オーディオ日記 第29章 音の泡沫(うたかた)(その4) 2011年12月11日


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婿殿が新しく作ったスタジオにてたっぷりと音楽を聴かせていただく時間がとれたので、プロのスタジオの音のインプレッションを書いておきたい。婿殿はバリバリの作曲家兼ミュージシャンである。さて、そのスタジオであるが、地下にあり12畳ほどの大きさで、分厚いドアを開けて、スタジオに入った瞬間に感じるのはその「静かさ」。吸音と反射がコントロールされ、音響効果を計算して作られていることがすぐ判る。当たり前のように非常に多数の機器・録音設備が設置されているのに、一切の雑音がないばかりではなく、しんとした感覚が自然と伝わってくる。 地下であるので、相当の音圧の再生でも全く音漏れ等を含めて問題が無いとのこと。当方が普段から聴きなれ、試聴にも使っているた楽曲ファイルを持ち込んで、しばらくの間、全くの独り占めで堪能した。その再生環境であるが、PCは巨大なMac Pro、オーディオI/Fは Apogee Symphony 、モニタースピーカーは Genelec 8040A という組み合わせで、複雑な機器はいじらないようにして(もちろん、いじれないし)。早速試聴の開始

モニタースピーカーのGenelec 8040Aは2チャンネルのアンプを内蔵したパワードスピーカーであるが、決して大きくは無い。ところが出てくる音の立体感、力強さは流石にプロの世界で認められている機器によるものだ、と唸らずにはいられないほどのもの。音の色が濃く、くっきりしている。特に素晴らしいのは低音の押し出しである。大きさで判断してはいけないのであるが、まさにこの大きさからは考えられないほどのマッシブな低音を再生する。ボーカルの声の通りの良さ、ピアノやジャズではきらきらとした音の煌きや広がりが余すところ無く再現される。

最初は操作卓に座って、まあ普通の音量で再生していたのであるが、「近所迷惑の懸念が一切ない」という安心からか、徐々に音量が上がっていく。しかしながら、音像は崩れないし、圧迫感も無い。POPS系の音楽のボーカルは本当に気持ち良く、ディーティルまでしっかりと聴き取れる。これは気持ち良い。尾崎豊の「15の夜」をこれだけの音量・音圧で聴けるのは何とも素晴らしい。また、アナログを自分でデジタル化し、編集によりノイズを補正した楽曲ファイルも持ち込んだが、流石にこの音圧での再生となるとアナログらしいノイズは取り切れていないことが判ってしまう。なお、しばらく聴いていると、当方の感覚では直接音が多いせいなのかもしれないが、リスニングポイントがスピーカーに近すぎる気がしてきた。そこで、リスニングポイントは若干後ろにずらしてみた(3メートル強)が、この方が「音楽鑑賞」的には塩梅が宜しいようである。やはり、心置きなく音量を解放できる、このような音量での再生が可能なリスニング環境が欲しくなる。機器の問題というよりは部屋の環境の差異が大きいことはかねてより理解はしているが、やはり音楽専用のスタジオというものには憧れが残る。(転居に際して、そこまで突き詰めて考慮していなかったのでちょっと後悔。まあ実際、そこまでの余裕も無いのであるが)

さて、クラシック、肝心のモーツアルト。弦の音のリアリティは高い音でも低い音でも明晰で、これは目が醒めてしまう。う~む、実に悩ましい。プロの世界の音楽の製作・録音現場と家庭における趣味としての音楽鑑賞の差がこの辺りに出てくるのかもしれない。POPS系やJAZZ系は音の造詣が明確になる点がとても好ましいが、クラッシク、特にモーツアルトとなると、ゆったりとした気持ちにはなれず、何か現実に引き戻されるような感覚を伴う。聴き始めの前段はPOPS系やJAZZだったので、速攻でこのスピーカを購入しよう、と考えたが、ジャンルをクラッシク系に変えると必ずしもそうではない、とも感じてきた。いや、やはりジャンルに応じてスピーカーを選択すべきなのか?この大きさなら、サブスピーカとしても充分置けるし、POPS系、JAZZ系専用とする手もあるかもしれない。また、パワードスピーカーなので、パワーアンプの構成に悩まなくても良いだろうし、などと断捨離を決意したにも係わらず、またぞろ悪い癖が顔を出してくる。

何にしても、このようなスタジオを独り占めして、好きな曲を心置きなくじっくりと堪能できたのは貴重な経験であった。あくまでもプロが仕事として使う場所なので、単なるオーディオ趣味の観点とは全く違うものであると思うが、このような「再生環境」はうらやましい限りである。


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