オーディオ日記 第48章 妄想と葛藤(その20)2020年3月19日


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普遍性と官能の間で:

人の声を賛美して「美声」ということがある。実際女性、男性にかかわらずいい声だな~と思う歌手がいる。もちろん好きな声かどうかは多分に個人の趣向もあると思うので万人が万人そう思うとは限らないのであるが、やはり多くの人が認める美声というものも確かに存在する。

人間の声によって成り立つ音楽においては、この声の良さが当然ながら重要で感動のかなりのファクターを占めていることは間違いない。一方で所謂濁声的なボーカルであっても強烈な説得力を持って音楽が提示されると素直に共鳴してしまうことも多い。当方は、楽器自体の音の優劣を明確に聞き分けることができない。その訓練も素養もないものと思っている。だが、人間であれば誰しもであるが人の声を他の人の声と聞き誤ることはまずない。それは一体何を感知して「この人の声だ」と判断しているのか、未だに判らぬのだが。また厳然として声に対する好みというものも存在する。

オーディオの観点で音の判断をする時はいろいろな評価要素があるものと思うが、人の声を判断基準のベースにするということも相当に重要なポイントだと考えている。好きな歌手のボーカルが自分にとって心地良く聴ける「声」として再生、表現されているかどうか、極端に云えば曲や録音や歌の上手い下手ではなく、声そのものの魅力の有無で自分としては優劣の判断しているのかもしれない。

このところ長らく続けてきたPCオーディオによるデジタルトランスポート捜しであるが、現状大分終盤?に差し掛かってきたようにも考えている。現時点でPCオーディオ構成(注記1)として勝ち残っているのは、

・Symphonic-MPD ラズパイ4版 (未だベータバージョン)
・lightMPD改 PC版 (donut_shop73バージョン)
・lightMPD ラズパイ4版 (digififanバージョン)

の三つである。いずれも負けず劣らず素晴らしい音を聴かせてくれるのだが、これらの比較に於いては、FPS(フラットパネルスピーカ)を4wayマルチの中低域に使用した構成でずっと聴いてきた。これは音楽再生及び音楽表現の「普遍性」を意識してのこと。FPSというスピーカーは周波数特性が平坦でほぼ癖のない再生が可能な故である。

だが、この構成では声の再生(特に女性ボーカル)という観点からは普遍性とは別にもう少し色気、艶、ある意味での官能というものが欲しくなってしまう。もう一つの構成であるSony SUP-T11というホーンドライバーを同様に中低域に使用した構成では、もしかしたらホーンであるが故の個性(癖ともいえるかもしれない)によって、固有の音色など色付けが行われてしまう恐れが無いとは云えないのだが。

しかしながら、上記構成の役者が揃ってきたこともあって、改めて「官能」の観点から聴き較べてみたらと考えた。振りかって思えば、Sonyのユニットを導入したのは「ボーカルの再現力」に惚れ込んでのこと。2002年のことである。だが導入以来、当方の力量故になかなか本領発揮させてあげることができず悶々としてきたことも紛れの無い事実。最近になってやっと何とか本来の導入意図の一部を叶えられたのかな、と感じている。

オーディオ、音楽として「普遍性」の確保は極めて大事、これ無くしては何も始まらない。だが、音楽そのものは、音の「官能」の塊とも云える。そして人間の声、まして女性の声というものは、この魅力の表現が出来なければボーカロイドの声と同一の味気無さにも通じる。

今までJPALY FEMTOを使ってきた経緯で云えば、JPLAYとこのSUP-T11の構成は良くマッチしていた。逆にラズパイベースの構成ではFPSの構成の方がオールラウンダーという観点で使い易かった。従って、明確な理由などは無いのだが、JPLAYではホーンドライバーであるSUP-T11の構成とし、Linux、ラズパイオーディオではFPSの構成という役割分担が自然と出来上がってきてもいた。

今般Symphonic-MPDラズパイ4版に比類無き可能性を見ているのだが、さて、これらをSUP-T11の構成で比較試聴したらどのようになるだろうか、、、本来的には未だベータ版の段階なので評価すべきではないと考えているのだが、最早そんなことは云ってられないくらい興味が募るし、音としての完成度はもう充分に高いようにも思う。

そこで、このベータ版をラズパイお出かけセット(専用電源、ノイズ対策、クロック換装などラズパイには似つかわしくないほどの装備)で稼働させるように変更した上で、試聴開始。

