オーディオ日記 第39章 扉を叩け、開け(その4)2016年9月22日


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思えばこのところは、JPLAYだのDanteだのと、PCオーディオ周りに熱を上げた状態になっている。いろいろな意味で少し冷静にならなきゃいけないと思うことも多々あって、Danteに向かっての決断は(意気地が無いことに)できていない。JPLAYに関しては環境面、安定性面でもう少しコンパクトかつ簡便にできないかと模索しているがMinim Sever/JPLAY Streamer周りで手間暇のかかること、特にMinim Serverの起動の遅さ、面倒くささなどにちょっと手を焼いている。VoyageMPDなみにスイッチポンの「ノーケア」で音楽再生に突入できればいいのだが、なかなか思うようにいってはくれない。

さて、Dante Audio Networkのテストに関連して、デジチャンソフトウエアであるMPP,DSPの優秀さに感銘を受けているのであるが、とりあえずは既存環境(DF-55)でも何とかもう一工夫してみようと足掻いている。MPP,DSPは始めの段階では4wayのデジチャン設定をそのまま移植したのであるが、より高次のスロープ特性に設定を変えると音楽がまた少しいつもと違う表情を見せてくれることに気が付いた。従来は低次のスロープ特性をベースに「音を溶け合わせる」という方向で調整してきたのだが、違う角度のアプローチになる。もちろん、高次のスロープ特性を使うに際しては、MPP,DSPのFIRというアドバンテージが大きいのだが、これをIIRのDF-55でトライしてみたら、何らかのメリットが見出せるだろうか?それとも単に「ど壷に嵌る」だけであろうか。ま、気軽にテストできるところがデジチャンの良さでもあるのでトライしてみた。

一律に-48dB/octのスロープ特性設定にしてまずは計測。やはりインパルスレスポンスや位相はあまりうまくない。Delayの微調整をいくら行ってもインパルスレスポンスはビシッとはしない。Wavelet Spectrogramである程度の三角錐になればそれでいいや、とちょっとあきらめの境地。ただ、音楽の表情は悪くはない。音場にすっきり感が加わって見通しが良くなったようにも感じる。これはユニット間の干渉が小さくなったことに要因があるものと推測される。また、音圧のレベル設定については、従来DF-55のアナログアッテネータ(-10dB)を中高域、高域に使用していたのだが、MPP,DSPのテストの延長でパワーアンプの入力絞りを活用した。従い、DF-55のアナログアッテネータは使用せず、またデジタル絞りは最小限に。高域はDSP処理における感度を上げるためにデジタルレベルで+4dBとした(その分はパワーアンプ側でレベルを下げている)

クロスオーバー周波数については、ユニットの受持ち帯域がシャープになることもあって、多少大胆にユニットの「美味しいところ」を探すようにしてみた。もちろん周波数レスポンスを見ながら。中高域にはホーンドライバーを使用(ホーンは40cm径)しているのだが、1.2KHzあたりから下のレスポンスがダラ下がりになることがあって、この部分をうまくフラットにすることが当方の4wayの課題(泣き所)でもある。これをうまく中低域(FPS)とつなげるには、中低域のユニットのスロープをなだらかにして、このダラ下がりの中高域のユニットに重ねる、というのが今までの設定なのだ。-48dB/octのスロープではこのレスポンスの落ち込みが周波数特性にそのまま現れて結果的に音にも物足りなさが残る。中低域のユニットの受け持ち帯域をぐっと上げてクロスオーバー周波数を1.2KHz辺りにすれば良いのだが、ホーンドライバーの音色や瞬発力はなるべく生かして広く使いたいために逆にクロスオーバー周波数は極力下げたいという矛盾がある。

(注記)プロ用のデジチャンの多くは、チャンネル単位のイコライジング機能を持っているので、特定のユニットのレスポンス調整ができる。このような機能があれば、イコライジングの是非は別としてユニットレスポンスの課題は簡単に解決できるのだが、もちろんDF-55にはその機能はない。このあたりはプロ用とオーディオ愛好家用の機器の差だと思う。

