雑誌「Net Audio」のVol.3を本屋で見つけたので、購入してみた。Vol.3以前の内容と比して機器の紹介レベルを超えて、再生ソフトウエアにも踏み込みかなり充実してきたようにも思える。全体的にかなり網羅された内容なので、このようにまとまった情報が手軽に入手できるようになって来たことは良いことと思うし、入門時の指針ともなる情報も提示されている。
一方で、やはり気になる点が無くもない。再生ソフトウエアを評価するに際して、やはりその内容がとても薄い。評価するのであれば、条件を明確にし、もっと踏み込んでの試聴、評価をすべきではないかとも思う。また、一般のオーディオ誌と同様に高額な機器礼賛にもなっているようにも感じない訳にはいかなかった。PCオーディオであれ、ネットオーディオであれ、デジタル技術の上に成り立っている機器・製品に使用されているチップレベルのパーツは限られたメーカーの部品であることが多く、またそのキーパーツとなるチップの価格レベルは一般論的ではあるが、驚く程安い。もちろんそれらを使用した製品とて、アセンブリの仕方や哲学の違いによる製品としての音の差はあることは当然であるが、やはり「オーディオ製品」としての位置づけとなった途端の価格の設定については、敢えて異論を唱えたい。
PCオーディオの観点から言えば、汎用的なPCの機能を利用しつつ、多くは無償のソフトウエアで構成可能である。ネットオーディオとて、Linux等を簡素化したOSをベースに機能が構成されているケースも多い。訳の判らぬ価格設定をする「オーディオ機器」に納得できず、高額なコストを投入せずとも済むPCオーディオでより良い音を目指してきた当方としては、これからの「ネットオーディオ」の方向性には賛同したいが、これがまた、一般のオーディオ機器と同じような土俵となってしまうことに大いに恐れるし、それを助長するような提灯記事だらけの情報誌になっては欲しくないと思う。NASもルーターも当方の認識では、コンピュータ機器である。断じてオーディオ機器ではない。再生ソフトウエアとてもコンピュータアプリケーションである。ハードウエアも汎用PCであるか、機能特化したボードコンピュータであるかを問わず、これもコンピュータである。自分自身は熱心なオーディオ愛好家であり、オーディオを愛することは人後に落ちない。然るに、コンピュータ機器に「オーディオ」という冠をかぶせて、高価格=音が良い、的な扱いをすることには賛同しかねる。確かに出てくる音に製品や機器によって差があることは事実であるし、趣味の世界である以上は驚くほど高額な機器があっても何らおかしくは無い。ただし、情報誌としては、製品に使用されているチップや再生ソフトウエアのベースとなる技術ロジックにまで踏み込み、その音の構成要素について分析を行った上で評価すべきである。当方も常日頃思うことであるが、デジタル領域での音の差を的確に捉えることが非常に難しい。これをあいまいなニュアンス表現の上で評価や点数付け等を行うべきではないと信ずる。もしこのような比較判断を誌面で明示するのであれば、すべて「ブラインドテスト」の前提でやって欲しい。
かってオーディオには栄華盛衰があり、多くのオーディオメーカーが淘汰された。技術の進歩が懐古趣味的な機器の世界を残しつつも大半はデジタルに移行してしまっている。では、世の中は音楽離れしてしまったのか、と問えば否である。確かにCDは売れないらしい。でも音楽再生専用であるiPod、そしてその派生の商品は全世界で一体何億台売れたことだろうか。そして、その販売台数はまたリーズナブルな価格の上に成り立ってきたとも思う。商売である以上、商品戦略と価格戦略があることはこれもまた当然であるが、そもそもデジタルデバイスのキーパーツの選択肢がそれほど多くない中で製品としての特徴を出していくことは難しい面もあろうかと思うし、Appleのようなある種の寡占化が良いとも思わない。
然し乍ら、気軽に、そしてリーズナブルな価格で音楽を良い音で聴けることこそが、PCオーディオあるいはネットオーディオの原点であり、真髄であると信ずる。
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