オーディオ日記 第34章 ブレークスルー(その15) 2014年12月3日


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デジタル入力系について細々としたいくつかのブラッシュアップを行ってきた。これにより、アナログディスクの再生に追いつけるかも、という儚い望みが多少はあった。しかし、デジタル、アナログを同一音源で比較し、さらにいろいろと聴き較べた結果、それはやはり夢であり、淡い期待だったと云わざるを得ない。我が家の環境では、所詮デジチャンを通るので、アナログ再生であろうとも一度A/D変換され、PCMでの演算処理を経て改めてD/A変換されるにも係わらず、である。

また、我が家での評価だけではなく、アナログ再生に注力されている方のシステムもじっくりと聴かせていただいたがやはり、アナログ再生に軍配が上がる。もちろん、単純にアナログ礼賛をするつもりは毛頭ない。アナログディスクの再生道には、多くのハードルが待ち受けているのだ。ラフなアナログディスクの取り扱いは厳禁だし、さらにスクラッチノイズ、ほこり、傷、針の消耗、カンチレバーの破損。針交換自体が今やそう容易ではないこと。アナログプレーヤーの調整にも相応の経験が必要だし、何より新しい音源の入手もかなり限定的になってしまっている。そこそこのアナログプレーヤーのためにはある程度の出費を覚悟せざるを得ない、などなど。

それでも敢えて言葉で表現すれば、アナログディスクの再生には「音の生気」が溢れているのだ。ぴんぴんと音が立っているのだ。これは同一音源でピアノなどを聴き比べればまず誰しも納得するものと思う。一般的に流布している、アナログの音はデジタルに較べて柔らかい、というのは当たっていない、と当方は思う。鋭い音が鈍ってしまっては本来の音とは云えなくなるのだ。それでいて、肌触りの良さや音の浸透力を持っていなければならない。音は瑞々しく、そして生きているのだ。アナログディスクの再生においては、すべてとは云わないまでも、その片鱗が常に感じられる。

この差がどこから来るのか、いろいろと考えても素人的には簡単には結論が出ないが、ひとつのデータを紹介してもらった。音のトランジェント特性(過渡特性、応答性)が違うというもの。PCMの場合、44.1KHz/16bit、96KHz/24bit、192KHz/24bitになるにしたがって、このトランジェント特性が改善されていく。さらにDSDにおいてはこのトランジェント特性がアナログに近くなる。言うなれば、音の立ち上がりが多少鈍っているのが(DACのフィルター性能にも依存するとのことであるが)44.1KHz/16bitのPCM音源の宿命なのだと。なるほど、先に述べたような音の差の印象と近いと思う。

左から、Analog、48K、96K、192K、DSDのインパルス応答の波形:


Analog、PCM、DSDに関する Impulse Response の技術情報はここにも掲載されている。

とすれば、デジタル系の音源においては、アナログ再生とのギャップを埋められないのだろうか。デジタル音源がメインである以上、この先さらなる進化のためにはどのようなアプローチを取ればよいのか、悩み続けている。一方で先のトランジェント特性において、DSDはアナログに近いというのも光明のひとつではあると思う。しかし、SACDの現状、DSD音源の入手出来る範囲や内容を考えると、現在の音源資産をすべてDSDに切り替えるということは、当方の生きている間には実現しないだろうと思う。過去の良質なアナログ音源を積極的にDSD化して販売してくれればと思うのだが、これには悲観的にならざるを得ない。

