我がオーディオのいろいろな調整や設定は普通(あるいは並以下?)の録音のモーツアルトの多様な音源を、如何にして心地良く聴けるか、ということを主眼としてきた。音量もどちらかと云えば抑え気味のことが多く、ゆったりと美しいモーツアルトの響きに浸っていたい、という気持ちを優先している故かもしれない。結果として多様なクラシック系の音源に対する最大公約数的な設定を求めてきたことにもなる。音楽を(半ば居眠りしながら)聴くことの至福は何ものにも代え難いのだ。
オーディオにおいて「音楽的」という表現を時に目にすることがある。具体的にはどういうことなのか、自分でも今ひとつ明確ではなく、この言葉から受けるイメージはおそらく人それぞれにあって必ずしも同じではないような気もする。だが、自分でも無意識の内に、その音楽的なるモノをおそらくは求めて続けてきたのかもしれない。
だが、このようにして、苦心惨憺してきている我がオーディオにおいて、いろいろと設定を弄ってみても、全て音源に対するパーフェクトな満足は決して得られない。時にこの設定で「決まりだ~」と思っても、ふと聴いた音源に全く我慢できなくなってしまうことがある。それは大概のケースにおいて、好ましい録音の音源でなく、それを何とかしようと思って足掻いてしまうとは自覚しているのだが。周波数レンジ、ダイナミックレンジが充分ではなくても音楽としての音色や響きに納得出れば、あまり気にはならないものなのだが、、、だが、駄録音の音源を魅惑的な音源に変貌させる「魔法」などないのだ。
従って、全体として「妥協」の上に成り立っている設定なのかもしれないと思う。録音の粗を出さず、何とか音色を心地良く溶け合わせようとした結果が、メリハリに欠けた曖昧とした音になってしまうようにも思う。この見えない壁のような限界感がブレークスルーできず、少しもやもやとした感じもあるので、今回は思い切ってちょっと気分転換してみようと考えチャレンジしてみた。
所謂最大公約数的な設定を追わず、キレキレの好録音の音源のみでいいから、100%納得できるように表現できる、そんな音を一旦めざしてみようかと考えた訳だ。デジチャンの良いところは、従来の設定を残しながら、新たな模索が比較的簡単にできること。これを有効活用して、尖がった音を作ってみたらどうなるか、、、、
現状の4wayの設定は、各ユニットのタイプが異なることもあり、音をうまく溶け合わせてスムーズな音楽の流れとなるように、スロープ特性は比較的穏やかにしている。小音量の場合は-12dB/oct
でかなり納得できるもので、クラシック系の場合は時に-6dB/octでも充実感があって良い。だが、このようなスロープ特性の設定ではクラシック系以外のメリハリの効いた音源を大きめの音量で再生する時には不満が出る。音源によっては時に切れに欠け、低域の混濁感も拭えないという印象になる。
過去には急峻なスロープ特性として-48dB/octの設定も何度か試したことがあるのだが、バーサタイルな音楽再生(ジャンルや音源状態、音量に依存しない、という意味で)として考えるとやはり位相の制御も難しく不適合としてきた。だが、今回は「キレキレの録音」のみを主眼とした設定として、そこそこの音量で、「オーディオ的快感」を目指した設定にしてみようということなので、マイナスポイントには目を瞑り思い切って-96dB/octを使う方向で考えた。このスロープ特性では各帯域、ユニットの音の溶け合いはかなり小さくなるので、多分にユニットの個性がストレートに出るかもしれない。
厳密に考えれば、我が家のデジチャン(DF-55)はIIRなので、あまり高次のスロープ特性では位相の回転が大きくなることもあって本来は余り適当とは云えない。できればFIRのチャネルデバイダーでのチャレンジが望ましいのだが、これはまずはチャレンジということで仕方なし。
個々のユニットの最適な範囲は経験的に大体把握しているので、まず-96dB/octの設定で低域、中低域、中高域の3wayでざっくりとまとめて傾向を把握するところからスタート。音楽全体が非常にさっぱりとしているように感じるのは聴きなれていないせいか。その分、切れの良さは際立つし、音量を上げても混濁感はとても少ない。測定してもはっきりしているのは中高域に使用しているSUP-T11というドライバーユニットの極めて優秀な特性。改めて感嘆する。900Hzから10KHzまで平坦であり、円形ホーンが40cmとやや小型なので、900Hz から下の方がレスポンが落ちるのだが、10KHzを超えてもそこそこのレスポンスがある。4インチのアルミダイヤフラムであり音色は穏やかで、110dBの能率が示すように反応は極めて俊敏である。中低域のFPSは200Hzあたりから8KHzまでこれも平坦なレスポンスを持っているので、どこで区切るか、難しいところ。ボーカル帯域の一体感を考えて、1250Hzとしてみたが、まぁまぁか。低域、中低域については、声の低いほうの充実感も欲しいので355Hzからスタート。3ユニットとも正相、-96dB/oct。ここでの音は、これはこれでそこそこまとまっているな、という感じ。
