PCオーディオについてあれこれといろいろ試してきた。音楽再生ソフトウエアによって音が違うことも経験してきた。PCの構成自体の影響も大きいと思い、考えられる各種の改善策は行ってきたつもりでもある。だが実のところ、PCそのものとUSB DDC以降が全く同じハードウエア構成であるにも係わらず、OSやソフトウエアによって微妙な音の差異があることに多少の疑問を捨てきれずにいた。もちろん、プログラムの組み方の違い、構造の違いというものは存在するのだが、音質を決定付ける要素は一体何なのか、それが未だに当方には判っていないし、高音質を売り物にしているソフトウエアもその仕掛け、仕組みを公開してはいない。敢えて秘密にする必要があるほどのものなのか、もともとそんなものは
存在していないのか、あるいは公開してしまえば、それがソフトウエアというものであるが故に簡単に真似できてしまうからなのか、、、
現状の我が家のPCオーディオ環境はJPLAY(Windows Server 2012R2)とVoyageMPD(Debian系Linuxベース)という二本立ての構成である。できればシンプルに一本化したいのであるが、いろいろ設定を含めてチューニングしてみても二つの音は微妙に違うこともあって絞り切れずにいる。強いて云えば、VoyageMPDがSoXという高精度のサンプルレートコンバータを採用していることもあってDSD音源をPCM化して聴く我が家の環境では若干のアドバンテージがあると感じているが、これは単にサンプルレートコンバータの精度の違いかもしれないと考えてきた。ただし、44.1KHz/16bit音源を聴く場合はJPLAYに軍配が上がるのだ。
ところが、両者には「再生時の極性の違い」という差異が内在されていることが偶然判った。これはタイムアライメントをより厳密に調整しようと考えて、ミッドハイのユニット単体の計測をしている時に気が付いた。下図1.の左下の部分のインパルス応答の波形に注目していただきたい。ここでの計測のように最初の山が上方向、次に下方向となるのがインパルスレスポンスの通常の極性の場合の波形表示である。
1.JPLAYでのMid High帯域の単体計測(測定距離は1.5m、スムージング無し):
2.VoyageMPD Mid High帯域の単体計測(測定距離は1.5m、スムージング無し):
ところが、VoyageMPDで計測すると上図2.のようにこの波形がひっくり返るのだ。もちろん、測定マイクの位置も再生音量も全く同一のまま計測している。当然ながら、後段のハードウエア構成、特にデジチャンにおける極性の設定など一切変えていない。各機器の接続や設定の関連もあるので、この時点ではどちらが正しい極性を示しているのか断言はできないのだが、Omini Micの測定用音源がわざわざ反転した極性になっているとは思えないので、
VoyageMPDにおける再生時の極性が反転しているようにも見えるのだ。
これは仮説であって、もしかしたらJPLAYの方が極性反転しているのかもしれず、もう少しいろいろな測定を行ってみないことには、途中のケーブリングの問題も考えられどちらが本来の極性を示しているのかは明確にはできないので、さらに確認や実験、計測を続けてみた。もちろん、この極性の違いが実際の音として感知出来ているのか、それによって聴感上の差異として認識されているのか、明確には云えないのだが、今まで認識していた両者の音の違いの一端はこの部分にもあることは間違いないと思う。
(注記)オーディオ的には意図的又はまたはうっかり等々によってこの極性の違いが音源あるいは装置側にも存在し、それが音の違いとして意識されることがある。JBLの一時期のユニットの極性が反転していたというのは有名な話でもある。
基本に立ち返って確認する必要があるので、Omni Micの測定用音源をCDで再生したものが以下3.である。この結果からシステム全体としては正しい(?)極性の接続になっているものと推測される。
3.CD再生でのMid High帯域の単体計測(測定距離は1.5m、スムージング無し):
もしや、と思って、SoXによるサンプルレートコンバータをはずして計測したものが以下4。正しいと思われる極性を示している。
4.VoyageMPD Mid High帯域の単体計測(SoXなし、測定距離は1.5m、スムージング無し):