そのような現状からして、今ある44.1KHz/16bit中心のPCM音源をアナログを凌駕するとは云わないまでも、何とか遜色の無い音で聴けないものだろうか、という思いが強まる。世の中的にはPCMtoDSDというテクノロジーがあり、大分一般的になってきた。ならば、これにチャレンジすべきではないか、という誘惑には逆らいきれない。一方でこのトランジェント特性において既にビハインドしてしまっている音源に多少のお化粧をしたところで、アップサンプリング程度の効果しかないのではないか、と懐疑的にもなる。また、デジチャンを使う、という前提においては、いくらPCMtoDSDで頑張ったところで、再度A/D変換によりPCM信号化され、DSP演算処理を経てのD/A変換というデジチャンでの関門が待ち受けている。これで良くなるはずはない、と理性は引き止めるのだ。一方で冒頭に述べたように、デジチャンを使っていても、アナログ再生の魅力は全て失われてしまう訳ではない。これは当方のデジチャンにおけるA/D変換が176.4KHz/24bitで行われることにも関係があるかもしれないと思う。このハイサンプリングレートであればトランジェント特性が大きく犠牲になってはいないとも考えられるのだ。

頭でそのようなことをぐるぐる考えていても、結局結論など出やしない。ならば試してみるしかない。PCMtoDSDを基盤レベルで実装し領布しているものもあるが、当方のスキルレベルでは自作は無理なので、製品化されているものが選択肢となる。となると、KORGのUSB DACとSONYのHDDプレーヤーぐらいであろうか。KORGの場合はAudioGateによるPC上のソフトウエアでのPCMtoDSD処理。SONYの場合は基盤レベル、おそらくFPGAでの演算処理であろうと思われる。実験レベルとすれば、KORGの方がコスト的にもアプローチし易いので、まずはそれを試してみることにした。

DS-DAC-10、左側はVoygeMPD用のALIX3D2とUSB DDC:


AudioGateによるPCMtoDSD処理とDS-DAC-10によるDSD信号のアナログ変換処理の組み合わせである。ただし、DS-DAC-10はUSBバスパワーを使用しており、外部給電はできないので、電源線をカットしたUSBケーブルは使用できないなど、USB Audio周りでいろいろと実験してきたことはあまり利用できない。せいぜいなるべく短いUSBケーブルを使う程度。もちろんぐっと踏み込むならば、USBの5V電源を別供給してあげる方法も無くはないが、今はそこまでの用意はできていない。

さて、インストレーション、セットアップを済ませての音出し。44.1KHz/16bitをDSD5.6へ変換させる設定である。デジチャンへはDS-DSC-10のアナログ出力を入れる。もちろんエージングは全くなので、それを割り引かねばならない。が、出てきた音は全くの脱力ものである。ため息しか出ない、、、いやいや最初の音で決めつけてはいけない。しっかりとエージングさせ、もう少し聴き込まねば、と自分に言いきかせる。一聴の感想では音楽の滑らかさ、というものは出ているようにも思う。だが、切れ込みや解像度などは物足りない。Bug Headにて88.2KHz/24bitへアップサンプリング、電源線カットの15cmUSBケーブル、USB DDCへは外部電源供給、その後段でデジチャンへのデジタル入力、というのが我が家の定番スタイルなのだが、それとの比較である。

エージングも兼ねつつ、(数少ない)DSD音源も聴いてみる。うん、こちらは悪くはない、、、念のため、AudioGateでDSDを176.4KHz/24bitにダウンサンプリングさせ、そのPCM信号をUSB DDC経由でデジチャンへ入力してみる。どうも後者の方が僅かに良いようにも感じる、、、慣れの問題なのか?それともUSB DDCに施しているいくつかの音質対策やDDCに搭載されているXMOS自体のアドバンテージなのか?どうも頭がぐるぐる回ってしまい、冷静な評価が出来ないようだ。

現在はエージングを兼ねて、サブスピーカーのELAC BS-403で44.1KHz/16bitをDSD5.6へ変換した音をBGM的に聴きつつ、この記録を認めているが、徐々に良くなってきているかもしれない、、、、だが、まだまだ期待値には遠い。はてさて、初日のインプレッションはこの状況であるが、エージング(ならびに聴き慣れること)によりPCMtoDSDの本領を発揮してくれるであろうか。


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