オーディオ日記 第42章 枯淡の境地を目指し(その10)2018年6月10日


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先日 京都のまつさん 宅に Myuさん と訪問し、二日間に亘り多くの音楽を堪能させていただいた。京都のまつさんは名高い「ダブルウーファーズ」のメンバーであり、かってJBL 4350を鳴らしていた頃よりいろいろと参考にさせていただいていたのだが、多くのスピーカーユニットを試すというチャレンジを経て、15インチダブルウーファーとホーンからAccutonの3wayシステムへとその構成をがらりと変えた経緯がある。スピーカーユニットを吟味し尽くしたことのみならず、石材ですべてのエンクロージャを製作するという離れ業と相まって、まさに「終のスピーカーシステム」と呼ぶに相応しい極め付けの音であった。

今回タイムアライメントの調整に関して、非常に参考となるアプローチを紹介していただいたので、早速そのエッセンスを未消化ながらチャレンジしてみた。当方のタイムアライメントの調整・測定は基本的にOmni Mic V2を使用してImpulse ResponseとWavelet Spectrogramを見ながら行っているのだが、従来よりあまり厳密な測定や調整が出来ず少し悩みがあった。また、IIRのデジチャンを使用していることも正確性に関してDisadvantageとなっているのではとの危惧もあった。今回京都のまつさんに紹介していただいたのは、これらに加えてサインウェーブによる波形の測定で位相を合わせるという手法。具体的にはざっくりとショートサインウェーブ等でアライメント調整を行った後に、調整しようとする二つのユニットからクロスオーバー周波数のサインウェーブを再生させて、その波形をオシロスコープで確認して完全にサインウェーブの位相同期が取れるように微調整する、というもの。このためには二つのユニットを2本のマイクでそれぞれ別に、同時に測定しなければならないのだが、完全にユニットの振幅が同タイミングで行われていることを担保出来るのだ。

この調整の結果として出てくる音は澄み渡り、全くの曖昧さを感じさせない。高域感が素晴らしく余韻やエコーが飛び散り、消え入る様は特筆に値する。もちろんこれには使用しているAccutonユニット(高域はダイアモンド)の優秀さもあると思うのだが、この調整方法も一役買っていると思う。ならば、チャレンジしてみない訳には行かない。

ただし、当方の現在持っている測定ツール(Omni Mic V2)では2本のマイクでそれぞれのユニットのサイン波形を表示させることはできない。オシロスコープで波形表示させる機能はある。しばしあれこれ考えてみて、ちょっと便法ではあるが次のような仕掛けで行ってみることとした。クロスオーバー周波数のサインウェーブはWSGENという波形ジェネレータで発生させる。それを調整したい二つのユニットから同時に再生する。Omni Mic V2のオシロスコープ機能で当該クロスオーバー周波数の波形がうまく見られるように調整する。片方のユニットのタイムアライメントを調整しながら、サインウェーブの「山」が最大になる位置を探す。

(注記)一本のマイクでは個々の波形を測定できないので、二つのユニットからの合成波形が最大(+3dB、2倍)になるところが位相の一致点との認識。アライメントがずれて、二つのユニット間が180度位相になってしまえば理論的には音は消えるはずであるが、実際にはそうはならない。また、最大値といっても、デジチャンの距離調整は0.5㎝単位とブロードであるのでその位置が音圧の最大値かどうかは厳密には判らないという欠点はある。なお、波形自体は0度なのか360度(あるいはこの倍数)でずれているのかはサインウエーブからは判別できないので、事前にざっくりと他の方法で合わせておくことが必須であり、そこから大きく逸脱するようであればサインウェーブの山谷の動きが一致していてもタイムアライメントは狂っていることとなる点注意が必要であろう。

なお、この実験に先立ち、4wayユニットのすべてのDelay設定値をリセットして、実測前後位置を再投入した。また、Impulse Responseはなるべくユニットに近い位置で測定調整し直した。また、各ユニットの出力レベルであるが、従来はリスニングポイントにてなだらかな高域だら下がり、というものを主眼としていたが、今回は近接位置ですべてのユニットの出力が同じ(程度)になるように合わせた。このため、リスニングルームの反射や吸音をなるべく意識せず、各ユニットがそれぞれのクロスオーバー周波数ポイントに於いて同じタイミングで前後に振幅すること、同じ再生レベルで振幅していること、に留意した(もちろんあまり厳密にはできないのだが)。

