オーディオ日記 第36章 歩き来た道の果て(その4) 2015年10月11日


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10チャネルマスターボリュームをベースに念願であった4wayへのチャレンジを開始した。このマスターボリュームはLPAD型ボリュームの持つ鮮度感の高いストレートな音が特徴と感じており、この良さを生かしつついかにして全体を豊潤な音に仕上げるかがポイントなるものと考えている。

思い起こせば、4wayを意識してから既に2年以上経った。暫定的なボリュームでの組み合わせや、思い切ってデジチャンへのアナログ入力方式に戻す構成もトライしてみた。ただいずれも実験の域を出ず中途半端に終わってきた。調整というよりも本格的な装置環境を整えられなかったことが大きいと思う。

デジチャンに対してデジタル入力を行うという原則論は既に固まっている。それゆえのマルチチャネルマスターボリュームが必須となるのであるが、自作の出来ない当方の弱み、市販品がほぼ無い状況ではどうにもならなかったのだ。また、その過程の中でいろいろなミッドローユニットを試す機会を得た。しかし、暫定で試行した4wayには厳しい現実があり、トータルな音楽の提示や音楽の感動、という観点では3way構成を超えたと自分で採点することはできなかった。

4wayに至る道程はこのように思った以上に長くかかってしまったが、やっとマスターボリューム構成でのテストまで辿り着いたことの感慨は深い。が、感傷に浸っている時ではない。ここで納得できるか、できないか、(大げさではあるが)我がオーディオの大きな試練である。求めることはただひとつ。オーディオという装置を忘れてひたすら音楽が楽しめること。美しく清楚な音楽によって、オーディオであることを思い出させるような雑念(ここはもうちょっと、あそこをもうちょっと、というような)を捨去れるようになれば幸せなのだが。

そもそも求めている音楽や音に関して云えば、天上の音楽であるところのMozartが心地良く奏でられ、聴きながらいつの間にか寝てしまえるようなホールトーンに包まれた優しい音。Mozart特有の透明感があって、かつキラキラした高域感が伴えば極上である。逆に音のメリハリや大音量、低域の圧迫感などはあまり必要としてはいないのだが、女性ボーカルについてはオーディオ的快感を感じられる部分は欲しいと思う。(などなどやはりあれこれの注文が皆無な訳ではない、、、)

4wayを試行する経緯であるが、基本は中低域の扱いである。我が家のホーンドライバー構成では3wayの場合、その特性上低域と中域のクロスオーバーを500Hz以下にはできない(これでも少しホーンが厳しい)ので、声の帯域を複数のユニットで受け持たせることにならざるを得ないので、これを主に中低域のユニットでカバーするような構成にしてみたいのである。15インチウーファーの高域側の再生に大いに不満があるということではないが、以下に挙げるような女性ボーカルをより魅力的に再現したいというささやかな希望である。また、クラシック系の音楽におけるボトムエンドの充実感を増強しつつ、その上の帯域に対するマスキング、混濁感を抑えたいというもの。従って、ウーファーの受け持ち領域はできれば300Hz以下としたいのだ。希望は希望として実際のセッティングがどのように落ち着くのかまだまだ先は見通せてはいない。

調整に使用したお気に入りの女性ボーカル曲:    

左:Jennifer Warnes : La Luna Brilla
右:Jheena Lodwik : Emerald City


左:Jane Duboc : Lady Jane
右:Eva Cassidy : Fileds Of Gold


(4way調整の過程)

手元のユニットはSONY SUP-L11、SUP-T11を核に、中低域にFPSを、高域にScanspeakのツィータをというものであるが、ユニット構成的には多少変則的なものとなろう。それぞれが高いポテンシャルを持っているユニットであるが、トータルに纏め上げるのはそれゆえに至難であろうことは理解している。周波数の受け持ち帯域の想定から考えて、一番難しいのはFPSとSUP-T11のつながりかもしれない。

