オーディオ日記 第42章 枯淡の境地を目指し(その9)2018年5月27日


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マルチアンプシステムを構成する要素において、チャネルデバイダーの果たす役割と音質への関与が大きいことは分かってはいるつもりなのであるが、日々の微細な変更レベルであるオーディオブラッシュアップ(多分に独りよがりの)に追われてついついそれを忘れてしまう。

測定と比較試聴などを繰り返していると結果としてチャネルデバイダーには設定に係る機能的な役割を多く求めてしまいシステムの核としての音への意識が薄れてしまうのかもしれない。測定結果の比較から云えば、FIRとIIRの差は案外はっきりしていて、このところずっとFIRのチャンデバを闇雲に熱望してきた。

だがちょっとしたきっかけでデジチャンの比較試聴を行って、核となる部分の重要性を再認識させられることとなった。つまるところ仕様や形式の問題ではなく機器それ自身の音の良否がポイントなのだと。

この先のシステム展開を考えると今このタイミングでデジチャンを入れ替えるのが正解なのか大いに迷いもあったのだが、一連のリニューアルの流れの中で後悔は残したくないと思い踏み切った。

率直に言って、今度のデジチャン(DF-65)はチャネルデバイダーの機能としては何ら進化していない。拍子抜けするくらい何も変わっていないのである。だから新たに登場した時点でカタログベースで比較した時にはほとんど興味も沸かず入れ替えを考えることも頭から否定してしまった。オーディオは仕様や機能よりも音が優先される、ということは基本の基のはずなのに。

逆に機能的にほとんど同じなので比較試聴は容易だったとも思う。単純に常用していた設定パラメータを投入するだけで良い訳だ。機器の構成からして瞬間的な切り替え試聴はできないのであるが、それでも音の差は明らかだった。初めてデジチャンを聴いたのはDF-35が出た直後。速攻で自宅試聴をお願いして速攻でがっかりしたものである。その後DF-45、DF-55と経験値が積み重ねられ、DF-55に至って当時使用していたアナログチャンデバのF-20を超えたと思って導入した。

マルチアンプシステムを構成する上でのキーデバイスとも云えるチャネルデバイダーはユーザーも限られることもあって新しいものは少ない。デジタル領域ではdBXを始めとするプロ用機器の数機種くらいが現実的な選択範囲か。dBXの比較的新しいVenus360という機種は3way用で、4way用のdBX4800シリーズは既にディスコンとなってしまっている。そんな状況において継続的にモデルを進化させ製品を出してくること自体が大変貴重であるとも思う。

DF-55とDF-65の音の差は「高域感」という表現が妥当かどうかわからないのであるが、そういうものを一聴して感じた。特に高域系の楽器などは空間に明確に分離して展開され、その位置関係も揺ぎ無く再現される。素直な広がり感があって気持ちが良く、加えて個々の楽器の音色や全体としての音楽の提示もまた納得できるものなのだ。

一方で、デジチャンにおいては根源的な課題もある。世にあるDSP処理のチップではPCMの演算処理しかできない。アナログ信号は一旦A/D変換しなければならない。DSD音源は通常であればD/A変換したものを、アナログディスクの場合と同じようにデジチャンに入力する。デジチャンではA/D変換を行ってからDSP処理を行い、再度D/A変換を行う。プリアンプで絞ってしまったアナログ信号をデジチャンに送り込めば、必然的にS/Nに良い影響を与えない。

これらを回避するための対応には相応の苦労が伴うことも現実である。いろいろな縁や幸運があって、デジチャンに直接デジタル信号を送り込むという現在の構成を作り上げることができたのだが、ニッチな世界でもあるので、環境維持という観点ではやはり不安がない訳ではない。今ある機器の中で「最善」を、と考えれば今回の変更は当然の帰結なのだと思うことにしよう、、、

(閑話休題)

オーディオにおける「本当に良い音」というものをどのように実現するのか分かっておらず迷走を続けてきたのだが、それでもやっと何とか改善が積み上がってきたのだろうか。贅沢を云えばキリが無いとも思うが所謂普通の音源もそこそこ楽しんで聴けるようはなってきたと思う。もちろん、あと一歩だな~と思う音源もある。だが、ふと冷静に考えてみれば、目指している理想(?)の音とはいったいどんなもので、どのような対応を取ればその理想に近づけるのか、という具体化された目標とその実現手段が自分にとっては混沌していることに改めて気付く。さてここまで来てはみたものの次はどこをどうすれば良いのか、という根源的な課題でもある。

いろいろなオーディオシステムを拝聴させていただければ、良い音である、ということは大体分かるのであるが、その構成要素の分析や良い音となっている要因分析が明確にはできていないのだ。時に教えを乞い、時に見よう見まねであれこれやってはみるものの、僅かには改善するようには思うのだが突き抜けたようなブレークスルーは当然ながら起きない。

理想とする音は自然音そのものなのであるが、これはオーディオシステムではどうにも実現できないのでは、と何十年もやってきて情けないことに改めて実感している。録音された状態の音楽の「本当の姿」も良く判らない。良く判らないまま、それを何とか自分の内なる理想(幻想?)に近づけようと思うこと自体に無理があるのかもしれないのだが。

一方で、オーディオシステムで再現する音楽に一種の(所謂オーディオ的?)快感があることも事実。もしかしたら、オーディオ的快感が時にもたらしてくれる脳内麻薬を渇望して、オーディオに勤しんでいるのではないか、と自虐的になることも無くはない。では、自分にとってのオーディオ的快感とは何か、それを冷静に分析し追い求める必要があるのかもしれない。