設定の試行錯誤においては、Omni Mic V2での測定と並行しながら行ったが、やはり-96dB/octのスロープ特性においては位相は大きく回転しているし、何よりもインパルスレスポンスはかなり乱れたものとなりこれを正確に合わせるのは難しい。従ってタイムアライメントは物理的な距離をベースにWavelet Spectrogramでざっくりと合わせ、それで良しとした。この辺りはやはりIIRのデジチャンの限界かもしれない。以前、FIRのデジチャンであるMPP,DSPを試用させていただいた時と比較すれば、IIRのディスアドバンテージはやはり拭えない。
ベースとなる3wayにさらにベリリウムツィータの高域を載せるのだが、これは思った以上に難しい。もともとこのユニットは2KHz以上から使えるのだが、-96dB/octのスロープ特性ではSUP-T11とどこで切るのが正解なのか判然としない。音色的にうまく溶け合わないのだ。アルミとベリリウムの質感の差が急峻なスロープ特性では顕わになるのか。そこで試してみたのが、SUP-T11のレスポンスが落ち始める10Hz以上にある種のアンビエントツィータ的に高域のベリリウムツィータを重ねる手法。音色的な違和感を出さず、キレや解像度を残しつつ、高域感(+オーディオ的快感)を担保するには案外と良い方法かもしれない。実のところ超優秀なベリリウムツィータをこのように使うのはもったいなく、このような手法であれば、むしろ10KHz~20KHzがよりフラットなリボンツィータやAMT(Air Motion Tweeter)を持ってくる方がいいのかもしれないな、と思う。
さて、-96dB/octの3way+スーパーツィータ的な構成の音である。はっきりしているのはこれは「普遍的な音」とは云えないかもしれない、ということ。15インチウーファーの低域(SUP-L11)を355Hzでスパッと切っている効果と思うが、低域、中低域は明瞭で過渡特性もそこそこイケてると思う。逆に云えば(当然かもしれないが)、穏やかさはあまりなく、メリハリがはっきりしていてシャープ。そこそこの録音の音源以外ばあまり聴きたくはないかな~という感じもする。だが、目的を絞った設定としては面白い、とも思う。キレキレの録音を大きめで聴く時、あ~これが「オーディオ的快感」だよな~と思う。ちょっと意外だったのは、J-POP系(多少録音の良いもの、という条件付きだが)も案外いいかも。総じて、高域成分が多く、レンジ広い録音(もともと結構加工してある音源?)には向いている設定なのかもしれない。
さて、これで好録音と思われる女性ボーカルやロック、ジャズ系音楽をやや大きめの音で再生する。高域を除く各ユニットの重なりが小さいという効果は結構顕著で音楽の見通しがクリアー、低域のもたつき、かぶりも感覚的に少ない。高域に関しては逆に-6dB/octで補完しているので、音が丸くなりすぎることも無く、広がりも出る。個々の楽器の提示がより明確になるように感じられて、この設定も案外良いかも、、、、というのが最初の感想。位相についても思っていたほどの違和感はない。もちろん100点満点ということではないのだが、オーディオ的快感は充分。
多少聴き込んだ上での微調整として、低域、中低域のクロスオーバー周波数は315Hz、中低域、中高域のクロスオーバーは1120Hzへと変更した。より低域の切れを出してみたいということと、ホーンドライバーの過渡特性の良さをもう少し活かしたい、という意図である。高域の重ね方はいろいろと試し中でまだまだベストではないのだが、12.5KHzで-6dB/octで重ねてみた。ただし、レベル設定は低めなので、あまり測定上は顕著には現れないのだが、これが案外面白い効果。高域感を確保しつつ透明なたたずまいを提示してくれる感じである。アンビエント的な高域の成分を多くすると音楽がシャッキリと目覚めてくるような部分はあるのだが、そこはベリリウムの良さで歪み感なく冴え渡る。やりすぎは禁物かもしれないが、綺麗な高域成分は快感を伴うものなのである。
さて、この設定で「普通」の録音のモーツアルトも聴いてみる。ポイントはあまり音量を小さくしすぎないこと、と言い聞かせて。おやん、、そんなに悪くないんじゃん、、、??? 我が家ではリビングルームにスピーカーを設置していることから、音響的な観点では劣っていることを自覚しているのだが、この高次のスロープ特性は部屋の特性にどう関与、絡んでくるのだろうか。低域の反射とそれに伴うだぶつきという欠点を補うような効果は多少なりともあるように感じられる。多様な音源を聴き込まないと結論は出しにくいと思うが、これはこれで「イケテル」部分もある。意外なのは声や楽器の定位が確かになるようにも感じられること。ホーンドライーバーの受け持ち帯域が広いので、高域の指向性が多少鋭い方向になっているということの影響かもしれないのだが。
