オーディオ日記 第33章 原点への回帰(その18) 2013年12月22日


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ここしばらくはオーディオ熱が停滞してしまっていた。

理由は自分でもあまりはっきりとはしないが、ある種の「満足と諦め」が入り混じった「これが限界じゃないのか」という思いにあるのかもしれない。 惚れ込んだユニットを万全とするべくエンクロージャーとホーンを製作してもらい、さらにデジタルチャネルデバイダー導入によるマルチアンプシステムのリニューアル、音の純度を落とさないためにデジタルチャネルデバイダーへ直接デジタル入力し、後段での音量調節を行うためのマルチチャネルボリュームの導入、PCオーディオにおける音楽再生ソフトの見直し、などなど考えられることは行ってきたので、それなりに音楽を楽しめていることにも要因があるのかもしれない。逆に云えば、オーディオ熱は音に不満がある方が高まるのかもしれない。

一方で、現状の構成を前提とすれば明らかに限界もあるようにも感じている。それはオーディオシステムの根本でもある部屋の課題である。天井高、床の強度などの部屋の制約からフリーになることは現在の住まいを終の棲家として選んでしまった以上現実論としては難しく、理想論は捨てきれずとも打ち手は少ない。また、オーディオシステム全体においてはスピーカーの影響力が支配的なので、ユニットを交換しない限り新たなブレークスルーに至ることは出来にくいのでは、との思いもある。

オーディオそれ自体はつまるところ「音楽の良さ(曲、演奏、録音)」が最重要のファクターであることは身に染みているので、あんまり足掻いても仕方ない、そんな思いが交錯しての行き止まり感だろうか。しかし、このような要因であれば今日に始まったことではなく、この趣味をかれこれ40年以上も続けて来ているので、単に気分の山谷の問題なのかもしれない。

以前から聴いてみたいと思っていた Myuさん のシステムを拝聴する機会を得たこと、 audio funさん のオールエールシステムの完成に立ち会うことができたこと。また、師匠とも仰ぐ milonさん のシステムを久しぶりに聴いたこと。そういういくつかのことがあって、これじゃいかんなぁ、という思いが募ってきた。それぞれのシステムはオーナーの理念が明確で、目指す方向が音楽にもその表情を濃く表出している。これは素晴らしいことだと改めて思った。

翻って自分のシステムの音を聴けば、遣り残していることはまだまだたくさんあるし、現状もパーフェクトと思えるには遠い。ああすれば、こうすればという仮説も立ててみるし、やっぱり自分なりの理想(=マイベストサウンド?)には一歩でも近づきたいと思う。

理想へのアプローチを続けるために重要だと思うことは、おそらくこうあって欲しいと思う音を今以上に明確にし、それを聴き分けて行くことであろう。良い音かどうかの判断は多少なりともできるはずだとは思ってはいるが、音の好みもあって決してすべてを聴き分けられる訳ではない。小さな変化の積み上げがとても重要なのだが、そのひとつひとつの変化の是非をはっきりと聴き分けたと確証できる程の耳は残念ながら持っていないことは自覚している。

ただ、改めて考え直してみると、これからのアプローチについては次のようなことに要約できるような気もする。

1.不満点を顕わにし、それに手を付けること。
(自分のシステムの音が良い音はずだとは錯覚しないようにして)
2.ただしすべての音源をうまく鳴らそうなどと欲張らないこと。
(音楽自体の良さ(曲、演奏、録音)が無ければ、どんなシステムであっても無意味)
3.物理的、科学的なアプローチを心掛けること。(普遍性、客観性の担保からもこれは重要なこと)

ともすれば、自分のシステムへの不満が音楽ソースなのか、システムそれ自体なのか判然としないまま手を付けていることもあるし、改善して行けば全ての音楽ソースがきっと良く鳴ってくれるはずだという過度の期待値がそもそも邪魔であるという反省。現実問題としてシステムの成熟度が高まってくればそれに比してカバーできる音楽ソースの比率は向上してくるのだが、それでも心理的な思い込みでは再生をパーフェクトにこなしてくれなければ、ということになりやすい。

