音の不可思議:人の声というもの
当方は至って駄耳なので、音楽を聴いていても楽器自体の音色の優劣、良し悪し(真に良い楽器なのかどうか)を判断できる事は実のところあまり無い。それが録音状態に起因(ホールの空間自体の大きさや響きであったり)するものなのか、演奏そのものか、録音機材の差異と録音エンジニアの技量なのか、もちろんそれらが渾然一体となった上での音楽であり楽器の音色であるとは思うのだが、、、
おそらくこれは幼少より素晴らしい楽器の数々を生演奏でしっかりと聴いてきたという経験値が不足で、そのような感性を備えることが能わなかったと云えるかもしれない。だが、不思議なことに「人間の声」については自分なりの判断基準や評価が大きいとは思うが、明確に判断できる。人間の声の特徴はどのように構成(周波数や倍音成分の分布?)されているものか正確に把握できている訳ではないが、いろいろな楽曲や録音状態であってもその人の声を聴き誤ることもほぼ無い。誰でもこれは自然なことで同じように判断できるものと思うが、どうして人の声なら判断可能なのか当たり前過ぎて自分でも良くは判らない。楽器に対してこれができない、というのは慣れとか訓練などというものの類なのだろうか。それとも才能のひとつなのだろうか。
そしてこのことはまた人間の声に対する「明確な好み」としても現れてくる。好きな声、嫌いな声がはっきりしているのだ。でも、それは何故?
自分の生まれや育ちを考えてみても、また今でも西洋的な宗教世界とは全く無縁である。だが、所謂Sacred Music(一般的には宗教音楽、やはり中心となるのはキリスト教世界のものと思う)には若い頃からかなり魅了されてきたと云って良いだろう。それがどのような理由によるものかは自分では全くわからないのだが、20代後半に初めてフォーレのレクイエム(ミシェルコルボ指揮)を聴いた時の激しい感動は決して忘れることがないもの。爾来このSacred Musicの類は当方のかなり良く聴く音楽ジャンルとなっている。
そしてこのSacred Musicでは多様な人間の声で構成されている音楽が多い。それはソプラノ、アルトであったり合唱であったり、ボーイソプラノであったりと人の声の多彩さを充分に堪能させてくれる。浅学にして音楽自体を構成する宗教的背景はほとんど把握できていないにも係わらず、ここで奏でられる音楽、そして人の声に魅了されるのだ。
音源としてのSacred Musicの全体的な傾向としてはややたっぷりとしたエコー成分、特に教会などの残響を味わうことが出来るもので、声(発声や歌い方)も自然なものが多い。録音加工は皆無ではないと思うのだが、他のジャンルに比せば随分と自然に感じるものが多いのだ。パイプオルガンが含まれている楽曲なども大好き。大きな空間を感じさせる柔らかなオルガンの音色に清楚なソプラノや女声合唱が加わるとなれば、それはもう天上世界そのもの。腐りきった自分の性根も決して誇ることのできない己の生き様も少しは浄化できるような気もするのだ。
一方でSacred Musicに登場してくる歌手、人間の声にも、やはり好き嫌いが顕著にあることも事実。一般論的にはテノールはそれほど好きな声の帯域ではない。だが、男性合唱は不思議に魅力を感じる。読経が耳に心地良く響くのと同じことなのかもしれないが、声が複雑に絡み合って織り成された響きが陶酔をもたらしてくれる。
楽器の音色をまともには聴き分けられない自分にどうして人の声であればそれが可能なのか? そのような疑問がずっと消えない。
オーディオ的な視点で考えてみると、「声の再生」ということには随分と拘ってきたようには思う。人の声の持つある種魔性的なものの再生も含めてそれが納得できるまで拘ってみたいのだ。現状そのレベルに到達できているのかどうかは幾分心許ない。だが、スピーカーユニットをあれこれと吟味しつつ設定を追い込んでいく中でやっとひとつの解が見えてきたのかもしれないと思う。若き日にALTECだったり、JBL、ElectroVoiceだったりというスピーカーユニットで追い求めていたボーカルの再生はSONY SUP-L11とSUP-T11というユニットに出会ったことがおそらくはひとつの転機となったのだと思う。そしてそこから既に20年近い年月が流れている。(実際に導入できたのは2002年である)
もちろん理想が実現できたとはまだまだ思えない。だが、現状この両ユニットにセラミックドームユニットとベリリゥムツィータを加えた4way構成で聴けるSacred Musicの数々は、自分なりにはこれはこれでひとつの到達ポイントではないのだろうか、と思わせてくれる部分がある。人の声というものは限りなく魅力的なものである、、、と秋の夜にひとり聴き入る今日この頃である。
4way構成の設定備忘録(2019年10月6日更新)設定値
項目 |
帯域 |
備考 |
Low |
Mid |
Mid-High |
High |
使用スピーカー ユニット |
- |
Sony SUP-L11 |
Sony SUP-T11 |
Accuton C51-286 |
Scan Speak D2908 |
- |
スピーカーの 能率(相対差) |
dB |
97 (+4) |
110 (+17) |
93 (+0) |
93 (+0) |
|
DF-65の 出力設定 |
dB |
+1.2 |
-9.7* |
+1.7 |
+4.0 |
|
マスターボリューム アッテネーション |
dB |
-3.0 |
-3.0 |
-6.0 |
-3.0 |
|
パワーアンプでの GAIN調整 |
dB |
-6.0 |
-12.0 |
-6.0 |
-12.0 |
|
スピーカーの 想定出力レベル |
dB |
89.2 |
85.3 |
82.7 |
82.0 |
|
クロスオーバー 周波数 |
Hz |
pass ~ 500 |
500 ~ 1250 |
1250 ~ 2800 |
4000 ~ pass |
Low Pass ~ High Pass |
スロープ特性 設定 |
dB/oct |
flat-48 |
48-24 |
24-18 |
24-flat |
Low Pass High Pass |
DF-55 DELAY 設定 |
cm |
-7.0 |
-37.0 |
+40.0 |
+40.0 |
相対位置と 測定ベース |
極性 |
- |
Norm |
Norm |
Norm |
Norm |
MPD 環境下 |
DF-55 DELAY COMP (Delay自動補正) |
- |
ON |
自動補正する |
DF-55デジタル出力 (Full Level保護) |
- |
OFF |
保護しない |
|