いろいろと弄ってみた結果、-48dB/octのスロープ特性の場合は中低域ユニットの受け持ちを900Hzまで、中高域ユニットの受持ちを800Hzから、というように僅かにオーバーラップさせると周波数特性的にも落ち込み部分が補正されてフラットに近づく。このような設定が本来的に正しいのか、邪道なのかは浅学にして分からないのだが、聴感上も悪くない。中高域、高域のクロスオーバーは美味しさを探す意味からも実験的に従来の4KHzから5KHzにアップさせてみた。位相やインパルスレスポンスはどうやってもあまり綺麗には纏まらない。過度な期待は禁物ながら、試聴を開始。急峻なスロープ特性としている効果は音にも現れる。混濁感が少なく高域の繊細さ、自然さも損なわれてはいない。ちょっと心配であった声の帯域の充実感も悪くない。位相やインパルスレスポンの乱れについては、正直なところ明確には認識できないのだが、定位の違和感などは特段感じない。これで出力レベルなどを含めて微調整を進めてみる。

案外いい感じなのでふと思いついて、この設定で古いボーカルものを中心にアナログ再生をさせてみた。ややっ、これは力感、すっきり感のバランスがかなり良くてアナログには打って付けではないか。高域の繊細感もアナログにベターマッチ。ちょっと気に入ってしまい、次々とアナログディスクを引っ張り出して聴く。アナログディスク再生の音楽自体がそもそも良いのか、今回の設定がうまく噛み合っているのかは判然とはしないのだが、アナログ再生の実力の前に頭を垂れる。音楽あってのオーディオである。改めてPCオーディオ周りの根源的な「音色の課題」にも結局気付かされることとなる。

ボーカルものの再生に調子に乗って、3way構成に変えて-48dB/octの設定を試してみる。3wayはFPSをはずしてSONY SUP-L11のウーファとSUP-T11のドライバー、これにベリリウムツィータを5KHzで加えた構成である。中低域のクロスオーバー周波数は900Hz。このクロスオーバーはウーファーの帯域特性の観点から、-12dB/octや-24dB/octでは使えないのだが、-48dB/octではクロスオーバーより上の帯域がかなりすっぱりと切れるので何とか使えそう。ボーカルの声の質感という観点からはこの3way構成の方が魅力的かもしれない。改めてSONYのユニットはボーカルが得意であり、またそれに惚れ込んで手に入れたことを思い出す。フラット感ではFPSを加えた4way構成なのだが、声や音楽の「魅力」というのはそういうフラットネスだけではない。人間の声の場合その情念的な何かが再現されるかどうか、なのかもしれない。

翻って、-48dB/octのスロープ特性を主体とした4wayであるが、確かにインパルスレスポンス、位相については改善の余地がある。だが、音楽として聴くというこにおいてそれはあまりシビアな問題にはならないようにも感じるのだ。もちろん従来の設定も長い時間をかけて調整してきたものであるので、まとまりとしての良さはあるのだが、新たな設定においても充分に魅力的な音を聴かせてくれると思う。クラシック系の音楽についてはもう少し音の溶け合いが欲しくなることは事実なのだが、ボーカルやJAZZ、ROCKなどには存外向いているかもしれない。一方で、現段階では目先の変わった新鮮さに囚われているだけかもしれないし、まだまだ設定自体を追い込む必要はあるのだが、従来行って来なかったこういうアプローチもありだと感じている。

何だかいろいろな回り道をしているような気もしてくる。これで本当に道の果てに行き着けるのか改めて考えるととても心許無い。王道はあるようでないことも今までの経験から分かってはいる。この扉の向こうが正しい道へと続くのか、、、だが、自ら開けて進んでみなければその答は得られない。


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