美声とくれば、当方は真っ先にUte Selbig(注記2)である。ドイツのソプラノ歌手であるが、清楚、可憐な声ということでは(個人的には)右に出るものはいない。この方のお声を充分に納得の再生ができたらもうオーディオは上がりでも良い、と思っているくらいである。

さらに女性ボーカルを続けてみる。古い方達ばかりであるが松崎悦子、田中ユミ、平山泰代、大貫妙子、倍賞千恵子、陳美齢とお気に入りが続く。海外からは美声というのとはちょっと違うとは思うのだが、歌唱力のあるEva Cassidy、Jheena Lodwick、Chantal Chamberlandなどなど。

改めて感慨深いのは、SonyのSUP-T11、SUP-L11(ウーファ)というユニットの声の再現力。日本製のスピーカーユニットの活躍の場が小さくなってしまって寂しいことこの上ないが、ボーカルの魅力的再生という点では決して海外製のユニットに引けを取らないし、楚々とした美声を穏やかにじっくりと堪能させてくれる。キレキレの音ではないが、所謂オーディオ的な官能がここにもある。

この後段のスピーカー構成をラズパイを含むLinux環境のプレーヤー達はいずれも何と気持ち良くドライブしてくれることであるか。もちろんそれぞれに差はある。だがそれは僅かであるとも思うし、むしろプラットフォームそのものや、オーディオインターフェースの差異、電源系の差異、ノイズ対策の違いなどの影響が色濃いかも、と感じる。

声の魅力を極限まで引き出してくれることが理想なのだが、これが限界かどうなのかはわからない。デジタルトランスポートとしてのPCオーディオだけで官能の世界を十全に表現できる訳でもない。それでもただ、いいな~、いいな~と聴き惚れるのみ、、、

(注記1)構成について:
三つの構成はすべて単体での稼働(+NASに見立てたサーバーPCと連携)である。究極を目指すのであれば、複数台に分割し役割分担させる方法もあるが、逆に安定性やメンテナンス性が犠牲になることは経験済みなので、シンプルな状態で如何に良い音を聴かせてくれるのか、それにこだわった。正直、複雑な環境を維持するのは案外と面倒でトラブルにも見舞われやすく、音楽を聴くこと、楽しむこと以外に時間を取られることにもなってしまう。その観点からも単純な構成の方がバルネラビリティも高く安心して運用ができると今は考えるようになってきた。

(注記2)Ute Selbig(ウーテ・ゼルビヒ)の紹介:
貴重な 美声 がYouTubeにあるので参考まで。また、オフィシャルサイトで若干紹介されている映像もあり、この ページ の一番下にある「Divine Service」の映像、美声は必見。なお、惜しむらくは手に入るこの方の音源がかなり少ないこと。CDではサン・サーンスの クリスマスオラトリオ が超絶的にイチオシなのだが、既に手に入りにくい状況となっているのも残念。


4way構成の設定備忘録(2019年12月4日更新)設定値

項目 帯域 備考
Low Mid Mid-High High
使用スピーカー
ユニット
- Sony
SUP-L11
Sony
SUP-T11
Accuton
C51-286
Scan Speak
D2908
-
スピーカーの
能率(相対差)
dB 97 (+4) 110 (+17) 93 (+0) 93 (+0)
定格値
DF-65の
出力設定
dB +1.2 -10.0* +1.7 +3.8
*DF-65 Att ON
マスターボリューム
アッテネーション
dB -3.0 -3.0 -6.0 -3.0
各チャネル毎の設定
パワーアンプでの
GAIN調整
dB -6.0 -12.0 -6.0 -12.0
 
スピーカーの
想定出力レベル
dB 89.2 85.0 82.7 81.8
合成での
出力概算値
クロスオーバー
周波数
Hz pass

500
500

1400
1400

2500
4000

pass
Low Pass

High Pass
スロープ特性
設定
dB/oct flat-48 48-24 24-18 24-flat Low Pass
High Pass
DF-55 DELAY
設定
cm -7.0 -37.0 +30.0 +30.0 相対位置と
測定ベース
極性 - Norm Norm Norm Norm MPD
環境下
DF-55 DELAY COMP
(Delay自動補正)
- ON 自動補正する
DF-55デジタル出力
(Full Level保護)
- OFF 保護しない

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