受持ち帯域、スロープ、位相、タイムアライメントという各要素があるが、今まで3way構成で使用してきた経緯があるので、大体の感触は掴めているのだが、この中低域、中高域の繋げ方は今までの暫定4wayのトライの中でも納得出来るところには至っていなかった点である。

そのための基本的なコンセプトとしてこの二つのユニットは同相で使いたいと考えた。従い、スロープ特性は-24dB/octをまず基本とし、状況によっては-6dB/octもありかもしれない。まずはこの二つのユニットだけを鳴らして具合のいいところを探していくことをスタートポイントとして、タイムアライメントを取る。これは計測ツールを使用しないとできない。理想としてはインライン配置なのであるが、我が家のエンクロージャーならびに設置環境からそうすることはできないので、なるべくシビアにアライメントを合わせる。

クロスオーバー周波数は250、1000、4000Hzを想定しているのだが、まずははFPSを355Hz位からスタートする。SUP-T11は1000Hz辺りから。若干の試行錯誤であるが、両ユニットを-6dB/oct(かつ同相)で重ねた時がやはり一番自然に感じる。また、低次のスロープ特性であるためか、受持ち周波数は若干離したほうがリスニングポイント付近での周波数特性が平坦化されるようだ。(3way構成ではそのような設定を現状のファイナルとしている)ただし、4wayともなるとその分トータルのエネルギー感は少し分散されるようで音像も大きくなることから-6dB/octは難しくもある。悩むところであるが、まずはユニットの受け持ち周波数を定めることを優先してここは-24dB/octを前提で進めてみることとした。

低域については低次のスロープ特性では設定周波数以上の高い音にエネルギーがかなり残るので、ボーカルなどの帯域に被さってしまう関係かこれは-24dB/octで切った方がすっきり感が上回ると思う。同じことは高域にも当てはまりそうで、こちらも-24dB/octとしたが、感覚的には中低域、中高域のユニットが主役でそれに低域と高域を足したような感じであろうか。この設定では個々の楽器の音や声の質感が混濁せずなかなかいい感じである。一方でそれぞれがあまり主張しないので押し出し感は弱いようにも思える。

(第一段階での設定値)

低域   355Hz~     正相、-24/dB/oct
中低域  355Hz~1120Hz   正相、-24dB/oct、-24dB/oct
中高域  1120Hz~4000Hz  正相、-24dB/oct、-24dB/oct
高域   4000Hz~     正相、-24dB/oct

周波数特性的にはリスニングポイント付近でもまずまず。自然なわずかな右下がりである。個々には山谷もあるが6dBでスムージングされた状態では相当いい感じになっている。位相の回転は測定されるがこれに起因する違和感はあまり無く、音量に対する直線性も良いように思う。すべて正相接続、中低域、中高域のユニット含めすべて-24dB/octのスロープ特性としていることもあって定位感は良い。ただし、全体の音の溶け合い感は今ひとつか。

当初の4wayの計画値としては250、1000、4000Hzを想定していたのだが、実際はそれよりも少し上のクロスオーバー周波数となった。特に低域、中低域のクロスはもう少し下げたい気もしているのだが、力感が減少してしまうこととのトレードオフになる。また、FPSを1120Hzまで使う設定になるが、声の質感の統一性という観点ではあまり下げずにこの辺りが良さそうな感じ。当初想定の1000Hzまで下げると中低域、中高域のユニットが少し喧嘩するような気がしてしまうのだ。1120HzであればFPSの指向性もまださほど厳しくならない領域なので、何とかいけそうかと思う。

(結果としての音)