音楽は感情で聴く。エモーションやパッションで聴く。ビンテージのオーディオの良さもきっとそこにもあるし、科学や物理では解明できない部分もあるだろう。しかしながら、科学的(音響工学的)なアプローチもオーディオには重要不可欠だと思う。

少し前に、実験的に4wayへのチャレンジをしてみたが、感触は悪くはないものの音楽として楽しめる状態に持って行くことはできなかった。ユニットの数が増えればそれだけ調整要素が増え、級数的に設定は難しくなる。もちろん、周波数測定など十全ではないもののやっては見た。しかし、周波数特性で「音楽」は語れないし、まして奏でられる音楽、楽器自体の音色や質感、演奏会場の雰囲気が計測出来る訳もない。

一方で、オーディオを科学的にアプローチしようとすれば、音響特性を把握することこれは必須とも云える。今回、audio funさん邸でのエール音響の超弩級ウーファー導入に立ち会った際、 ケンさんOmni Mic V2 による測定を拝見する機会があり、多いに刺激を受けてこれをツールとして調達することとした。主な目的はインパルス応答の測定によるタイムアライメント調整である。もちろん、周波数特性等についても従来DEQ2496によるリアルタイムアナライザー方式を使ってきたのだが、これは結構ラフなようにも感じられ、こちらも補完できるのではと考えた。

1.周波数測定
従来の方式での測定ともちろんのこと大きな差が出てくるわけではないが、より詳細に追い込むツールとしては使い勝手が良いと感じた。ピンクノイズとは違うショートサインスィープというOmni Mic専用の音源を使う点が目新しい。Omni Micによる測定では各ユニット間のスロープ特性、位相による周波数特性の変化がかなり明確に掴める。これは大変ありがたい。面白いのはユニットのディレイの微調整によってもクロスオーバー周波数付近の周波数特性の山谷が敏感に変化することである。これはDEQ2496のピンクノイズによるリアルタイムアナライザー機能では的確に捕らえ切れていない部分であった。また周波数特性の山谷の捕らえ方自体も詳細からラフなものと数段階に分けて把握できるので、ラフな方を使えばあまり神経質にならず傾向値を把握して追い込むことが出来る点も評価できる。

なお、最終的にはある程度の設定の見直しを行うことになったが、実は周波数測定の前にインパルス応答の測定を先に行うべきであり、そちらを調整し終わってから最終的な周波数測定と調整を行った。

周波数測定の結果とデジチャンの設定において、従来行っていないことを今回試してみた。それは「最低域」を減らす、という自分でも以前は思っても見なかったことである。30~40Hz付近に多少の山が出来ていることが測定結果から判るのだが、低域の量感が失われることを恐れて、その調整は行っていなかった。逆に63~80Hzあたりに谷があるので、むしろそこを補うことばかりを考えてきたのだ。しかし、量感がそのまま低域のキレに繋がる訳ではないし、ファットなこの帯域は害にもなりうる。そこで、思い切って40Hz以下がダラ下がりとなるように低域チャネルを設定し直した。具体的には40Hzにて-24dBのクロスオーバー周波数を設定。これによって30~40Hz付近の山がしっかりと抑えられる。本来は20Hz程度まで平坦に低域を出すべきなのであるが、スピーカー背面がコンクリートの壁であり低域が逃げにくいこと、集合住宅であり低周波に近い低域はむしろ抑制した方が却って音量を上げられる(?)のでは、という期待値もあって実験的にやってみた。結果としてはこれは結構正解だったかもしれない。低域がすっきりした感じには当然なるのだが、その分混濁感が減少し、ベースラインが明確になったように(贔屓目には?)感じる。なおこれに合わせるように中域のレベルは-1dBとしたので、低域の不足感はあまり感じずに済んでいるようだ。