「良い音」と思う時には其処には多分に「オーディオ的快感」が潜んでいる。音源も極めて重要な要素であることは間違いないのであるが、リスニング環境を含むオーディオシステムそのものからこの快感を生み出すことも可能なのだと思う。では、翻ってどういうシチュエーションにおいて、良い音と認識しているか、あるいはオーディオ的快感を感じているのか、今までの経験を紐解いてみることも重要かもしれない。

ほとんどの場合、音楽が始まる瞬間の場の空気感の変化を感じている。それが録音された場所の広さ、天井の高さ、その場の静けさが音楽の始まりの一瞬で感じ取れた時に、リスニングルームが録音された場所に切り替わってその世界に没頭していける。ホールエコーを大事にしているクラシック音楽の場合は自分にとってはとっつきやすいのだが、人工的な加工をされている多くの音楽の場合はむしろその加工の内容、度合いが自分の感覚とマッチしているのかどうかがポイントとなる。音楽や楽器の旋律や音色、というものとはちょっと違う観点なのかもしれない。もちろん音楽として聴いて楽しく素敵でなければならないのはもちろんなのだが、自分にとってはオーディオ的快感とはそれとは少し違う観点のものなのかもしれない。どちらかと云えば響きの少ないオンマイク的な乾いた音や騒々しい音は好みではなく、残響が広がりしっとりと染み渡るような、と云えば良いのだろうか。

つまるところオーディオ的快感は少なくても良い音楽はたくさんあり、好きな音楽を聴くことは楽しいし、それを聴きたくてオーディオをやっているとは思うのだが、オーディオ的快感をもたらしてくれる再生、曰く脳天が痺れるような、産毛が逆立つような、ぞくぞくするような、思わず涙が滲むような、そのようなオーディオにおける音楽再生、これが欲しいだけなのかもしれない。一種の刺激とも云えるかもしれないし、そんな再生ばかりだったらすぐ気持ちが疲れてしまうかもしれないのだが。

音源自体とは切り離せはしないのだが、音源が潜在的に持っているこのオーディオ的快感を解き放てるようなシステムが理想ということになるのかも。だが、ここで述べているようなことが出来たとして、それが良い音のオーディオとなるのだろうか?音楽自体は何気なく垂れ流して聴くのも良し、真剣に対峙するのも良しであるし、シチュエーションによって音量も大きく異なる。常にビリビリと感動している訳にもいかないんじゃ?

機器や環境、設定など何かを変えれば音は確かに変化する。そしてその変化は多少なりとも聴き取れる。だが、絶対的に良くなったのか、という観点は好みも大きく作用してしまうこともあって、明確には判らないことが多い。自分のシステムにおいてこの変化を正確に評価するのは容易ではない、、、少しは良くなった、だが、絶対的に、突き抜けたように良くはなっていない、と思うことばかり。

世には「絶対的に」良い音のオーディオシステムを楽しんでおられる方も多い。当方はまだ其処まで到達できていないだけだし、精進も足りないのだと痛感もする。オーディオのレベルから云えば、やっとベースとなるような機器が揃った辺りであり、リスニング環境と音響調整、電源に係わるブラッシュアップなどむしろ出来ていないことの方が多い。だが、敢えて云えば、ここまでは来た。やっとここまで来た。だから、次がある。

既にモーツアルトをモーツアルトとして楽しく(居眠りをしながら)聴く、ということは出来てきたようには思う。多くの室内楽曲などもそこそこ聴けると自分では思うこともある。

だから、次は一瞬にしてその場の空気感が変わってしまうような、そんなオーディオ的快感を伴う音楽を生み出すものを理想として求めて行けばいいんじゃないだろうか。そう思う。だが其処に至る道は今まで以上に途方も無い壁がそびえていることは間違いない。そしてそれをいろいろな制約条件(部屋、財力などなど)を勘案しつつ攀じ登らねばならない。その覚悟があるか? その時間が残されているか?


4way構成の設定備忘録(2018年5月27日更新)
項目 帯域 備考
Low Mid-Low Mid-High High
使用スピーカー
ユニット
- Sony
SUP-L11
FPS
2030M3P1R
Sony
SUP-T11
Scan Speak
D2908
-
スピーカーの
能率(相対差)
dB 97 (+7) 90 (0) 110 (+20) 93 (+3)
定格値
DF-55の
出力設定
dB 0.0 0.0 0.0 +1.2
Analog Att
OFF
マスターボリューム
アッテネーション
dB -5.0 0.00 -10.0 -6.0
各チャネル毎の設定
パワーアンプでの
GAIN調整
dB 0.0 0.0 -12.0 -0.0
 
スピーカーの
想定出力レベル
dB 92.0 90.0 88.0 88.2
合成での
出力概算値
クロスオーバー
周波数
Hz pass

355
355

1120
1120

3550
3550

pass
Low Pass

High Pass
スロープ特性
設定
dB/oct flat-96 96-96 96-96 96-flat Low Pass
High Pass
DF-55 DELAY
設定
cm 20.0 35.0 0 38.0 相対位置と
測定ベース
極性 - Norm Norm Norm Norm VoyageMPD
環境下
DF-55 DELAY COMP
(Delay自動補正)
- ON 自動補正する
DF-55デジタル出力
(Full Level保護)
- OFF 保護しない


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