まずはMozart(特に弦や木管)である。これはそこを主眼としての調整、設定なのでしっとりとおとなしい感じは合格点を与えられるであろう。次に古楽器の音楽。透き通った清楚な感じの再現はまずます。ピアノ、打鍵の滲みは極少ないがゼロではない。輝きやキラキラ感まあまあか。この点ならびにオーケストラ、低弦の響きや量感にもう一工夫が要りそう。女性ボーカル、声がすっと立つ。雑味は少ない。これは中低域ユニットに声の基音部分を受け持たせた効果が出ているか。ただし豊潤な感じよりも可憐な感じが合っていそう。測定上は問題ないのだが、中低域の充実感が今ひとつなのかもしれない。この辺りはシビアなレベル調整、場合によっては補正等が必要となるかもしれない。多様なジャンルの音楽を聴いてみる。概ねそつなくこなす。3wayとそう印象の変わらないような音楽も無くはない。クラシック系の音楽についてはふわっとした音の広がり、感触が心地良く、設定自体はこれで充分かと思わなくもない。あっと驚くような音が突然出てくることはないので、4wayのチャレンジとしてはまだまだ80点とも云えないのだが(甘くすれば)何とか合格点のような気もする。むしろ逆に思った以上にすんなりと音が纏まったと云える。いい音楽を、いいシステムを、いいユニットをあちこちでいろいろと聴かせていただいた。おそらく今までのこれらの経験値が積み重なった成果が多少は現れているかもしれない。後は微調整でこれからどこまで追い込めるか、だと思う。特に各帯域のレベル設定はフラットを意識しているためボリュームを上げた状態では少し中高域寄りの傾向があるかもしれない。従い、この設定はファイナルではなく今後微妙に変化していくだろうし、それがいつどのように落ち着くのかまだ手探りである。

ただ、過大な期待は禁物で、録音の良くないものが、4way化したからといってガラッと気持ち良く奏でられるようになる訳ではない。ついついそのような幻想をいだいてしまうことが多いので、この設定の検証においては留意しようと思う。鮮度や録音バランスが今ひとつの音源でしばしば悩み、かえって普遍的なバランスから離れるように弄ってしまうことが時々あるので、この点は迷わされないように自戒を込めておこう。元々4wayの音がすんなりと纏まるとは思っていないので、当面何とかストライクゾーンに入ったということで少しほっとする。これからいろいろと楽しんで(苦しんで?)行きたいと思うが理想への道程はまだまだ遠いかもしれない。

(低域補正についての今後の試行案)

我が家では定在波の影響と思うがリスニングポイントでは80Hz辺りに若干の谷があり、ここをうまく補正できないか思案している。ひとつ思いついた案は低域チャネルだけにイコライザを入れるという方法。イコライザの挿入はなるべく避ける方向でこのところ考えてきたのだが、この方法であれば、中低域以上にはイコライザの弊害を一切出さずに低域の補正ができる。マルチチャネルマスターボリュームは幸いにも10チャンネルあるので、DF-55からアンバランス、バランスで同時に取り出した二つの低域信号の片方をデジイコにアナログ入力して補正する。低域のパワーアンプは入力切替によって、(ボリュームを経由した)補正無し、補正有りを選択して聴き較べできるというもの。課題が無くはない。ひとつはデジイコでの処理遅延がどの位なのか全くわからないこと。これが推定できれば、DF-55の機能(ディレイではなく、相対位置を前に出すという機能がある)によって全体のディレイとの整合性が取れるのだが、、、探してみたがマニュアルその他にもこの類の情報は記載されていない。これはえいやっ、で設定して聴き較べてみる以外の方法は無さそうである。

その他の課題は低域をブーストすることによるゲイン調整(全体としてはゲインを下げる)であるが、これはデジチャン側で出力レベルを上げるなど相殺すれば良いと思う。低域だけにイコライザ入ることの功罪、またDF-55のアナログ出力をデジイコに入れるのでここでもA/D変換、D/A変換が再度行われる、という問題も発生する。要は補正の効果とデメリットのバランスなのであるが、簡易に切り替えて比較する方法が確立できたのでこれは今後じっくりと確認・調整してみようと考えている。


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