これは全くの盲点であった。まさかSoXのサンプルレートコンバータの使用によって極性が反転してしまうとは思いもよらなかった。Omini Micによる測定においては再生ソフトウエア環境の差異をあまり気にせず測定、調整してきていたのであるが、これが大きな間違いであった訳だ。基本となる環境を固定して測定しないと結果はぐちゃぐちゃになってしまうということで、実はこの辺り思い当たる節がある。そこそこ測定上も納得できる形に追い込めたかな、と思うと次にはは全く振り出しに戻ってしまうような測定結果になってしまうことが過去にもあったのだ。もちろん、微妙に設定をいじったりしているので、それが測定結果に悪影響をもたらしているのかな程度にその時は考えていた。だが、実は測定用音源の再生をJPLAYとVoyageMPDで時々に混在させてしまい、更に悪いことにサンプルレートコンバータの使用の有無について全く気にせずに計測していたということなのだ。判ってしまえば些細なこととも云えるのであるが、この極性の部分も「きっちり合わせて」比較試聴しなければ本来どちらが好みか、良い音かなどどは判断できぬ訳である。今まではこれに気付かずJPLAYやVoyageMPDの音を比較をし、コメントしてきただけに、ちょっと愕然としてしまって正直しょげてもいる。
しかし、アップサンプリングによってによって極性が反転する、ということは通常のことなのだろうか。それともこのVoyageMPDとSoXというサンプリングレートコンバータの組み合わせという限定された環境で起こる何らかのバグ等に起因するものであろうか。VoyageMPD+SoXによるDSDtoPCM再生に今まででは一番のアドバンテージを感じてきた訳であるが、現時点ではDSD音源に対しても極性の反転が起こってしまうものかどうかは確認できていない。この辺り直接的な原因は判らないこともあって、もう少し状況証拠を集めてみようと思う。
さてどうしたものかと落ち込んでばかりはいられないが、そこはデジチャン構成の良いところ、全く同じ設定で、極性だけを反転したものを二通り用意し、ひとつをJPLAY用、もうひとつをVoyageMPD+SoX用にすれば良い訳だ。こうすれば、両者の極性をきっちりと合わせた上で比較試聴し、自分なりの好みを含めてきっちりと判定することができるであろう。
2017年1月2日追記:
JPLAY+ffmpegの組み合わせで176.4KHz/24bitにアップサンプリングした場合の極性(位相)について計測したがサンプルレート変換による極性の反転等は見られなかった。従い、VoyageMPD+SoXの組み合わせによるアップサンプリングのみでこの事象が起こることから結論としてはここでの処理に何らかの誤りが内在されているものと思う。
4way構成の設定備忘録(2016年12月28日現在)極性の設定を追加
項目 |
帯域 |
備考 |
Low |
Mid-Low |
Mid-High |
High |
使用スピーカー ユニット |
- |
Sony SUP-L11 |
FPS 2030M3P1R |
Sony SUP-T11 |
Scan Speak D2908 |
- |
スピーカーの 能率(相対差) |
dB |
97 (+7) |
90 (0) |
110 (+20) |
93 (+3) |
|
パワーアンプでの 入力絞り |
dB |
-4.0 |
0.0 |
-10.0 |
-7.0 |
|
SP側での アッテネーション |
dB |
0.0 |
0.0 |
-12.0 |
0.0 |
|
DF-55の 出力設定 |
dB |
0.0 |
0.0 |
+1.7 |
+6.0 |
|
スピーカーの 出力(想定) |
dB |
93.0 |
90.0 |
89.7 |
92.0 |
|
クロスオーバー 周波数 |
Hz |
pass ~ 355 |
355 ~ 1000 |
1000 ~ 9000 |
9000 ~ pass |
Low Pass ~ High Pass |
スロープ特性 設定 |
dB/oct |
flat-48 |
48-48 |
48-48 |
48-flat |
Low Pass High Pass |
DF-55 DELAY 設定 |
cm |
25.0 |
37.5 |
0 |
36.0 |
相対位置と 測定ベース |
極性 |
- |
Normal |
Normal |
Reverse |
Reverse |
VoyageMPD 環境下 |
DF-55 DELAY COMP (Delay自動補正) |
- |
ON |
自動補正する |
DF-55デジタル出力 (Full Level保護) |
- |
OFF |
保護しない |
|