オーディオ日記 第29章 音の泡沫(うたかた)(その8) 2012年 1月17日


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音楽は心の安らぎであり、明日への活力の源でもある。オーディオに目覚め志を持って以来、幾星霜もの年月が流れ過ぎた。この月日の中で数々の音楽との出会いがあり、その度に心踊らされ、魂の震えるような感動も味わってきた。
モーツアルト、ショパン、マーラー、ベートーベン、フォーレ、ボッケリーニ。とても語り尽くせぬ程の喜びと悲しみと慈愛に満ちた調べの数々。そして、それらの旋律を満足、納得の行く音楽として、自分のシステムで奏でたい。我が物としたい。それをどのようにすれば実現し、わが手に載せられるのか模索と巡礼を続けてきた。それは探究心や向上心とも云えるし、果てしない人間の欲望の数々の内のほんの一つであるのかもしれない。


時に思う。音楽の神ミューズは我システムに降り給うたのか。寄せては返す波の如く、高まりと落胆の合間に一筋の光が見えることもある。わが掌を差し出し続けても、求め得ぬものもあるかもしれない。されど、追わねば夢は叶わない。そして喜びに至る門は狭くとも、扉は叩かなければ開かない。長い葛藤の中で、今がまだ最終目的地とも思わないが、ひとつの安息の地に辿り着けたものと錯覚することもある。わが人生の旅の終わりは近く、約束の地は遠い。ここに安住できるものならば、と願うこともまた人の心の弱さなのかもしれない。

Murrillo No.3

転居後のチューニングもいよいよ大詰めとなってきた。大胆な試行錯誤も交えながら、新たな環境へのマッチングを探り、マルチアンプシステムの根幹とも云えるクロスオーバー周波数を500Hz(スロープ特性は-18dB/Oct)と設定した。従来は650Hzで安定していたが、これを一度は800Hzに替え、さらに500Hzを試し、最終的に500Hzに落ち着くこととなった。ホーンの特性とドライバーであるSUP-T11とのマッチングからはこれがおそらく下限のクロスオーバー周波数であると思うが、SUP-T11のトランジェント(過渡特性)の良さを生かしつつ、音楽全体の透明感や自然なエコーを求めると、新たな環境では低域ユニットであるSUP-L11の上の方の帯域を使用しない方がベターという結論となった。従来環境では音楽のピラミッドバランスを明確にするにはSUP-L11をもう少し高いところまで使用する方が結果は良好であったが、おそらくは部屋の中での位置取りの差(リスニングポジションの後方のエアーボリュームの拡大)が一番影響しているものと思う。この点は残響特性を測定すればある程度把握可能とは思うが、当方所有の機器では周波数特性しか測定できないので、周波数特性だけではこの辺りの解析は難しく、結果的には多少曖昧な「聴感」に現状では頼らざるを得ない。また、別の観点となるが、絶対的な音量が少し控え目になったことも影響しているのかもしれない。合わせて、周波数測定にて把握できた点でもあるが、背面を含めてのコンクリートの壁による最低域(30~40Hz辺り)の反射によって、木造の住宅ではでは不足しがちであった音の充実感を補っていることが、クロスオーバー周波数を下げてもバランスを崩さない要因のひとつとなっていると思われる。ロジカルな部分と感性の部分を織り込みながら設定を練り上げて行くには、相当量の音楽をいろいろなジャンルを交えて聴き、総合的に判断することが必要となるので、まだまだ行きつ、戻りつがあるかもしれない。

閑話休題。
アナログ音声信号(アナログディスクの再生だけでなく)においては、信号ケーブルの取り回しやその品質によって、再生音に差が出てくることは既に常識であるが、では、デジタルの世界における、「記録と伝送」の違いによってどのような音の差が出てくるのだろうか。テーマをPCオーディオに限定しても、楽曲ファイルの形式や記録媒体による違い、OSや再生ソフトウエアによる違い、ケーブル類など伝送媒体による違い。誤り訂正を行うデジタルデータの伝送に於いては送り手と受け手において、基本的な普遍性(データの一致)は保たれているにも係らず、である。

PCオーディオ、ネットオーディオの世界が一般的になった現在、オーディオ論議の流れを汲んだ数々の音質比較論や音質向上アクセサリーが百花繚乱状態となってきている。オーディオを商売とする立場とは違う故に異なる考え方もあるので、業界の繁栄、繁忙も必要なことなのであるが、単純に高音質は高価であるという刷り込みとならぬような冷静な判断、批評も必要なことと思っている。特に、コンピュータの世界から派生してきた分野だけに誤解や無知もあろうし、趣味のオーディオが元々傾向として持っている拝金主義的なものに流されることは避けたいと感じている。独断や偏見を避けるには、情報を集め自分で分析し、とにかくいろいろと試してみるしかない。世の製品と言われるものを聴くしかない。情報や判断材料は多いほど良い。インターネット上にも大量な体験の情報・感想があり参考にはなるが、最終的には自分の耳で聴いて判断するしかない。

一例で云えば、PCオーディオに於けるNASとの間のLANケーブルである。LANケーブルによって音が変わる、良くなるという諸説もあるが、当方はカテゴリー7のLANケーブルを念のため使用している程度。通常家庭内における数メートル程度の距離であれば、カテゴリー5あるいは6でも伝送上の問題はほぼ無いと思うが、再送等による伝送速度の低下などを招かぬ配慮であって接続や再生の安定性を求めているに過ぎない。また、ケーブルの両端にはフェライトコアを噛ませて、電源系のノイズなどの影響を低減するようにしているがこれも同様の観点である。デジタルデータの処理に於ける様々な原因の不具合で、最終的なアナログ信号の劣化やノイズ成分が乗ってしまうようなことは今までも経験していることではあるが、正常に伝送と処理が行われている状態・状況において、LANケーブルの差のみによって音質の顕著な改善となることは、当方の駄耳と感性では残念ながら認識できないので、これで充分と考えている次第である。


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