2.インパルス応答
最初に測定してみて一見してすぐ判ったことは「応答特性が良くない」ということである。タイムアライメントの調整はユニットの物理的な前後位置を測ってその距離分をデジタルチャネルデバイダーのディレイ設定で補正しているのであるが、これを聴感だけで煮詰めるのはもともと非常に難しいと感じていた。OMNI MICには周波数測定と同時にインパルス応答を測定してくれるので、この測定と調整がとてもやり易かった。

従来より3way構成の測定、調整においては低域から音を出し始め、次に中域、高域と順に音を足していくスタイルをとっている。インパルス応答の測定においては、中域、高域と足して行った段階それぞれで、大きく音の遅れが無いようにデジタルディレイを調整していく訳だ。中域を足した段階では大きな乱れがない。これは現状のタイムアライメントが前後位置の調整(ホーンとウーファで27cmの距離差がある)のディレイ設定と上手くマッチしているものと想定される。さて、次に高域を足した状態であるが、この場合はインパルス応答に乱れが出る。高域ユニットのディレイ調整は現状8cmの距離差をそのまま設定していたのだが、これでは駄目なようである。このため、一旦ディレィ調整をゼロに戻してみるとインパルス応答の乱れがさらに大きくなった。確かにこれではタイムアライメントの調整を全くとらない形になるので、当然と云えるであろう。さて次に、従来の8cmの設定まで徐々に戻してくると、インパルス応答の乱れが少しづつ改善していく。このような状況が視覚的に捉えられるのは大変便利である。さらに8cmの距離差調整越えて、13.5cmの設定値としたところで非常に良い応答性が得られた。もちろんこれを越えて大きな値にしていくとまた乱れが出てくる。したがって、この計測結果を信じれば我が家では低域ウーファに対して高域リボンツィータのディレイ設定は距離差13.5cmの調整がベストということになる。この状態をベースにして、今度は周波数測定の方に注目し、スロープ特性、位相を弄りながらその変化を見つつ山谷の状況、レベル差を追い込んでいくという次第である。

一般論的にはこれらの測定や調整はスピーカーからの距離を大きくとるとあまり良い計測結果がでないので、50cm~1mくらいで行うことが多いが、当方はほぼリスニングポイントでこれを行うようにしている。(従い、あまり厳格、厳密なフラットネスを求め過ぎないないようにしている)

全体としては現在まだまだ試行錯誤中であり、いっぺん測定・調整したからこれでOKというものではなく、まだ最終的に満足したという設定値を得ている状況でない。しかしながら、従来の設定の微調整であるにも拘らず出音に改善の変化が感じられる。特に高域の雰囲気においてタイムアライメントの調整の成果が出ているようだ。今回、4wayへの実験的な要素を加味して、リボンツィータの位置をエンクロージャー上部から、サブスピーカーであるBS-403の上に置いた。タイムアライメントに関してはこの影響で設置距離に変化が出たのかもしれないが、設置位置が下がりより耳の位置に近づいたことにも関係がありそうだ。当然ながらユニットのレイアウト位置も重要な要素である。総合的には、高域に向けての素直さが向上したようで、楽器や声のエコー感がうまく分離してくれるように感じており、弦やピアノの響きが心地良い。低域も実験的な設定が功を奏しているのかすっきりと引き締まっているようでこの方向性を少し続けてみたいと思う。もちろんスピーカーユニットやシステム全体の持っている性格が変わると云う程ではない。機械を信じるか、自分の耳を信じるか、多少懐疑的なところも無くはないのだが、まずは結果オーライか。



なお現金なもので、3way構成で測定・調整の成果がある程度のが見えてきたので、次には4wayのチャレンジをこのツールを武器に再開してみたいと考えている。

(参考)測定結果












(注記)Omni Micは海外に注文するよりも 横浜ベイサイドオーディオ の方が廉価であった。


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