあり、またHigh Fidelityなどと言い出せばきりが無いほど奥が深い。現実にオーディオシステムから流れる音楽には浸れるけれど自然音と同じレベルとはどうしても思えない。それは未だ我がオーディオシステムが未完であるから故なのか、人工的な音という意味での宿命なのか。あるいはどこかでそれをブレークスルー出来るような事が起こらないのか、、、

磁石とコイルで振動板を動かす時に、これ自体が質量を持っているが故に音の立ち上がりや立下りに課題がある事はインパルスレスポンスを見れば明らかで、これは止むを得ないことなのかも知れず、それが自然音へ到達出来ない要因なのだろうか。スピーカーの構造としては極力軽くて固い振動板が初動感度の観点から有利であるとは一般的な知識が教えてくれる。それ故に軽くて強い素材が探求されてきたのだろう。振動板それ自体はユニットのサイズにも依存するが、例えリボンツィータであってもリボンなどが僅かながら質量を持つ。6インチサイズのユニットならムービングマスと呼ばれるものは15グラムから20グラム程ある。15インチウーファーならもっとずっと重くなる。究極としてはイオンスピーカーのように振動板を持たない構造なのかとも思うけれど(おそらくはコスト的に?)僅かな例があるに過ぎない。

空気を押したり引いたりして音を出す為に重要な事は正確なピストンモーションと云われている。振動板はたわんではいけないし、本来と異なる振動(分割振動)をしてもいけない。これらは歪を増加させる。だが、現実にはこの動きを阻害する要因が沢山ある。それが振動系全体の質量(ムービングマス)であり、ダンパーやエッジの弾性である。磁束密度もまた絡んでくる。これらが複合的な条件として重なって正確な音の立ち上がり、立下りを困難にする一因となる。

世にはいろいろなスピーカーの振動板素材があって、それぞれのユニットメーカー(あるいはスピーカーシステム製造者)が振動板が軽くて、硬くて、共振しにくいことの優位を謳う。

実際に音の良否との因果関係はそれほど単純なものでは無いだろうと思うのだが、ムービングマスも重要なひとつのファクターだと思う。ユニットメーカーはこのムービングマスをカタログスペックとして示してくれていることも多い。一方でスピーカーシステムとして販売されているものはそこで使われているユニットの優秀さを謳うけれど詳細なユニットスペック自体は提示しないことが逆に多い。まぁ、スペックではなく、音を聴けということだと思うが。

音楽の更なる豊潤さを求めてCarbon Textremeをベースとした中低域ユニットの発展形をあれこれと考えている中で、候補となりうるユニットのムービングマスを調べてみた。当然ながら口径によって異なるので一概に重さだけで優劣は決まらない。Carbon Textremeは素材としてはペーパーコーンに匹敵する位に軽い。セラミックは予想したとおりやや重いようだ。6.5インチ~7インチサイズのベリリゥムユニット(Paradigm)はスペック不明。同様にアルミハニカム+ナノグラフェン(Magico)のムービングマスも不明。これらについては是非知りたいとは思うのだが。一般的なCarbon(Morel)、ポリプロピレン(Audio Technology)とCarbon Textremeの比較ではややCarbon Textremeが有利とも思える。

これらに絡んでつらつらと想いを巡らせてみれば、口径を大きくすることの得失にも考えが至る。Carbon Textremeユニットでも16cmから19cmに口径を拡大しようとするとこのムービングマスは12.3gから15.6gへと3割近く増える。低域方向の再現性を考えれば口径の拡大が望ましいと思うのではあるが、反応のシャープさや音離れという観点では相反する可能性がある点でもある。200Hzから1000Hzくらいという中低域ユニットの受け持ち帯域は音楽を構成する周波数分布から見ても極めて大切な部分。ここの素直さが求めている音の自然さにも直結するようにも思う。音楽の豊潤さも欲しいのであるが、低域部分は別のユニットが担当しているので、そことの連携(クロスオーバー周波数)で何とかならぬものかとも考えてみる。クロスオーバー周波数を160Hzから200Hzに上げて遮断特性を-48dB/octにしてみたりしているのだが結果はいまひとつか。

妄想は妄想を呼びすっきりとは答えを出せなくもあるのだが、やはりベリリゥムとアルミハニカム+ナノグラフェンを聴いてみなければ、との想いも募る。

音楽に浸れることがオーディオシステムの本来の目的であるが、この世界にある素晴らしい音をどうすれば再現できるのか。そういうことをあ~でもない、こ~でもないと考えてしまう。一方で音楽ソースそれ自体はほとんどがオーディオシステムで聴感上心地良くなるように意図的にコンピュータ加工されているもの。そしてこれはそのお化粧が上手であればあるほどオーディオ的快感となって決して悪いことでもない。だが、アコースティックな楽器の音や人間の声をできる限りナチュラルな響きや音として聴きたいと思うのだ。この我儘というか矛盾をどう解決していけばよいのかまだ朧気にも道筋を見出せてはいない。


                 4way MW16TX構成の設定暫定値(2021年3月17日更新)
項目 帯域 備考
Low Mid-Low Mid-High High
使用スピーカー
ユニット
- Sony
SUP-L11
SB Acoustics
MW16TX
Sony
SUP-T11
Scan Speak
D2908
-
能率
能率(90dB基準相対差)
dB 97.0 (+7.0) 87.5 (-2.5) 110.0 (+20.0) 93.0 (+3.0)
定格値
DF-65の
出力設定
dB +0.7 +0.7 -10.5 +4.7
マスターボリューム
アッテネーション
dB -9.0 -3.0 -3.0 -5.0
各チャネル毎の設定
パワーアンプでの
GAIN調整
dB 0 0 -12.0 -12.0
 
スピーカーの
想定出力レベル
dB 88.7 85.2 83.5 80.7
合成での
出力概算値
クロスオーバー
周波数
Hz pass

160
160

1000
1000

2800
3150

pass
Low Pass

High Pass
スロープ特性
設定
dB/oct flat-24 24-24 24-24 24-flat Low Pass
High Pass
DF-55 DELAY
設定
cm -10.0 +28.0 -37.0 +27.0 相対位置と
測定ベース
極性 - Norm Norm Norm Norm  
DF-55 DELAY COMP
(Delay自動補正)
- ON 自動補正する
DF-55デジタル出力
(Full Level保護)
- OFF 保護しない

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