こういう遊びをしていると、やはりFIRのデジチャン(厳密に云えば、デジチャンとしてのPC用ソフトウエア)が欲しくなる。今までの音をブレークスルーする目的として、新たなユニットの導入も考えているのだが、このような違うアプローチも「あり」だなと思わせられると、FIRへの触手がまたぞろ動き始める。
ただ、現時点では目新しさ(?)もあってのそれなりの評価であるが、時間の経過と共に、やっぱり、、、ということも過去からままあることなので、ひとつの設定手法としてじっくりと詰めて、確認していってみようかと。
オーディオ的快感を追求するのであれば、忘れてはならないのは低域の量感と質感である。この低域の下支え如何によって音楽の聴こえが変わる。低域がどろどろもやもやしていればオーディオ的快感どころではない。一方で、豊かでありながらプレゼンス(実体感)のある低域の再現は至難でもある。現在我が家では低域のアンプはブリッジ接続としているので、出力的にはそれなりにマッシブさは出せるのであるが、切れと質感については単なるスピーカー周りの設定だけではなくもう少し違うアプローチも面白いかもしれない、と考えている。サブウーファによって低域を増強するという手段もある。また、世には原音に忠実に、という考え方もあるのだが、オーディオ的快感を目指せば、低域をチューンする手段は他にもある。多くの音源は「プロセッサー」によって既に多様な加工が為されているのであるが、その考え方をここでのオーディオ的快感追求の低域再生に取り入れてみることは妥当であろうか? この手のオーディオプロセッサーはプロ用機器の世界ではいろいろとあり、試してみるのも面白いかもしれない。もちろんあくまでも「オーディオ的快感」追求の一環であって、クラシック系の音源再生などにおいては、あまり薦められるものではないとは認識しているのだが。
そこで取り敢えずの実験として、手元にあるプロ用機器のプロセッサー(正しくはBass Enhancer)を低域チャネルにだけ挿入してみる。
素直に再生している音と、ある程度意図して設定した音の差は案外大きくて、特に音源に依存して聴こえ方はかなり変わる。これを邪道と呼ぶか、積極的なオーディオ再生とするか、意見も分かれよう。だが、キレキレの録音の音源を快感として聴く、というのには効果的であり案外どころか相当に悪くない。穏やかなモーツアルトを子守唄代わりに聴くというのもまた同じ好みという範疇なのかもしれないし。なお、これらの大きく性格の違う設定を簡単に切り替えて聴けるデジタルチャネルデバイダーという機器のポテンシャルを改めて実感している次第でもある。
4way構成の実験的設定備忘録(2018年4月5日更新)
項目 |
帯域 |
備考 |
Low |
Mid-Low |
Mid-High |
High |
使用スピーカー ユニット |
- |
Sony SUP-L11 |
FPS 2030M3P1R |
Sony SUP-T11 |
Scan Speak D2908 |
- |
スピーカーの 能率(相対差) |
dB |
97 (+7) |
90 (0) |
110 (+20) |
93 (+3) |
|
DF-55の 出力設定 |
dB |
1.0 |
0.0 |
+0.7 |
+3.7 |
|
マスターボリューム アッテネーション |
dB |
-6.0 |
0.00 |
-8.5 |
-3.0 |
|
パワーアンプでの GAIN調整 |
dB |
0.0 |
0.0 |
-12.0 |
-3.0 |
|
スピーカーの 想定出力レベル |
dB |
91.0 |
90.0 |
90.2 |
89.7 |
|
クロスオーバー 周波数 |
Hz |
pass ~ 355 |
355 ~ 900 |
900 ~ PASS |
10000 ~ pass |
Low Pass ~ High Pass |
スロープ特性 設定 |
dB/oct |
flat-96 |
96-96 |
96-flat |
6-flat |
Low Pass High Pass |
DF-55 DELAY 設定 |
cm |
15.0 |
35.0 |
0 |
39.0 |
相対位置と 測定ベース |
極性 |
- |
Norm |
Norm |
Norm |
Norm |
VoyageMPD 環境下 |
DF-55 DELAY COMP (Delay自動補正) |
- |
ON |
自動補正する |
DF-55デジタル出力 (Full Level保護) |
- |
OFF |
保護しない |
|