さて、結果の音である。測定自体が便法であり厳密性には欠けているので、正直実験と割り切ってはいたのだが、、、やってみて良かった、と思える結果であることは音が如実に語っているではないか。特に高域方向が素直になっていることは実感できるのだが、出力レベルは上記の方法で合わせているので、従来よりは若干レベルが高い。にもかかわらず、ふわっとした広がり感が出る。う~む、これは美味しい。

これをもってタイムアライメントの調整が「決まった」という訳ではなく、まだまだ勉強と実験が必要なのだが、Impulse ResponseやWavelet Spectrogramではうまく把握できずもどかしかった部分に対する一つの解になるのではなかろうかと思う。

(閑話休題)

スピーカーユニット単体のそれぞれの音を聴き分けることは案外難しいのだが、マルチアンプシステムにおいては個々のユニットの見極めが相当重要な要素であると改めて思う。受け持ち周波数帯域や出力レスポンスでも多少変わってしまう点もありながら、それぞれの持ち味もありトータルの出音に対して厳然として支配力を持つ。ひとつひとつのユニットが極めて優秀でなければならないのは当然としても、最終的にはすべてのユニットの総合力としてどのように音楽が提示されてくるかが重要な点でもある。

現代的なユニットの音を単純に礼賛するつもりはないが、多くの蓄積と新しい技術による解析や振動板としての革新的な素材。これらによってオーディオの音は格段に進歩しているのではないかと思わせられる。一方で個々の素材の音は無いように思えてもやはり存在する。そしてそこに音の傾向や好みという趣味の観点からは不可欠な選択の要素が残されている。アンプのリニューアルが一段落し、デジチャンも変更した。そろそろ自分の出音に対する言い訳も通用しなくなる。何よりも自分で自分に納得しなければならない。ほどほどだから、まぁいいか、ではいけないのだとも思う。現状のスピーカーユニット達もそれぞれに納得の上で導入してきたものであるが、自分にとって「終」と云えるのかと自問すればそれが古典的なユニットであるかどうかは別にしてもやはり否であろう。率直に云えば、やはりダイアモンド振動板を持つユニットの音は極めて品位が高い。アルミハニカムのCELLウーファーもそのサイズからは考えにくい程の量感でかつクリーンな低域が再現される。ただし、最終的な音楽はやはり豊かに、優しく、ふわっと表現されねばならない。当方にとっては明晰でメリハリの効いた音では目覚めの音楽となってしまい夢見心地で居眠りするには至らないこともあって、ミッドレンジ辺りはやはりセラミックよりも紙コーンなどが好みかもしれないな、などと思う。

あれこれ想いを巡らせつつ、まだまだやることがある、と考えずにはいられない今日この頃である。


4way構成の「実験」設定備忘録(2018年6月10日更新)
項目 帯域 備考
Low Mid-Low Mid-High High
使用スピーカー
ユニット
- Sony
SUP-L11
FPS
2030M3P1R
Sony
SUP-T11
Scan Speak
D2908
-
スピーカーの
能率(相対差)
dB 97 (+7) 90 (0) 110 (+20) 93 (+3)
定格値
DF-55の
出力設定
dB 0.0 0.0 +1.2 +1.7
Analog Att
OFF
マスターボリューム
アッテネーション
dB -5.0 0.00 -10.0 -6.0
各チャネル毎の設定
パワーアンプでの
GAIN調整
dB 0.0 0.0 -12.0 -0.0
 
スピーカーの
想定出力レベル
dB 92.0 90.0 89.2 88.7
合成での
出力概算値
クロスオーバー
周波数
Hz pass

355
355

2000
2000

5600
5600

pass
Low Pass

High Pass
スロープ特性
設定
dB/oct flat-96 96-96 96-96 96-flat Low Pass
High Pass
DF-55 DELAY
設定
cm -8.0 0.0 -35.0 0.0 相対位置と
測定ベース
極性 - Norm Norm Norm Norm VoyageMPD
環境下
DF-55 DELAY COMP
(Delay自動補正)
- ON 自動補正する
DF-55デジタル出力
(Full Level保護)
- OFF 保護しない


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